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46 ソニア (第二部開始)

長らく更新しておりませんでしたが、再開したいと思います。

前年は身内で不幸もあり、モチベーションも下がったりもして正直やめてしまおうかも思いました。

こんな作品ですが、評価を付けて下さったり、応援をして下さった方のおかげで45話まで来れたので、それを無にするのは惜しいと感じました。

自分的には45話でもまだ序盤に過ぎず、ここから少し展開が変わるので、もしかしたら前の方が良かったなんてなるかもですが、今後もお付き合いいただけたら嬉しいです。

 かなり間が空いたので、前回までのあらすじ。


 破壊神との戦いが終わり、再び冒険者活動を始めたエリオだったが、

 強制的に初心者講習をさせられ、その一環で向かった先の村で酷い目に合ってる女性を保護する。

 その後、熊獣人のグレーマと共にディンが率いるAランクパーティー黒のエイスへと加入した。

 歓迎会として呼ばれた黒のエイスの拠点で、ミリとエッチなトラブルもあったりしたが、温泉を堪能出来た。

 しかし、その歓迎会には意外な人物が居たのだった……。


 (過去話を忘れていると、意味解らない可能性もあるので、お時間ある方は最初から読み直して下さい)


 以下本編。



 ◆◇◆◇ 



「君がエリオ君だね?」

「はい。失礼ですが、どなた様でしょうか?」

 黒のエイスの拠点にある天然温泉を楽しんだ後、グレーマと共にリビングに戻ったら、知らないエルフの女性が居た。

 見た目は20歳ぐらい。エルフなので当然美人さんだ。


「これは失礼した。私はヨルバンの領主エクセリアだ。君の事は色々聞いてる」

「領主様でしたか。失礼しました」


「畏まらなくて良い。普通に話してくれていい。特に君はハイエルフだ。本来ならば、私が傅かなければならない」

「種族なんて関係ないですよ。それに、領主様とタメ口なんて逆に辛いので、このままでお願いします」


「わかった。まず、ヒイロ帝国の件で礼を言いたい。かの国との国交を持てそうなのだ」

「お礼ですか? あんな国と関わり合うのは、ヨルバンにとってマイナスなのでは?」

 領主様は洗脳でもされてるのかな? 思わず抱っこしてるみーちゃんの顔を伺うように見てしまう。

 特に何のリアクションも無いから違うのかな? 破壊神がまた悪巧みしてなきゃいいんだけど。


「君は帝国が酷い国……というイメージしかないのだろう? 確かにそういう一面もある。しかし、実際はそうでもないのだ」

「と、いいますと?」

 

