44 初訓練
「みーちゃん、アレはなんだと思う?」
『巨大なウミウシみたいだニャ。可愛いニャ』
あまさんの上にへばり付いてるのは数メートルはある巨大な生物だった。
カラフルな色合いと、ウネウネと動くなめくじみたいな巨大なボディに僕は嫌悪感しか湧かない。
みーちゃん的にはアレが可愛いのか……。見解の相違だ。
「あまさん、どうしてウミウシをくっつけて帰ってきたの? 引き剥がせなかった?」
「懐かれちゃった。可愛いから連れてきたよ」
「……まぁいいや。マグロは獲れた?」
「これで合ってる?」
あまさんが見せた網には5匹のマグロと思わしき魚が入っていた。鑑定してみたら名前もクロマグロと出てる。
明日は寿司でも握ってもらおうかな。海鮮丼とかもいいかも。
でも、ウミウシを見てると食欲が減退する。さっさとお帰り願いたい。
「あまさん、僕はもう帰らないとだから、そのウミウシとはバイバイしてくれる?」
「わかったー」
あまさんはウミウシと会話をしてるようだ。意味わからない。なんで会話できるの。
「みーちゃん、こっちの世界のウミウシって人の言葉解るの?」
『勿論ニャ。知能が高いだけでなく可愛いからウミウシは人間からも好かれてるニャ』
ほんとにぃ? 僕の美的感覚がおかしいのか?
ウミウシはツノみたいなのをヒラヒラさせて海に戻って行った。可愛い仕草と言えなくもない。二度と会いたくないが。
あまさんはウミウシに手を振り返して「また遊ぼうねー」なんて言ってた。逢い引きは僕の目の届かない所でやって欲しいぞ。
……帰ろう。
◇◆◇◆
ヨルバンの屋敷のエントランスに転移すると、ユリナとアリスが駆け寄ってたきた。二人を受け止めてなでなでしまくる。
「お兄ちゃん今日はどこに行ってたの?」「ママ……さみしかった」
二人を連れて自室に戻り、ベッドでお話しながら撫でてたら眠りに落ちた。
「コウちゃん、夕ご飯だよ。起きて」
恵に身体を揺すられて起きると、ベッドには僕たちの他に蘭子と真美も寝ていた。いつの間に……。
夕飯は相変わらず美味しかった。今日は牛丼で男子勢は特盛を四杯お代わりしてたよ。さすがに僕は二杯お代わりしてお腹いっぱいだ。
「今日はドルフィノでマグロ獲ってきたんだ。芽衣子と渚は寿司って握れる? お刺身でもいいけど」
「おー! マグロ嬉しいね。寿司は多分出来ると思うよ!」
「うち寿司は握った事あるし問題ないよ。マグロ捕まえてくるとかうちの旦那ヤバ」
「それじゃ、ボックス内クラフトで解体しておくね」
「りょーかい。それでなんだけど、ウチらお店の目処がついたんだ」
「七星さんのお店の近くの元レストランを買いたいんだよね。でも値段がヤバ高くて……」
「お金の心配は要らないよ。遺跡の隠し部屋で見つけた人工魔石もまだいっぱいあるし」
「嬉しいけどマジ高いよ? 50万ゴルもすんだ」
「人工魔石は一個売れば40万ゴルになるから全く問題ないよ」
「すご……。矢吹っちヨルバン買い占め出来ちゃうんじゃない?」
「うちの旦那ヤバかっこいい……」
明日は人工魔石売って芽衣子たちが欲しい物件を買ってしまおうか。
依子が色々と手伝ってるみたいなので、変な物件掴ませられる心配もないだろう。
さて、ユリナとアリスとお風呂タイムといきますかね。
この前の戦いでボロボロになってしまった魔女っ子服の代わりに着てた服を脱ぐ。
こっちの世界の服だからゴワゴワ感がお肌に厳しい。ずっと着てると気にならないのだけど、着る時、脱ぐ時に不快感がある。
明日セイラに行って新しいの買って来るか。ついでにアリスの分も買えば三人お揃いだな。
