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43 反乱

 首都グレリベはあちこちで火の手が上がり、王城は半壊して、兵士の遺体は数え切れない程倒れていた。

 僕はみーちゃんに乗ったまま暫くフリーズしてしまう。


「みーちゃん、クーデターってお城を破壊したりするの?」

『籠城を破る為に破壊したのかもしれないニャ』


「じゃあ、もう王様は処刑されてたりしそうだね……」

『その可能性はあるニャ。でも、ミーは人同士の闘いには介入出来ないニャ。勿論コウイチに仇なす者なら滅ぼすニャ』


 そうしている間も戦いは続き、兵士は反乱軍と思われる者たちの手によって倒れていく。

 どうすべきだろう……。僕が反乱軍に手を出せば、みーちゃんを巻き込んで戦争になってしまう。幸い一般市民は巻き込まれてはいないようだ。

 ここは手を出さないのが最善なかもしれない。でも……。


『コウイチ、反乱軍が西に向かってるニャ。フェンリルの丘に入った者ならミーの介入も可能ニャ』

「わかった。西へ行こう。どらちゃん、どらさんを出して王城に向かわせるよ。王族がまだ処刑されてないなら保護してもらう」


 偽装工作のために表面を普通の鎧のように銀色に変えた二体を出して、僕はみーちゃんに乗って西のフェンリルの丘へ向かった。



◇◆◇◆



「姫、頑張ってください! フェンリルの丘に入れば反乱軍は攻撃出来ない筈です」

「大丈夫です。我々が必ずお護りします!」


 私達はもう半日逃げ続けています。馬は矢を受け走れなくなり、今は護衛のリサとミサに護られながら山道を駆けてます。

 二人は私を護る為に酷い怪我を負いました。それでも私の手を引き、背後の矢から私を護り、駆け続けています。

 このままではいずれ追い付かれてしまうでしょう。私は決めました。


「リサ、ミサ、私は反乱軍に投降します。二人は武器を捨て、治療を受けて下さい」

「姫! 我々が武器を捨てるなんて有り得ません。それに投降しても意味ありません。処刑かもっと酷い目に……」

「そうです姫。諦めてはいけません」


「二人はもう限界です。せめて止血しましょう」

「そんな時間は……」


 しかし、無情にも反乱軍の指揮官の一人、ゴラマスが率いる追跡部隊に追い付かれてしまう。


「手間かけさせないでくださいよ。戻る場所も無いのに逃げたって意味ないでしょ」

「黙れゴラマス! この痴れ者が!」


 リサは獣のような速さでゴラマスに斬りかかり、鋭い突きを喉に放つが、左右から部下の妨害に合い、与えた傷は浅かった。

 それどころか、手痛い反撃を受けたリサは右腕を斬り飛ばされ、下半身には何本もの矢が撃ち込まれた。


「ぐはっ……ふざけんな! そのクソ女を殺さず生かして捕らえろ。生き地獄を味あわせてやる。畜生、首痛てぇ」


 ゴラマスは怒りが収まらずにリサを蹴る。残った左腕も何度も踏みつけて骨を砕く。


「やめてください! リサを殺すなら私は今ここで自害します」

「姫、リサの覚悟を無駄にしてはいけません。逃げるのです」


 ミサは私の手を取り走る。走る体力なんて既に無いはずなのに、ミサは走る。最後の命を燃やし尽くすかのように。

 追跡部隊はリサを引きずりながら余裕の態度で追いかけて来る。逃げられないとわかっているのでしょう。

 そしてミサの動きが止まり、血を吐いて倒れてしまう。ミサの目は焦点が合っておらず、あと僅かな命なのは私が見ても解りました。


「リサとミサが繋いでくれたこの生命を投げ出すつもりはありません」


 私は走った。逃げる事に意味は無いのかも知れませんが、二人の気持ちに報いるには走るしかないのです。


「いっ……!」

 気がつけば私の左足を矢が貫き、山道へ倒れ込み、ゴラマスの足元まで転がり落ちました。


「ほらね。意味無いって言ったでしょ。このクソビッチが!」


 ゴラマスは私を剣の鞘で何度も殴りつけ、髪の毛を掴むと顔を数回拳で殴りつける。目に火花が散って熱い痛みと絶望感で気が遠くなる。

 どうしてこんな事になってしまったのでしょう……。これも神のご意思なのでしょうか。



 スダーーーン! ズザァァァァ……



 諦めが私を支配した時、大きな影がが目の前に飛び込んで来ました。とても大きなフェンリルです。

 不思議な事に人が乗ってます。あれはハイエルフでしょうか。


「ここはもうフェンリルの丘だから争いは許さないよ」


「なんだ貴様は! 邪魔をする……ゲバァァァ」

 指揮官ぽい人が何か言い終わる前にみーちゃんの足払いでぶっ飛んだ。


『フェンリルの土地から去れ。10秒だけ待ってやる』

 僕が降りると、みーちゃんは本来のフェンリル王の大きさに戻り、兵士たちを睨みつけた。

「ひぇぇ……フェンリル王がなんでこんな所にぃ」「いやだぁぁ死にたくない」「……」「あ、あ、あぁぁぁ」


 逃げる者、その場で失神する者、発狂する者と様々だ。みーちゃんは失神した兵士も容赦なく足払いで縄張り外へぶっ飛ばしていく。

 弾かれた兵士が木にぶつかって爆散している。その異常な光景に兵士たちをさらなる恐怖が襲う。

 

 僕は追われてたと思われる女性三人の治療を始める。二人は心停止状態だ。もう一人はボロボロだけど意識はあってこっちを見ている。


「みーちゃん! 心停止の状態で聖女の癒やしや、特製ポーションは効くかな?」

『死んでる状態だから効果無いニャ』


 それならと、心停止してる二人を引っ張ってきて並べ、鎧を剥ぎ取り心臓マッサージと人工呼吸を交互に続けた。ボロボロの女の人も来て人工呼吸を手伝い始める。

 動画でしかやり方見たことないから、これが正しいのか解らないけど、やるしかない。やがて一人が息を吹き返す。すかさず、お口に特製ポーションをズボッ!


 ボロボロの女の人が人工呼吸してるもう一人はまだ息を吹き返さない。僕が心臓マッサージを担当する。

 そして手の平に鼓動を感じた。下半身にたくさん刺さってる矢を収納後、即お口に特製ポーションをズボッ!