 領主様の話によると、前皇帝時代の頃まではかなり酷かったけど、今の皇帝となり、貴族の暴走を抑えつつあるとの話だった。

 前々皇帝時代にフェンリルにボコボコにされて以来、皇帝の権威は地に落ちたらしい。もはや貴族の勝手な行動を御せない程に。

 その結果、貴族独断であちこちに侵攻しては奪うを繰り返すの悪逆国家との認識を持たれてしまったのが実情。

 領主のエクセリアさんは長寿のエルフゆえに、その長い歴史を実際に見てきたそうな。


「すると、みー……フェンリルにお仕置きされる以前の帝国は、普通の国だったのですか?」

「ああ。かくゆう私も帝国出身だ。私が生まれて150年程は平和で幸せだった。だが、破壊神が活動し始めてから全てが変わった」


「……」

「破壊神は人々の心を操り、帝国の神樹までをも支配に置いた。そこからが皆が知っている帝国の歴史だ。しかし、その破壊神も君の手によって討たれた」


「僕だけの力じゃないですよ。一緒に戦ってくれた人が誰一人欠けても全滅でした」

「それでも君が倒した事には変わらない。だから礼を言いたい。帝国を救ってくれてありがとう」

 領主様はソファーから降りて片膝を着いて頭を下げた。


「えっ? やめて下さい、頭を上げてください」

「うむ。では、ここまでにしておこう」


 エクセリアさんは綺麗な所作でソファーへと速やかに戻ってくれた。

 事の成り行きを見守ってたグレーマや黒のエイスの面々は、領主の前だからか今まで一言も話さなかったが、困惑している様子だ。

 そりゃ、領主様にいきなりこんな話されたらリアクションに困るよね。


「僕個人の意見ですが、今すぐ国交を持つのは、他の国から睨まれたりして危険なのでは?」

「そうかもしれないな。しかし、いずれ他の国も帝国と国交を持つようになるはずだ。それなら我々が先立ってもよかろう」


「帝国に酷い目に合わされた人は、ヨルバンにも孤児院が手一杯になる程には大勢居るみたいですよ?」

「そこで、諸悪の根源は全部破壊神のせいにしてしまおうって訳だ。実際帝国はその被害者でもある」


「なるほど……でも、もし破壊神がまだ生きてるとしたら、どうします?」

「そうなのか?」


「ヨルバンの未来にも関わる事なので、正直にお話します。破壊神は死んでいません。詳しいことはみーちゃんに聞いて下さい」


 僕は抱っこしているミーちゃんを覗き込んでお願いする。みーちゃんは、すたっと地面に降りると、ライオンぐらいの大きさのフェンリルになった。

 その瞬間、圧倒的な存在感が空間を支配する。全員顔が真っ青だ。


『確かに破壊神は死んでないニャ。ただ、今のところは何もやる気が無くなったみたいニャ』


「エリオ君……こちらのフェンリルはいったい……?」

 エクセリアさんは顔を引きつらせながらも話を続ける。


「みーちゃんの真の姿はフェンリルなんです。この大陸のみなさんはフェンリル王と呼んでるみたいですが」

「――っ! フェンリル王!?」


「なるほど。そういう事だったのですか」


 エクセリアさんは驚きのあまり仰け反っている。ディンさん達も困惑から恐怖へと表情が変化した。

 そして、突然現れたのはヨルバンの冒険者ギルドのマスター、エルメスだ。


「どうしてエルメスさんがここに?」

「エリオ様の歓迎会と聞いて、遅ればせながら参加させていただきました」


「そうだったのですか。ありがとうございます」

「はい。他ならぬエリオ様のお祝いの席ですから。ところで破壊神のお話をお聞かせ下さいますか?」


『これ以上話す事は無いニャ。破壊神が今後どう動くかなんて誰にもわからないニャ』

「つまり、再び帝国を操る事もありうると?」


『奴の性格からして、それは無いニャ。恐らく数百年間は大人しくしてると思うニャ。人間の感覚で言えば、二~三日落ち込むみたいな感じニャ』

「そうですか。貴重なご意見ありがとうございます」


 エルメスは、みーちゃんの言葉を聞いてからエクセリアさんの隣に腰掛けた。

 隣に座ってエクセリアさんの背中を擦って落ち着かせている。


 これ以上は話すこと無いぞって感じで、みーちゃんは猫の姿に戻ると、再び僕の膝の上で丸まった。



「もしかしてエルメスさんと領主様はお知り合いなのですか?」

「ええ。旧知の仲です。私とエクセリア、帝国のギルマスであるローランと共に冒険者をしていた事もあります」


「意外な関係性ですね。そういえば、ドルフィノにあるレストランの店長さんもエルメスさんの事を知ってるみたいでした」

「アレの事はどうでも良いです。それよりもエリオ様とフェンリル王とのご関係を伺っても?」


 まいったな。どう答えるべきだろう。みんなの目が僕に集中して焦る。

 今までなら家族と言って関係をぼかして来たけど、エルメスはもっと本質的なことを聞きたいのだろう。

 とはいえ、全て正直に話せば面倒なことになるのは目に見えてるしね。


「みーちゃんは僕の家族です。それではダメですか?」

「エリオ様がそう仰るならば、それでかまいませんよ」


「闇猫と暮らし、ドルフィノのエリオ君の店には、精霊王も居ると聞く。確かに色々聞きたいことも多いが、触れてはいけないのかもしれないな」


「そうしていだけると有り難いです。でも、僕はヨリュア様の使徒だとか、使命を帯びてるみたいなことは一切ありません」


 その後、みんなには、そういう存在と仲良くなりやすい体質ということで通した。

 神様の関係者みたいに思われて、みんなから距離を置かれるのは辛いしね。

 完全に納得してくれたのかはわからないけど、実際僕はただの一般人だから。


 ディンさんの「よくわかんねーけど、ハイエルフはそういうモンなんだろ?」的なフォローもあって、以降みんなと楽しく歓迎会を過ごせた。

 ハイエルフはかなりレアな存在らしいからね。長く生きてるエルメスたちでも巷で言われている以上のことは知らなかった。

 

 一度、姉の居る村に帰ってみるべきだろうか。みーちゃんが居るから酷いことされたりしないと思うし。

 後でみーちゃんに相談してみよう。



◇◆◇◆



 歓迎会も終わり、屋敷に帰ろうとしたが、みんなに泊まっていけと言われて、せっかくだから泊まることにした。

 一度転移で戻って、お泊り報告したけどね。毎度のごとく、唯には釘を抜かれた。


 僕はもう一度温泉に入った後に、ベッドで横になったわけだが……。なんとなく予想してたが、ミリさんがベッドに潜り込んできた。

 まさかクローゼットに潜んでいるとは思わなかったよ。


「エリオ、お風呂の続きしよ?」

「いや、少し待って下さい。確認したい事があるので」


「確認?」


 それはヨルさんの手紙を見る為の確認。以前ヨルさんに異性に好かれるの加護を弱めてもらえないかの要請を出したからだ。

 それによっては、ミリさんの気持ちが変わってしまうかもしれないし。



---------------------------------------------------------------


矢吹へ



加護の調整は出来ん。


オンかオフ好きな方を選べ。


以前、わしの加護でモテるようになるのは、半分本当と言ったのを覚えているか?

