40 決戦
不安な顔のみんなに見送られ、僕は帝国の竜車に乗り込む。笑顔で手を振ったけど、泣かれるだけだった。
メイドさんにまで泣かれてしまった。胸が痛い。これは何としてでも早く帰らないとだね。
竜車に乗り込むと隷属の首輪と手枷を付けられた。でも、こんな物に意味が無いのを解ってもらうために即外してみせた。
「貴様! 逆らうなら容赦せんぞ!」
兵士がムチを振って来たけど、エリカが何かして兵士は竜車の外までぶっ飛ばされて動かなくなる。
「勘違いしないで欲しいのですが、僕はあくまであなた達に付き合って一緒に行くだけです。如何なる拘束も意味ありません」
「そんな反抗的な態度を取っていられるのも帝国に着くまでだ。精々粋がっておれ」
それ以降、兵士からは何もされなくなった。僕は色々忙しいからそうしてくれて有り難いよ。
移動中、新しいゴーレムを造る。地竜の魔石を核に変え、竜の荒々しい姿をモチーフにした全身鎧ミスリルボディに組み込む。
良い出来なので、もう一体同じゴーレムを造り、オリハルコンのインゴット一本ずつ使いコーティングも済ませた。
名前はどうしようかな。『どらちゃん』と『どらさん』にしよう。
二時間程走って竜車は止まった。場所的にどの辺なんだろ?
多分ドルフィノへアリーナさんの竜車で向かった時に通った道だと思う。その脇の平原に多くの兵士とワイバーン二匹が居た。
「へぇ、あれがワイバーンなんだ。結構格好いいね」
「随分と余裕だな。空でもそうしていられるといいな。フフ」
兵士に連れられ、仮設兵舎に行くと、トイレを済ませるように言われる。長時間の空の旅だしね。一応しておくか。
テイマーさんと兵士の準備が終わり、僕はワイバーンに乗り込む。ワイバーンの胴体に付けられてるハーネスと自分のベルトに接続するみたいだ。
僕は身体が小さいので合うベルトが無くて、それならと自分で作った。兵士は嫌な顔してたけどね。
そしてワイバーンが動き出す。しばらく助走をつけて飛び立つ。おぉぉー。これは楽しいかも。是非モリモリもテイムして欲しい。
ワイバーンには一応風避けが付けられていて強風は来ない。でも雲の上を抜けると、どんどん寒くなってきた。
「寒くて音を上げても降ろしてやれんぞ。俺の特殊コートの中に入れてやる事はできるがどうする? 楽しませてもらうがな」
「変態ですか、僕は男ですよ?」
「お前ぐらい可愛ければどっちでも構わん。フヒヒ」
キモかったので無視することにしよう。でも確かに寒いので厚手のコートでも作ろうかと思ったら……何故かポカポカになってきた。
もしかしてエリカが何かしてくれたのかな? 小さい声で「ありがとう」と言うと「礼には及ばない」と声が聞こえた。
頼りになるな。最初はどうなるかと思ったけど、エリカに出会えて良かったよ。
こいつらのせいで夕ご飯を食べ損ねたのでアイテムボックスからさっき食べたカニを出して食べる。美味い!
渚が作ってくれたおにぎりも食べる。具は肉を甘辛く煮たものだ。美味い! こっちはシーチキンぽいものだ。これも美味い!