 ボロボロの女の人は、暗闇から猫の目の演出を見て唖然としている。でも、見終わると力尽きて倒れてしまった。

 太ももには矢が刺さって出血が酷いし、鼻の骨は折れてる。この人も限界そうだね。矢を収納してから顎を持ち上げ、お口に特製ポーションを差し込んだ。



◆◇◆◇



 気が付くと私はベッドに寝かされていました。リサとミサはまだ寝ています。リサは失ったはずの右手があります。手を握ると温かい。二人は生きてます。

 私はこぼれ落ちる涙が止まらず立ち尽くしてしまいました。二人の手を握っていると同時に目を覚ましました。

「姫! ご無事ですか」「ここは!? 姫どうされました!」

「私は大丈夫です。リサもミサも無事で嬉しいです」


 私達は大きなガラス張りの窓から外を眺めました。神秘的に美しい湖が広がり、フェンリルたちが楽しそうに走ってます。

 ここは天国なのでしょうか……。


「お召し物をお持ちしました」

 振り返ると二人のメイドが服を持って歩いてきます。リサとミサは素早く私の前に立ち塞がりますが、私はそれを制しました。


「あなた方が私達を救ってくださったのですか?」

「いえ、私共は旦那様の言いつけで、お嬢様方のお召し物をお持ちしただけです。準備が整いましたら旦那様の元をへとご案内します」


 私達は着替えを済ませ、メイドの後に付いて行き、リビングに通されました。そこにはあの時に見たハイエルフの少女が膝に三毛猫を抱いて座ってました。


「みんな元気になって良かったです。まずは座って下さい」

「はい。失礼します」


 私達がソファーに座るのを確認して、メイドにお茶を出すように指示するハイエルフの少女。とても美しいです。まるで天使のよう。


「自己紹介しますね。僕はエリオと言います。あなた方はグレリベのクーデターから逃げてきた貴族関係の方とお見受けしますが、合ってますか?」

「……はい。私は第一王女ナターシャ・ラセリアス・リ・カルアミです。私達を救って頂き感謝します」


 ナターシャさんたちは深々と頭を下げたけど、護衛と思わしき二人は油断なく僕の目を射抜いている。ぶっちゃけ怖い。


「お姫様でしたか。不作法があるかもしれませんが、話を続けますね。まず僕とフェンリルは、カルアミの内戦に介入するのが目的で三人を助けた訳ではないのを先に伝えておきます」

「それでは、気まぐれで救ってくださったと?」


「カルアミが乱れると、お肉や乳製品の仕入れが出来なくて困るからが、一番の理由ですね」

「そのような理由で……」


 ナターシャさんは目を閉じで考え込んでしまった。別の理由で助けられたと思ったのかもしれない。


「お茶でも飲んでリラックスして下さい。ここはフェンリルの丘。何者も入る事はできません」

「はい。お気遣い感謝します」


 ナターシャさんが飲む前に護衛の人が飲んで確認してる。毒なんて入ってないのになぁ。王族は大変だ。

 少しだけ落ち着いたナターシャさんに話を続ける。


「ナターシャさん以外の王族の方は逃げることが出来たのですか?」

「わかりません。逃げ延びていると良いのですが」


「僕としては早く内乱を鎮め、これを好機とラ・ガーンが侵略してくるのを防いで欲しいのです。あそこに侵略されると国がメチャクチャになるらしいので」

「はい。仰るとおりです」


「ですが、僕もフェンリルも人同士の争いに介入出来ません。兵士たちを撃退したのはフェンリルの聖域を荒らしたからに過ぎません」

「気になっていたのですが……エリオ様はフェンリル王とどの様なご関係なのですか?」


「大切な家族ですね」

「闇の雫をいくつも使い、フェンリル王と家族。エリオ様はヨリュア様の使徒様なのですね」

「姫、闇の雫とは?」「フェンリル王と何かあったのですか? 何があったか詳しくお聞かせ下さい」


 ナターシャさんは何があったかを詳しく二人に聞かせた。

 二人は土下座状態になり、感謝と疑う様な態度を取った謝罪を伝えてきたけど話進まないのでソファーに座ってもらう。


「僕は使徒ではないです。それと、感謝や謝罪の言葉はもう結構ですので、みなさん落ち着いて下さい」

「リサとミサが取り乱して申し訳ありませんでした」


「色々不安かと思いますが、国内が落ち着くまでここに居て構いませんので、ご安心下さい」



 話は一応終わったので、三人をメイドさんたちに任せてその場を離れた。やんごとなき方と、どんな会話していいのかわからないのだ。

 ちなみにメイドさんたちは屋敷から転移で連れてきた。突然の事に負担かけちゃうけど、僕が付きっきりで世話も出来ないしね。

 助けた以上は放置はできない。国内が安定したら帰ってもらおう。


 ところで、お城の方はどうなったんだろう。どらちゃん、どらさんが帰って来ない所を見ると、誰か王族を発見したのかな?



◇◆◇◆



 一方お城では。


「この人がマスターが言ってた王族かな?」

「そーだと思うわ。高級そうな服着てるし」


「なんだ貴様達は! 反乱軍の者か!」

「違うよ。王族が居たら保護するように言われて来たの」


「誰にそんな事を言われたのだ? 宰相か?」

「マスターだよ」


「マスターとは誰なのだ!」

「マスターはマスターだよ。面倒くさいから担いで連れて行っちゃう?」

「そうしようよ。この人うるさいし」


 俺は今困惑している……。見たことの無い二人の女兵士に付き纏われて逃げる事が出来ない。

 だが、この二人は恐ろしく強い。反乱軍の兵士を物ともしない。既に50人以上を倒した。しかも手加減をして反乱軍の兵士を殺さず無力化している。

 

