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39 カニ

 ふぁぁぁ……眠い。アリスの母親の手紙読んで眠れなくなっちゃったよ。

 いつの間にか僕と恵の間に入って寝てるユリナと隣で寝てるアリスの頭をなでなでしながら昨日の事を考える。

 アリスは僕の指を寝ながらおしゃぶりしてる。見た目以上に幼い子なのだろうか?

「ママおはよう」

「おはようアリス。起きてたの?」


「少し前から起きてたよ」

「そっかぁ。じゃあ指離して少しお話しようか」


「うん」

 そう返事しながらもおしゃぶりを止めないアリス。


「アリスは歳いくつなの?」

「4歳だよ」


「その割には随分としっかりしていると言うか、言葉がハッキリしてるよね」

「ちゃんと喋らないとママに棒で打たれて怒られたから」


 あれ? なんか思ってた母親と違うな。手紙のせいで超溺愛ママなのかと思ったてた。


「でも、ママの事は好きなんだよね? ペンダント大切にしてたし」

「うん。でも、もう居ないよ。アリスの横で死んでた」


 確かに遺跡から回収した物の中に人骨はいくつかあった。あの状態でママと解るのはリッチの特性だったのかな。

 気にはなるけど、あえて聞くまでもないか。


「この話はやめようか。アリスはやりたい事あるかな? 学校行きたいとか、将来なりたい職業とか」

「アリスはママのお嫁さんになりたい」


 そしてまた寝間着に潜り込むアリス。この子も母親同様に心に闇を抱えてる気がする。

 どんな教育が成されてきたのか知る由もないけど、異常なまでに母親の愛に飢えてるのは間違いない。

 僕の趣向のそれとは違うよね。

 くすぐったいけど、暫くはこのまま好きにさせてあげよう。



 朝食後は、少し寝てからユリナとアリスと千代田さんを連れてドルフィノへ向かった。

 委員長がドルフィノに居ると知った千代田さんが、委員長に会いたいと言い出したのと、手に入れたオリハルコンを使ってごーさん達を強化するためだ。

 インゴットは一本約5kgぐらいで20本あった。

 これだけあればかなり余裕を持って使えるだろう。

 今日はみーちゃんが用事あるらしく、エリカが護衛してくれるらしい。姿は見えないけどね。


 お店の裏手に聖女のゆらめきで転移して、お店の裏口から中に入る。


「こんにちわー」

 お店に入るといつも通りのたくさんのお客さんと、田中さんたちの笑顔が目に飛び込んでくる。

「矢吹ちゃんいらっしゃーい」

 相変わらずエッチなウインクしてるが、それは後にして欲しい。


 アリスと千代田さんを紹介し、ごーさんをアイテムボックスに収納して二階に上がるとリビングに委員長が居た。

「矢吹君こんにちは。あれ? 今日はエリカ来てないの? それと、その可愛い子は?」

「こんにちは委員長。エリカなら居るよ。場所はわからないけど何処かで見てるはず。この子はアリス。一緒に住む事になったんだ」


「そういえばエリカは不思議な存在なんだっけ……。可愛いね~アリスちゃんおいで~」

 委員長が両手を広げるが、アリスは僕の服の中に隠れた。委員長が苦笑してやり場のない両手をゆっくりと下げて寂しそう。


「い、委員長は何してるの? 経理っぽい事してるように見えるけど」

「シイリスさんの経理の仕事のお手伝いしてるのよ。こういうのは得意だから」


「なるほど、仕事手伝ってくれてありがとね」

「こっちこそ、ここにおいてくれてありがとう。あのまま一人で居たらおかしくなってかもしれない」


「こんにちは委員長久しぶり……」

「千代田さん! 無事だったのね」

 僕の後ろに隠れるようにしてた千代田さんがひょこっと顔出して挨拶した。もしかして委員長が苦手なのかな?