ユリナとアリスとマッタリバスタイムの後、二人と一緒にベッドに入る。二人が寝たのを確認して依子の部屋へ行く。
「そういえばドルフィノの物件の二階と三階の応募が殺到してるんだって?」
「はい。31件応募がきてますわ。ローズ騎士団の出張所のしたいとの応募も来てます」
「ローズ騎士団は断ろうね。監視が更に厳しくなりそう」
「安全になってよろしいのでは? それに今でも諜報部隊に常に監視されてますから変わらないと思います」
「え? そうだったの?」
「エリオ商店だけでなく、海の家もこのお屋敷も各国の諜報部隊に監視されてますわ」
「マジー? みーちゃんも知ってた?」
『もちろんニャ』
「そうなんだ……でもなんで排除しなかったの?」
『排除は簡単にできるニャ。でも、片っ端から排除してると、そのうちこの大陸から孤立してしまうニャ』
「ちなみにそれって僕を監視してるって事なの?」
『そうニャ。それと依子もニャ。二人は派手に動きすぎたニャ』
「それは今更どうにもならないからいいや。暗殺されるとかじゃないなら気にしないようにする」
『ミーもバルデュアスもコウイチをガードしてるし、今は吸血鬼が常にガードしてるから暗殺なんて無理だから安心するニャ』
それならいいんだけどね。さて安心した所で依子さんたちと仲良くしましょうか。
依子は相変わらず受け身だけど、キスは積極的にしてくる。
それはいつも奥ゆかしい依子らしい愛し合い方なのだ。このままでいいと思っている。
青山さんと赤坂さんは攻めてくるけどキスはして来ない。子種を効率良く摂取する動きなので事務的なのだ。
だから今日は僕から攻めるのだ。ガードポジションからのリップ固め。
初めてのリップ攻撃に青山さんは戸惑っている。マウントポジションからの攻撃が止まった。
このスキにリップ固めを外さずガードポジションから体勢を入れ替え、マウントを取る。後は打つべし。打つべし。
赤坂さんも同様の技で圧倒し、この日初めて二人に勝った。
「矢吹様……キスって素敵です」「口付けを初めてしました。心があたたかいです」
「今では青山さんも赤坂さんも依子と同じぐらい好きだからさ。変に一歩身を引くのは止めようよ」
「矢吹様! お慕いしております」「矢吹様……この気持ちは抑えきれません」
その後、結局僕は二人に襲われて何度も敗北を味わうのであった。
でも今までと違って心が通い合った気がしたのでいいか。みんなで手を繋いで自室に戻る僕たちだった。
……ユサユサ
「唯が来てるけど時を止めてあるから大丈夫」
足元を見ると唯が這い寄ってくる姿勢で止まっていた。大丈夫と解っていても怖いな。
「なんか怖いから今日はやめない?」
「問題ない」
「じゃ、じゃあ僕の血を吸うとかは?」
「……それは妾を愛していると思えた時にまた言って欲しい」
「吸血鬼的には血を吸うのは特別な意味を持つの? むしろこっちの方がお食事的なイメージだけど」
「異性の血を貰うのは伴侶の証。今の状態よりも強くその意味を持つ」
「わかったよ。適当に決めて良い事でもないし、今はやめておく」
「……では始める」
残念そうなエリカに求められ、愛とは何かを考えながら身を任せた。
去り際に首を甘噛されて少しびっくりした。エリカなりのちょっとした悪戯なのかもね。
そして時は動き出した。
唯と目と目が合う。なんか気まずい。
「唯、今日はこっちに来て」
僕は唯を引き寄せるとキスしながら抱きしめた。たまにはこういうのもいいだろう。
「矢吹君、今日はどうしたんですか?」
「別にどうもしないよ。こうしたかっただけ」
唯は僕に身を預けて目を閉じる。このまま寝ちゃってもいいか。
