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38 リッチ

みーちゃんとミリアスさんの説明のおかげで何があったか伝わり、やっと誤解が解けた。

 とりあえずミリアスさんはメイドさん達に任せて、今日は客間で休んでもらおう。


 やはりと言うか、ミリアスさんの身に起きた事を知った嫁たちは、悲しむと共に、オークはもう食べたくないと言い出してしまった。


 そんな事をする奴らだと知ると、そりゃ食べたくなくなるよね。

 僕だって同じ気持ちだ。でも、オークは普通に豚肉の味で美味しいんだよなぁ。これの代替品はあるのだろうか。


 とはいえ、ミリアスさんがこの先ずっとオーク肉を見る度に酷い目にあったのを思い出すのは気の毒だよね。

 僕が悩んでいると、依子から提案が出た。


「ヒイロ帝国と程近い東に、カルアミという国があります。そこは畜産が盛んに行われております。カルアミから食材を仕入れてみてはいかがでしょうか」

「普通の牛とか豚を飼育してるって事?」


「我々が知る普通の牛や豚ではありません。牛は似ていましたが、豚に該当するものは、カバの様でした。どちらも大変美味ですわ」

「それならいいかもね。牛肉も食べたいし。芽衣子と渚の作ったすき焼き食べたい」

「俺は牛丼食いてぇ!」「俺も俺も!」

 モリモリも佐藤くんも牛肉が嬉しいみたいだ。これは早急に仕入れるとしよう。


「カルアミで(わたくし)が仕入れて来ますので、お任せ下さい」

「いや、何でもかんでも依子に頼めない。僕も一緒に行くよ」


「でもよー、帝国から近いのに侵略されたりしないのか?」

「帝国とカルアミの間にはフェンリルの丘と呼ばれる地域があります。帝国はフェンリルを酷く恐れているので、お互い通り抜けは出来ずに国交すら無い様です」


『あの丘には大きな湖があるニャ。美味しい魚が居るから今度捕りに行くニャ』

「なんでミーちゃん達は帝国から恐れられてるの?」


『50年程前に帝国がフェンリルの子供達を攫ったので、お仕置きしてやったニャ』

「モリモリはいいの? マックスも子供みたいだけど」


『怪我して死にそうだったのを助けて貰ったから一緒に居ると言ってるニャ。それなら構わないニャ』

「へぇー。モリモリもたまには良い事するんだね」

「失敬だな、怪我して弱っている子犬が居たら誰でも助けるだろ」


「誰でもって事は無いと思うよ。話は戻るけど、カルアミが平和そうなら問題無いね。明日にでも行こう」

『帝国より北東の大国ラ・ガーンの方を気にしたほうが良いニャ。カルアミとは陸続きだから攻め込んで来る可能性あるニャ』


「ラガーン? 聞いたこと無い国だね」

『ヨルネル大陸最大の国だニャ。帝国以上に野心的なので危険ニャ』


「ラ・ガーンは(わたくし)も一度行きました。この大陸の中で一番住みたくないと思える国でしたわ」

「依子の行動範囲広すぎでしょ。いずれにせよ明日カルアミに行こう」

「はい。お供しますわ」



 夕食が終わり、ユリナとお風呂に入っていると唯がお風呂に突入してきた。

 ユリナに第二形態を見せる訳にはいかないのでタオルを入念に巻いてガードする。

 僕がユリナの背中を流し、僕の背中を唯が流してくれる。一見ほのぼのした光景だけど後ろからチクチクと攻撃されてやばい。


 なんとかその場を乗り切り、ユリナを寝かせてから唯の部屋に行った。


「ユリナが起きてる時に変なことはやめようよ」

「必死に耐える矢吹君が可愛いので、いじめたくなっちゃいました」


「それなら今夜は僕がいじめるので覚悟するが良い。フフフ」

「キャー楽しみです」


 いつぞやの一件で僕は唯の弱点を知っている。


 だが、一方通行逆走はで本当のイジメになってしまう。

 カッコ悪いとサッカー選手に言われたくないので、そんな事はしない。

 だから一方通行禁止の看板の前をウロウロする程度で許してあげよう。


 機械の後ろに回リ、ボタンを摘みながら差し込み口に僕のキャッシュカードを差し込み、取り出し口を故障が無いか点検するのだ。


 丁寧にじっくりと指で調べるのだ。


 この作業は体勢ががとても難しい。だが、やる価値のある作業だ。


 三つの大事な部品を同時に点検される為に本体には負担がかかるが仕方がない。


 整備士の腕の見せ所だ。


 程なくして本体は沈黙した。故障してしまったようだ。


「矢吹君……しゅきです……」

「僕も唯好きだよ」


「……!!」



 今度は僕がタップリといじめられてしまった。

 人をいじめれば必ず何かしらの報いがある事を忘れずに生きよう。


 みんなも気を付けような!