 この二人が最初から味方だったら、父上と母上は……ナターシャは逃げ切れたのだろうか。


「ねー他に王族は居る?」

「何故そのような事を聞く」


「こいつ頭悪いのかな? 王族を保護する為だってさっきから言ってるのに」

「きっと馬鹿なのでしょう。マスターはこんなの保護してどうする気なのかしら」


 二人は俺を貶しながらも向かってくる反乱軍を倒しては放り投げる。敵を見てすらいない。俺が逃げないように見張っている。

 この二人に任せれば逃げ切れるのかもしれないが……得体が知れなさ過ぎる。


「それでどうなの? 王族は他にも居るの?」

「居ない。父と母は既に討たれた。妹は脱出したはず。後は俺だけだ」


「それじゃ、担いでいくから暴れないでね」

「俺が何したって貴様達には逆らえん。好きにしろ」


 だが、その時城の外が急に騒がしくなり、反乱軍が逃げ始めた。今度は一体何が起きたと言うのだ。

「あれ、みーちゃん様だね」

「あー本当だ」


 壊れた城壁から西の山を見ると、巨大な狼が反乱軍と思わしき者たちを蹴散らしている。あれはフェンリル王か……。

 反乱軍はなんて者の逆鱗に触れてしまったのだ。カルアミはもう終わりだ。俺は目眩に襲われ倒れそうになるが二人に腕を掴まれてるので、それも叶わない。


「もう好きにしてくれ……」

 俺は完全に心が折れてしまった。涙が自然と流れ落ち、歩く気力さえ、もう無い。


「それじゃ、連れて行くね」

 片方の女兵士が俺を軽々と担ぐと壊れた城壁から飛び降りた。俺は落ちていく浮遊感と恐怖で気を失いそうになる。

 だが、女兵士は俺を担いだまま上手く衝撃を殺して着地した後に走り出した。速いなんてものじゃない。まるで矢にでも乗ったみたいだ。

 俺はただ身を任せるしかなかった。



◆◇◆◇



『ゴーレムが走ってくるニャ』

「そうなの?」


 二階の窓から森を見てみると、確かに何かが物凄いスピードで接近してる。どらちゃんたち超足速いな。

 すぐに家に到着して担いでた男の人を玄関の前の芝生に放り投げた。乱暴だなぁ。後で注意しとこう。

 急いで下に行って、玄関前に倒れていたガタイの良い男性に声をかけた。


「うちのゴーレムが乱暴にしてすみません。王族の方ですか?」

「ああ……そうだ」


「では、中へどうぞ」

 完全に憔悴している王族の人に肩を貸してナターシャさんの居るリビングに連れて行った。


「ナターシャ! 無事だったか!」

「兄様もよくぞご無事で!」


 二人は兄妹だったのか。少なくとも王の子孫が生き残れば国はなんとかなるだろう。

 僕は少しだけ胸を撫で下ろした。


 暫く兄妹二人で話でもしてもらおう。僕はその場を離れて食材を出してメイドさんにお昼の用意をお願いした。


「それでは兄様もエリオ様に助けていただいたのですね」

「そういう事になるな。まさかあの二人がゴーレムとは思わなかったが」


「随分と乱暴にしてしまったらしく申し訳ありません」

「いや、二人が来てくれなかったら俺はとっくに死んでいた。感謝している」



 僕たちはメイドさんの作った美味しいお昼ごはんを食べて、お腹も落ち着いた所でまた話し合いをした。

 だけど結局暫く様子見するしかないという結論に行き着く。


 僕とみーちゃんは二階のソファーに座り、どうしたら良いか考える。


「城の様子とかを調べるスキルとかあればいいんだけどなぁ」

『精霊魔法で精霊達に見張らせればいいニャ』


「精霊魔法ってバルデュアスさんにお願いするだけじゃなくて他の精霊にもお願いできるの?」

『当然ニャ。そもそも店の護衛に精霊王を使うなんて前代未聞ニャ』


「どうすればいいの? 精霊を呼べばいいのかな」

『呼びましたー?』

 僕の目の前に綺麗な水色の髪の美人のお姉さんが現れた。いかにも水の精霊って感じがする。


「もしかして水の精霊さん?」

『そうですよ。呼んでる気がしたから来ちゃった』

 水の精霊さん可愛いな。あざと可愛い。抱きしめたい。


『はい。いいですよ。ぎゅっと抱きしめて下さい』

 水の精霊さんは僕の胸に飛び込んでくる。柔らかい。いい香り、アレが反応しちゃったよ。ていうか心が読まれている?