◆◇◆◇
朝起きると唯は居なかった。相変わらず神出鬼没な子だ。
美味しい朝食を摂り、今日の打ち合わせをする。人工魔石を売ってお金にしたら、芽衣子と渚のギルドカードに振り込む形にした。
運転資金の援助も兼ねて30万ゴルずつ入れる予定。その後はセイラに行って服を買おう。
竜車を出して買取ギルドまで行こうとしたら唯も乗り込んで来た。
「今日は唯も来るの?」
「唯もお揃いの魔法使い服欲しいです。以前連れて行ってくれるって約束したじゃないですか」
「そうだったね。もちろんいいよ」
「あたしらもいくからー」「お揃いの服欲しいわぁ」
蘭子と真美のギャルコンビまで乗り込んできた。大勢で行くのも楽しいかもね。
「もちろんいいよ。その前に資金作りからだけどね」
それから僕たちは買取ギルドで人工魔石を二つ売り、なんと100万ゴルとなった。
いつもの軽い感じの事務のお姉さんも愕然として、僕たちの頭を撫でるの忘れて戻って行ったよ。
他人のギルドカードの振り込みは買取ギルドでも出来るので、高く売れたから芽衣子と渚に40万ゴルずつ振り込んでおいた。これで問題はないだろう。
それから人気のない場所に行き、転移の準備をする。
「僕に触れていてね。離すと一緒に転移されないので」
ユリナとアリスは僕に抱きつき、嫁たちも僕に抱きつく。ちょっと暑い。
「それでは、セイラに行くよ。聖女のゆらめき発動!」
以前行った時に見つけた公園みたいな所に転移した。数人に突然現れたのを見られたけど、気にしない事にした。
「わぁ、とっても素敵な街ですね。矢吹君と一緒に旅行嬉しいです」「いーじゃんこの街。ここに別荘買おうよ」「綺麗な町並みだわぁ」
セイラの街は嫁たちにかなり評価高いみたいだ。僕も最初来た時に感動したから気持ちはわかる。
「ママ、街の人にすごい見られてるよ……」「お兄ちゃん、この街で人気だよね」
「セイラはハイエルフが特権階級らしいからね。親切にしてくれるからいいんだけどさ」
『セイラを救ったハイエルフ伝説のせいニャ。本当はバルデュアスがやったのにハイエルフの功績になったニャ』
「バルデュアスさん気の毒に……」
ユリナとアリスと手を繋いで街を歩く、相変わらず視線を独り占めだ。僕はあまり目立ちたくないから嬉しくはないが。
唯とギャルコンビは仲が悪いよう見えるけど、意外に普通に会話しながら街並みを楽しんでいる。
「あそこの店だよ。とりあえず好きに見て回ってよ」
例の魔法使いの服専門店にみんなを連れて入る。大きい店なので、全員で入っても混み合ったりしない。
今日は予備を含めて二着買おうかな。正直どれがいいとか解らないので、見た目がいいやつを鑑定してから買おう。
ギャルコンビはショッピング感覚で楽しそうに見て回ってる。唯は生地とか触ってチェックしてる。
「お兄ちゃんこれがいい!」「アリスもこれ可愛いと思う」
ユリナが見つけた服は以前買ったのより攻めてる服だった。セーラー服っぽいデザインで、まさにアニメに出てくる魔法少女という感じ。ユリナとアリスが着たら可愛過ぎると思う。
「いいね。凄い可愛いと思うよ。これ買う?」
「うん! お兄ちゃん、おそろいで着よ!」
「え? 待って、これミニスカートなので僕はちょっと……」
「矢吹君にとっても似合うと思いすよ。これにしましょうよ。唯もそれにします」
「みんな僕が男だって忘れてない? 男がミニスカ履いたらダメでしょ」
「好きな服を着ればいいんです」
「別に好きなわけじゃないよ。確かに可愛いけど」
「お兄ちゃんダメ?」「ママとお揃いが着たい」
