45 村の風習
初心者特別依頼の実施日の朝、ユリナとアリスをドルフィノに送ってから冒険者ギルドにやって来た。
グレーマも居て、注意点等を教えて貰った。要するに冒険者ギルドに言われた事だけをすれば良いので簡単らしい。
そして僕に与えられたクエストは【指定された村へ行って、村長さんから簡単な討伐依頼を受ける】だった。
「それではエリオ様、向かっていただくのは、ヨルイルの村です。地図をどうぞ」
冒険者ギルドの職員さんに渡された地図を見てみると、ヨルバンから少し離れた南に位置していた。
場所以外にも色々注意点等が書いてある。ヨルイルの村に着いたら、村長から依頼を受けて三日以内にクリアすれば良いらしい。
「わかりました。今から向かいます」
「ギルドから馬車も出せますが、いかがしますか?」
「いいえ、手持ちの竜車がありますので」
「そうですか、ではお気をつけて」
こうして僕は可愛い猫耳獣人の職員さんに見送ってもらい、冒険者ギルドを出た。
やっぱいいなぁ、猫耳獣人さん。正直モリモリが羨ましい。
『ミーに乗ればすぐ着くニャ』
「いや、今回は竜車で行くよ。速すぎて不正を疑われると嫌だし」
『わかったニャ』
「エリオ! 私も一緒にいくよ」
グレーマが走ってきて、いつもみたいに僕を捕まえる。凄い力なのでちょっと痛いのが困りもの。
「一緒に行ってもいいの? 違反にならない?」
「依頼に手を貸さなければいいだけだよ」
「それじゃ一緒に行こうか。冒険者の先輩が居てくれると安心だしね」
「任せて!」
アイテムボックスから竜車を出して、二人で乗り込む。身長が2メートル以上あるグレーマにはちょっと狭いけど、乗ってる姿は楽しそうだ。
ヨルイルの村は誰も行った事が無いので、地図に従い南へと走らせる。
道中暇なのでグレーマの身の上を聞かせてもらった。彼女は9人兄妹の末っ子で14歳、なんとラ・ガーン出身だった。
ラ・ガーンからは家族で逃げて来たけど、途中で飛竜に襲われてグレーマ以外は亡くなってしまったらしい。
ラ・ガーンは異常なまでに税が高く、払えない者は老若男女関係なく強制労働奴隷になって国家事業に従事させられる。グレーマの家族もそうだったみたいだ。
そんな理不尽な状況から命からがら逃げ出してみれば、飛竜に襲われるなんて気の毒過ぎるね。
ていうか、一番驚いたのは14歳の部分だ。20歳ぐらいかと思ってた。例のオークの小屋事件の現場での判断力はベテランぽかったし。
「そういえば、グレーマは今何処に住んでるの?」
「スラムの小屋だよ」
「え? そんな所に若い娘さんが住んでちゃ危ないよ!」
「私を襲う好き者なんて居ないから平気だよ。でも、エリオは来ちゃダメだよ。すぐに攫われちゃう」
「スラムは勿論行かないけど、そうだ、僕の屋敷に住んでみては? 部屋いっぱい余ってるし」
「エリオって、貴族様だったの?」
「違うよ。運良く屋敷を手に入れただけの平民だよ」
「本当に住まわせてくれるの?」
グレーマは年相応の可愛い仕草で僕を見てくる。美人ではないけど愛嬌があって可愛いのでちょっとキュンときた。
「スラムなんて聞いて放っておけないよ。是非うちに来て。嫁さんいっぱい居るけど、みんないい子だから大丈夫」
「エリオってお嫁さん居たんだ? しかもいっぱい?」
「まぁ、それは色々事情があってね。気にしないで」
「もし、私が邪魔にならないならエリオの家に住みたい」
「ならないから大丈夫。それじゃ帰ったら歓迎パーティーしないとね!」
「嬉しい!」
グレーマは物凄い喜び様で僕に抱きつき揺らし、竜車が危うく転倒しかけた。恐ろしいパワーだ。
◆◇◆◇
夕方になり、辺りがオレンジ色になった頃にやっとそれらしい村に着いた。結構頑丈そうな木の柵で囲まれた村で、門の脇にヨルイルと書かれた板が貼ってあった。
「ここがヨルイルの村みたいだね。思ったより大きい村だ」
「依頼は明日からだね。今日は宿に泊まろう!」
「いや、転移で屋敷に戻ればいいよ。わざわざここに泊まる必要はない」
「転移? なにそれ」
『規約に村に泊まれと書いてあった気がするニャ』
「猫が喋った!」
「言い出し忘れてたけど、みーちゃんは喋る事も大きなフェンリルになる事も出来るんだ」
「フェンリル!? 闇猫もだし、やっぱりエリオはヨリュア様の使徒だったんだ……」
「本当に違うからね。そもそも使徒なんて居るのか知らないけど」
『時々出てくる強い人間や、敬虔な信徒を使徒と呼ぶ傾向があるニャ。正式な使徒は今まで一人も居ないニャ』
「だそうです」
「エリオと一緒に居ると信じられない事ばかりだよ。ゴーレムも喋ってたし」
「その辺は慣れてね。それより村に入ろう」
村には見張りが一人、ぼけーっと立ってるだけで特に止められもせずに入れた。のどかな村だな。
こんな時間に村長宅に行っていいのか解らないので、宿を見つてけ入る。二人部屋を取って中に入り、カギを閉めて、グレーマの手を取り転移!