その半分は、この世界とお主を繋ぎ止める楔のような物だ。

オフにすると、どの様な事が起こるかは解らぬ。


可能性で言えば、嫁が離れていくかもしれぬ。

そして、お主の存在が消えてしまう事も有りうる。


一番の可能性は、ヤツに加護を上書きされてしまう事だろう。

現在ヤツは何もしてはいないが、ずっとお主を見ている。


仮にどのパターンであってもスキルが消えたりはせんが、ヤツなら停止する事も出来る。

それを踏まえて、後悔のないように選択するのじゃ。


オフにしたければ、下のオフ項目に触れよ。

考え直したのならば、手紙はこのまま閉じよ。



【加護をオフにする】


---------------------------------------------------------------



 これは、そんな簡単に結論は出せないな。まずは、みーちゃんに相談しないとだよ。

 オフにした際の不確定要素が怖すぎる。恵と唯以外は離れていく可能性が高い。

 

 しかし、ヨルさんの力で結ばれた嫁との絆は本当のものと言えるのだろうか。

 それを改めて考えると怖い。とてつもなく怖いよ。


 これは僕が目を背けてきた、自分の卑しさだと思う。

 


「エリオ? どうしちゃったの?」

「すみません。今日はご自分の部屋に戻って下さい」


「え? 嫌だよ。エリオと寝るし!」


 そう言って僕に飛びつくミリさん。その衝撃で触れてしまった。

 ミリさんのやわらか部位と【加護をオフにする】に。


「あ!」「え?」



 そして視界は真っ白になった。














『待ってたぞ。この時を』

 

 真っ白な空間。そこには白い髪のヨルさんが居た。

 考えうる上で、二番目に悪い事態になったみたいだ。


「お前って破壊神だよね? 僕を食べに来たの?」

『我はヨルだ。破壊神じゃない。破壊神と名付けたのは人間だ。それに、お前を食う気は無い』


「散々僕を食べるって言ってたじゃないか」

『食わん。少しかじれば心が折れると思ってたのはあるがな』


「連れの二人が出した僕の分身を実際にバリバリ食べてたじゃないか。それに、心を折ってどうするつもりなんだよ」

『あれは演出だ。あのタイミングで女どもが影潜りから出るスキルを使えるようにしたのもな。心さえ折れれば加護の支配権を奪えるからだ』


「じゃあ、結局何がしたいんだよ」

『初めからやり直そう。お前の異世界転生を。我ならばお前が望むスキルを与える事が出来る』


「異世界通販とかのこと?」

『そうだ。お前は知らぬだろうが、我の肉体の一部は地球にある。それでお前の事をずっと見ていた。犬の転生体が死んでからもな。お前が何を欲しているかは我が一番知っているのだ』


「そのスキルはもういいよ。望みを叶えてくれるってのなら、僕の事は放っておいてくれ」

『我が加護を外せば、お前はすぐに消滅するぞ。それでもいいのか?』


「……」

『我に身を任せよ。お前が望んで止まなかったラノベの世界に導いてやる』


「お前は人を殺しすぎている。僕が聞いただけでも数百人だ。そんな奴を信じられるわけがない」

『我が作った生き物を、我が殺して何が悪い。テスの大地の生物は全てが我の一部なのだ。その生命を取り込むのも我の役目だ』


「神様的な存在からしたら、そうなのかもしれないけど、そこに住んでる人には、それぞれの心と生活があるんだよ。勝手に奪って良いはずがない」

『それがお前の望みならば、これからはそうしよう』


「……」

『お前の仲間や同級生は食わなかったし、むしろ誰も死なぬように保護していた。それでも我を信ずるに足らぬか?』


 白いヨルさんは僕の目をじっと見ている。

 その目に邪悪さは感じない。だけど、信じるなんて出来ないよ。

 いや、信じる信じない以前に、今、僕は白いヨルさんの掌の上で転がされるしかない存在だ。

 

 従うか、死ぬかの二択を迫られているからね。


「いくつか質問してもいい?」

『いいぞ。時間はたっぷりある』


「お前の加護を貰ったとして、僕はどうなるんだ? 欲しいスキル貰えて後はそのまま?」

『やり直すと言っただろ。お前が地に降りた、あの時に戻す』


「僕が鞭打ちの刑にあった、あの時間?」

『そうだ。そこで第一の選択を与える。元の身体にするか、エリオの身体を使うか、お前が望む姿を作ってやる事も出来る』


「ミリさんとベッドに入った時間には戻してもらえないの? 今までの事が無かった事になるなんて辛いよ」

『その時点に戻してやってもいい。だが、それは我が満足したらの話だ。一度放棄した加護は、我が譲渡しない限り戻せない。あの時点に戻るには、あっちのヨルにもう一度加護を貰うしか無いのだ』


「どうしたら満足してもらえるんだ?」

『我と共に異世界転移をやり直すのだ。我はそれをずっと夢見ていた。それだけが我の望みだ』


「それでは、どの時点で満足してもらえるかわからないよ」

『それは我にも解ぬな。今は選べ。さあ、どの肉体にする?』


 選ぶしかないのか……? 選ぶとしてどれがいいんだ。エリオを選ばなかったらエリオは追放されて死ぬのか?

