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37 オークの集落

「エリカは僕の護衛として雇ったという形で、みんなには伝えるからね? 僕の后になるとか言う話は嫁たちに言わないでね」

「心得ている」


 あれから僕とみーちゃんとエリカは屋敷に戻った。不安だったので屋敷に入る前にもう一度エリカに確認したよ。

 屋敷に入ると、当然エリカに視線が集まる。綺麗な黒いドレスを身に付けた白銀の髪をした美しい少女なので、いずれにしても目につくが。


「こ、この子は僕が護衛として雇ったエリカだよ。みんな仲良くしてあげてね」

「その子が護衛できる程強そうには見えないけど……。コウちゃんそれ本当?」


「本当だよ。それに、この子はみーちゃんに匹敵するぐらい強いらしいよ」

『ミーに匹敵は言い過ぎニャ。仮にそいつが万全の状態でも精々ミーの十分の一程度ニャ』

「ほう。では勝負してみるか? フェンリルの思い上がりは甚だしいな」


 一見、三毛猫と少女の口喧嘩だけど、二人共やばいオーラを放ち出したので、屋敷の中がパニックになりかけた。

 急いで、二人を止めて落ち着かせる。


「こんな感じで人とは隔絶して強さだから問題ないよ」

「矢吹君の護衛ならいいんですけど……。ちょっと失礼しますね」

 唯は足早にエリカに近づくと、スカートをめくり中に潜ってクンカクンカを始めた。


「ちょっ、何してるの唯!」

「貴方の嫁はこういう趣味でもあるのか? 少しこそばゆいぞ」

 エリカは特に動じてもいない。凄いなこの子。


「ふぅ……。矢吹君の匂いがしないのは確認しました。いきなり失礼しました」

 犬ですか君は。そういうプレイなら僕の前だけでやって欲しい。


「おいおい矢吹、なんだよそのファンタジーロリ系美少女は! 俺に紹介しろ!」

「サトシーーーーーーー!」


「モリモリはリリさんというファンタジー系最強の猫耳美少女が居るでしょ」

「そうだけどよー、こういう妖しいロリ系はまた別腹じゃん?」

「サトシーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 ついにモリモリはリリさんに噛みつかれてしまった。怒った猫は怖い。


 こんな茶番を続けているとエリカが一歩前に出て右手を少し上げた。

「自己紹介をしておこう。妾はエリカ・ミラードだ。種族は吸血鬼だが、人を襲ったりはせぬゆえ、安心せよ」


「吸血鬼? 大丈夫なの矢吹っち」「吸血鬼って何? ヤバいの?」「コウちゃん本当に大丈夫?」「少し怪しいです」

「妾っ子吸血鬼キタァァァァァァァ! 矢吹ぃ、その子くれぇぇ」

「サトシーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 モリモリはそろそろ落ち着こう。リリさんにマジ噛みされるよ。

 僕自身確証は持てないけど、一応エリカのフォローはしておこう。


「吸血鬼だけど、大丈夫らしいよ。血は飲まないで、普通にご飯食べて暮らせるらしいから」


「生娘の血であれば飲んでも良いぞ」

 妖しい笑顔を浮かべたエリカはギャルたちとメイドさんとユリナをチラっと見た。


「ダメだからね! ユリナやメイドさん達を噛んだら絶対に許さないから」

 僕はユリナを抱きしめてその場から離れた。こいつ本当に大丈夫か? 僕も不安になってきたよ。


「ちょっと! なんであたしら庇ってくれないんだよ!」「酷いわぁ……」


「わたしも庇いなさいよ! 智もスルーしてるし!」


「え? 清水さんって昔モリモリと付き合ってたのに処女だったの?」

「智は幼馴染だし、そういう事する雰囲気じゃなかったのよ。別にいいでしょ、そんな事」

「あー、一度しようと思ったけど無理だったんだわ。アレが反応しなくて」

「智!」「サトシーーーーーーー!」


 こっちはこっちで修羅場のようだ。放っておこう。


「安心せよ。断りもなく吸ったりはせぬ。妾に血を捧げたいと言うのであれば来ると良い」

「じゃあ、俺が吸われたいです!」

 佐藤くんが興奮気味に前に出てきた。目が血走っていて怖い。


「童貞でも男の血は要らぬ。下がれ」


「そんなぁ……」

「達哉~繁華街に良い店見つけたから連れてってやるよ。そこで卒業してこい」

「マジか! 行く行く!」

「智そんな所行ってるの? マジキモ」「サトシーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 モリモリはもうダメだ。放っておこう。