『わたしも同じ気持ちです』

 水の精霊さんがそう告げると、身に纏っていた布が消え、僕と混じる様に重なる。なんだこれ……。

 半分水、半分肉体という意味不明な混じわりと交わりで襲われ、あっと言う間に混合液となった。


『人と番になれるなんて嬉しい。これからも可愛がって下さいね』

 水の精霊さんはうっとりした顔で僕の唇を舌で弄び抱きついてる。これ、どうしたらいいんだ。


「みーちゃん精霊と番になるって確かヤバいとか言ってなかったっけ?」

『それはバルデュアスに限っての話ニャ。それ以外は関係ないニャ。もっと精霊の番を作って手駒を増やすと便利ニャ』


「もしかしてこれが精霊との契約方法なの!?」

『普通に言葉で契約も出来るはずニャ。コウイチはヨルの加護のせいで深く求められてしまうニャ。でも、より強い精霊魔法使えるから気にするニャ』


「やっぱりヨルさんのせいなんだ……」

『ヨルに文句言っても無駄ニャ。加護はコウイチと結びついてる。外せば存在を消す事と同義ニャ』


 僕は抱きついてくる水の精霊さんを引き剥がし、お城の監視をお願いした。

『わかったわ。何かあればすぐに知らせに行く。それと、わたしの名前を考えておいてね』

 水の精霊さんは僕にキスをすると霧となって消えた。


 名前か……。名付けって苦手なんだよね。定番のウンディーネみたいなのはどうなんだろう?