 そんな風に思ったけど二人は仲良く会話してる。妙に仲がいいな。ベタベタ触り合ってる。よくわからないが後は若い二人に任せよう。



 僕は自室に入り、ソファーに座る。ユリナとアリスは僕の両横にくっついてる。両手に花だね。

 委員長が住んでるせいかこの部屋が綺麗になった気がする。ていうか、何気なく入っちゃったけど、ここ委員長に貸してたんだ。

 見回すと下着が干してある。やっちまったぁ……。

 僕はユリナとアリスを連れて一度建物から出た。このお店の裏手には増築の可能性を考えて少し余ってるスペースがあるので、そこに小屋を建てるか。

 小さいけど二階建ての秘密基地みたいな小屋を脳内で設計してボックス内クラフトで形にしていく。この作業は本当に楽しい。

 一階はトイレとお風呂と小さなリビング。ニ階はロフトみたいな構造の寝室を作った。


 店の裏手に今作った小屋を出すと、裏口を塞がない形でピッタリ収まった。やはり僕はこういう仕事が性にあってるのかも知れない。

 シイリスさんたちにお店の裏に小屋を出した事を告げてから、僕たちは中に入った。

「お兄ちゃん上に行っていい?」

「いいよー。でも、はしごから落ちないように気を付けてね」

 ロフトの構造が珍しくて興味を引いてたのか二人ははしごを登って二階に遊びに行った。まぁ、ベッドしか無いんですけどね。


 さて、僕はごーさんの改造を始めますか。

 ボックス内クラフトと錬金術を同時に使い、オリハルコンのインゴット一本を丸々使ってごーさんのボディの強度が欲しい部分にコーティングしていく。

 剣と盾には多めにコーティングした。これで防御力と攻撃力はかなり上がった筈だ。ごーさんはこれでいいな。


 ついでに一つ考えていたゴーレムを造ることにした。カニを獲ってくるゴーレムを造りたいのだ。

 ドルフィノは海の幸が豊富なのに、何故かカニは食べられていなくて、流通にも乗ってない。

 ならば獲りに行くしかないよね。しかし、タラバガニのような大きなカニは寒くて水深が深い所に居ると聞いたことがある。

 ドルフィノは比較的温暖で、今は冬らしいけど、それほど寒くない。モルトの街の海岸から獲りに行くのがベストだろう。


 素材はアイアンゴーレムだ。錆びると思うかもしれないが、ゴーレムの素材は錆びない不思議金属なので大丈夫。

 ボディは中空にして軽くする。後ろにはスクリューを埋め込んで、沖まで素早く行けるようにしてと……。

 手はいっぱいあったほうが便利だろう。捕獲したカニ用の網も持たせないとだしね。


 考え抜いた結果、出来たのはエイに手がいっぱい付いた化け物みたいな形のゴーレムだった。

 こんなのを海岸に出して大丈夫だろうか。夜に行けばいいか。そうしよう。

 あと、カニはこういう生き物だぞ、と伝える絵が必要だな。唯に描いてもらおう。


 作業が終わったので、ロフトに登って見てみると二人仲良く手を繋いで眠っていた。このままでいいか。


 僕はごーさんをアイテムボックスから出して一緒にお店に入り、みんなに改良した事を告げた。

 千代田さんと委員長があれからどうなったのか気になって二階に上がるとリビングには居なかった。僕の部屋かな?


 リビングにはカナ(ママ)が座って僕を手招きしている。

 勿論行きますよ。本来僕はママになりたいんじゃなくて、ママに甘えたいんだ。

 カナ(ママ)の胸に飛び込むと、思い切り甘えまくった。

 

「時間だからママはお仕事に戻るね。今部屋にあゆちゃん居るから話してあげてね。あゆちゃんずっと寂しがってるから」

 カナ(ママ)はそう言い残して降りていった。確かに最近業務連絡以外あゆみと話をしてなかったな。


 何を話せば良いのか思いか思い付かないけど、カナ(ママ)の言いつけを無視する訳にもいかないし。行くか……。

 

「あゆみーちょっといい?」

 ノックしようと思ったけどドアが少し開いてて隙間から僕を見ていた。

「入って」

 僕は腕を掴まれて中に引きずり込まれてしまった。新たな妖怪の誕生か!?