◇◆◇◆



 翌朝、僕とみーちゃんは依子に誘導されて聖女のゆらめきでカルアミの北の街モルトへ転移した。


「牧場だね。北海道に行った時の事を思い出すよ。あ、牛は確かに地球のと似ている。目が怖いけど」

「目は怖いですが、とても大人しい生き物ですわ。この牧場で牛乳やチーズを仕入れてますの」


「いつもありがとね。依子のおかけで僕たちの食生活が豊かになったよ」

「妻として当然の事ですわ。それでは次にお肉を卸しているお店に行きましょう」


 それからいくつかのお店というか工場みたいな所に案内されて、牛肉の美味しい部位を沢山買った。

 お昼に近くにあったステーキのお店で食べたら、多分A5牛に劣らない美味しさだった。A5牛なんて食べた事無いけど。


「塩しか味付けされてないのに美味しいね!」

『味付けしなくてもきっと美味しいニャ』

「素材が良いので塩とよく合うのでしょう。とても美味しいですわ」

 依子の綺麗なナイフとフォークの使い方を見てると育ちが良い人は違うなぁ~と思いながらも僕とみーちゃんはガツガツ食べた。



「そしてアレが……豚?」

「はい。それに近い味ですね。むしろ豚より美味しいです」

 僕たちが次に来たのは養豚場みたいな場所。カバを不細工にしたような謎の生物が飼育されている。


「姿を見ちゃうと食欲湧かないけど、依子が美味しいと言うなら間違いないよね。美味しい部位を買い漁ろう」

「臭みが全く無くて美味しいですわ。オークとは比べ物になりません」


 買う前に味見してみようとなって、屋台の豚の串焼きを食べてみたらマジで美味しかった。

 香草と塩の味付けだけど、屋台とは思えない程に美味しいお肉だった。


「これは本当に美味しいね! 上品な味の豚肉って感じ」

『美味しいニャ。500本ぐらい食べたいニャ』

「一つ欠点は、牛肉より高価という事ですね。牛肉の二倍の値段します」


「いいよ。お金はどんどん使おう。貯めすぎても意味がないし」

「はい。そうしましょう」


 僕たちは豚も爆買いして、金遣いの荒い謎の美女二人組として牧場周辺で話題になってしまうのだった。



「ついでだから冒険者ギルドにも行こうよ」

「承知しました。お手をどうぞ」

 依子の転移で近くの建物の物陰に出た。通りの向こうに冒険者ギルドが見える。かなり大きいギルドだな。

 中に入ると人もまばらで、閑散とまでは言わないけど寂れた冒険者ギルドだった。


「あんまり人居ないけど冒険者の仕事少ないのかな?」

「どうなのでしょう。魔物は居ますし、仕事が無いという事は無いと思いますわ」


 相談カウンターで事情を聞いてみようかなと思った矢先、明らかに日本人ぽい三人が居るのを発見した。


「依子、あの人達って同級生?」

「そうですわ。以前来た時も居ました。あまりに素行が悪かったので関わらずに帰りました」


「でも、一人居る女子はなんか嫌々一緒に居るように見えるよ」

(わたくし)もそう思い、声をかけたのですが、失せろ、消えろ、と罵声を浴びせられてしまいました」


「何だろうね、それ。気にはなるけど、面倒だから同級生はスルーしよう。それより、ギルドのこと相談カウンターで何があったのか聞いてみようよ」

「わかりました」


 今までのパターンだと相談カウンターに居る人はギルマスなんだけど、ここはどうなんだろう。


「すみません。少しお話を聞かせてもらいたいのですが」

「はい。どの様なお話でしょうか」

 受付に立ってるのは背の高い痩せこけた男性。なんか幸薄そうな雰囲気。


「ギルドに人があまり居ないのが気になって、何かあったのかと思いまして」

「北の海岸付近に強力なアンデッドが現れて、大勢が討伐に出ています。今はその成果待ちという所ですね」


「強力なアンデッドって、どういうものですか?」

「リッチだと聞いてます。危険ですので興味本位で近付いたりしないよう、お願いします」


「わかりました。気を付けます。ありがとうございました」


 僕たちはその場を離れて、椅子が設置してある寛ぎスペースに移動した。


「リッチみたいな魔物は聖女が倒すべき相手なんじゃないかな? みーちゃんどう思う?」

『コウイチならアイテムボックスに入れれば終了だから楽勝ニャ。ただし普通に戦えばどうなるか解らないニャ』


「あの、不勉強ですみません。リッチとはどの様な魔物なのでしょうか?」

「元人間が邪法を使って不死の王と呼ばれる化け物になったってのが定番設定だよ」

『大体合ってるニャ。ただし、倒すのはよく考えてからの方がいいかもしれないニャ』


「どうして?」

『リッチは人の魂を人質にしてる事があるニャ。倒すとそれは還らないニャ』


「リッチ倒すと魂を人質に取られてる人も死んじゃうの?」

『そうニャ』


「リッチをアイテムボックスに入れて。魂を回収して取られた人に返すなんて事は無理かな?」

『+9というとんでもないアイテムボックスのコウイチなら可能かもしれないニャ。でも保証は出来ないニャ』



「あの……」

 突然後ろから声がかかった。振り返るとさっき見かけた同級生の女子だ。


「はい。なんでしょう?」

「盗み聞きしてごめんなさい。魂を人質に取られた話をしてたので、それについてご相談があります」


「どんな相談ですか? まさかあなたの魂が人質に取られたとか?」

「多分そうです。助けていただけないでしょうか」


「詳しい事情を話してもらえます?」


 彼女は何があったかを語り始めた。名前は千代田有希子さん。