 元の身体が一番良いのだろうけど、片山君みたいな長身イケメンにもなれるなら……。


『我はお前が性転換を望んでいるのだと思っていた。そういうラノベ読み漁っていたからな。だから聖女というスキルを作ったのだ』

「確かに元男が性転換して、異世界で活躍する話は好きだよ。だけど、それはあくまで作り話の中での楽しみだから」


『いいじゃないか。やってみたらどうだ? 我が満足すれば元に戻れるのだ。お前はゲームでも男女両方キャラを作っていただろ?』

「いや、でも……これはゲームじゃない」


『我からすれば同じだ。面白そうだから、これでいこう。決定だ』

「そんな……」


『スキルは聖女とアイテムボックスと錬金術と異世界通販をやろう。他にリクエストあるか?』

「どれかに特化するやり方は無いの?」


『そんなものは無い。そんな事をせずとも、我の与えるスキルは、あっちのヨルのとは比べ物にならん程に強力だ』

「そうなると……他に欲しいスキルは今の所思いつかないよ」


『ふむ。欲しくなったらヨルとのやり取りで使っていた方法で手紙を送れ。我が叶えてやる』

「最初に転移した時点に戻ったらどうなるんだ? 帝国の支配は解除してくれるのか?」


『当然だ。邪教の使徒の活動も止めておこう』

「そうか」


『他に聞きたい事はあるか?』

「……」


『ならば、行くが良い。我の世界へ。だが、一つだけ約束を破るぞ。一人だけ殺す』

「え? 殺すって誰……」



 僕の声は虚しく響くが、一面真っ白の世界から抜け落ちて意識は遠のいた。



◆◇◆◇



 !?


 僕は気がつくと、あの場所に居た。そう、(エリオ)が腹ばいで寝かされていた場所だ。

 目の前には包帯に巻かれたエリオが寝ている。だとすると、僕は一体誰なんだ?


 横を見ると、確かコロロムさん? 薬作ってくれたおじいさんが居る。


「ソニアどうした? ん? その目は……」

 

 そうか。僕はエリオの姉のソニアにされてしまったんだ。姉弟揃って神様の悪戯に巻き込まれるなんて……。

 まずはエリオを助けよう。このままでは魔物の巣に放り込まれるとか言ってたし。

 

 ところで僕のスキルはどうなってるんだ? 見てみよう。



 ■■ソニア■■


 レベル 6503


 種族 ハイエルフ

 年齢 328歳


 

 ・聖女

 ・アイテムボックス

 ・錬金術

 ・異世界通販


 ■■■■■■■■



 お姉ちゃんレベル高っ。そして、スキルは白いヨルさんが言ってた通りの構成だ。

 異世界通販は気になるけど、それは後でいい。

 聖女のゆらめきを発動させてみる。……僕がエリオの時に行った場所に飛べるみたいだ。

 

 これならエリオを連れて逃げるのは簡単だな。

 


「コロロムさん。エリオは僕が連れていきますね」

「なにっ…ソニアお前……」


 僕はエリオを抱えてヨルバン近くの森へと転移した。

 

 アイテムボックスを開くと、みーちゃんからの贈り物の輝く石や、ヨルさんから貰うはずだった特製ポーションは無かった。

 どうしよう……。特製ポーションが無いとユリナを治す事が出来ない。


 いや、白いヨルさんはスキルが強力と言っていた。もしかしたら聖女のスキルでどうにかなるのか?

 とりあえず見てみよう。


 ■■■■■■


 聖女の奇跡

 聖女の輝き

 聖女のゆらめき

 聖女の雫

 聖女の秘密箱

 聖女の白槍

 聖女の護り


 ■■■■■■

 

 少し名前と構成が変わっている。

 