二人にウルウルとした目で見られ、唯はちょっと意地悪そうな目で僕を見る。唯め、楽しんでやがるな……。
「くっ……わかったよ。それにする。でも、みんな二着ずつ買おう。他も見て来て」
まぁ、ミニスカの代わりにズボンでも履けば良いだろう。気を取り直して他を見よう。
「コウ! あたし、コレにしたよ」「わたしも同じよぉ」
蘭子と真美が持ってきたのは、パーティードレスみたいなセクシー系魔法使いの服だった。二人なら確かに似合うだろうね。
「いいと思うよ。二人に凄い似合うと思う」
「コウもこれにしよ?」「夫婦でお揃いもいいわぁ」
「またこのパターンか。そもそも僕の身長だと、こういう大人向けは合うサイズは無いでしょ?」
「ちゃんとあるの確認済みだよ」「抜かり無いわぁ」
「僕がこれ着たら小学生の発表会みたいになっちゃうよ。あと僕は男だからね?」
「そっちのミニスカの買うんでしょ? ならコレもアリじゃん」「きっと可愛いわぁ」
「くっ……もう好きにしてくれ。わかったよ。それも買うから、もう一着見て来てね」
こうして僕はまた女装に磨きがかかってしまう事となった。スボンを買おうとしたら却下されたので、仕方なくスパッツみたいなのを買った。
これがミスリル繊維製でメチャクチャ高かった。でも肌触りと防御力は良好らしい。勿論ユリナとアリスと唯の分も買った。
ギャルコンビは値段を見ずに好き勝手色々カゴに入れてる。唯も何着か脇に抱えてる。ユリナとアリスも可愛いワンピースが気に入ったみたい。
僕は以前買ったみたいな感じの男が着てもさほど違和感が無い魔女っ子服を見つけたのでそれも買うことにする。
こうして家が買える程のお金を払い、買い物が終わった。疲れたよ。女の子と買い物なんてするもんじゃないね。
そして今、僕はユリナとアリスと唯でお揃いの魔法少女服を着てる。ギャルコンビは例のセクシーな魔法使い服を装備した。
「お兄ちゃんかわいい!」「ママ可愛い!」「矢吹君……変な気持ちになっちゃう」「コウって何でも似合うよね!」「ちゅーしたいわぁ」
「……みんなも凄い似合ってて可愛いよ」
褒められて嬉しいけど、素直に喜べないのが悲しい。片山君みたいな感じの長身イケメンに変身する魔法とか無いかな……。
そんな妄想を抱いて天を見上げていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「エリオ様! 会いに来てくれたのですね! 嬉しいです、行きましょう」「エリオさん、会いたかったですわ!」
走ってきたセーラさんに腕を掴まれ、エリザベスさんに腕を組まれる。
不味い……。これは不味いですぞぉ。
「や、やぁ……。今日は嫁たちと買い物に来ただけだから行けないんだ」
「まぁ……あの方達がエリオ様のお嫁さんですか?」「……」
セーラさんは羨ましそうに唯たちを見る。エリザベスさんは複雑そうな顔をして目を背けた。
「矢吹君、この人達とはどういう関係なんですかぁ?」
唯が僕に抱きついて耳たぶを噛んだりしてくる。ヤバイ……相当に怪しまれている。
「こ、この二人は魔法学園の生徒で、ま、魔力の使い方を教えてあげたりしたんだ」
「そうなんですかぁ~矢吹君、普通の魔法使えないのに器用なんですね」
『唯、コウイチを疑うのは止めるニャ。エルフの方はコウイチが居なかったらかなり厳しい人生だったニャ』
「みーちゃん様がそう言うならいいですけどぉ……」
「おい唯、あたしらの旦那を疑うのはやめろよ。それにそいつらおっ○い小さいし、コウの趣味じゃなくね」
「確かにぃ。わたしたちのおっ○い大好きだもんねぇ」
やめて! 変に煽らないで!