「あれ、ここどこ?」
「ここは僕の屋敷だよ。転移のスキルで屋敷まで転移してきたんだ」
「あれー? その子誰?」「あらぁ、また新しいお嫁さん?」
「嫁じゃないよ。グレーマは僕と冒険者パーティーを組んでるんだ。スラムに住んでると聞いたからここに連れてきた。仲良くしてあげてね」
僕はみんなにグレーマを紹介して、すぐドルフィノに転移してユリナとアリスを連れて戻り、グレーマの歓迎会をした。
芽衣子と渚が肉料理をたくさん作ったので、グレーマが恐ろしい勢いで食べてた。佐藤君なんて目じゃない程の食べっぷりにみんな驚いている。
グレーマは明るい性格だし、ユリナとアリスを肩に乗せたりしてすぐにみんなと仲良くなっていた。
食事もせず、部屋に閉じこもったまま出て来ないのも宿の人に怪しまれるかもなので、僕とグレーマは宿に戻る事にした。
転移する前に唯に捕まってたっぷり釘を抜かれたのは言うまでもない。
「ふいぃー。エリオの家のごはん凄い美味しかった! あんな美味しいの食べたの生まれて初めてだよ!」
「これから毎日好きなだけ食べてよ。夜と朝以外はメイドさんが作るからさっき食べた程の美味しさはないけど」
「食費はどれぐらい入れたら良い?」
「そういうのは要らない。気にしなくていいし、気が引けるなら掃除とか手伝ってあげてよ」
「そうする!」
僕たちは宿の部屋から出て、軽く食堂で飲み物を飲んで会話してから部屋に戻り就寝した。グレーマの筋肉もりもりの腕に抱かれながらね。
翌朝。
「それじゃ、村長の家に行ってくるね」
「頑張ってきて!」
村長宅は一番大きい家なのですぐにわかった。訪問には早いかなと思ったけど、農村なら特に問題ないらしい。
家のドアは開放されており、中で何人か作業をしているみたいだ。
「すみませーん、初心者特別依頼の件で伺わせていただきました」
「はいはい、今村長呼んでくるから待っとれ」
暫く待っていると、でっぷりお腹の村長さんらしき人がやってきた。
「わしが村長のボッコリだ。しかし今回の子は随分とめんこい女の子が来たもんだな。しかもハイエルフかいな」
「はじめまして、エリオと言います。ちなみに僕は男ですよ」
「まぁ、どっちでもいいわ。特別依頼は村の周りにいるゴブリン五匹倒してくる事だ。うちの村の者も一緒に行かせるから、そいつの見てる所で討伐してくれ」
「わかりました」
村長さんが合図して連れてこられたのは、二十代半ばぐらいの女性だった。美人だけど、なんとなく影がある人で目が死んでる。
「リネットです。よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
僕はリネットさんを連れて村を出る。何故か村の男たちはリネットさんを見てヘラヘラと笑っている。なんか嫌な感じだな。
村長も去り際にリネットさんを冷めた目で見ていた。何かあるのだろうか?