 なんとなくダメな気がする。青いからアオイとかじゃ怒られるかな? ダメなら他の考えればいいか。

 海の家にも行かないとだし、そろそろ移動しよう。


 湖の別荘に食材や生活物資を出して、メイドさん二人に王族の事をお願いして、護衛はどらちゃん、どらさんに引き続きお願いした。

 メイドさんたちには後でボーナス出さないとだね。



◇◆◇◆



 海の家に着くと、食材の納品を済ませ、特に問題なさそうなので去ろうとしたら田中さんに捕まり店裏の家でたっぷりと搾り取られた。

 最近相手にしてなかったので拗ねられてしまった。聞けば最近は片山君ともあまりしてないらしい。

 やはり倦怠期的なもののせいなのだろうか。それに対し、僕は例の呪いのせいで、いつまでも新鮮真空パックだから味が劣化しないのだ。

 しかし、こんな関係いつまでも続けられないよね。


 田中さんは仕事に戻っていき、ベッドで休んでいると今度はカナ(ママ)が訪ねてきた。

 カナは僕を膝に乗せてよしよしと頭を撫でる。僕は胸で甘える。

「あゆちゃんに話しちゃってごめんね」

「いいよ。気にしないで」

 今日もたくさん甘やかされ、カナは戻っていった。


 次はエリオ商店に行かないと。聖女のゆらめきで物件の二階へ転移する。

 窓から下を見ると人が大勢居る。どうしたんだろう? 下に降りていくと、お客さんが大行列になってた。


 見ればバルデュアスさんが店員さんをして、商品を手渡ししたりしてる。

 大平君は行列の整理をやらされているみたい。ちゃんと仕事してるんだね、意外だ。


「先生、お客さん凄い数ですね」

「何言ってんだ、矢吹のせいだろうが」

 先生はお疲れのご様子だ。もしかしなくてもバルデュアスさんのせいだよね。なんとかしないと。


「バルデュアスさん、どうして店員さんなんかやってるんですか?」

『エリオさんこんにちは。暇なので働いてます』


「行列が出来ちゃって、商品も足らなくなるみたいなので、大変有り難いのですが、程々でお願いします」

『わかりました。あら、水の精霊と契約したのね。可愛がってあげてね』

「は、はい」


 赤坂さんとレジを代わり、バルデュアスさんはカウンターから離れて宙を漂い出した。

 一応お店を見守ってくれてるみたい。でも、一見シュールな光景だ。


「それと矢吹、募集もしてないのに、二階と三階のテナント申し込み件数凄いぞ。申し込み書類等は七星が全部持って行ったから詳しい事は聞いてくれ」

「わかりました。ご迷惑おかけして申し訳ないです」

「別に構わんよ。仕事は少ないより多い方が精神的落ち着くんだ」


 先生の社畜論みたいなのに救われたけど、店員を増やすのも視野に入れないとだね。

 待てよ、ゴーレムを店員にすればいいんじゃないだろうか。今のままだと接客態度に問題あるけど、核を改良していけば何とかなりそうな気がする。

 

 戦う能力は排除して、接客特化のゴーレムをアイアンゴーレムの核に入力していく。丁寧、親切をモットーに。