 聖女の奇跡は、どんな怪我も病気も無かった事に出来るらしい。

 チート過ぎるな。でも、これなら特製ポーション代わりになるな。


 聖女の輝きは、浄化スキルの上位版みたいだ。


 聖女のゆらめきと、聖女の雫は今まで通りっぽい。


 聖女の秘密箱は、以前のと全然違う。これが本来の性能なのか。

 アイテムボックスの劣化版と思ってたこのスキルは、入れた服に一瞬でお着替え出来る機能がついている。

 中には既に色々な下着や靴や服が入っている。僕が通っていた高校の女子制服なんかも入っていた。


 聖女の白槍は、白く輝く槍を打ち出せるスキル。

 かなり強そうな攻撃手段だ。


 聖女の護りは、いわゆる結界みたいなのを張れるらしい。



 とにかく、これなら何とかなりそうだ。まずはエリオの傷を治してしまおう。

 地面でぐったりしているエリオに聖女の奇跡をかけた。使ってみて解ったが、魔力の入れ方で効果が変わるみたいだ。

 軽くかけたつもりだったけど、エリオの背中の傷は完治した。白いヨルさんが言うだけの事はあるな。


「……うぅ……あれ? 背中痛く……ない?」

「もう大丈夫そう?」


「あれ? お姉ちゃん? ここは何処?」

「ここはヨルバン近くの森だよ。僕がエリオを連れて逃げて来たんだ」


「僕? お姉ちゃんなんか変だよ。目の色も違うし」

「君のお姉さんの身体に、僕の精神が入ってしまった感じなんだ」


「なんだよそれ! お姉ちゃん返せよ!」

「それは無理だと思う。この状況を作ったのはヨル……ヨリュア様だから」


「嘘だ!」


『嘘じゃない』


「え? 誰?」


 エリオと一緒に声のした方を見ると、そこには巨大な白い蛇が居た。破壊神だ。


「は、破壊神……どうして」

 どうやらエリオは破壊神を知っているみたいだ。


『ワレがヨリュアと同じ存在ナノハ知ってるナ? ツマりは、ソウイウコトだ』

「そんな……」


『ダガ、オマエのイトシイ、セイレイおウは、カイホウした。アトはスキにすればヨイ』

「訳がわからない……」


『ワカらなくてイイ。ワレはもうナニもしナイ。ではサラバダ』


 その言葉を最後に、破壊神は地の底へと潜って行った。

 あれほど巨大な蛇なのに、去った後には何故か穴が残らなかった。


「こういう事みたいなんだ。一応解ってくれたかな?」

「……お姉ちゃんはどうなっちゃうんだ?」


「解らない。僕としても困惑してるのが本音だよ」

「わかった。でも、お姉ちゃんの身体は大切にして欲しい」


「もちろんだよ。それに破壊神から強力なスキルを植え付けられるから武力的にも問題ないと思う」

「それなら良かった。……俺は精霊王に会いに行く。助けてくれてありがとう。さよなら……お姉ちゃん」


「待って、バルデュアスさんは帝国の神樹に居るみたいだから、僕の転移のスキルで送ってあげようか?」

「精霊王の事、破壊神から聞いたの? でも、場所が解っただけで十分。俺が一人で会いに行く。それがけじめだから」


「いや、一人は危ないよ。飛竜なんかも出るし」

「知ってるよ。俺はそんなにヤワじゃないから大丈夫」


 鑑定してみると、レベルは3000以上あるし、攻撃魔法もたくさん使えるみたいだ。

 本来のエリオは、かなり攻撃魔法特化だったらしい。

 

 だからと言って、このまま一人で行かせて良いのだろうか?

 

「しばらく時間を貰えたら、僕も一緒に行く。それじゃダメかな?」

「中身は知らない人なのに、まるでいつものお姉ちゃんみたいだね。いつも俺の心配ばかりしてた」


「それは……」

「俺は一人で行く。そのうち気が向いたら会いに来てよ」


 エリオはそのまま歩いて行ってしまった。

 僕にはユリナを助けたり、このままだと生活に困る芽衣子と渚を何とかしなければならない。

 色々な事が頭の中を駆け抜けて、エリオを追うのを躊躇う要因となった。


 白いヨルさん見てるよね? 何かあってもエリオは助けてあげて欲しい……。



◆◇◆◇



 まずは、ユリナをなんとかしよう。

 ユリナがどの辺りに居たのか思い出せなくて、街道沿いを連続転移して探しまくった。

 あの時よりも何日も早いし、時が遡って条件が変わってしまったのか、この日はユリナを探し出す事が出来なかった。


 仕方ないのでヨルバンの街へと入り、宿を取ることにした。

  

 僕が街に入ると、視線が一斉に集まる。


「やべぇ……すんげぇ美人」「なんだありゃ、ハイエルフかいな」「……女神様……」「やだ……濡れちゃった」


 確かにソニアさんは美人だったもんね。ある意味エリオの時以上の注目度だ。

 ていうか、女の人にも変な目で見られてるぽいぞ。


 とりあえず、今後の事をどこかで落ち着いて考えたい。やる事の優先順位とかもね。


 僕がヨルバンで泊まってた高級宿に着くと、やたら丁寧にご案内された。美人ってのは色々お得なんだね。

 ちなみにアイテムボックスには2億ゴル入っていた。入れすぎだろ、白いヨルさん。



 さて、一息ついた所で、明日からの行動を決めよう。


 ヨルイル村で男どもに弄ばれていたリネットさんは、時間的に今すぐ行動しても、既に盗賊に攫われてしまっているのか?


 オークの被害に合っていた元帝国貴族ご息女ミリアスさんは、今からならば助けられるだろう。


 違法奴隷商人に捕まったエルフ姉妹も助けないとだね。


 あとは……帝国で囚われているカナ(ママ)と、襲撃を企んでいたあゆみを何とかしないとな。


 唯は、どの時点で奴隷商に売られるのか解らない。確か帝国から流れて来たとか奴隷商が言っていた様な。帝国に行けば会えるのかもしれない。


 モリモリが反乱起こすのは、まだ少し先だろう。でも、止めていいのか? リリさんとの出会いが無くなってしまうのは……。

 そもそも、破壊神が本当に帝国を開放したら、戦争も起こらないかもしれない。



 あー、もう頭がごちゃごちゃだよ。何て事してくれたんだよ、破壊神。



 そんな事を考えてるから中々眠れず、夜中にやっと眠りに落ちたのだった。



◆◇◆◇



 翌朝、部屋に備え付けられている姿見で改めて自分を見る。

 びっくりするぐらいの美人だ。言葉が見つからない。エルフ特有の簡素な服を脱ぎ、その身体を見てみる。

 生えてない。そして女神と見紛う程に美しい。胸部装甲はそこそこ大きいし、形が素晴らしい。


 身長は170cm以上はあるね。これは嬉しい。


 一通り身体を確認した後、聖女の秘密箱にセットされている白いドレスを着てみる。一瞬で着替えられた。

 ヤバイ……こんなの反則だろってぐらいヤバイ。

 

 これを着て歩くのは本気でヤバいと思うので、魔女っぽい服にチェンジした。

 これはこれでヤバイけど、ドレスよりかはマシだね。

 ただ、ブラがなんか違和感ある。締めつけ感は慣れるまでこういうものなのかな?