 土魔法を使い、北の海岸付近で鉱物を探していたら、遺跡を見つけて中を探索した。遺跡の奥ではミイラの様な物があって、胸に綺麗なペンダントを付けていた。

 高値で売れると思い、ペンダントを取ったら急にミイラが起き上がって自分の中から何かを引き抜いたと感じたらしい。

 千代田さんは怖くなって逃げたけど、ミイラから離れれば離れるほど自分の体が重くなったみらしい。

 それで、ここで会った同級生の今井君と横嶋君に助けを求めたけど、見返りに身体を要求されて困っているとの事。


「要するにそのミイラが今問題になってるリッチなんですね」

「そうだと思います」


「ペンダントを返す気はあります?」

「はい……。でも、そのペンダントを今井君達に盗られちゃって……」


「それなら以前に依子が千代田さんに話しかけた時に協力してもらって取り戻せば良かったのに」

「それは……私の父の会社が七星財閥に潰されたので、どうしても許せなかったし、死んでも頼りたく無かったんです」


「なるほどね。でも七星家がそうであったとしても、依子は関係ないからさ。ひとまず水に流そうよ」

「はい……」

(わたくし)が謝った所でどうにもなりませんが、謝罪しますわ」

「いえ……。こちらこそ、あの時に酷いこと言ってすみません」


「では、方針が決まったね。今井君たちを少し教育してあげよう」

「あの……今更ですが、あなたは誰なんですか? こちら側の住人の方に見えますが」

「僕は矢吹光一だよ。ヨルさんの適当な采配でハイエルフにされちゃったんだ」


「矢吹君!? 物凄く可愛いとはいえ、女の子にされちゃったんですか」

「よく間違えられるけど、僕は男のままだからね。それよりペンダント取り戻しに行こう」


 僕たちは立ち上がり、今井君たちが屯っている併設された酒場に向かった。


「七星じゃん、また来たのかよ。抱いてやるからこっち来いよ」

「小さくてスゲェ可愛いのも居るじゃん! たまんねぇなオイぃぃ」


「うん。相手してあげるからついてきてよ。依子もたっぷり相手してくれるってさ」


「いやっほぉぉぉ! 俺が先に七星な!」

「俺はそっちのロリの方が好みだからいいぜ!」


 僕は指でクイクイって誘って歩き出した。


 人気のない場所に行くと二人の手を取って牧場近くの森へ転移した。



「あぐぅぅぅぅぅぅ痛い、痛い、助けて!」

「何だよ話と違うじゃねーか! いてぇよ、離せ」


 今井君たちは、大きくなったみーちゃんに足を踏み潰されている。面倒なので即教育だ。


「リッチの件もあるし時間無いからさ、足が使い物にならなくなる前に千代田さんから取り上げたペンダント返してよ」


「ふざけんな! お前らかんけーねーだろぅ、ぐぐぅ」

「欲しいならカァネ出せよ! オメーラ泥棒かよぉぉ」


「みーちゃん、もっと体重かけて欲しいって」

『わかったニャ』


ベキベキッって嫌な音がした。


「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「返す気になった?」


「返すから! やめてぇぇぇ」

「もう止めてくだざいいぃ……ギャァァ」


 みーちゃんが足を退けると、二人は泣きながらペンダントを返してきた。

 素直に返せばこんな痛い目に合わなくて済んだのにね。

 

 驚愕の表情の千代田さんにペンダントを返し、二人を聖女の癒やしで軽く治してから、聖女のゆらめきで北の街外れまで飛んだ。


「少しいいですか? さっきから瞬間移動したり、喋る猫が大きな狼になったり、心が追いつきません」

「こういうスキルだと思ってくれればいいよ。千代田さんの土魔法だって魔法で土が操れるとか意味わからないのと同じだよ」


「……わかりました」


 僕たちは竜車に乗って北へ走った。海へ続く道は広く平らに均されてたのでかなりのスピードで進んだ。

 この道は乗り物的にいい感じなので、後でモリモリと来てバイクで走ろう。

 やがて遠くに海が見えてきた頃、冒険者の集団と思われる人たちが見えてきた。


「人がいっぱいぐったりしてるね」

『リッチのエナジードレイン食らったんだと思うニャ』


「でも、ぐったりしてるだけで、死んでる人は居ないね。リッチに舐めプされてるのかな」

『わからないニャ。リッチは精神を病んでる場合が多いから油断してはダメニャ』



 更に進むと、冒険者の集団が右手の森に集まって何かしているのを見つけ、竜車を降りて僕たちはそこに向かった。

 リーダーぽい人が居たので話しかける。


「すみません。リッチはどうなりました?」

「あぁ? 子供がこんな所に来て何してんだ?」


「僕たちはアンデッドに対抗出来る聖のスキルを持ってます」

 そう告げて、僕と依子で聖女の癒やしを使い、ぐったりしてる人達を回復した。


「なんだこれ……すげえな。これならいけるかもしれないな」

「問題ないです。僕たちはその筋のプロですので」


 しれっと嘘ついて、リーダーに状況を聞くことに成功した。

 簡単に纏めると、近付くとエナジードレインで倒れる。弓などは効かない。以上だ。


「では、僕たちが行きます。倒した場合でも報酬は要りませんので、ご心配無く」

「そういう訳にはいかないだろ。何が目的なんだあんたら」


「僕たちは魂を取り返せればいいだけなんですよ」

「取られた奴が居たのか……。わかった。だが、俺達は近付けん。何かあっても助けられないぞ?」


「問題ないです」


 こうして僕たちはリッチが居る場所へと向かったのだが……あれがミイラのリッチ?