「別にわたしの事好きじゃなくてもいいから、たまには可愛がって欲しい」

 あゆみは半泣きの状態で抱きついてくる。そのまま流されるように身を任せ、いつしか激流に飲み込まれていた。

 流木は激しく打ち付けられ、滝壺に落ちて浮き沈みを繰り返す。

 やがて緩流となり流木は岸へとうちあげられた。


 あの時以上に激しかった……。欲求を集めて早し最○川なのであろうか?

 あゆみも少し気だるそうにしている。でも目は僕を射抜いてちょっと怖い。

「カナちゃん好きなの?」

「……好きなのは間違いないけど、恋愛の好きではないかもしれない」

「吸ってるのに?」


「もしかして見てたの?」

「ずっと前から知ってるよ。カナちゃんから聞いてたし」


「その……なんていうかごめんなさい」

「いいよ。そういう趣味だからわたしの事相手してくれないんだなぁ、って納得出来たし」


 誤解を解くべきか、そもそも誤解なのか? 自分でもよくわからないので、反論すべきではないだろう。

 そう。これは僕の心の闇なのだ。甘んじてそれを受け入れよう。


 濃厚なキスをしてから部屋を出た僕は、あゆみとカナ(ママ)をどうすべきなのか悩むのだった。



◆◇◆◇



 二人の部屋を後にして、僕の部屋の前へやってきた。一応今は委員長の部屋なのでノックしたら委員長がすぐ開けてくれた。

「もしかして二人って友達だったの?」


「今は友達だよ。この世界に飛ばされて来た時に近くに居たんだけど、あの時色々あって喧嘩別れしたんだ」

「だって委員長、ワイバーンに乗ってドルフィノ行くとか言うんだもん。怖すぎて私には無理だったよ」

「突然襲ってきた飛竜のせいで結局ドルフィノに着く前に降ろされちゃったけどね」


「それでドルカナ村に辿り着いたのか。大変だったんだね」


「私も矢吹君が来てくれなかったら今頃死んでたよ。ありがとね。そうそう、これアイテムボックスに入ってたの。みんなで食べよ?」

 千代田さんが出してきたのは、のり塩味のポテチだ。しかもまだ未開封! 僕は問答無用で奪い、自分のアイテムボックスに入れた。

「あれ、ポテトチップス消えちゃった……」


「ごめんね、複製したいから開封される前に即収納しちゃったよ」

 僕は複製した二袋を千代田さんに渡す。意味が解らないって顔なので、僕のスキルを説明して納得してもらった。


「他にも何かアイテムボックスに入ってない? あれば複製したい」

「これは増やせる?」

 千代田さんが出したのは、ボディーソープ、シャンプー、コンディショナー、トリートメントの携帯用四本セットだった。


「おぉーー! こういうの欲しかったんだ。こっちの世界の洗剤はイマイチだったから嬉しい」

「残り少ないけど大丈夫?」


「大丈夫だ問題ない」

 僕は早速アイテムボックスに入れて中身を増やしまくった。プッシュ式のケースは大きいものを新造し、中身をたっぷり詰めて完成。

 ドヤ顔で増やした四本を出した。


「これはお風呂革命だよ!」「凄い嬉しい! 矢吹君のスキル便利過ぎ!」

「あはは。でもこれってメチャ女子っぽい香りになるやつだよね。屋敷でモリモリや佐藤君もこの香りになるかと思うと笑える」


「臭いより良いでしょ。それに矢吹君ならこの香り似合うと思うよ」

「そうだよねー、矢吹君私達よりずっと可愛いし」


「微妙な気持ちになったけど、褒めてくれてありがとう」



 しばしお菓子パーティー楽しんだ後、僕はユリナとアリスを起こしてエリオ商店に転移した。

 千代田さんはしばらく委員長の部屋で泊まるらしい。委員長も一人で寂しそうだったから丁度いいね。