 こんな話が暫く続き、一応エリカはみんなに受け入れられてもらえたみたい。自己紹介をし合っていた。

 七星さん達は鋭い目でエリカの事を見ていたので信用していないのかもしれない。前途多難だ。


 とはいえ、吸血鬼がこの世界でどれぐらい認められた種族か解らないので、僕としては不安が尽きない。

 メイドさんや執事の人が出ていってしまったらどうしよう。


 でも、サキュバスでありながら、冒険者ギルドマスターやってるエルメスさんみたいに人も居るし、大丈夫なのかな?

 明日冒険者ギルドに行って聞いてみるか。




 夕食とお風呂も済み、ユリナを寝かしつけたら今日は依子の部屋だ。


「あの吸血鬼とやらは危険な匂いがします。(わたくし)は不安ですわ」

「みーちゃんが目を光らせてるから大丈夫だと思うよ。それに僕を殺す気ならとっくやってるでしょ」


「そうかもしれませんが……」


 依子が身体を預けてくる。綺麗な瞳で上目遣され良い香りでクラクラするよ。


 最近依子はお寿司で有名なお魚さんから少しだけ卒業した。

 ヒレがピチピチ動く程度だけど。

 この一歩は大きい。

 スレてない天然高級魚を魚を釣るのは楽しいのだ。

 ゆっくり育って欲しい。


 対して、赤坂さんと青山さんは凄い。

 入れ食い状態とはこういうものなのかと実感する。

 だが、釣りとしては面白くない。

 餌を撒いてただ食べ尽くされるだけの事務的行為に思えてしまう。

 もっと釣りの駆け引きしようぜ!