「貴様! 勝手に食事をするな!」
「そのムチで僕を叩けば先程の兵士みたいに飛ばされる事になりますよ。空の上なら楽しいでしょうね」
「チッ……」
「お互い不干渉で行きましょう。そうすればあなた方は仕事を全う出来て上司から怒られる事もないですし」
「あまりいい気にならん方がいいぞ。どうせ後で泣きを見る事になる」
「はいはい」
適当な返事をしてアイテムボックス内作業に戻る。もっと色々造るとするか。アサルトライフルのバレルをオリハルコンでコーティングして強度アップ。
オリハルコンジャケット弾も60発作っておこう。大口径の対物ライフルも造るか。色々作ってるうちに眠くなってきたのでコートを作って包まった。
コートの中はあったかい。程なくして僕は眠りに落ちた。
……。
……。
ユサユサ
「もしかして今日もするの?」
「勿論。貴方の精は妾にとって食事に等しい」
僕は唇を奪われ、身を任せる。
今日はこちらも攻める。空中給油機になりきるのだ。
リアルでは大量に燃料をこぼすらしいが、
僕たちの燃料給油は完璧だ。一滴もこぼさない。
煌めく星空の下、今日はいつもより永遠を感じた夜だった。
◆◇◆◇
「ふぁぁぁ……よく寝た」
コートの中に何か居るので見てみたらくーちゃんが居た。おしりとかはみ出てるし。
僕はくーちゃんを撫でながら、空を見る。目が痛いぐらい明るい。サングラス作ろう。
そうこうしてるうちに、ワイバーンは着地体勢に入った。着地時は飛行機と違って結構衝撃あって少し怖かった。
「昼まで休ませたら、ワイバーンを乗り換えて飛び立つ。それまでは我々の目の届く所に居ろ」
「はいはーい」
僕は適当な返事をして旅用の小さな家を出して中に入る。さて、お昼までベッドでくーちゃんと寝転びますか。
エリカも出てきてセルフ給油に入るのだった。ハイオク満タンまで頑張りますよ。
三人で寝ていると、ドアをバンバン叩く音で起こされた。そろそろ飛ぶ時間らしい。重い腰を上げてワイバーンに乗り込む。
最初は楽しかったけど、空の旅は飽きてきたな。暇を持て余す僕はアイテムボックス内で色々な物を造り続けた。
暫く飛び、空が赤くなってきた頃、遠くから何かが接近してくるのか見えた。
「あれってなんですか?」
僕は北の空を指差して兵に問う。
「あれだと? 何のことを言って……! 飛竜だ! 回避体勢に入れ!」
兵士はテイマーさんに指示を出すと姿勢を低くしてワイバーンにしがみついた。ワイバーンは急旋回して横に凄いGがかかる。
怖いけどちょっと楽しい。命綱一本のジェットコースターだね。
次の瞬間、ワイバーンのすぐ近くを飛竜がすり抜けていった。凄いスピードだ。まるでジェット機。
「今の状況ってもしかして危険だったりします?」
「当たり前だろ! 貴様も伏せて衝撃に備えていろ」
伏せる? せっかくだから新兵器を飛竜で試させてもらおうじゃないか。僕はアイテムボックスから対物ライフルを出す。
弾はミスリルジャケット弾でいいな。どれぐらい反動が来るか予想できないけど、当たれば竜とはいえ、ただでは済まないだろう。
「妾が飛竜を落とす。貴方は伏せていて欲しい」
耳元で小さな声が聞こえる。焦ってもないし、エリカにとって飛竜は大した事のない相手なのかもしれないが……。
「いや、僕がやるよ。任せて」
「……承知した」
ワイバーンの背にバイポッドを立たせ、伏せながら対物ライフルを構える。旋回して戻ってくる顔面に当てる。今がチャンスだ。
発射!! 物凄い反動で肩がぶっ壊れるかと思ったが、ワイバーンが急降下したせいで弾は外れてしまった。
「もう! 少しじっとしててよ!」
僕はイライラしてテイマーさんに怒鳴りつけた。
「ふ、ふざけんな! 安全と聞いて協力してやってるのに、飛竜退治なんて付き合ってられるか!」
「向こうの方が速いんだ。逃げ切れないよ。だから普通に飛んで。僕が必ず落とす」
「くそっ……もう絶対軍の依頼なんて受けねぇ」
テイマーさんは覚悟を決めたみたいだ。
再び飛竜は旋回して戻ってくる。口を開け、中が光ってる。ブレスを放つ気らしい。それなら丁度良い。お口の中に撃ち込ませてもらう。
ブレスはすぐに撃てない。数秒のタメが必要。その間に狙いをつけ、発射!!
しかし、こっちの攻撃に気付いたのか急旋回して銃弾を躱す。一度見た攻撃は通じないのかしれない。思ったより知能が高いな。
口の中直撃は避けたが、右脇腹に掠ったらしく鱗が結構吹き飛ばされてる。これなら口の中じゃなくても倒せるかも?