 エリオ商店は最初こそ閑古鳥が鳴いてたけど、今は人気ドラッグストアだ。先生が開発した避妊薬と強壮薬がバカ売れしてるらしい。

 僕が作ってるポーションも医療機関で使われてると聞いた。

 お店に入ると、今日は赤坂さんが店員をしている。先生は奥に居るみたいだ。

「矢吹様いらっしゃいませ」

「お疲れ様ー。いつもありがとね」


 挨拶をしてからごーくんを回収して、僕たちも奥に行く。

「先生こんにちは。ちょっとお邪魔しますよ」

「おう、こんにちは。その子は誰だ?」


「アリスって言います。人見知りだから僕のローブの中に隠れてるけど気にしないで下さい」

「わかったよ。そうそう、売上は良いぞ。良すぎるというべきか」

「先生、顔色良くなりましたしね。ギャルに振り回されてた時と別人みたい」

「やりがいのある仕事だからな。感謝してるよ。特に仁科達を引き取ってくれて」


 先生は活き活きしてるな。少し前の先生はくたびれたおっさんだったのに。

 僕はソファーに座り、ごーさんに施した改造をごーくんにもする。一度やった事なので簡単だ。

 ごーくんを出して持ち場に戻ってもらい、両隣に座ったユリナとアリスを撫でながら二階と三階はどうするか考える。

 相変わらずアリスは僕の指をしゃぶる。美味しいのか?


 貸店舗にするという手もあるけど、プライベートスペースとして使うのもいいかもな。

 今は特にお金に困ってないし、まだ考えなくていいか。



 お昼も過ぎたし、小腹が空いた僕たちは以前一度行った事があるウザ絡みしてきたお店に行く事にした。

 あの店員はともかく、味はかなり良かったしね。


 お店の前まで行くとチラっと中を覗く。あの店員は居ないようだ。よし入ろう。

「いらっしゃいませぇー。三名様ですか? こちらにどーぞー」


 ……この店員さん。どう見ても日本人なんだけど。誰だろう? 少しだけ大人っぽい女性だ。

 とりあえず席について考える。店員さんがメニューを持ってやって来たので聞いてみるか。

「もしかして一宮(いちのみや)高校関係の人ですか?」

「え? なんで知ってるの?」


「姿は変わりましたが、僕が三組の矢吹だからです」

「ほんとにー? 隣のクラスの子だったんだ、私は四組の担任だった里中よ。後で時間ある? 今は仕事中だから後で話したい」


「いいですよ。ていうか、海辺にある海の家に行ったことないんですか? あそこにクラスメイトいっぱい居るのに」

「知らなかった……。絵描いて引きこもってばかりだったから」


「ここのメニューは先生が描いてたんですか。美味しそうで見てるだけでお腹減りますよ。では、シーフードグラタン三つお願いします」

「褒めてくれてありがとねぇー。かしこまりましたー。また後でね」


 里中先生は厨房に走って行ってしまった。この店、結構人居るし忙しいから話しかけるのは後にすれば良かったかも。

 10分程して運ばれてきたシーフードグラタンは相変わらず美味い。この店にして正解だったな。

「以前来てくれた子だよね? 今日も凄い可愛い! 三人とも超可愛い! 今日はチューしていいよね?」


 でも、運んできた店員さんがこの前のお姉さんだったのは誤算だった。厨房の中に居たのか。

「良くないですよ。こんな事してると店長さんに怒られますよ?」

「それは無いかなぁ、私が店長だし。にひひ」


「じゃあ、僕のほっぺとかにチューしていいので二人にはしないで下さい。ドン引きしてるので」

「ほんとに!? じゃ、いくよ!」


 っん!!