「ごめんなさい……エリオ様私達行きますね」
セーラさんは俯きながらエリザベスさんの手を引いて去って行った。心が痛いです。どうすればいいのだろう。
微妙な空気になってしまったけど、僕のせいでもあるし、流れを変えよう。
「とりあえず他の店にも行こうか。セイラは服飾系の店が多いから楽しめるよ」
この後少し買い物した後にヨルバンに戻る事にした。子供居るからあちこち連れ回されなくて助かったよ。
転移で唯とギャルコンビをヨルバンに戻した後、ユリナとアリスを連れてドルフィノの海の家に転移した。
唯はずっと付いて来ようとしたけど、仕事だからと断った。田中さんとあゆみとカナに会ったらなんとなくヤバそうだしね。
「千代田さん、ユリナとアリスのお願いね。夕方には戻るから」
「はい。そうだ、ピアノは出せませんか?」
「出せるけど置く場所が無いよ。千代田さんの知識から作ったピアノ凄い大きい」
「多分うちにあったグランドピアノですよね。もう一度私にアクセス出来ませんか? アップライトピアノも使ってたのでそっちなら置けます」
「了解。じゃあ手を握るね」
そして千代田さんの手を取り目を見つめる。千代田さんの顔が赤くなっていく。変な気持ちになる前に集中する事にした。
千代田さんの音楽知識は膨大かつ想いが強いので一番使った楽器ばかり見えてきてアクセスが難しい。
数分見つめ合ってると千代田さんが抱きついてきた。唇が触れるか触れないかの距離で見つめ合う。
でも知識に集中してるのでスルーした。そしてやっとそれらしい物を見つけた。僕はそれに意識を集中して創造錬金を発動した。
そこそこ魔力が持っていかれてアップライトピアノは出来た。でも意識を戻してびっくりした。完全に唇が重なっていて千代田さんの息は荒かった。
「お兄ちゃん! ユリナともちゅーしよ」「アリスも!」
間に飛び込んできた二人に押されて千代田さんとは離れたけど唾液の糸が引いた。想像してたよりがっつりキスされてたみたいだ。
可愛い娘たちとちゅーして場が和んだが、誰も居なかったらちょっとヤバかったかも。
しかし困ったな。この異性を惹きつけてしまう謎パワーも加護のせいと言うなら何とかしないと。ヨルさんに手紙でなんとかするように要請しよう。
その件は置いといて、アイテムボックスから創ったアップライトピアノを出して壁際に設置した。椅子も知識の中にあったのを創ったので問題ない。
「千代田さん、これでいいんだよね?」
「……あ、はい。それです」
「それじゃ、僕はちょっと出かけるから二人をよろしくね」
「はい。お任せください!」
ぽやーってしてた千代田だったけど、音楽の事となるとシャキっとしたようだ。
こうして僕はみーちゃんと二人の身軽になったので、フェンリルの丘の家に転移した。王族の方々に挨拶後、物資の補給してから二階のソファーに座って一息つく。
「みーちゃん、加護は消せないって言ってたよね?」
『出来ないニャ。ここに転移してきた人間は例外なくヨルの加護の元に肉体が構築されてるから、それを外すというのは死を意味するニャ』
「でも僕の身体はエリオの物だよ。ヨルさんが創った物じゃない」
『転移の際に破壊神に権限を奪われないようにわざとエリオの肉体を使ったんだと思うニャ。ヨルならハイエルフの肉体を使用しなくても不老不死の肉体を創る事も可能だった筈ニャ』
「どういうこと? 破壊神を欺くためにわざとミスした振りをしたというの?」
『恐らくニャ。実際、転移の権限を依子とこずえが奪われてるニャ。その他にも勝手に転移させた人間も複数居るみたいニャ』
「そんなの初耳なんだけど……。じゃあ聖女という見慣れないスキルは破壊神が与えてくれた物なの?」
『そうニャ。聖女は本来コウイチの為に創ったスキルだと思うニャ。コウイチの願いを叶えるためにニャ』
「ごめん。さっぱり意味がわからないよ」
『それでいいニャ。ミーは余計な事を言ってしまったニャ。忘れて欲しいニャ』
「わかったよ。それに誰に転移してもらうかなんてどうでもいいよ。僕はみーちゃんにもう一度会えただけで、この世界に来た意味はあったんだから」
『うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
みーちゃんをモフモフスリスリクンカクンカをしまくって満足した僕は、一応ヨルさんに手紙に書いてみる事にした。
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ヨルさんへ
僕の加護について質問とお願いがあります。
以前、異性にモテるようになると言われた記憶があります。確かにモテる体質になったと思います。
男としてはとても嬉しいのですが、もう少し加護のパワーを抑えられないでしょうか?