 

 しかし……エリオの時は可愛いが先立って、あの程度で済んだけど、ソニアは傾国の美女だ。陰謀に巻き込まれかねない。


 聖女の秘密箱にはアクセサリー類もある。顔に付けるもの無いかな?

 アイスホッケーのお面があるな。ジェイ○ンかよ。ス○Ⅱのバル○グみたいなお面もある。普段からつけるのは、さすがに怪しい。


 これなんてどうだろう。仮面舞踏会の時に付けるようなレースで飾り付けられて猫耳がついたオシャレなアイマスク。

 口から上の部分は隠せてるし、結構可愛い。いや、これも怪しいっちゃ怪しいか。


 30分程悩んで、黒縁メガネと絹のストールを巻いて鼻から下を隠す事にした。

 ちなみに髪型もメイクも聖女の秘密箱で一発で出来るんだ。なんと、髪の長さまで自由自在。意味わからん。白ヨルさん変な部分にこだわり過ぎでしょ。


 髪型はボブカットにしておいた。長いと手入れが大変だしね。

 この髪型だとハイエルフ耳も隠せる。良い事ずくめだ。兎に角、これで準備は出来た。


 一刻も早くユリナを治してあげたい気持ちを押し殺して、優先順位トップの盗賊に捕まったかもしれないリネットさんを救いにヨルイル村へと転移した。



◇◆◇◆

 

 

 相変わらず見た目は、のどかな村だ。実際は本当に胸糞悪い村だけどね。

 ぼけーっと立っている門番の横を抜け、村へと入る。


「なんだぁねーちゃん。村になんか用か? しかし、えらいべっぴんさんだな」

「リネットさんに会いに来ました。村の中に居ますか?」


「リネットだぁ? 居ると思うが、嫁ぎ先決まって今忙しいから会えんかもしれんぞ」

「そうですか。では直接行ってみます。家は何処ですか?」


「はぁ? 村長宅に居ると思うぞ。でも、わからんから一緒に探してやろうか? ヘヘっ」

「結構です。ありがとうございました。では」


「ちょっ……待……」


 今のおっさん見覚えある。僕に順番譲ってやるとか言ってきた奴だ。正直ボコりたい。

 そんな気持ちを抑えつつ、村長宅に急ぎ、庭先で作業している男を見つけて声をかけた。


「すみません。リネットさんに会いたいのですが」

「うあ? よ、呼んできてやってもいいぞ。待ってろ」


 しばし待っていると、男がニヤニヤしながらリネットさんを連れてきた。

 やたらとキモい視線を送ってくる。実はこいつも知ってるんだよ。リネットさんを陵辱してた一人だ。ボコりたい。


「あの、あなたは?」

「ぼ……私はソニアと言います。お話しがしたいので、少しお時間いただけませんか?」


「は、はぁ?」


 不審がるリネットさんの手を引き、村の広場まで連れてきた。

 ちょっと強引過ぎたかな? 

 

 リネットさんは見た所、あの時みたいな影も無いし、特に何も無いようだ。間に合って良かった。


 僕は眼鏡とストールを外し、そっと髪をかきあげて耳を見せた。


「ハ、ハイエルフ様……ですか? もの凄く綺麗……」

 リネットさんはうっとりしている。女性も虜にさせちゃう美貌ってヤバいでしょ。


「ハイエルフの私には【聖女】というスキルがあります。そのスキルは、少し先の未来が見えるのです」

「えぇ? なんですか突然」


「いきなりで困惑するかもしれませんが、この村は盗賊に襲われます。そしてリネットさんは囚われてしまう」

「そんな……。信じ難いです。でも、ハイエルフ様が仰るなら……」


「その未来を変えたいと私は思っています。ところで、何故村長宅に?」

「私もよくわからないのです。結婚して村を出ていく前に、村長宅で儀式があると言われました」


「儀式?」

「はい。村長の息子のポッチャに呼び出されました」


 なんか、怪しくないか? 少し様子を見るか。


「そうですか。今日はここの宿に泊まります。何かあったら訪ねて来て下さい」

「あ、はい。その……よろしくお願いします」


 リネットさんは駆け足で村長宅に戻って行った。僕はメガネとストールを付け直し、宿へ向かった。

 広場に居る時も、宿に入ってからも、男のねちっこい視線が僕に絡みつく。

 こういうの見てると、何もかもが怪しく見えてしまうよ。慎重に行こう。


 宿を取り、聖女の輝きで綺麗にしたベッドに横になる。これからどうしよう。

 盗賊が攻めて来るまでこの村に居続けるのも難しい。何か考えないと……。


 昨日の晩、あまり眠れなかったせいか、考えているうちに睡魔に襲われ、僕はそのまま眠ってしまった。


 起きると夕方だった。小腹が空いたので、白ヨルさんがアイテムボックスに入れてくれたサンドイッチを頬張りなが、窓の外を見る。

 美味いなこのサンドイッチ。いくらでも食べられそう。


 カーテンの隙間から村を見てると、例の小屋に男が集まりだしているのに気付いた。何する気だろう?