「貴方様。妾が飛竜の気を引く。その隙に攻撃を当ててくれ」
「わかった。でも危険な事しないでね?」
「問題ない」
すると蝙蝠の様な飛行物体がたくさん現れ、飛竜の尻尾の周りを飛びまわる
飛竜はお尻をチクチク攻撃されて鬱陶しそうだ。これはチャンスだな。
お尻の蝙蝠にブレスを吐こうとして振り返った飛竜の口の中に、大口径ミスリルジャケット弾を撃ち込んだ。
弾は口の中を蹂躙して首を貫通し、飛竜は落下していった。地面に落ちた飛竜は凄い音をさせて地面に叩きつけられる。
首が変な方向に曲がってるし、即死みたいだね。見失わないうちに収納。
「おい、その子供が飛竜を倒したって言うのかよ……」
テイマーさんは怖いものを見る様な目で僕を見ている。兵士の人も冷や汗をかきなから僕から距離を取った。
「ちょっと疲れたので寝ますね」
僕は大量の経験値に襲われ、気絶するように眠った。
……。
……。
ユサユサ
エリカに起こされると、目に飛び込んでくるのは綺麗な星々だった。
「夜まで寝ちゃってたんだ、あれから何かあった?」
「何もない。始める」
僕はひたすら給油作業に従事した。やりがいのある仕事で、空を飛んでる事なんて忘れちゃうね。
終わると二人で抱き合って、もう一度寝る事にした。
その前にステータスチェックしておくか。
■■エリオ■■
レベル5843
種族ハイエルフ
年齢89歳
・アイテムボックス+9
・錬金術+1
・聖女+1
■■■■■■■■
レベルはかなり上がったね。飛竜は相当強い魔物だったみたい。
それでもエリカに比べたらレベル的にはまだまだ雑魚だね。
■■機能■■
容量=∞
時間停止
ボックス内鑑定
ボックス内パーティション作成
ボックス内分離≒結合
ボックス内熟成
ボックス内温度管理
ボックス内複製+
範囲収納+
ボックス内クラフト+
範囲クラフト+
範囲鑑定+
ボックス内錬金+
ボックス内転移+
生物収納
上位権限
■■■■■■
アイテムボックスのスキルは、+が増えたね。生物収納と上位権限というのも追加されてる。
生物収納は、その名の通り、生物を収納できるみたいだ。ただし、ある一定以上の知能を持つものは無理らしい。
上位権限は、自分のレベル以下のアイテムボックスの中身を好きに強奪したり追加したりできるというスキルだ。
これは使わない方がいいだろうな。
■■■■■■
ゴーレム核作成+
ゴーレム作成+
ホムンクルス作成+
精製+
創造錬金+
上位権限
■■■■■■
錬金術も+がたくさん付いたな。更に凄いゴーレムが作れそうだ。
そしてこっちにも上位権限というスキルがある。自分のレベル以下の生物の身体に触れていれば好き勝手に弄る事ができるらしい。
なん非人道的なスキルだろう。封印しとこ。
スキルを使っての作業は明日にしよう。ではおやすみなさい。
◇◆◇◆
翌朝、ワイバーンは着陸して休憩に入った。僕はまた家を出してくーちゃんとエリカを撫でながらゴーレムの改造作業に入った。
今までより更に詳細の核設定できるので、どらちゃんと、どらさんはとんでもない性能になった筈だ。
そして飛竜の核をゴーレム化させ、贅沢にインゴット12個使い、総オリハルコンで金色に輝くボディを作り上げた。
ちょっとしたギミックも付けて、今までで最高のゴーレムが出来た。これを倒せる生物なんて居ないんじゃないだろうか。
武器も総オリハルコン製だ。片手剣の二刀流にしてみた。盾など要らない。素材が頑強過ぎて実質防御なんて要らないしね。
名前は『どらちゃま』そろそろ名前のネタが尽きてきた。
それからもう一つ保険の為にゴーレムを造る。これを使わないに越したことはない。運用試験出来ないしね。
しかし、これでもうオリハルコンのインゴットは無くなってしまった。なんとかして追加で手に入れたいな。