このままでは、そのうち女の子から刺されそうです。
それと、破壊神が転移に関わっていたと聞きました。日和こずえさんや依子は大丈夫なのでしょうか?
後で知っていれば対処出来た、みたいになりたくないので僕に出来る事があるなら教えて下さい。
追伸
先程セイラで買った蒸留酒10樽を入れておきました。ご賞味下さい。
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こんな感じでいいか。ヨルさん専用スペースにお酒と共に入れておいた。
そういえば水の精霊さんはどうなったかな……。
『呼びました? お城は今の所、何も動きないですよー。反乱軍と思われる人たちが居座ってます』
「うわ、びっくりした。心の中で思っただけで会話出来るの?」
『出来ますよー。便利でしょ。あ、名前考えてくれました?』
「アオイじゃダメかな? 青い瞳と髪が綺麗だったから」
『ありがとう! 嬉しい! 今日からわたしはアオイと呼んでね!』
この瞬間、僕とアオイに何かが強く繋がった気がした。そして突然アオイが現れて抱きついてくる。
「城の見張りありがとね。たまに休んでいいからね」
『大丈夫だよ。分体置いて常に見てるから。名前貰ったおかけで進化できたから可能になったよ』
「進化? 何か変わったの?」
『格が上がったの。今ならカルアミを水没される事だって出来るよ。ちゅー』
アオイは物騒な事を言いながら僕に抱きつき、キスをしながら混じり合う。例の良くわからない水の精霊式の営みだ。
服なんて関係なく侵攻してくるそれは僕をあっと言う間に撃沈させてしまう。それがしばらく続き少し頭がクラクラしてきた。
アオイを引き離して少し距離を取る。これ以上されるとちょっとキツい。
「じゃあ、今後ともよろしくね」
『うん。いっぱい可愛がって!』
また抱きついてきたけど、今回はそれだけみたいで安心した。アオイの不思議な手触りの髪を撫でながら身体を休めた。
◆◇◆◇
フェンリルの丘でメイドさんが作ってくれた昼食を摂って、午後はヨルバンに戻る事にした。
忘れてたけど、冒険者ギルドに顔を出せと使いの者が屋敷に来てたの思い出したから。また面倒な事にならなければいいが。
ヨルバンの冒険者ギルドのそばに転移して、みーちゃん抱っこしたまま冒険者ギルドに入る。
今日はいつも以上に見られるな。なんでだろう?