 気になるなら行くしか無いよね。

 

 サンドイットを一気に食べきると、僕は小屋の裏側に転移した。

 中を覗ける隙間がないか探してみたが、そういうものは無かった。しかし、壁と屋根の間に少し隙間があって、そこから中の話し声は聞こえる。

 僕は聞こえてくる声に集中する事にした。



「だからよ……っちまえばいいんだって」

「バレたらどうんだ……」

「バレねーよ。盗賊に拉致されてやられた事にすればいいし、その為の腕輪だろうか」

「どのみち、聞いてしまったからには、抜けるとか許さねえぜ」

「いや、でも……」


「そもそも、リネットが悪いんだ。俺のプロポーズ断って隣村の奴に嫁に行くとかよ」

「……」

「俺が一番最初にやる。その後はお前らが好きにしていい。お前らだってリネットとやりたいだろ?」

「まぁ、そうだな」

「……うん」

「わかったよ」


「こうなってしまえば、リネットは嫁に行けねえ。筆おろしの義にでも使ってやればいいんだよ」

「ポッチャ……お前クズ行為の天才だな」

「口の聞き方に気をつけろよ。俺は時期村長なんだからな」

「わ、わりぃ……」

「俺についてくれば良い目を見させてやるからよ。絶対にバラすなよ。はい、解散」



 なるほどね。こいつらガチのクズだわ。全部こいつらの仕業だったのか。

 僕は怒りを押し殺して宿へと転移で戻った。


 宿の部屋から出ると、ロビーで軽食を注文する。

 しばらくすると、さっき話していた連中と思われる集団が入ってくる。

 その集団はしばらく僕を見てヒソヒソと何か話していたが、一人こっちに歩いてきた。


「俺は村長の息子のポッチャだ。リネットに会いに来たらしいな。何の用があったんだ?」

 こいつがポッチャなのか。かなり気持ち悪い笑みを浮かべている。


「結婚のお祝いですよ」

「そうか。せっかく来たんだから、ゆっくりして行ってくれ。あ、これは式の時に友人が同士で身に付けるものだから是非身に付けて欲しい。リネットにもお揃いのを渡してある」


 ポッチャはニヤニヤしながら金の腕輪を渡してくる。なんだこれ? よし、鑑定。


 

 ●電撃の腕輪●

 合言葉を唱えると装着者にショックを与えて気絶させる。

 1000を越える高レベルの者には効果が無い。

 


 見た目はオシャレな腕輪だから性質が悪いね。こいつら、僕とリネットさんまとめて楽しんじゃう気らしい。

 いいだろう。絶対後悔させてやる。


「あら、とても素敵な腕輪ですね。頂いてよろしいのですか?」

「もちろんだ。それを付けて、明日正午に村の外の東の薪割り場に来てくれ。リネットや親しい人たちと立食パーティーやるんだよ」


「はい。是非参加させていただきます」

「うむ。遅れないようにな」


 ポッチャは上手くいったぜ! みたいなニヤニヤ顔で戻って行った。


 明日こいつらを倒すのは難しくないだろう。でも、事件の後始末の時に、僕とリネットさんの証言だけでは弱いな。

 かと言って、この村に信用できる人は居るのかもわからない。村長も信用できそうもない人間だった。


 信用出来る人で権力者となると、思い浮かぶのはあの人しか居ないな。

 あまり会いたくないけど、ダメ元で交渉してみるか。

  

 