お昼が過ぎ、またドアをバンバン叩かれる。やかましい連中だ。僕はまたワイバーンに乗り込み、空に旅に出る。
今夜中に帝国に着くらしい。ちょっとドキドキしてきた。
やがて帝都が見えてきた。大きな樹を中心に街はとても栄えている。上から見る街の光はとても綺麗で東京を空から見てるみたいだ。
ワイバーンは光で誘導されて、飛行場のような広い場所に着陸する。お疲れさんでした。
僕は再び手枷と隷属の首輪を付けられ竜車で運ばれる。向かってるのはお城ぽい。
お城で取り調べか拷問でもするつもりなのだろうか。身に危険が迫るまでは大人しくしておこう。
暫く走り、お城に着くと騎士団に捕らえられ、中に引きずり込まれた。
「貴様もこれで終わりだ。地獄を見てくるんだな」
去り際に例の兵士がいやらしい笑みを浮かべて捨て台詞を吐いてたけど無視したよ。
騎士団に両腕を掴まれて、持ち上げられるように連れてこられたのは謁見の場のようだ。
こんな時間王様に会うの? ちょっと緊張するね。僕は騎士に頭を押さえ付けられ、強制的に跪かされた。
奥から何人かの足音がしてくる。定位置に着いたのか足音が止まる。数分経ってから声がかけられた。
「面をあげよ」
僕は髪の毛を掴まれて顔を上げさせられた。ちょっ、やめてよね。ハゲたらどうするんだよ。
そこには20代後半ぐらいの美女が居た。とても妖しい雰囲気だ。この人は何者なのだろう。王様って事はないよね?
「良い良い。実に良い。エリオよ、我の物になれ」
「我が物になれ、とはどういう意味でしょうか」
僕が質問すると、騎士の人に背中を殴られた。勝手に質問してはいけないらしい。
エリカが何かすると困るので、命に危険が迫るまでは何もしないように言っておいて良かった。
「良い。好きに話させてれ」
「ハッ!」
騎士の人は僕を掴んだまま一歩下がった。
「わからぬか? 夜を共にしろという意味だ」
「お断りします。そもそもあなたは誰なのですか?」
「我を知らぬか。面白い小僧だな。我は帝国皇帝シルビア・シャルルネストだ」
「皇帝様だったのですか。失礼しました。ですが夜を共にする件はお断りします」
「断るか。これがお前にとって一番幸せな選択だと言うのに、愚かな小僧だ」
皇帝は立ち上がり目が赤黒く変色した。口を大きく開け、中から白い物体が現れる。
あまりの光景に僕はフリーズするが、兵士たちは何事もないように真っ直ぐ前を見ている。
『オマエからは良いニオイがする。ヨルからたっぷりチカラを貰ってるんダロ?』
口の中からは更に何本もの白い物体が現れ、それぞれにある五つの赤い目で僕を見ている。
もしかして……これが破壊神の指というやつか? あまりに悍まし過ぎる。全身から嫌な汗が止まらない。
「お前が破壊神の指ってやつなのか?」
『チガウなぁ。我こそが破壊神ソノものだ。破壊神と名付けたのはニンゲンだがナ』
「何が目的なんだ」
『オマエだよ。オマエを吸収したい。オマエは生贄50億人分の価値がアル』
「お断りだね。さっさと滅べ! 化け物め」
僕は、恐怖で膝から崩れ落ちそうになる自分を鼓舞してアイテムボックからゴーレムを出した。
どらちゃん&どらさんに騎士の無力化を命令し、どらちゃまを皇帝もどきに突撃させた。
「妾も行くぞ」
エリカも飛び出し、どらちゃまに続く。
勝負はあっという間だった。騎士たちは全員倒れ、皇帝もどきの白い触手も切り刻まれた。
圧倒的過ぎて、気が抜けてしまったよ。
『ふひひひひ、イイね。ニンゲンがアガく様は面白イ。オモしろーイ』
倒れた騎士が立ち上がり、口から白い触手が飛び出す。皇帝の口から再び触手が伸び先端が大きな口を開けて嗤った。
それから長い戦いになった。破壊神の触手は何度斬っても再生し、落ちた触手も地面でケタケタ嗤っている。
明らかに僕たちは手を抜かれて遊ばれている。時間が経つにつれ、それを実感した。