「ゴブリンなかなか居ませんね」
「はい。村の近くは定期的に討伐してるみたいです」
「もう少し森の奥に行きますけど、リネットさんは大丈夫ですか?」
「問題ありません」
問題ないと言いつつ、かなり辛そうだ。長い髪が枝にひっかかったり、蜘蛛の巣に突っ込んだり。どう見ても素人の女性を何故監視役にしたのか謎だ。
20分程森を進むと、一匹目のゴブリンを見つけた。サッと近付いて刀で首をはねた。この刀は壊れた着るゴーレムを回収してそれを材料に作った刀。
刀身に波紋は無いけどオリハルコンの輝きが美しい刃長約60センチ程の長さの日本刀。我ながら良い物が出来たと思う。
「一匹目倒しました。見ててくれました?」
「……はい」
リネットさんは血を流して死んでるゴブリンを見て青い顔をしている。本当に大丈夫かこの人。
その後もゴブリンと出会う度に一刀の元に切り捨てていく。訓練のおかげだ。無理矢理にでも教えてくれた教官に感謝したい。
だけど、なんか変だね。立て続けに20匹以上襲ってきた。巣でもあるのだろうか。
「リネットさん、戻りましょう。ゴブリンが増えてきましたので」
「はい。数はもう十分ですので報告はお任せ下さい」
こうして僕たちは村に戻り、戦果を村長に報告した。リネットさんが村長に事の次第を話しているが、村長はどうでも良いって感じで聞き流してる。
そして初心者特別依頼達成の証書を貰い、あっさりと終了した。
「あぁ、20匹以上も倒してくれたから、今日は小屋に最初に行っていいぞ。じゃあな」
村長さんはそう言って去っていった。小屋って何だ? リネットさんに小屋って何? と聞くと、村の外れの小屋を指差した。
リネットさんは俯いてそれきり何も言わなくなった。何があるんだろう? ともかく用事は終わったので帰るとしますか。
「グレーマただいま! 依頼終わったよ。帰ってお昼ごはん食べよう」
「おかえり! ご飯待ってました!」
グレーマは嬉しそうに僕を肩車して宿から飛び出した。早く帰りたくてウズウズしてるみたいだ。
その時、森の向こうから数匹のゴブリンと共に数十人の男が走ってきた。なんだあれ?
「エリオ! 多分あいつら盗賊だよ!」
「盗賊か……。殺さないとダメ?」
「あいつらは人じゃない。知性を持った怪物なんだよ」
僕と一緒にいる時はいつもニコニコしてるグレーマも今は戦士の顔だ。僕を降ろして巨大な弓を構えた。
僕もアサルトライフルを出して構える。緊張して手の汗がやばい。肩に乗ってるみーちゃんがスリスリしてくれて少し落ち着いたが。
『ミーに任せてくれていいニャ。一瞬で終わるニャ』
「いや、僕もやるよ。でも村人が危なそうだったら助けてあげてくれる?」
『わかったニャ』
「盗賊だぁーーーーーーーーーーーーーーー!」
盗賊に気付いた村人が声を上げる。村人はヤリを手にして柵の内側から迎え撃つようだ。結構手慣れた感じな気がする。
門はすぐに閉じられ、武器を持った男以外は家に隠れてしまった。リネットさんだけは動けずにへたり込んで座っている。
「リネットさん、早く避難してください」
「……」
心ここに有らずといった感じで、僕の声は聞こえてないようだ。仕方ないので、旅用の小さな家を村長宅の庭にを出してリネットさんを担いで入れておいた。
やがて盗賊たちは柵に到達して盗賊と村人と戦いが始まった。僕たちも柵を乗り越えて来ようとする盗賊を次々に撃ち倒していく。
みーちゃんが僕にくっついてくれてるからか、人を殺めている罪悪感に襲われて動けなくなったりはしなかった。
僕は心を鬼にして引き金を引き続けた。時間にしたら30分も経ってないだろう。盗賊は全員死んだ。
リネットさんは戦いが終わると震えながら帰っていった。どうも様子がおかしいな。
僕たちだけで大半の盗賊を倒したので、村長に感謝されて、今日は宴だから参加して欲しいと言われる。
もちろんそんな気持ちにはなれないので断って、村長宅の庭に出した家で一息つく。
「グレーマもお疲れ、はいお茶」
「ありがとう。エリオ大丈夫?」
「大丈夫だよ。思ったよりは心にダメージ無いかも」
「最初は誰でもそうなるよ。ほら、おいで」
グレーマの逞しい腕に抱かれて僕は安心した。そしてそのまま寝てしまった。
気が付くともう夕方で、グレーマも一緒に寝てしまったみたいだ。ガッチリ抱かれた腕から抜け出して窓から外を見てみる。
村では宴が始まっており、大盛況のようだ。そういえば村長さんが小屋がどうとか言ってたよね。あれはなんだったのだろう?