 見た目ユリナと同じぐらいの少女が異様な雰囲気を放ってこっちを睨んでいた。


「ママのペンダント返せ!」

 リッチが放った黒い影のようなものが僕たちを襲う。しかし、それはみーちゃんのバリア的な物のおかけでかき消された。


「ペンダントを返しに来たんだ。だから、千代田さんの魂を返してもらえないかな?」

「ごめんなさい! あなたの大切な物と知らなかったの」

 千代田さんはペンダントを両手に持って土下座姿勢で謝罪した。


「許さない! その女は生きたまま引き裂いて苦しめた上で殺す」


「君がどうしてそこまで怒っているかは僕にはわからない。だけど、させる訳にもいかないんだ。取引に応じて欲しい」

「断る。その女を置いて帰れ」


 埒が明かなそうなので、僕は千代田さんの手からペンダントを取り、リッチへと歩みを進めた。

『コウイチ危険だニャ。さっさと収納すれば済む話ニャ』

「僕はあのリッチが危険とは思えないんだよね」

『見た目に騙されてはダメニャ。リッチは膨大な生贄を使い、其処へ至る怪物ニャ』

「ダメそうなら即収納するよ」


 僕はリッチの目の前まで近づき、リッチの手を取りペンダントを握らせた。


「……ありがとう」

「お礼を言えるなんていい子だね。よしよし」

 ユリナを撫でるようにサラサラの髪を撫でた。


「マ……ママ!」

 リッチは僕に抱きついて泣き出してしまった。その身体はとても冷たくて、何故かとても悲しい気持ちになった。

 リッチが落ち着くまで撫でていると、僕に抱きついたまま眠った。……どうしよう?