「貴方様。ここは退くべきだ」
「僕もそう思ってたところだよ。こいつは手に負えない相手だ」
『ニゲるのか? ニガさないし、オマエはニゲられない』
破壊神は触手で城壁を破壊した。破壊した穴からは神樹が見える。神樹には巨大な白い蛇が絡みつき、木が軋みを上げている。
『上をヨク見てミロ』
穴に近づき視線を上げると、あってはならない光景が目に飛び込んできた。
「みーちゃん……!」
フェンリルの姿のみーちゃんが神樹と蛇の間に挟まれて樹に磔にされ、口から夥しい量の血を流している。
僕は怖さなど吹き飛び、怒りに震えた。
『コンな状態でも、オマエにチカラをオクり続けている。泣かせる忠犬ブリジャないか。イヒヒヒヒヒヒ』
僕はアイテムボックスからアサルトライフルを出し、オリハルコンジャケット弾を巨大な蛇にフルオートで撃ち込んだ。
『イダダダダダダダダダダ! イダイー』
まただ! もう1マガジン撃ち込んでやる! その他全弾撃ち込むとアサルトライフルを放り投げ、対物ライフルを出して巨大蛇の顔に撃ち込み始めた。
どらちゃまを先頭に、ゴーレムたちも巨大な蛇に飛びつき、斬りかかる。 エリカは見えない何かを飛ばして攻撃している。
『イタイよーーーーーー! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! イタイーーーー』
僕はありったけの弾を巨大蛇の顔面に撃ち込み、弾が切れた対物ライフルを全力で投げて顔面に突き刺した。
『クギヤァァァァァァァァァァァァァァァ! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! ナーンテネ。フヒ』
巨大な蛇は全身から細い触手を出し、僕たちを弾き飛ばした。あまりの衝撃に一撃で意識が朦朧となる。
さっきまで軽快に触手を斬り飛ばしていたどらちゃま達も今は全く歯が立たない。一方的に殴られ続けている。
エリカは触手に腹を貫かれて空中で苦しんでる。
意識が朦朧とする僕に巨大な蛇の顔が近付いてくる。僕が与えたダメージなど全く無いようだ。
刺さったと思った対物ライフルはまぶたで受け止めてやがったのかよ。驚く僕を見て大きな口を開けて嗤っている。
『コロしてから食べてもいいけど、イキてるうちにタベたいなー。どうしようカナァ』
「僕を食べるならみーちゃんを自由にしろ」
『イイヨ。イヌはブチ殺した後にジユウにしてあげる』
「くそっ……ヨルさんはなんでこんな奴を放置してるんだ」
僕は重い身体で立ち上がり、アイテムボックスから切り札の特製ポーションを出す。
それを見ても破壊神はニヤニヤしているだけで襲っても来ない。さっさと飲めよみたいな顔をしている。
僕は腰に手を当て、一気に飲み干す! ……あれ? 何も起きない……?
『何かアテがハズレちゃっター? アレアレーなにその顔。オモシローイ』
何が起きたかわからないけど、もう一本だ! ……もう一本! どういう事だよ……」
『イーーーーーヒヒヒヒヒヒッ! オモシロくて腹よじれるー! オマエ、ヨルに騙されちゃったんだよ。マヌケ』
「どういう意味だよ」
『オマエはある程度育ててカラ我の元に送ってくれたオヤツだよ。ねぇ今ドンナきもち?』
……例えそれが真実だとしても関係ない。やれるだけの事はやる。僕は昼に作った着るゴーレムとオリハルコンの剣を出す。
そう、これは【着る】ゴーレムなのだ。簡単に言えばアイ○ンマンみたいな物だ。ミスリルとオリハルコンを組み合わせて作った。
ぶっつけ本番で中にへ入り、全てのハッチを閉じる。痛い。お肉をあちこち挟んでいる。だけど今はそんな事言ってられない。
オリハルコンの剣を手に取ると僕は破壊神の顔に斬りかかる。
ガキィィィィィィィィィィン!