「ぷはぁぁ。美味しかった! お礼に今日は無料でいいからね」

 お姉さんは唇をペロって舐めながら厨房に戻って行った。


 まさか口にしてくると思わなかった……。周りを見ると、お客さんたちがニヤニヤしている。

 もしかして、この店ではよくある風景なのか? だとしたら、とんでもない店に来ちゃったよ。


 僕たちが食べ終わった頃に里中先生がまた来て。前の席に座った。

「少し休憩貰ったから、お話しましょう。あとその子達は?」

「いいですよ。まず、こちらの事を話しますね」


 僕は里中先生にユリナとアリスの話と、今まで出会った一宮(いちのみや)高校関係の人たちの話を伝えた。

 大平君や今井君たちの話をした時はため息ついていたが。

 でも、一番反応したのは、今ドラッグストアの店長してもらってる藤野先生の名前が挙がった時だった。

 里中先生は藤野先生と仲がよろしくないらしく、名前が挙がる度に目がつり上がっていた。


「藤野先生と何かあったんですか?」

「別に何も無いよー。ただ口煩くてウザかったの。女は酒飲むなぁとか煙草吸うなぁとか。父親かっての」


「程々のお酒はともかく、煙草はやめた方がいいのでは?」

「吸ってないよ! 大学の時に一本だけ貰って吸ったの。その話したらネチネチいつまでも言われてさ」


「年齢的に娘みたいに思ってるんじゃないですかね。里中先生若そうだし」

「まだ23歳だし。超頑張って教師になって、これからって時にあんな事になってさ……。はぁビール飲みたい」

「飲みます?」


 僕はキンキンに冷えた銀色ビールを里中先生の前に置いた。


「こ、これって……本物?」

「本物ですよ。仕事に支障ないならどうぞ遠慮なく」


 里中先生はビールを鷲掴みにすると焦る気持ちでプルタブを上げ、一気にゴキュゴキユと飲み干した。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ死んでもいい」

「ぷぷぷぷ……」


「何笑ってるの?」

「いやだって、その反応藤野先生とそっくりそのままだったから」


「えぇーー」

「しかもそのビールは藤野先生が持ってた物を僕がスキルで複製したんですよ。藤野先生にお礼言った方がいいですよ」


「それは……でも矢吹君が複製しなければ飲めなかったんでしょ? だから矢吹君に感謝する。何か私に出来る事ある?」

「そうですねぇ、じゃあ、カニの絵描いて貰えます? タラバガニとかズワイガニの」


「何に使うの? 漁師さんに獲ってきてもらうの?」

「そうです。カニを食べたいのです。エビはあるのにカニが無くて、だったら獲るしかないと思い立ったわけですよ」


「おっけ、おっけ、獲れたら私も食べさせてくれるんだよね? ビールと一緒にタラバ……じゅる」

「それはお約束します。好きなだけビール飲んでいいので、出来るだけ精密に描いて下さい」


「やったぁぁ! 今から描いてくるからまっ……」

「マリコさーん、休憩終わりですよー、あと仕事中にお酒飲むとか、ちょっとお話あるので裏に来て」

 自称店長のお姉さんに里中先生は首根っこ掴まれて引きずられていった。

 客にキスする癖に、店員の指導には厳しいのね。お姉さんは去り際に投げキッスしてきた。変なのに目付けられちゃったな。

 帰ろう。



 もう夕方に差し掛かり、そろそろ帰る時間だ。

 僕はドルフィノの人気の無い海に行き、こっそりカニ捕獲用ゴーレムを出して運用試験をしてみた。

「はじめましてマスター。お名前つけて」

「君の名前は『あまさん』だ。海に潜ってこういう物を獲ってきて欲しいんだ。獲れても獲れなくても10分したら戻ってきて」


 僕は砂浜に適当にカニの絵を描いた。これでは無理だと思うけど実験だからね。

「わかった。行ってくるよ」

 あまさんは物凄いスピードで海に潜って行った。


「お兄ちゃんこれ砂浜に居るカニ?」「蜘蛛が海に居るの?」

 二人は僕が描いた謎の生物の絵に興味あるみたいだ。見た目は気持ち悪いかもだけど食べればきっと好きになってくれると思う。

「これは食べると凄い美味しいんだ。蜘蛛とは違うからね」


 そうこうしてるうちに、あまさんが戻ってきた。何か大きい物を牽引しているな。目の錯覚かな?

 ていうかあまさん足が何本か取れてボロボロじゃん! 何捕まえてきたの!?