「ほら、悪い子じゃないんだよきっと」

『演技かもしれないニャ。リッチは狡猾だから油断するニャ』


 みーちゃんは僕の肩に乗って油断なく寝てるリッチを見つめている。その目は鋭い。

 このままでは居られないので、リッチの背中をぽんぽんと叩いて起こした。


「それで千代田さんの魂なんだけど……」

「返す」


「いいの?」

「いい。返すし殺さない。でもママになって欲しい」


「僕は男だからママにはなれないよ」

「ママはママだよ」


「みーちゃんどうしたらいいかな?」

『ミーは即収納を勧めるニャ』

「でも可哀想じゃない?」

『コウイチは子供に甘すぎるニャ』


 みーちゃんと相談していると、リッチは僕のローブをめくり、中に着てる服の下から潜り込んできた。


「ひゃっ! つべたい!」

『どうしたニャ! 今消し飛ばすニャ!』


「いや、大丈夫だから。冷たいけど」

『リッチと接触してるだけで危険だニャ。今すぐ収納した方がいいニャ』


「あたたかい……ママ」


「ほら、無理だよ、こんな子を倒すなんて」

『ぐぬぬ……コウイチはミーだけのママでありパパなのニャ』

 可愛いことを言うみーちゃんをモフりながらクンカクンカしまくる。猫の匂いって落ち着くよね。


「うひぁっ」

『どうしたニャ!』

「い……いやなんでもない。くすぐったくて」


 リッチが僕のおっ○いを吸いだしたなんて言えないよね。ママってこんな気持だったのか。カナの気持ちがちょっと解った気がする。

 今度からもっと強めに吸おう。

 とりあえずリッチをお腹の中に入れたまま、依子と千代田さんの所へ歩いて行った。


「だ、大丈夫なんですか? でも、何かを取られた違和感はもう無いです。返してくれたみたい」

「矢吹様、あまり危険な事は心臓に悪いです。みーちゃん様が居なければ(わたくし)が聖女の光を放っていたところですわ」


「ごめんごめん。でも、このリッチがそんな悪い子に見えなくてさ」

「その子はどうなるさのですか?」


「とりあえずは、この子から事情を聞こうかと思うよ。ふひゃッ」

「矢吹様?」


「冷たくてくすぐったいだけだから大丈夫だよ。それより事態は終息したのを伝えに行こう」


 僕たちはリッチを連れて冒険者たちの所へ向かった。リッチはこちらで引き取ると根気よく説得して一応納得はしてもらえたかな。

 見た目が幼い少女なので、冒険者の人たちも攻めあぐねていたのもあったみたい。ただし、引き取るのは構わないが、モルトの街には連れて来ないで欲しい言われた。


 冒険者たちも引き上げ、一応事態は終息したのでリッチを服の中から出して、事情を聞く事にした。


「君はこの遺跡で眠っていたみたいだけど、中で何をしてたの?」

「わからない。ママがアリスに魔法で何かしてたのは覚えてる。揺らされて起きたらママのペンダントをその女の奪われたの」 


「アリスという名前なのか可愛いね。でもリッチとしての力はちゃんと使えてたみたいだね。使い方はどうやって覚えたの?」

「なんとなく使い方がわかるの。リッチが何かはわからないけど」


「ねぇ、みーちゃん。これってアリスのママが何らかの理由でこの子をリッチにしたとかじゃないのかな?」

『嘘をついてる可能性もあるニャ。あまりその娘の言うことを鵜呑みにしてはダメニャ』


「アリスうそ言ってないもん!」

 アリスが怒ると、それに伴い危険な瘴気が吹き出したので、僕はアリスを抱いてその場から少し離れた。


「ごめんママ。アリスどうしたらいいかわからない」

「僕はアリスの事を信じる。その代わり、リッチの力は無くさせてもらうけど良い? 普通の人間に戻るんだ」


「いいよ! アリス自分が怖いもん」

「わかった」


 僕はアイテムボックスから特製ポーションを取り出し、アリス顎を持ち上げて小さな唇に差し込んだ。

 もうすっかり慣れ親しんだ例の演出ににっこりしながら闇が晴れるのを待った。