まるで手応えがない。金属バットでコンクリートを殴ったみたいだ。
だが何回だって斬ってやる! 僕は手の感覚が無くなって剣を落とすまで斬り続けた。
着るゴーレムの隙間からは挟んだ肉が裂け、血が溢れ出し、もう手も上がらない。ここまでなのか。
『気がスンダか? ソロソロ味見するカ』
破壊神から触手が伸び、僕の身体を弾き飛ばす。着るゴーレムはたった一発でボロボロとなり僕は地面に転がった。
『そーれ、イクよー』
破壊神から伸びた触手は真上に上がり、急降下して僕を襲う。もう身体が動かない。
聖女のゆらめきもボックス内転移も何故か発動出来ない。今度こそ終わった。
ギャギギギギギキィィィィ
僕と触手の間に飛び込んできたどらちゃまが触手を受け止める。だがそこまでだった。ボディは完全にひしゃげてもう動けない。
『ホント往生際ワルイねーオマエ。チョットイラっとしたよ』
再び触手が伸びる。今度は二本だ。真上から襲ってくるソレを、僕は為す術もなく見てるしかなかった。
そして僕の身体は二本の触手に貫かれたまま大きな口へと運ばれ、頭からバリバリ食べられた。
「え? どういう事?」
気がつけば、僕は少し離れた位置に運ばれ、自分が食べられる様子を見ていた。
「遅くなったメンゴー」「ギリギリセーフ」
そこには仁科さんと花澤さんのギャルコンビが居た。
「影潜りっていうスキルで矢吹の後にくっついて来たはいいんだけど、影からの出方がわかんなくてさ~大変だったよ」
「もう一生出られないかと思ったわぁ」
こんな状況なのにユルイ二人を見てると少しだけ気持ちが楽になった。でもそんな甘い状況じゃない。
「助けてくれてありがとう。でもすぐに逃げて。二人じゃアレに勝てない」
「は? あたしらだっていざとなったら体張るって言ったじゃん。矢吹を連れて逃げるよ」
「そうよぉ。ここでわたし達だけ逃げて何の意味があるの」
『相談はオワったカナー?』
見上げると真上に破壊神の顔があった。そして気付いた時には仁科さんと花澤さんは吹き飛ばされていた。
仁科さんは片足が吹き飛び、花澤さんは左半身がボロボロになってる。今すぐにでも特製ポーションを飲ませないと死ぬ。
でも効果が……。くそっ! くそっ!
「うおぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーー!」
僕は最後の力を振り絞り、全力のアイテムボックス砲を破壊神の顔面にぶつけた。
飛ばした巨大な銅の塊は破壊神の口に入り、そのまま遥か上空まで打ち上げられる。おかけでみーちゃんと神樹とエリカは開放された。
破壊神は遥か上空まで打ち上げられ、ゆっくりと落ち始めた。
あの巨大な蛇の軌道がズレずにここに落ちれば僕たちを含め、この国の住民は全員死ぬだろう。
でもみーちゃんだけは生き残って欲しいと願い、力尽きるように僕は目を閉じた。
だが、衝撃は何時まで経っても来なかった。
『アハハ、今ノチョットオモシロかった。歯が折れチャうかと思ったヨ』
破壊神は宙に浮かび、僕を見下ろしていた。こんなの勝てる訳ない。僕は全てを諦めるしかなかった。
『ソノ顔見たかったアァァ。ダカラわざわざ衝撃を殺すタメに飛び上がっテあげたノ。ペッ』
破壊神は巨大な銅の塊を吐き出して建物を破壊した。
「さっさと食えよ」
『その前にオハナししようヨ』
破壊神は口の中から、にゅーって何かが伸びて来た。
「ヨルさん?」
『びっくりしたぁ? そうナノ。我がヨルなの』
ヨルさんにそっくりの猫耳の人はそう言ったが決定的に違う事がある。こいつは真っ白だ。黒髪のヨルさんとは違う。
「もうどっちでもいいよ。話す事なんて何もない」
『ソンナこと言わないでサァ、今どんな気持ちが聞かせてホシいんだぁぁ。イヒヒヒヒヒヒ』