 こっちは早急になんとかしたい。


 僕はとれとれピチピチの美女三人を連れて自室に戻った。

 ユリナの寝顔を見ると安心するよね。ユリナと二匹をなでなでしてから眠りについた。


 そして気が付くとエリカが居た。


「起きてしまったか。もう済ませたので妾はもう行く。血の汚れも綺麗にしたから安心して良い」

「え? なんでいつも寝てる時に」

「次からは起こすか? 貴方が寝不足になっては困ると思ってな」

「出来れば起こして欲しい」

「相わかった。それでは」

 エリカはキスをすると何事も無かったかの様に闇に溶けて消えていった。

 さすが吸血鬼。去り方がカッコイイ。

 唯に感づかれたくないので一応聖女の光をかけておくか…。布団に中にあまり光らないようにしてスキルを放ってからまた寝た。



そして丑三つ時。妖怪バール娘のお仕事の時間だ。


「ふぇふぁーふゃはふ」


「……ちょっと痛いんだけど」

「ぷはぁ、矢吹君は吸血鬼が好きみたいだから唯も噛んじゃいます。はむっ」


「はふぅ……唯の方がよっぽと吸血鬼ぽくて好きだよ」

「……ふぁいふぅひぃへふ」


 今日のバール娘は丁寧な仕事をして帰って行った。さすが釘抜き職人だ。



◇◆◇◆



 翌朝、朝食を終えた僕は冒険者ギルドに行くことにした。この世界においての吸血鬼の立場を知りたいので。

 だから僕一人で行く事にした。当人の前で吸血鬼ってどうなのー? なんて聞くのも気が引けるし。

 エリカは付いてこようとしたけど、みーちゃんとくーちゃんがが居るから大丈夫と断った。


「ここに来るの久しぶりだな」

 三毛猫を抱っこして闇猫を連れた魔法少女みたいなのがギルドに入ってきたから、いつも通り僕に注目を集まる。


「あ、エリオ。久しぶり! どうして闇猫と一緒に居るの?」

 声をかけてきたのは以前ここで会ったグレーマさんだ。クマ獣人の女の人で長身マッチョでカッコイイ。顔も愛嬌があって可愛い。


「グレーマさんお久しぶりです。この子は一緒に暮らしてる家族みたいなものですよ」

「闇猫と家族って、エリオはヨリュア様の使徒だったの?」


「違いますよ。気が合って一緒に住むようになっただけです」

「そうなんだ、闇猫と気が合うとか凄いね! そうだ、これから私と一緒に依頼受けてもらえないかな?」


「どんな依頼ですか? ギルマスと話をしてその後ならいいですが」

「オークの集落潰す仕事だよ。私ランク低いから一人じゃ受けさせてもらえなくて」


「僕なんてGランクですよ。僕が居ても意味ないような」

「大丈夫だよ。二人なら。多分だけど……」


 とりあえず、これもエルメスさんに聞いてみるか。僕は一度グレーマさんと別れて相談カウンターへ向かった。


「あらあら、ギルドの規定を破ってまでして通信に協力したのに、今までお礼の一言も無かったエリオさん。こんにちは」

「うっ……。その節は大変お世話になりました。そしてお礼と挨拶が遅れて申し訳ありません」


「いいのですよ。お礼は私の家に来てもらって、たっぷり頂きますから」

「それってまさか」


「そのまさかです。ローランに美味しかった等と自慢された私の気持ちわかりますか?」

「はい……。申し訳ありません」


「それではエリオさん。今から行きますよ」

「ちょっと待って下さい、グレーマさんと依頼に行く約束してまして、その件ででも話があって来たんです」


「オークの集落の件でしたらエリオさんと一緒ならば許します。ですが、それは明日以降にして下さい」

「はい……」


 グレーマさんに明日なら行けると話を付けた途端、首根っこ掴まれてエルメスさんの屋敷をと連行された。


 ベッドに押し倒された僕は何が始まるのかとちょっと期待したら、エルメスさんは僕の横に寝転び、両手を胸の前で組んで、目を瞑って唇を突き出した。

 もしかして僕が主導してするの? あまり無い展開に僕は嬉しくなって頑張ってしまった。

 無茶してごめんなさい。


「はぁ……。旦那様のをやっと貰えたわ。幸せ」

「エルメスさんって意外と乙女な感じだったんですね」


「実際乙女だもの。もう旦那様に乙女じゃなくされちゃったけど」

 エルメスさんは僕の腕の中に潜り込んできて、胸に顔を埋めた。その仕草はほんと可愛くて、再びクレーン車が梯子を伸ばしたのは仕方がないよね。


 その後、基礎工事がまた始まったのは言うまでもない。


「ふぅ……。でもエルメスさんって、まるで沢山の男性遍歴があるような発言してましたよね。倦怠期が来るとかそんな話」

「過去に敵対した男をエナジードレインで倒した時に、その記憶が入ってきて知ってるだけよ。もしかして妬いてくれたのかしら?」

「そうかも……」

「旦那様ぁぁ」


 基礎工事は更に進んだ。


「それで旦那様は私に何が聞きたかったのかしら?」

 エルメスさんに気怠く僕の胸を指でなぞりながら言われて、当初の目的を思い出した。


「吸血鬼に懐かれちゃって、護衛にしたんですけど、吸血鬼ってこの世界ではどんな存在なんですか?」

「この世界? 旦那様は時々変な聞き方するのね。吸血鬼はあまり表に出ない種族だから、一般にはあまり知られてないと思うわ」


「一般的に、血を吸われるー逃げろー! みたいな怖い存在じゃないっていう認識でいいんですかね?」

「吸血鬼は相手に同意が無いと血を吸えないヨリュア様との盟約があるの。それは常識として知られているから問題ないわ」


「なるほど。それなら安心しました」

「私は安心出来ないわ。その吸血鬼は真祖よね? 契った吸血鬼が死ねば旦那様も死ぬ。不安で仕方ないわ」


「や、やっぱり、そういうの解っちゃうんですか?」

「当然よ。サキュバスは結ばれた相手の性遍歴を追うことが出来るの。ローランには私の為に断ってくれたと聞いて嬉しかったわ」


「でも、吸血鬼のエリカはレベルが二百万を越える強者ですよ?」

「真祖だものね。でも吸血鬼には明確な弱点があるから無敵なわけじゃないの」


「どんな弱点あるんですか? 陽の光とか?」

「いいえ。オリハルコンが弱点よ。オリハルコンを鏃にして弓で心臓に射られたら即死すると聞くわね」


「そんな物で心臓射られたら誰だって死ぬのでは? それにオリハルコンなんて滅多に手に入らない気がします」

「そうでも無いわ。私でも魔力で覆っていれば矢は防げるし。オリハルコンは旦那様の店でも売ってると聞くわよ。少ないけど他にも流通してるわ。」


「そういえばエリオ商店にあったかも……。でもあの店は嫁はが経営してるので、僕の店じゃないですよ」

「オーナーは旦那様で登録されてるし、売上金の多くは旦那様のギルドカードに入ってるよわ」


「そうなの!? 知らなかった」

「ちなみに今日から私の財産も旦那様と共有だから好きにしていいのよ。ここに住んでくれると嬉しいけど、そうもいかないのよね?」


「それは……ごめんなさい」

「じゃあ今日はもっともっと可愛がってね」


 それから夕方まで肉の宴は続いた。ハイエルフが特殊な体質なのか、無限の原油産出量のおかけで枯れずに済んだ。

 