 ボディは細身で以前楽器を弾く用に作ったゴーレムと同じでいいや。核をボディに格納し、サリーの様な布を巻く。


 そして完成したゴーレムを出す。背は低く、細身なので威圧感は全然ない。

「君の名前はてんちゃんだ」

「あいよー、まいどあり」

 なんだその返事。声は可愛いのに八百屋や魚屋のおじさんみたいになってる。


「先生、即興で作った店員用ゴーレムのてんちゃんです。多分役に立つと思うので使って下さい」

「また変なの作ったのか。あっちの護衛のゴーレムみたいなのだと接客には向いてないぞ」


「だ、大丈夫です。接客特化に設定したので」

「それならいいが……」


「はいはい、安いよぉ~。そこの旦那いい薬あるんですよ。そうそう、そっちがもう……ええバッチリですわ」

 てんちゃんは一応店員している。限りなく怪しい店員だが。でも、お客さんが何を求めてるのか的確に狙って商品を勧めている。

 女の人が避妊薬を買いにくそうと見極めると、こっそり紙袋に入れて渡している。

 気が利くじゃないか。この分なら大丈夫そうだね。



 後は一応、日和さんの様子を見てくるか。精神的なものだからどうなったのか気になる。

 お店の前に立って中の様子を見る。今日は店長さんがホールに出てるみたいだ。あまり会いたくないな。

 二階に行くには中を通らないとだし、覚悟を決めて入るか。


「こんにちはー。日和さんは上に居ますか?」


「あら、いらっしゃい!」

 ぶちゅーーーーーっと即唇を奪われる。

 そしてお客さんが興奮して盛り上がる。この店はこういうのを見たくて来てるお客さんが多いのかもしれない。


「はぁ……。ごちそうさまぁ、こずえちゃんなら上よ。行って慰めてあげて」

「何かあったのですか?」

「行けばわかるわー」

 店長さんは可愛いウインクを決めて厨房に入って行った。


 ちょっと不安になりながら二階へ上がり、ベッドを見ると日和さんが寝ているみたいだ。

「日和さん起きてますか?」

「あ、矢吹君!」

 日和さんは布団を勢いよく跳ね上げて、僕に突進したきた。猪かよ。

「お願い! あのお薬頂戴! 胸が苦しいの!」

 どんだけ泣いたのか目が赤く腫れ上がってる。これは参ったね。


「みーちゃん、短期間に何個も飲ませて平気なのかな?」

『問題は無いニャ。でも肉体年齢はどんどん下がって行ってしまうニャ』


 みーちゃんの説明によると、一年以内にもう一度飲むと去年の身体になるらしい。更に飲むと一昨年のと。

 飲みまくってる僕は相当年齢が下がったかと思ったら、リッチの時のアリスに直接触れたせいで寿命が200年は縮んだらしい。

 ハイエルフとしては誤差にもならないけど。


「という訳ですが、それでも薬飲みますか?」

「飲みます。二本下さい」


「二本? それは何故?」

「身体が高校生の頃に戻れるなら……嫌な記憶も消えるかもです」


「肉体は戻っても記憶は消えないですよ?」

「身体が戻れるならいいんです! お願いします!」


 あまりの迫力に僕は二本渡してしまった。でも飲まない。怖気づいたのかな?