『そういう使い方するとは思わなかったニャ』

「でも上手く行ったみたいだよ」

『ヨルの気持ち次第で、どっちにも転ぶ危険なやり方だったニャ。お礼を言っておくと良いニャ』

「そうするよ」


 僕を見つめてるアリスはぽかーんとしている。やばい雰囲気など全く無い可愛い少女だ。


「ママー!」

 アリスはまた僕の服の中に潜り込んできた。今度は温かい。嬉しくなるね。


「この遺跡はどうされますか? 危険ですので埋めてしまった方が良いと思いますわ」

「一応中にある物全部回収するよ。そして埋めちゃおう。埋める時は千代田さん協力してね?」

「はい。頑張ります」


 アイテムボックス+9の僕は、遺跡に入るまでもなく全ての物を収納した。今ならミスリルゴーレムだって外から収納出来そうだ。

 ここまでチートになると逆につまらないので、ミスリルゴーレムはちゃんと中に入って回収してくるけどね。


「千代田さんもう埋めていいよ」

「え? 中に入らないんですか?」

「もう全部スキルで収納したから」


 釈然としない千代田さんだったけど土魔法で遺跡をあっと言う間に埋めてしまった。土魔法凄いな。


「さて、これで僕たちの仕事は終わった。アリスは連れて行くとして、千代田さんはどうする?」

「もしかして私も連れて行ってもらえるんですか?」


「千代田さん次第だね」

「行きます! 私、矢吹君の為になんだってします! 今井君達には拒否しましたけど、矢吹君なら抱かれてもいいです」


「そういうのはいいので。それに依子は僕の嫁なので、そんな話はやめてね」

「中東の超イケメン王子様の求婚を蹴ったとして有名な七星さんをお嫁さんにしてるなんて……矢吹君本当に凄い」


「依子ってモテてたんだね」

「矢吹様程ではありませんわ」


「あはは……これもチートのせいだと思うよ。困ったもんだね」


 僕はその場の空気を誤魔化すようにみんなを連れて屋敷へ転移した。



◆◇◆◇



「お兄ちゃんなんでお腹膨らんでるの?」


 僕はローブを開いて中をユリナに見せた。

「この子はアリスって名前の子なんだ。今日からここに住むからから仲良くしてあげて」


「いいよー! アリスちゃん遊ぼ」

「アリスはママの服の中がいい」

 そう言ってまた服の中に潜り込んできた。くすぐったいし、吸われるのでちっょと恥ずかしい。


「ユリナも中に入る!」

 ユリナまで潜り込んできたぞ。やめて! 服が伸びてしまう。この服高いのに……。


 

「矢吹っち、千代田さんを嫁にするとか言わないよね?」

「言わないよ。住む所が無いみたいだから連れてきただけだし。依子に聞けばわかるよ」


「千代田有希子です。みなさんよろしくお願いします!」


 みんなとも挨拶も済み、買ってきたお肉で芽衣子と渚に早速料理してもらう事にした。

 僕が食べたかったすき焼きだ。楽しみ過ぎて、服が伸びる事も忘れて喜んだ。



「うめぇぇぇぇ! なんだよこの肉美味すぎだろ。矢吹でかした!」

「ほんと美味しい。コウちゃんこのお肉高くなかった?」

 みんなにも好評のみたいだ。僕なんて言葉を忘れて食べまくっている。佐藤君は肉の吸収マシンみたいだ。


 ユリナがアリスにお肉とってあげてたりする姿にほっこりしながら食べ続けた。


「あ、あの……卵を生で食べるのは危険なのでは?」

 こっちの世界のミリアスさん的には肉を生卵に付けて食べるのは非常識な行為に感じるらしい。そりゃそうだよね。


「僕が卵からサルモネラ菌を分離してるから大丈夫だよ。安心してどんどん食べて」

「は、はい」

 恐る恐るといった感じで卵につけてお肉食べたミリアスさんは、あまりの美味しさにフォークが止まらなくなったようだ。


 メイドさん達も我慢してるの辛そう。一緒に食べればいいのにね。何度言ってもそれは出来ませんと、受け入れてくれなかった。

 