 しかし、体力は失い、重い体を引きずるようにして帰った僕は崩れるようにベッドに寝転んだ。おやすみ。


『もはや供給ポンプだったニャ』

「もう少しマイルドに言って欲しかったよ……。おやすみ」



◆◇◆◇



 翌朝、体はすっかり回復していた。

 凄いな。文字通り精も根も尽き果てた状態からでも一晩で回復するなんて。


 朝食を摂った僕は、ユリナとしばらく遊んでから冒険者ギルドに向かった。

 お供はみーちゃんとごーちゃんを連れてきた。ごーちゃんは機械兵のままだと目立つので、他のゴーレム同様、鎧のボディを新造して核を移し替えたので見た目は冒険者だ。


「エリオー!」

 冒険者ギルドに入るとグレーマさんが走ってきた。身長は2メートル以上あるので、凄い迫力だ。


「おはようございます。準備は出来てますか?」

「バッチリだよ! それで、その子は誰?」


「この子はゴーレムのごーちゃんだよ。かなり強いから頼りになるよ」

「ゴーレムに見えないけど、本当に? 猫は連れて行って大丈夫なの?」


「はやくいこー」

「えー? ゴーレムなのに喋るの?」


 話が進まないので、グレーマさんの手を引いて冒険者ギルドを出た。

 オークの集落は北東にあって、ギリギリまで竜車で行き、そこからは歩いた。


「バッサ、バッサ、と斬りまくりー♪」

 ごーちゃんが変な歌を歌いながら藪をミスリルの剣で斬って進む。僕たちはその後に続いた。


「ところで、オークの集落って何匹ぐらい居るんですか?」

「20匹ぐらい居るみたい。でも、それ以上って事もよくあるし油断できないよ」


「了解。もしかして捕まってる女性が居るとか、そういう事ってあります?」

「あー。性のはけ口にされちゃうアレね。稀にあるみたいね。そうだった場合は面倒だねぇ」


「そうでない事を祈りましょう」


 僕たちは藪を斬り進み、本来遠回りしなければならない道を真っ直ぐに進んだ。

 一時間程進んだ頃、酷い匂いがしてきた事に気が付く。


「臭いでしょ? これはオークが糞を撒いて縄張り主張してるせいなんだ」

「すると、ここはもうオークのテリトリーですか?」


「そうだよ。油断せずに行こう」

 グレーマさんは大きな弓を出して構えた。僕も新兵器を出して構える。


 この新兵器はボックス内クラフト中に錬金術を使えると気が付いた僕が造ったアサルトライフルだ。

 ただし、パワーソースは火薬ではなく、地竜がブレスを噴くのに使う謎物質。これを抽出して薬莢に詰め、銅の弾を飛ばす仕組み。

 これは爆発的なパワーを産むのに何故か音がしなくて使い勝手が良い。でも、弾が音速を越えると音が出るのでサプレッサーを開発した。

 ソニックブームの原理を先生に聞いて、錬金術を用いて理を曲げて造ったので、ほぼ音はしなくなった。

 こういう物理法則は地球と同じなのね。


 慎重に進んでいく僕たち。緊張するね。

 みーちゃんがたまに虚空を見つめている。連れては来なかったけど多分エリカが潜んでいて、それを見てるのだろう。


 暫く進むとオークの集落が見えてきた。10匹程が焚火をして鹿を焼いて食べている。

 オークって調理するんだね。知らなかったよ。


「どうします? ここに居る奴ら撃ちますか?」

「もう少し様子を見てそれからにしよ?」


 オーク達を見ていると、代わる代わる小屋に入って行き、何かを順番でしているようだ。


「あちゃー。これは小屋の中に人間の女が居るかもね。声も聞こえないって事はもう死んでるのかも」

「だとしたら、もう撃ちましょうよ。中に居るかも知れない人が気の毒です」


「……そうだね。私は左、エリオは右からお願い」


 グレーマさんは素早い弓捌きでオークの額に矢を撃ち込む。僕は木の上から銃撃して次々に撃ち倒して行く。何頭かがこっちに気付いて走って来たけど、ごーちゃんが一撃で斬り捨てる。