「ヒュー可愛い子が来たじゃねーか。ここは幼女が来る場所じゃねーぜ、帰りな」
「いや、僕は男ですから」
「そんな服着て男だってか? ガハハハ」
あ、忘れてたよ。ミニスカ魔女っ子服だった。やばい……恥ずかしい。
「エリオー!」
恥ずかしくてもじもじしてるとグレーマさんが走ってきて、僕を捕まえると肩車して足をガッチリ掴まれた。
「グレーマさん、こんにちは」
「さんは要らないよ。敬語も要らないし、グレーマでいいから。エリオの方が年上なんでしょ?」
「肉体年齢的にはそうだね。わかったよ。これからはグレーマと呼ぶから」
「それでいいよ。そういえばエリオ初心者講習にいつまでも行かないからギルマス怒ってたよ」
「初心者講習? そんなのあるの?」
「あるよ。それ受けないと、どんだけ仕事してもランク上がらないよ」
それなら仕方ないと、僕は肩車されたままエルメスの所へ向かった。エルメスを見下ろす姿勢で会話をするのもアレなので降ろしてもらう。
「呼び出しを受けたのですが、もしかして初心者講習の件ですか?」
「そうです。それとヒイロ帝国から使者も来てました。領主様と会談して帰ったようですが」
「ヒイロ帝国の方は僕とは関係ない話なのでは?」
「いいえ。ヒイロ帝国皇帝様がエリオさんと仲良くなりたいのだそうです。一体どうしたらこんな事になるのか私が聞きたいくらいですよ」
淡々と笑顔で話すエルメスの目は笑ってなかった。怖い。
「えーと、この前ちょっと帝国でゴタゴタがあって、少し手を貸したみたいな感じなんですよ。多分そのせいです」
「ヒイロ帝国の軍に連行されたと思えば、今度は仲良くなりたいとか不思議な話もあるものです」
「エリオ、帝国と仲良くする気? やめた方がいいよ!」
「いや、そんなつもりは無いよ。酷い話ばかり聞くし」
「それでエリオさん。初心者講習の話に戻します。地下の訓練所に行って指導を受けて下さい。それから初心者特別依頼を受けていただきます」
「わかりました。そのうち行きます」
「今行って下さい。行かないとギルドカードを凍結します」
「はい……」
「終わったらお一人でギルマスルームにいらして下さい」
チラっとグレーマさんを見るエルメス。さすがのグレーマもエルメスには逆らえないみたいで何も言わなかった。
そしてやってきた地下の訓練場。こんな所あったの知らなかったよ。
僕の他にも5人程、初心者講習を受けてる人が居る。さすがにみんな若いな
「グレーマ。お前、また初心者講習受けたいのか?」
「違う。今日はエリオの付添だから」
「ついでだから手伝っていけ。こいつらの相手になってやれ」
グレーマはしぶしぶ木剣を取り、初心者講習受けてる子たちと模擬戦を始めた。
「それで、お前がギルマスお気に入りのハイエルフだな。木剣を取ってこい」
僕もしぶしぶ木剣を取ると教官の前に立つ。
「好きなやり方で打ち込んでこい。卑怯な手を使ってもいいぞ」
「それは流石に僕をナメ過ぎなのでは?」
「そのセリフは俺に一撃でも当ててから言え」
「わかりました。怪我しても怒らないで下さいね」
訓練だから手を出さないでね? と、何処かで見ているエリカに伝え、とりあえず正攻法で素早く近付き、突きを放ってみた。
高レベルの身体能力から放つ突きは技術なんかなくても驚異の一撃なはずだ!
と思った時期が僕にもありました。
ろくに僕を見ないまま剣を捌き、すれ違いざまにお尻にベシッと打ち込まれた。
「痛っ!」
「確かに速いが、足の使い方も剣の持ち方も何もかもがダメだな」
「これなら!」
身体能力を活かしてむちゃくちゃに木剣を振り回してみる。こういう駄々っ子パンチみたいな攻撃は地味に嫌なはずだ。
「くだらねぇな」
教官は僕の手元に鋭い突きを入れて木剣を弾き飛ばして、首に木剣を突き付けてきた。
「……これならどうです?」
僕は木剣を拾うと、聖女のゆらめきで教官の背後を取る。そしてお返しのお尻ペーン!