白いヨルさんは大口を開けて嗤う。口の中には黒い玉が見えた。
あれは魔石? 僕はそれの収納を試みるが、アイテムボックスの機能は完全に停止していた。
『ダカラ言ってるデショ。我はヨルなの。オマエのスキルをスキに出来るノ。最初かラ使えナイようにするコトも出来たヨ』
「そんな事言って油断し過ぎじゃないのか……その玉がお前の弱点だろ」
『オマエのスキるは全て凍結シテある。オマエに何がデキる』
「僕にはもう何も出来ない。体も動かないし」
『ジャあ我が直接食べてあげるネ。足カラ少しずつ、スコしずつ……』
白いヨルさんが大口開けて僕の足にかぶりつこうとしたその時、どらちゃまの頭がボディからパージされ翼を広げて突っ込んできた。
どらちゃまに組み込んだギミックは、頭が小さいドラゴンに変形して単独で飛べる仕様なのだ。
完全に油断してた白いヨルさんはどらちゃまに顔面を抑え込まれてしまう。凄い力で引き剥がしにかかるが、この千載一遇のチャンス逃すものか!
僕は右腕に残ってる着るゴーレムをパージして魔石へ飛ばした。
手刀状態のロケットパンチは魔石に突き刺さり、ビキビキビキ……とヒビが入る。
だが、まだ抵抗してるようだ、後ひと押し足らない!? すると闇からくーちゃんが現れ、刺さってる着るゴーレムの右手を蹴った。
『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉグジュグジュグジュギュ……』
そして魔石は真っ二つに割れ、口からこぼれ落ちた。
「舐めプなんてするから……こんな目に合うんだ。ざまぁみろ」
僕は使えるようになったアイテムボックスから特製ポーションを出し、飲み干した。
「ニャーーーーーーーーーーーハッハッハァーン! イマ行くよーん!」
瞬間移動の如くスピードで仁科さんと花澤さんの元に駆け寄り、二本の特製ポーションを両手に出し、指でくるくるっと回して二人の口に突っ込む。
触手に体液を吸われたのかシワシワになって倒れてるエリカの口にも特製ポーションを突っ込む。
「みーーーーーーーーーーちゃーーーーーーーーーん!」
僕は更に加速してみーちゃんの元に駆け寄り、大きなお口を持ち上げ、特製ポーションを突っ込む。
そして巨大な蛇の躯と魔石の片割れをアイテムボックスに収納すると、逃げた魔石の片割れを追った。
◆◇◆◇
『ふざけんな! ふざけんな! 何故我がこんな目ニィィ』
逃げ切ってヤる! 次は必ずアイツを喰ってやるのだぁぁ!
破壊神の片割れは走る。這うといった方がいいか。このスピードならすぐに追いつけなくなる。そう思っていた。
「ニャーーーーーーーーーハッハッ」
ヤツの声がする。闇の雫飲みやがったカァ! だが、ナメるなぁー!! 半身になろうとチカラは我のホウがハルカに上!
イマ食うと勿体ないが、ここでオワリにしてやる!
人間の胴ほどの太さの触手になった我は、止めを刺しにくるだろうエリオを迎え打つことにした。
土煙を上げて走ってくる何かが見えたが、突然消えた。
そして気がついた時に我は縦に切り裂かれていた。
『な、ナニィ!?』
「ニャーーーハッハッハァァン! やっぱりウナギはカバヤキがサイコーダヨネェーーーパタパタ」
我はイマなにをされている……調理されてるのか? 甘辛い匂いのチョウミリョウをかけられ炙られてイル。
ナニが……ワレは……。
「いただきマーーーース! ウン! 白いウナギ美味しいニャン! 美味だニャン!」
やがて魔石の片割れはチカラを失い、こぼれ落ちた。
評価、ブックマークありがとうございます! おかげさまで40話まで来ました。正直こんな長く続くと思ってなかったです。応援いただきありがとうございます。