 飛び道具である程度倒してから、ごーちゃんを先頭に突撃して集落に居た31匹のオークは全部倒すことが出来た。


 小屋の窓から石を投げつけてくる個体が居たが、素早くグレーマさんが飛び込んで中に居たオークをあっさりと斬り伏せる。僕も小屋に入ると、部屋の隅に震えて固まる子供のオークたちも居たが、グレーマさんが即蹴り殺した。容赦が無い。

 脅威を取り除いた後、例の小屋に入る。


 中には既に死んでるメイドさん三人と、ボロボロのドレスを着て瀕死状態の女性が居た。

 下半身は血まみれで、お腹の方まで裂けてる。何があったかは言われなくても解る。


「エリオ。この子はもうダメだから止め刺してあげよう。私がやるから」

 グレーマさんはそう言って、腰からナタを抜いて振りかぶった。


「待って! まだ助ける事は出来ます」

「無理だよ。そこを退いて」


「じゃあ、10秒程でいいから待って下さい」

 僕は特製ポーションをアイテムボックスから取り出すと、彼女の顎を持ち上げて口に流し込んだ。


 辺りを闇が包み込み、輝く星々の様な猫の目が光る。


「エリオ……。それってもしかして闇の雫? やっぱりエリオってユリュア様の使徒様だったんだ」

「違うからね。これは貰い物で、そういうのとは全然関係ないから」


「うぅぅ……。許して下さい……。もう許して……」

 女性が気が付いたみたいだ。色んな液で汚れていたドレスは綺麗になったけどボロボロだったので、毛布を出して巻いてあげた。


「気が付きましたか? もう傷は治したので大丈夫ですよ」

「……ハイエルフ? 私は……そう私は……いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 思い出してパニックになってるようだ。僕は彼女が落ち着くまで根気よく慰め続けた。