僕は少し落ち着いたせいで好奇心が湧いてしまった。家から出て小屋へ歩いていく。小屋のドアの前には男が一人立っている。
「この小屋ってなんなのですか? 村長さんに行って良いと言われたのですが」
「ああ、あんた男なんだってな。あんたは盗賊をたくさん倒してくれた恩人だから先に行っていいぜ」
ドアの前に立ってたおじさんはドアを開けると僕を中に押し入れると、すぐにドアを閉めた。
僕の目に飛び込んできたのは、数人の男に群がられて辱めを受けてるリネットさんだった。
その行為を見ながら酒を飲んだりしてる人たちも居た。
「これは……いったい?」
「はぁぁ……。坊主代わってやるから来いよ。こいつすげぇいいぞ」
リネットさんと交わってた男が離れ、僕を手招きしている。
「待って下さい。こういう事だとは知りませんでした。どういう状況なんですか、これは」
「こまけぇ事はいいだろ。聞きたいなら話してやるけど順番は後回しになるぞ」
「はい……」
聞いた話をまとめると、この村では若い男は年上の女性に筆おろしをしてもらう風習があるのだとか。
リネットさんはその相手役みたいだ。前回盗賊が攻めてきた時に拉致されて乱暴されたから嫁に行けないのでこういう役回りにされたらしい。
いつもは娼館の女性を数人呼ぶのだけど、今回はお金もかからないからと、こんな心無い行為に出たみたいだ。
そうしている間にも、次々と交代していく。中にはおじさんも居るし。若い人向けの風習じゃなかったの?
「あの、そんなに立て続けにするとリネットさんの身体が持たないのでは?」
「うるせえな。やらないなら出ていけよ」
男に頭を掴まれ激しく打ち付けてるためにリネットさんの表情は見えないが泣いてるみたいだ。太ももにも血が垂れてきている。
「とても見過ごせませんので、止めさせてもらいますよ」
僕は素早く近付くと、リネットさんを辱めている男たちを突き飛ばす。そしてリネットさんを抱えると移動用の家まで転移した。
「エリオ! どうしたのその子」
「話すと長くなるから後で説明する。それよりさっさと帰ろう。こんな村嫌いだ」
一度家から出て、家を収納した後、僕たちはヨルバンの屋敷のエントランスまで転移した。
「旦那様、その女性は……?」
執事さんはリネットさんを見て困惑してる。メイドさんたちも固まっていた。
「ごめん、聖女の光使えば良かったよね」
僕は今更だけど聖女の癒やしと聖女の光を使い、リネットさんを治療と浄化した。色々な汁とかも無くなって綺麗になる。
「綺麗になったけど、一応お風呂に入れてあげてくれる?」
メイドさんにリネットさんをお願いした。お風呂入ればリラックス効果あるしね。
さて、みんなに状況説明しますか。唯が詰め寄ってきて僕の匂いを嗅ぎまくってうざいし。
そして村であった事をみんなに伝え、どうして連れてきたのかを説明した。
「とはいえ、リネットさんの意志も確かめずに連れてきちゃったから、正しい選択だったのかわからないけどね」
「そうだったんだ。コウちゃんの行動は間違ってないと思うよ」「唯なら男達を皆殺しにしますけどね」
一人物騒な事を言ってるけど、スルーしておく。さて、今日は疲れたので部屋に戻り夕食まで少し休もう。
ユリナとアリスを両脇に抱いてくーちゃんにくっつきながら、お腹の上にみーちゃんを乗せる完璧な癒やし空間で仮眠をとった。
「コウ、そろそろご飯だって」「可愛い寝顔だわぁ。ちゅー」
起きると唯が足の間で寝ていて、蘭子と真美が両脇から僕の顔を覗き込んでいた。
起きてみんなで食堂に向かうと、リネットさんが綺麗なドレスを着て立っていた。
「エリオさん。治療していただいてありがとうございます。私帰ります」
「いや、でも帰ったらまた……」
「私の帰る場所はあそこしか無いのです」
「ここに住んでいいですよ。勝手に連れてきたのは僕なんですから、責任取らせてください」
「ですが……」
「コウが住んで良いって言ってるんだからいいんだよ」「そうよぉ。帰ったら身体壊しちゃう」
蘭子に肩を抱かれ、真美に腕を掴まれてリネットさんは困惑している。でも、こういう時はギャル二人の強引さが心強い。
「私なんかが貴族様のお屋敷に居て良いのでしょうか……」
「僕は貴族じゃないですよ。食堂と薬局の経営者です。あと、たまに冒険者してます」
「どうして私なんかの為にそこまでしてくれるのですか?」
「僕のエゴですよ。だから最終的にはリネットさんの選択に任せます」
「私は……」