「ほう。面白いスキル持ってるな」
教官はくるっと体勢を変えて僕を見ずに木剣を躱してみせた。
その後、聖女の光で目眩まししたり、アイテムボックスの中から水を出してぶっかけたりしたけど全部無駄だった。
「もういいな? それじゃ基本を教えるから俺が良いと言うまでひたすら続けろ」
「はい……」
剣の持ち方、呼吸の仕方、足捌きと何もかもがダメだった僕は、二時間ぶっ続けでしごかれ続けた。
「それなりに見れるようになってきたな。魔法使いの小娘にしては良い根性だ」
「僕は男ですよ」
「そうか。じゃあ、もうワンセット続けろ。男なら出来るな?」
「い、いや、やっぱ女かも……?」
「いいからやれ」
そしてまた二時間しごかれ、さすがにダウンしてしまうのだった。
「よくやった。また明日来い。この訓練は一週間続く」
「え? 嫌ですけど」
「ギルドカードが凍結されても良いならかまわんぞ」
「ぐぬぬぬ……卑怯な」
「それよりもう行け、ギルマスのから呼出されてるんだろ?」
「はい……」
重い身体を引きずって歩いてるとエリカが現れてお姫様抱っこでギルマスルームまで運んでくれた。
「一人で来てと言ったはずよ」
「エリオは貴様だけのものじゃない。妾の夫でもあるのだ」
「……まぁいいわ。旦那様、帝国で何をして来たのか詳しく聞かせて」
僕はヨルさん絡みの話は除いて、破壊神との戦いの話をエルメスに聞かせた。
「そんな事が……良く無事で帰ってきてくれたわ」
エルメスは感極まって抱き着いてくる。凄い良い香りと柔らかさで当然奴も元気になる。
「勝てたのはみんなが助けてくれたのと、完全に僕をナメてたおかげなんだ。破壊神が本気なら出会って即死んでたよ」
「それでも凄いわ。あの忌まわしき悪鬼を倒すなんて。旦那様愛してます」
スイッチの入ったエルメスは止まらなくなって、しばらく搾り取られ続けた。
どれくらい時間経ったのか……もう夜だった。ふと我に戻ってユリナたち迎えに行かないと! と焦ったけど、
何時の間にか居なくなったみーちゃんが子供たちを引き取って屋敷に戻してくれていた。
その日は屋敷に戻って芽衣子と渚の握ったお寿司を堪能してる最中に疲れて寝てしまった。
生まれて初めてこんなに運動したからかもしれない。
そんな事があって、夜の営みはしばらく控えめにする事になった。それでも唯は現れて釘を一本だけ抜いて行くのだが。
そして訓練二日目。
相変わらず基本基本基本基本……。朝から晩まで続く。
訓練三日目。
基本を続ける。だんだん口数が少なくなってくる。
訓練四日目。
無口で木剣を振る。
訓練五日目。
再び教官に打ち込むように言われ、我武者羅に木剣を振る。
訓練六日目。
「エリオ、お前は致命的な欠点がある。敵が近くに来るとパニックを起こす癖のせいで剣を乱す。だからこうするぞ」
訓練七日目。
僕は防具を着せられ四方八方から初心者の人たちに攻撃される。パニック起こさなくなるまで続くらしい。
訓練八日目。
「あの……。訓練は一週間なはずでは?」
「俺が良いと言うまで続けろ。嫌ならギルドカード置いて帰れ」
「はい……」
それから五日後、やっと初心者講習を終えるのだった。ゴブリンにボロ負けした僕が、人と剣で戦って一本取れるまでになった。
勿論初心者の人相手にだけどね。でも、この一歩は大きい。やれば出来るもんだね。
「エリオ、よく頑張ったな。後は初心者特別依頼だ。特に難しい事はないから力を抜いてやってこい」
「はい。ありがとうございました」
その日の夜は開放された安心感で嫁たち全員とハッスルしてしまった。
後は、初心者特別依頼とか言うものだけだ。これでやっと開放されるよ。
教官の話によれば、簡単なおつかいクエストらしいので気楽に出来そう。
この時僕ははそう思っていた……。
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