 やがて、全体像が見えてきた。カニっぽいな。大きさはモン○ンに出てくるぐらいあるけど。

 僕はアサルトライフルを出して構えようとしたが、その前に巨大ガニは真っ二つになった。


 いつの間にか僕たちの前に現れたエリカが何かしたらしい。

「こんなもの捕まえて何する気なのだ貴方は」


「これは想定外な物で本来はもっと小さいやつだよ。これって魔物?」

「鑑定して見た限りでは魔物ではないな。食用も可能と出ている」


「よし、食べよう」

 負傷してしまったあまさんを収納し、巨大ガニも収納した。

 一番小さい足を取り、ボックス内温度管理で高温にしてからアイテムボックスから出してみた。


「美味しそうな匂いがするな……」

 大きいだけに少し躊躇したけど、ミスリルのナイフで殻を割って分厚いカニ肉に食らいついてみた。


「美味い! 大味かと思ったけど、普通に美味いよこれ」

「ユリナも食べたい!」

「アリスは……いらない」


「そんな事言わないでみんなも食べてみてよ」

「おいしーーー!」「意外と美味だな」「……美味しい」


「でも、これぐらいにしておこう。夕飯食べられなくなるからね」

 もっと食べたいとダダをこねるユリナを宥めて、僕たちは聖女のゆらめきでヨルバンの屋敷に戻った。 戻ったらみんなでカニ食べよう。


 カニで頭がいっぱいの僕は、屋敷にあんな事が起きてるなんて思いもしなかった。



◇◆◇◆



 屋敷に戻ると兵士に囲まれていた。みーちゃんの結界のおかけで中には入って来れないけど。

「これは何処の兵士?」

「ヒイロ帝国の兵士だそうです。旦那様に王都襲撃の疑いがかかってると、口頭での説明がございました」


 なんてこった……カナを助けに行った時の事だと思うけどバレると思わなかったな。

 ミリアスさんは座ったまま震えている。自分の事と勘違いしてるのかも。


「コウちゃん、これって前に話してくれた七瀬さんを助けに行った時の事かな?」

「多分そうだと思うよ」


「どうするんだ矢吹。やっちまうか?」

「やらないよ。帝国と戦争になっちゃう」


「矢吹様は何も心配されなくても大丈夫です。(わたくし)が話をつけて参りますわ」

「いや、大丈夫。僕が行ってくるよ。ところでみーちゃんは?」

「みーちゃん様はお帰りになられてません」


「じゃあ、今からちょっと話をしてくるよ。エリカが護衛してくれてるから万が一もないよ」

「当然。貴方の敵なら即滅ぼす」

「僕が指示するまで待ってね?」


「だが、妾が危険と判断すれば、その指示には従えない」

「わかった。行こうか」


 心配するみんなを残し、僕は屋敷の門まで歩いて行った。


「何か御用でしょうか? 近所迷惑なので帰ってもらえますか?」

「貴様がエリオというハイエルフだな? 貴様には王都襲撃及び、神樹破壊の疑いがかかっている。身柄を確保させてもらうぞ」


「出頭しろと言うのならそうしますよ。でも、あなた達に付き合ってチンタラ竜車で行くのは御免ですね」

「そんな言い訳通じると思うか?」

「通じないでしょうね」


「ならば付い来い。近くにワイバーンを待たせてある。帝国には三日で行ける」

「……いいでしょう。でも、少し待っててくださいね」


 僕は屋敷に戻り、帝国に行くことを伝えた。当然みんなに反対されたけど、ここで逃げても意味がないので行ってカタを付けてくると説得した。

 いざとなれば僕は転移で逃げられるし、エリカも居る。くーちゃんもこっそり付いてくるみたいだ。

 いくつもの安全装置を提示してやっと説得できたけど、ユリナとアリスと嫁たちがローブを離してくれなくて困った。


「矢吹様。(わたくし)も後に追いかけますので帝国で合流いたしましょう」

「依子が居ないとドルフィノの仕事が滞るから暫く回るようにしてからでいいからね。どうせ帝国までは三日かかるらしいし」

「わかりました。お任せ下さい」


「大丈夫、必ず一週間以内には帰るから、心配要らない」

 僕は全員にキスをして、ローブを振り払い、門へと歩いた。


 向かった帝国で最悪の敵が待ってるとも知らずに。

評価、ブックマークありがとうございます!

雰囲気的に決戦ぽいですが、自分の中でまだ序盤です。続けられるように応援していただけると嬉しいです。

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