リネットさんは泣き崩れてしまった。蘭子が支えて立ったけど今度はお腹を抑えて痛そうにしてる。
『その娘は妊娠してたみたいニャ。でもお腹の子は死んでるニャ』
「えー!? どうすればいいの? 手術なんて出来ないし! 特製ポーションならなんとかなる?」
『落ち着くニャ。闇の雫はだめニャ。体内で正常に生成された物は闇の雫を使っても残り続けるニャ。子宮の中の遺体をアイテムボックスに収納すればいいニャ。コウイチなら出来る筈ニャ』
「そ、そんな事できるかな……」
「矢吹、お前しか出来ないならやるしかねーよ」「よくわかんねーが、やれよ男だろ!」
モリモリと佐藤君も応援してくれてるけど自信ないな。でもやるしかないか。
「蘭子、リネットさんをお風呂場に連れて行って」
「はいよ」
蘭子に肩を貸してもらい、僕たちはお風呂場に歩いていく。みんなもゾロゾロ着いてきたが帰ってもらった。
リネットさんもあまり人に見られたくないだろうしね。
「気が進まないと思いますが……服を脱いでそのお風呂マットに横になってもらえますか」
「はい……」
リネットさんは少し震えなから全裸になりマットに横たわった。陰部からは少し血が流れている。
「すみません。足を広げてもらえますか?」
「……はい」
リネットさんは震えながら足を開く。僕は一回深呼吸して、落ち着いて産道、子宮内をスキルで確認していく。
遺跡に入らなくて入り口に立っていれば中身全部回収できたんだ。それと同じ事だ。やってできない事はない。そう自分に言い聞かせて集中する。
「それではいきます。恐らく痛くはないと思います」
「はい。よろしくお願いします……」
収納はアッサリできた。スキルで確認しても子宮内や膣内にはもう何もない。
「終わりました。もう大丈夫です」
「お腹の痛みも少し収まりました……ありがとうございます」
「さすがコウ! やるじゃん。さすがあたしの旦那」
「本当にありがとうございます」
「気にしないで下さい。あと、思い出したくないと思いますが、盗賊に乱暴されたのはいつの話でしようか?」
「二ヶ月程前の事です」
「それならば、これを飲んで下さい。これを飲めば一年前の身体に戻れます」
「それは?」
『闇の雫と呼ばれる物ニャ。感謝してコウイチの番になると良いニャ』
「こらこら、みーちゃんまたそんな事を言って……」
「気になっていたのですが、その猫は何故話すことが出来るのですか?」
「猫の姿は仮の姿で、みーちゃんはフェンリルだからね」
「フェンリル!? それに闇の雫……」
「先に言っておきますが僕はヨリュア様の使徒ではないです。あしからず」
「お伽噺に出てくる闇の雫が本当にあるのならば、私になんかじゃなくて本当に必要な人に使ってあげて下さい」
「わかりました。これは強制ではないので、リネットさんの意志に任せます」
僕は特製ポーションをアイテムボックスの中に戻し、陰部から血が流れてたのでリネットさんに身体の深くから全身に聖女の光をかける。
多分これでもう汚されたものは全て無くなったと思う。
◇◆◇◆
今日はあまり食欲無かったので、軽く食事をした後、ユリナとアリスとお風呂に入る。恵も一緒に入ってきて僕の背中を流してくれた。
「コウちゃん今日は本当にお疲れ様」
「うん。色んな意味で疲れたよ」
見つめ合ってるとアレがアレしてしまうので程々にして自室に戻った。ユリナとアリスを寝かせてから恵の部屋に行く。
「コウちゃん今日は私に任せてね」
恵は僕を労るように全身を味わっていく。ゾクゾクしますね。
たっぷり恵に可愛がってもらった後は僕も頑張る。今日の精神的なストレスのせいか激しい戦いになってしまった。
横を見ると蘭子と真美が見ている。真美はニコニコしてるけど蘭子はちょっとビビってる。
そんな事お構いなしに蘭子に襲いかかり、グラウンドバトルが始まる。
「うーー! まだ結構痛い!」
あれから何回もバトルしたのにまだ痛いみたいだ。こういうのは結構個人差があるんだね。
一方真美は凄い。全盛期のヒク○ン並の巧みな技で僕を手玉にとる。こんなのどうする事も出来ない。
一方的な試合で好き放題持っていかれてKO負け。
その後恵にお姫様抱っこされて自室に戻った。
そして丑三つ時に妖怪バール娘はやってくる。
「ふぉふぅふぁふぇふぁふぁ」
「うっ……唯はいつも通りだね」
「ぷはぁ、唯はいつでも矢吹君を愛してます。はむっ」
「うぐぅ……いつもありがとね」