「矢吹君。また顎クイして飲ませて下さい」

 やれやれと僕は特製ポーションを受け取り、日和さんの膝に乗り、顎クイした。唇を突き出し目を瞑る彼女。その唇にそっと差し込む。


 恒例のエフェクトが終わり、日和さんが目を開ける。


「うにゅゅん! 矢吹ちゃんきゃわいいいいいーーーーちゅー」

 対面座位みたいな格好になってるのでそのまま抱きしめられて唇を奪われる。いかん、副作用の事忘れてた。

 しばらく僕の唇をペロペロしてた日和さんだけど、賢者タイムが来て落ち着いてきた。


「すみません。こういう副作用あるのを言うの忘れてました。飲めば飲むほどハイテンションになってしまうんです」

「……ごめん。嫌だったよね?」

「嫌ではないですよ。元々ファンですから。それでどうします、続けますか?」

「それなら良かった。はい。続けて下さい」

 そして日和さんはまた目を瞑った。僕は顎クイして小さな唇に特製ポーションを差し込む。


 そして例の演出が終わる。


「あぁぁぁぁぁぁぁ! もう我慢できにゃーーーーーーーーーい!」

 日和さんは服を全部脱ぐと襲いかかってきた。もちろん性的に、だがこんな状態の日和さんとするつもりはない。

 高レベルの身体能力を活かし、躱し続ける。薬のおかけで日和さんも身体能力上がっているが、それでも僕の方が上だ。


 しかし、動く度に揺れる日和さんのプルンプルンを見て僕が冷静でいられるわけもなく、ガッチリと捕まる。

 だが僕もガッチリと日和さんを抱き留める。クリンチ状態ではお互いキスぐらいしかできないのだ。


 しばし、お互いの唇を貪っていると日和さんは賢者モードになってきた。

 唇を離し唾液が糸を引く。冷静になっても特に身体を隠す事もなく横に向いて胸を突き出して見せてきた。


「私の胸どう思う?」

「は、はい? き、綺麗だと思いますよ」


「そうじゃなくて大きさ」

 そう言われてみれば何か違和感が? 水着姿のグラビアで見た胸と違うな。


「もしかして豊胸だったとか?」

「そう。売れるためには必要だって」


「それはそれで間違った選択ではなかったのでは? 整形だって今は普通ですし」

「でもね、私はずっと悩んでたの。声でも演技でもなく、作った胸のおかげで売れたなんて嫌だもん」

 僕は、泣き出した日和さんをベッドに運び、掛ふとんを被せる。


「人の悩みはそれぞれですから、これで良かったのかもですね」

「矢吹君はこの胸でもまだファンで居てくれる?」

「ええ。胸は関係ないですよ」

「良かった……」


 日和さんはそのまま寝てしまった。残念なような安心したような。


 僕は下へ降りていき、里中先生からマグロの絵を受け取る。

「なんか上でバタバタしてたけど何してたの? 下はお店だから暴れないでね」

「はい。すみません」


「あれぇーこずえちゃんとお楽しみしてたのかなぁ?」

 店長さんが肘で突いてくる。ほんとうざいなこの人。


 帰り際にまた店長さんがチューしようとしてきたので、即逃げた。油断も隙もない。



◆◇◆◇



 先生が描いたマグロの絵は精密だ。もう写真だよこれ。


 僕はドルフィノの人気のない海岸へ転移して、あまさんを出した。

「今日の獲物はこれね」

「わかったよ。そのお魚ね」


「大きさはこのくらいだから」

 砂に等身大ほどの絵を描いてあまさんに見せる。


「はいはーい。いってくるね」

 あまさんは相変わらず凄いスピードで潜って行った。


 ……。


 ……。


 ニ時間程経ったが戻って来ないな。そろそろ帰宅時間だ。どうしよ。

 マグロが見つからないのか、あまさんは戻って来ない。そもそもこの世界にマグロが居る保証もない。


 仕方ない、一度帰るか。


 と、思った時、海から何かがこっちに来てる。あまさん……なのか?

 全体像が見えてくるにつれ僕は恐怖した。


 な、なんだあれは。

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