 限界まで食べた僕はぽっこりお腹のまま、ユリナとアリスを連れてお風呂に入った。

 アリスに色々教えてあげるお姉ちゃんユリナが可愛い。種族は違うけど姉妹みたいで癒やされる。

「ママ、お腹に赤ちゃんいるの?」「お兄ちゃんの赤ちゃん?」

「これは食べすぎだからね。二人はこんなに食べちゃダメだよ。げふぅ……」



 今日は恵の日だったけど、恵も食べすぎてお腹ぽっこりで苦しかったので、お今日は普通に寝ることにした。

 ユリナとアリスはすぐに寝ちゃったみたい。子供たちの寝顔は本当に可愛いな。


 僕も恵とキスをしてから寝ようと思ったけど、結局止まらなくなって静かに愛し合った。いつかの宿を思い出すね。

 不完全燃焼だけど、このまま寝る事にした。おやすみ。



 ユサユサ……


「ん……?」

「今から始める」


 エリカは周りの時を止めると激しく蹂躙しだす。

 目が妖しく赤く光り、ただひたすら絞り取られていく。


「ふぅ……そういえばこの前、唯に匂いを嗅がれてなんでバレなかったの?」

「貴方の精は全部吸収して妾の血となっている。中に何も残らない」


「凄い体質なんだね。あとオリハルコンが弱点と聞いたけど大丈夫?」

「弱点は二万年以上前から克服している。安心して欲しい」


「それなら色んな意味で安心したよ」

「良かった。では。続きだ」


 時が止められた空間で永遠を感じながら、僕が寝落ちするまで蹂躙は続いた。



 そして丑三つ時に妖怪バール娘が来る事を忘れていた。聖女の光を使ってない。


「ふぁにふぃっふひぃひぃふえふんふぇふふぁ?」


「あ、唯……」

「ぷはぁ、何か驚く事でもありました? はむっ」


「はぐぅ……いや、ほら今日からアリスも居るしさ」

「ぷはぁ、なんか怪しいですね。はむっ」


「ふみゅぅ……妖しいのは唯だよ……」

「ぷはぁ、そういうの好きですよね? はむっ」


「おうふっ……は、はい」


 今日は妖しい建築基準で釘を抜いて行った。強度不足になるから程々にね!

 


 ふぅ……。目が冴えちゃったな。匂いでバレなくて良かった。

 そういえば、アリスが居た遺跡にあった物を見てなかった。アイテムボックス内でちょっと調べてみるか。


 色々な物がある。オリハルコンのインゴットだ。凄いの見つけちゃったよ。ミスリルのインゴットもある。

 魔鉄という金属も見つけた。これは高品質な鉄が魔力を帯びた状態の物みたいだ。


 後は薬が多いな。劣化で殆どがゴミになってるぼい。

 紙に描いた魔法陣らしき物もあるけど、これも劣化で原型を留めていない。


 一つ原型を保っている手紙を見つけた。アリスへの手紙らしい。きっと母親からだろう。

 本来ならダメな行為だけど、リッチの件もあるし一応読んでみるか。


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アリスへ


アリスの命に比べたら千の命でも釣り合い取れないわ。

いっぱいいっぱいいっぱい殺して全部アリスにあげたの。

昨日は50人殺して捧げたわ。

今日はママの命をあげるからね。


これを読んでるという事は無事に生き返れたと思うの。

ママを眷属として蘇らせてね。

二人でいっぱい人を殺して長生きしましょう。

アリス愛してるわ。


ママより


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 これは見せられないな。

 悲しいほどに歪んでしまった母の愛は僕のアイテムボックスの中に仕舞っておこう。


 ……なんか眠れなくなっちゃったよ。

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