「ぷはっ、お礼はいいです。代わりにこれを貰います。はむっ」
「ふにゅ……お、お手柔らかに……」
今日はいつもと少し違って丁寧に一本だけ釘を抜いて妖怪バール娘は帰った。気遣ってくれたのかもしれない。
ユサユサ……
「今日はお願いがある」
「なに?」
「正式に后にして欲しい」
「今までと何か変わるの?」
「精霊と同じ。妾が強くなる。そして絆も強くなる」
「言い方悪いけど、デメリットみたいなのはあるの?」
「それは貴方次第。妾に飽きた時に鬱陶しいかもしれない」
「それは無いね。僕にはサキュバスの呪いがかかってるんだ。倦怠期は来ない」
「それならば是非に……」
「わかった。僕の嫁になってよ。みんにはちゃんと言うから」
「貴方様!」
エリカは僕に飛びつき、首筋を噛んだ。何故か痛くはなく、むしろ気持ちよかった。エリカはゴク……ゴクッと喉を鳴らしている。
結構血飲んでる? 程々にしてくれると嬉しいんだけど……。
「美味し過ぎる……こんなの……」
エリカは僕に肉体的にも襲いかかり、激しく動きながら首筋から血を奪っていく。
ヤバイ……意識が……
◆◇◆◇
翌朝目覚めるとエリカが土下座をしていた。
「申し訳ない。やりすぎてしまった」
「いいよ。特に体調が悪いとかもないし」
顔を上げたエリカを見て驚いた。幼かった顔は神秘的に美しい女性へと成長し、身長も胸もかなり育った。
「エリカ凄い変わったね……」
「貴方の后となった今、妾の本来の姿に戻れた」
「今までのはなんだったの?」
「詳しくは覚えてないが、何者かに力を奪われて肉体が弱体化したせいだ」
「そうなんだ。可愛いエリカも僕は好きだったよ」
「貴方が望むならば幼い姿にもなれる」
「いや、いいよ。そのままで」
「わかった。この命を全て貴方様に捧げる」
エリカは僕に抱きつき、激しく唇を奪う。
「コウちゃん……この人は?」「あれ? こいつエリカじゃね?」「確かにぃ、エリカちゃんぽいかも」
『結局こうなってしまったニャ』
「いきなりで悪いけど、エリカも僕のお嫁さんになってもらうつもり」
「私はいいよ。蘭子と真美と一緒に破壊神と戦ったくれたと聞いたし」
「あたしと結婚したばかりだってのに、もう女作るとか……」
「モテる旦那さんも考えものねぇ」
こうして朝食前にみんなにエリカを改めて紹介した。みんなも薄々気付いていたみたいで特に反対はされなかった。
「矢吹さんよぉ~エリカちゃんはいいけど、こずえちゃんだけは絶対ダメだからな」「ふっ……俺はもう男だから羨ましいと思ったりしないのさ」
「日和さんは色々闇を抱えてそうだからモリモリが守ってあげたら? それと佐藤君もしかしてアレなお店に行ったの?」
「でもよ、ドルフィノじゃ会いに行けないし、無理じゃん」「卒業しただけじゃないぜ。彼女も出来た」
「転移で連れて行ってあげ……って、えぇ? 佐藤君彼女できたの?」
話を聞いてみると、芽衣子と渚のお店予定地近くの雑貨屋の娘さんに一目惚れして告白したらオッケー貰えたらしい。良かったね!
「それでさ、彼女もここに住んじゃダメかな? ユーナが俺と一緒に住みたいって言うんだ」
「もちろんいいよ。後で紹介してね」
「でもなぁ、矢吹に取られそうで怖いぜ」
「取らないよ。僕をなんだと思ってるんだ」
「ハーレム王だろ?」「次から次へと嫁連れてくるし、ここまでいくと清々しくもあるなプププ」
おっと、リネットさんが起きてきたのでこういう話は一旦止めよう。
「じゃあ、話はこれぐらいにして朝食にしようか」
今日も美味しい朝食を頂き、グレーマと共に冒険者ギルドに向かった。
ちなみにユリナとアリスは文字の読み書きのお勉強を始めた。楽譜とかを読むためにも必要らしく真剣に取り組んでる。
冒険者ギルドに着くと、エルメスの所に行き、初心者特別依頼達成証明書を渡す。
「おはようエルメス。証明書持ってきました」
「おはようございます。はい。確かに受け取りました。ではギルドカードの提出を」
エルメスは僕からギルドカードを受け取ると銀色の板で何かを操作して情報を書き込んでるみたいだ。
僕とエルメスの仲でも、何をしてるとかは教えてくれない。そういう所はしっかりしているみたいだね。
「はいどうぞ、これが新しいギルドカードです。やっと更新できました。各所から圧力かかって大変だったんですよ」
「は、はい。よくわからないですが、ご迷惑おかけしました」
ん? ギルドカードを見るとランクBとなってる。一気に上がり過ぎてない?