 翌日の正午。


 僕とリネットさんは薪割り場に来ている。他には誰も居ない。

 ポッチャ達は多分どこかで僕たちの事を見ているのだろう。


 リネットさんには事前に奴らの計画を話してある。

 僕の指示に従ってくれると約束は取り付けた。


「ソニア様、誰もいませんね……?」

「もう少し待ってみましょう」

「は、はい」


 その時、木の後ろから頭に麻袋を被った男五人組が出てくる。早足で僕らに近づき、合言葉を放った。


「ピカム!」


 その瞬間、僕たちの付けてる腕輪に衝撃が走る。

 おー、結構ビリビリくるね。ちなみにリネットさんの腕輪の電撃は、僕が錬金術使って解除しておいた。

 僕たちは打ち合わせ通りに、あークラクラするー。みたいな感じで倒れ込んだ。演技が大根なのは許して欲しい。


「やった! この女は俺が最初だからな! スゲェ、こっちの女マジすげぇ美人だわ!」

「それならリネットは俺たちに先にやらせてくれよ!」

「は? ダメに決まってるだろ。リネットも俺が女にしてやるんだ! 文句あるか?」

「……わかったよ」

「ずりーなぁ」

「早く、早くしてくれ!」


 ポッチャが涎を垂らしながら僕に近づき、スカートをめくる。そして、その中に手を入れようとした時、騎士たち10人が現れた。


「え?」


 ポッチャ達5人は突然の事に固まる。


「主犯ポッチャ及び、その仲間4人。暴行罪で身柄を拘束する」

 騎士の一人が宣言すると、ポッチャ達は急いで逃げ出したが、魔法を当てられアッサリと捕まった。


 僕とリネットさんは立ち上がるとスカートを直し、ポッチャと向き合った。


「婦女暴行罪の容疑で捕まると、牢屋で歓迎されるらしいよ。お尻お大事にね」

「はぁ? ふざけんな! 全部その女が仕組んだんだ! 俺は悪くねぇ! 親父呼んでくれ」


「あなたのお父様は来ませんよ。息子の事は好きにして良いそうです」

「あぁぁ? そもそも、あんた誰だよ!」


「私はヨルバンの冒険者ギルドマスター、エルメスです。あなたの行動は私が全て見てました。言い逃れは出来ません」

「う、嘘だろ……」


 観念したのか、ポッチャ達は檻仕様の馬車に乗せられ連行されて行った。汚いドナドナだ。


「エルメスさん、お忙しい中ありがとうございました」

「いいえ。この程度恩返しした内にも入りません。では、また何かありましたら遠慮なくご相談下さい」


 エルメスさんは深々と頭を下げると、専用馬車に乗って帰って行った。


「あの……ソニア様。本当にありがとうございました! ソニア様が来てくれなかったら私……」

 泣きながら抱きついてくるリネットさんを抱きとめ、髪の毛を撫でてあげる。

 少なくとも、こっちでは助ける事が出来て良かった。


「わ、私、ソニア様の事好きです! いいえ、愛してしまいました! ソニア様の住んでる場所に連れて行って下さい!」

「な、何を言い出すんだ突然。ていうか、婚約者居るでしょ? あと、女同士だからね」


「私……解ってしまったのです。これが本当の愛なんです。下僕でもいいです。お側に置いて下さい」

「えぇぇ……?」



 その後、なんとかリネットさんを説得してヨルバンに転移で戻った。

 まさか寝取りエンドになるとは思わなかったよ。中身は男だからね、女同士のそういうの興味あると言えばあるよ。

 しかし、これは超えてはいけない一線なのだ。

 

 ちなみに、どうやってエルメスさんに恩を売ったかと言うと

 ヨルバンの医者や魔法治療師では治せない難病、重傷者、部位欠損者を昨日、時間の許す限り聖女の奇跡で治したからだ。

 

 おかげで領主様とエルメスさんには大きな恩を売る事が出来た。

 

 どのみち、この世界は白いヨルさんが満足してしまえば元に戻されるんだ。

 目立つのを躊躇っていても無意味な気がしたからね。

 


 次はユリナだ。今日はなんとしても見つけたい。実は昨日も少し探してみたけど、街道沿いには居なかったんだ。

 もしかして、この世界でユリナはガラシ病を発病してないのだろうか? それならそれで良い事なんだけど……。

 

 兎に角、今日は頑張ろう!





 結局、夕方過ぎてもユリナを見付ける事は出来なかった。

 もしかしたら、僕がソニアとしてこの世界に来てしまったせいで、バタフライエフェクト的に未来が変わってしまったのだろうか。


 あ、そういえば、あの時はくーちゃんが居たんだ。ユリナはくーちゃんを見ていた。

 尤も、くーちゃんも全然見かけないんだけどね。

 

 それなら、みーちゃんはどうだろう? 東の森のその先に行けば、逢えるかもしれない。

 みーちゃんさえ来てくれたら、ユリナを探すの捗る可能性もある。

 

 あれこれ考えてばかりでちっとも前に進まないのがもどかしい。

 ふぅ……さすがに疲れたので、アイテムボックスからイスを取り出して街道脇で休憩する。


 結局、忙しくて異世界通販スキルも使ってなかった。何か飲み物でも買ってみようか。

 それではスキル発動!


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    異世界通販トップページへようこそ


 ●はじめに


 ●使い方


 ●対価について


 ○通販開始


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 なんか通販サイトのトップ画面みたいなのが出できた。

 

 とりあえず、各項目を読んでおこう。

 えーと、はじめに……は、通販出来る物は日本に流通している物限定。海外から輸入された物を含む。

 大きいもの、極端に重いものは我の負担が大きいから時々にしてほしい……ふむむふ。


 使い方は……は、お前が使っていたアマ○ンに似せて作った……と。見れば感覚的に解りそうだね。


 対価については……魔力を貰う……と、だけ書いてあるな。


 要するに、MPを消費して通販できるというわけか。

 こっちのお金が消費されて戻って来ないのはマズイしね。世界に優しい設計だ。


 

 よし、早速使ってみよう。通販開始をポチっとな!


 おぉぉぉぉ、まさにアマ○ン。ていうか、そのまんまじゃん。いいのかコレ。

 いいんです! 嬉しいです! これこそ僕が求めていた異世界ライフ。

 

 とりあえず、お茶とあんぱん買おう。連続転移して疲れた身体に糖分補給しないと。

 ポチ、ポチっと、本当に普通に通販サイトだ。そして決定。うん? この程度だとMP持っていかれてる感はないな。


 だけど……あれ? 商品出てこない。周りに落ちてるのかと思って見回してみるが、何処にも落ちていない。

 あ、もしかしてアイテムボックスに入ってるとか? 

 うん。入ってた。取り出してペットボトルのお茶を飲む。あー懐かしい味。そしてあんぱんにかぶりつく。

 久しぶりの日本の菓子パンの味に「うまい!」と、某柱みたいに叫んでしまった。

 

「おばちゃん……?」


 突然声がした。木々が立ち並ぶ間にボロボロの少女が立ってる。思わず声を上げそうなるが、深呼吸して心を落ち着かせる。

 ユリナ、やっと会えた。 

 

 何故だか涙が溢れてしまい、しばらくそのまま動けないでいた。

この話からソニア編となります。ネタバレすると、このままずっとソニア編が続くわけではありません。



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