「すみません。取り乱しました」

「こんな目に合わされたのだから仕方ないないですよ」

 一度は落ち着いたものの、彼女は事切れているメイドさんたちを見つけて泣き出してしまった。


 不衛生なこんな場所に何時までも居るわけには行かないし、メイドさんの遺体とオークを回収してその場を離れることにした。


 歩いているうちに落ち着きを取り戻したのか、女性は話しかけてきた。


「私はヒイロ帝国のロイス子爵の次女ミリアスです。助けて頂きありがとうございます。失礼ですがあなた方は?」

「僕はエリオ、猫がみーちゃん。鎧の子がごーちゃん。クマ獣人の子がグレーマさん。全員冒険者ですよ」


「私はどうして傷が治ったのでしょうか? もしかしてあれは夢だったのでしょうか」

「凄い良く効く薬があって、それを使いました。お代は要らないので安心して下さい」


「やはり夢じゃなかったのですか……」

 また泣き出して崩れ落ちそうになるミリアスさんを、ごーちゃんが担いでしまった。


「はやくかえろーよ」

 ごーちゃんはマイペースに進んで行く。その無邪気さでちょっと場が和んだ。


「こういう場合どうすればいいですかね?」

「冒険者ギルドに連れて行って、事情話せば貴族助けたんだからお金貰えるんじゃない?」


「でも帝国ですよ? そんな上手く行きますかね」

「私もこんなの初めてだからわからないね。とにかく行こうよ」


「ですね」


 僕たちは森の開けた所まで来ると、そこに竜車を出してミリアスさんに中で着替えてもらった。

 清水さんがデザインした結構可愛いワンピースだ。ミリアスさんは美人だからよく似合う。

 僕を女だと思ったのか、僕の前で着替えて焦ったけどね。

 その後、竜車のスピードを上げてあっという間にヨルバンに着く。グレーマさんは依頼の報告に、僕はミリアスさんを連れてエルメスさんの所へ向かった。


「エリオさん、そちらの方は?」

「帝国貴族のご息女さんだそうです。オークに捕らえられていました。どうすればいいかエルメスさんに聞きに来ました」


「エルメスです」

「はい?」


「妻である私のことはエルメスと呼び捨てにして下さい」

「は……はい。わかりました。それでどうすれば良いですかエルメス」


「ギルマスルームに行きましょう」


 僕たちは、凄く嬉しそうなエルメスに連れられてギルマスルームに向かった。ミリアスさんの表情は暗い。

 三人とみーちゃんがソファーに座ると、エルメスがお茶を出してくれた。


「まず最初に、帝国と南側は敵対はしてないですが、友好的でもないのはご存知ですよね?」

「はい。詳しいことはわかりませんが」


「つまり帝国と交渉の窓口が無いのです。もし、彼女を助けた報奨が欲しいのであれば直接連れて行くしかありません」

「そういうのは要らないですね」


「私は……帝国へは帰れません。家が没落して落ち延びてきた上に、オークに純潔も奪われました」

「気持ち的には納得行かないかもですが、肉体の方は完全に元通りになってるはずですよ」


『闇の雫は傷を治すのではなくて、広範囲に浄化した上で肉体を万全な状態に戻す効果なのでコウイチの言ってる事は、ほぼ正しいニャ』


「猫が会話を……? それに闇の雫と聞こえましたが……」

「エリオさんといつも一緒に居る猫は何かあると思ってましたが、何かの化身なのですね」


「ともかく、異物も取り除かれ、肉体的には純潔の状態に戻ってます。忘れるなんて出来ないと思いますが、今は考えないようにして下さい」


「そんな貴重な薬を私なんかの為に……」


 その後の会話は平行線を辿った。

 エルメスはミリアスさんを領主館に連れて行こうとしたところ、ミリアスさんが僕のローブを掴んで離してくれないし。

 僕まで連れて行かれたくないから必死で抵抗したり。


 なんとか引き離して僕はロビーに向かった。依頼料を貰ったり、オークを売りに行かないとだしね。

 ロビーに戻るとグレーマさんが待っててくれた。 そして二人でオークを売りに行き、報酬も山分けにした。

 

 そして冒険者ギルドの前で、そろそろ解散しようかなと思ってると、グレーマさんが意を決したかの様に話しかけてきた。

「エリオやっぱり凄いよ! アイテムボックス凄いし、変な武器も凄いし! ねぇ、良かったらパーティー組もうよ」

「いつも一緒に行けるわけじゃないですが、それで良ければいいですよ」


「ヤッターーー! 凄い嬉しい!」

 グレーマさんはギルド入り口の屋根の天井スレスレまで飛び上がって喜んでる。


 異世界に来て結構な時間が経つけど、僕は初めて冒険者パーティーを組んだ。

 なんか嬉しいよね、こういうの。


「エリオ様ぁぁーーーーーーーー」

 そんなほっこりしている最中にミリアスさんが走って来て僕に飛びついた。


「聞き分けがないですね。行きますよ」

 エルメスは容赦なくミリアスさんを引きずる。僕も引きずられる。振り出しに戻ってしまった。


「エリオは私と打ち上げ行くんだよ。離して」

 グレーマさんはひょいっと僕を抱き上げて肩車した。


 めっちゃ目線が高い。これが高身長の見る世界なのか……。

 あ、あの受付のおじさん髪の毛薄かったんだ。


 後方で僕の名前を叫ぶミリアスさんの声がするけど、今まで見た事無い目線の高さを僕は暫く楽しんだ。


「グレーマさん、ちょっと待って」

「どうしたの?」


「エルメス、ミリアスさんはヨルバンに居たらマズイとかそういうのありますか?」

「没落貴族と聞きましたので、一般人と変わりませんよ。ですので問題はありまぜん」


「それじゃ、ミリアスさん僕の屋敷で引き取りますよ。助けて放置はなんか無責任な気がしてきました」

「エリオさんがそうしたいのならば構いません。ですが、この娘を欲しい帝国貴族が探しに来る可能性はあますよ」


「うちの屋敷はみーちゃんが結界張ってるから曲者は入れません。問題無いです」

「わかりました。後日そちらのみーちゃんさんについてもお話をお聞かせ下さい」


 渋々帰って行ったエルメスは何度もこちらを振り返っていた。


 僕たちは三人で打ち上げに行くことになり、モンルンの酒場で帰宅時間スレスレまで盛り上がった。



 そして屋敷に帰り、嫁たちの視線が僕を貫く。

 モリモリが僕を酒場で見てたらしくチクったせいで、酒場で女をお持ち帰りした疑惑の誤解は暫く解けなかった。


 やれやれだよ。

 

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