「エルメス、これランク間違ってないですか?」
「いいえ。それで合ってます。ドルフィノ王家からランクアップ推薦が来てましたので。それと帝国からもです。もう一つセイラのストラージユ家からも来てます」
「ストラージュ家って聞いたことないですね」
「セイラの侯爵家ですよ。かなり力を持った貴族と聞いてます。エリオさん何かしたのですか?」
「そもそもセイラで貴族に会った事すらないですよ。何かの間違いだと思います」
「そうですか。ですが、間違いはありません。推薦人はエルトニル・ストラージュ様と、そのご息女エリザベス・ストラージュ様となってます」
「エ……エリザベス?」
「お知り合いですか?」
「え、えぇ……」
「私の能力は覚えてますか? エリオさん」
「ぼ、僕のそういう履歴を見れるんでしたっけ?」
「そうです。それを責めてるわけではないので安心して下さい。ですが、相手は侯爵家ですから何かしらの対応が必要かと思いますよ」
「ですよね……。それは何とかします」
「もし何ともならなければ私の所へ逃げて来てもかまいませんよ」
「は、はい。その時はお願いします」
これはやってしまったな。エリザベスさんが貴族のご息女さんだったなんて。しかも侯爵家かいな。
でも、推薦してくれてるぐらいだから好意的なのだろう。
セイラでハイエルフは優遇されまくってたしね。今は少し保留にしておく。
◇◆◇◆
エルメスと話も終わり、グレーマを探す。掲示板で仕事を探してるみたいだ。
「何か良い仕事あった?」
「遺跡が見つかったみたいで、その調査の仕事あるよ」
「遺跡か……。オリハルコンとかあるならいいかも」
「遺跡は行ってみないと何があるか解らないから期待しない方がいいよ。受ける?」
「そうだね。受けようか」
「決まりだね! じゃあ受けてく……」
「待った!」
突然声をかけて現れたのはディンさんだ。ちょっと久しぶりな気がする。
「ディンさんお久しぶりです」
「ああ。久しぶりだな」「わたしも居るよ! エリオ久しぶり!」
ミリさんが僕に抱きつきスリスリしてくる。今日はいい香りだし、この世界最高峰のたわわな果実を顔に押し付けられてヤバイ。
「ぷはぁ……。ミリさんもお久しぶりです。ところでディンさん、僕たちに何か用事でも?」
「グレーマと組んだと聞いたぞ。それなら俺達とも組まないか?」
「僕とグレーマが黒のエイスに入るという事ですか?」
「そうだ。ミリがエリオエリオと煩いし、それに妹の夫になるんだから、もっと交流を持ちたい」
「申し訳ありませんが、カリンさんの件は決まってませんよ」
「ディン! エリオがカリンの夫ってどういう事? 聞いてないよ、そんなの」
ミリさんがプンスカ怒り出してしまった。ディンさんは一応かいつまんで説明したが、ミリさんは全然納得してない。
面倒くさいから逃げようかな……。ミリさんがギャーギャー煩いのでスルーとしておこう。
「Bランクパーティー黒のエイスに勧誘されたけど、グレーマはどう思う?」
「エリオに任せる。エリオが黒のエイスに入りたいなら、私は付いて行く」
「少し情報が古いぞ、今はAランクパーティーだ。拠点の外観も綺麗になって風呂も復活したぞ」
「そんな事よりエリオとカリンの話の続きだよ!」
ディンさんはまたミリさんに捕まって襟首掴まれて振り回されてる。
どうしようかな。特に断る理由もないけど。
僕が常に冒険者の仕事は出来ないのと、遠出の依頼等は同行出来ない場合もあると伝えた。
「かまわないぜ。エリオは店を経営してるんだろ? そういう情報は知ってるから問題ない」
「そうですか。では僕たちも黒のエイスに入れて下さい」
「よっし! 決まったな! これから拠点で歓迎会するぜ! あと、ついでになんだが……ミリも嫁にしてやってくれねぇか?」
「ついでにって何よ! エリオなら喜んでわたしをお嫁さんにしてくれるよ!」
「いや、あの……すみません。僕には既に何人も嫁が居ますので、ごめんなさい」
「ガーン……」
ミリさんは白くなって燃え尽きてしまった。でも許して欲しい。
ディンさんは白くなったミリさんを担ぎ上げると、拠点へ誘ってきたので付いて行く。
「遺跡の調査は俺達がもう受けてるから一緒にやろう。それと嫁が沢山居るなら、こいつもその一人に入れてやってくれよ」
ペシッとミリさんの尻を叩く姿はお父さんの様な、兄の様な不思議な関係に思えた。
「ディンさんとミリさんてどういう関係なんですか?」
「こいつは俺の幼馴染で、お付きのメイドでもあったんだ。性格がメイド向きじゃないから役に立たなかったけどな」
「へぇ、そうだったんですか。もしかしてディンさんはミリさんを好きだったりします?」
「ぶふぅぅーーミリをそんな目で見たこと一度も無いわ。笑わせるなよ」
ディンさんは堪えきれなかったのかミリさんを僕に放り投げて笑い転げてしまった。
僕はカナ(ママ)に匹敵するミリさんのウルトラバストに埋もれながら、その様子をしばし眺めた。
「あ、エリオ……」
そうこうしてるうちにミリさんが正気を取り戻して僕に抱きつく。
笑い終わって歩き出したディンさんの後に続き、ミリさんに抱きつかれたままの姿勢で黒のエイスの拠点まで歩く。非常に歩きにくい。
「エリオ、その子私が持とうか?」
「いや、いいよ。僕が運ぶから」
そして拠点の前に着く。外観が本当に綺麗になってて驚いた。以前は廃墟みたいだったのに。
中に入ると、中も以前より綺麗になってる。ドアに板が打ち付けて入れなくなってた部屋もあったのに今はそれも無い。
「随分と綺麗になりましたねぇ……。以前はなんであんな事になってたんですか?」
「古い物件を買ってリフォーム中だったんだよ。以前はとりあえず住めるようにしただけの状態だったんだ」
「なるほど。では、お風呂自体は最初からあったのですね」
「ああ。ここの風呂はいいぜ。天然温泉だからな」
「な、なんですって!」
僕はミリさんをディンさんに放り投げて興奮した。天然温泉っていいよね。風情もあるし。
「エリオひどいー」
ミリさんはディンさんから飛び降りてまた僕に抱き着いてくる。
「そんな好きなら温泉入って来いよ。俺達は歓迎会の準備しておく」
「はい! ではお言葉に甘えて、お先にお風呂いただきます」
お風呂場は渡り廊下を通った裏手にあって、日本の旅館みたいな作りだった。もしかしてこれって日本人が建てた?
なんかひっかかるものを感じたが、天然温泉に入りたくてウスウズしてた僕は考えない事にした。
脱衣所でパパっと服を脱ぎ、引き戸を開けて浴場に入る。いいね! いかにも温泉宿だ!
身体を洗う必要などない。聖女の光で自分を綺麗にしてから湯船に向かう。
そっと手を差し込むとちょっと熱いな。でも、このぐらいの方が、いかにも温泉ぽくていいかもね。
そっと湯船に入り、肩まで浸かる。白く濁ってお湯がヌルヌルしてる。それと独特の匂いだ。なんか懐かしいな。
はぁぁ……極楽極楽。僕は完全におっさんみたいになって温泉を堪能した。
「エリオ、温泉はどう? 熱くない?」
気が付くとミリさんとグレーマが裸で前に立っていた。ミリさんは相変わらず母印母印で凄い。グレーマは胸筋なのかバストなのか良くわからない。
「ちょ、何入ってきてるんですか」
「今日は混浴だからいいってディンが言ってたよ」
「え? ミリさんはディンさんたちとお風呂入ってるんですか?」
「そんなわけ無いじゃん。わたしの裸見せるのはエリオだけだよ」
「グレーマは僕に裸を見られてもいいの?」
「いいよ。何かまずいことでもあるの? エリオとはもう家族みたいなものだよ」
そして二人は湯船をまたいで入ってくる。色々と丸見えだけど、つい目が離せなかった。
「やっぱあつーい!」
ミリさんは僕に正面から抱きつき身体をプルプルさせた。
待って、ヤバイです。このままでは、たけのこが床を突き破って……。
ミリさんは耳元に口を寄せて「いいよ」とだけ言った。そしてグっと体重をかけてくる。
「うう……ちょっと痛いかも」
ピロン♪ピロロロロン♪
な、こんな時にヨルさんは……。でも、おかけで冷静になれた。僕はミリさんの脇腹を持って持ち上げてそれ以上の使徒の侵攻を阻止した。
だが、ヌルヌルとしたお湯のせいで手が滑ってその勢いのまま僕の超振動ナイフは使徒の最深部へと突き刺さった。
「痛ったーーー!」
「エリオはミリとなにしてる?」
「な。なんかミリさんが湯船の底に膝をぶつけてしまったみたいだ」
「滑るから気を付けないと危ないね、この風呂は」
「だ、だねぇ」
僕は今度こそ冷静に、うっとりしてるミリさんの両脇の下を持ち上げて横に座らせた。
「エリオ……後で部屋に来てね」
「……」
「温泉熱いからもう出るー」
ミリさんは少し寂しそうにしながらお風呂から出ていった。今のはセーフなのだろうかアウトなのだろうか。
いや、今のは事故だ忘れよう。
「確かに熱い。でも気持ちいいよね」
「うん。このお湯は肌にもいいらしいよ」
この後しばし温泉を楽しんでからリビングに戻った。
そこには意外な人物が居て、更なるトラブルの予感を感じさせるのだった。
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