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36 委員長

 気が付くとソファーの上だった。そうだ、僕はみーちゃんにスキルを注入されたんだったな。


『どうかニャ? スキルは馴染んだかニャ』

「どうなんだろう? ちょっとステータス見てみる」



■■エリオ■■■


レベル 2050


種族ハイエルフ


年齢89歳



・アイテムボックス+9


・聖女


・錬金術+1


■■■■■■■■



 アイテムボックスが+9になってるね。

 あと、ステータスに錬金術が追加されてる。錬金術の項目を見てみよう。



■■■■■■


ゴーレム核作成

ゴーレム作成

ホムンクスルス作成

精製

創造錬金


■■■■■■



 スキル説明を見ていこう。


 ゴーレム核作成は、魔石を素材に核を作り出せるスキルみたいだ。

 ゴーレム作成は、あらゆる素材からゴーレム本体を作り上げるスキル。

 ホムンクルス作成は、生体パーツを素材に仮初の生命体を作り出すらしい。ある意味怖いスキルだ。

 精製は、文字通り、あらゆる物を精製できるみたい。先生もこれ使って薬作ってるのが今解った。大平君もこれで火薬を精製したのだろう。

 創造錬金は……魔力を代償にあらゆる物を創造できるらしいよ。何これ完全なチートじゃん。


「みーちゃん錬金術だけど、これやばくない? 創造錬金とかもう何でもアリじゃない」

『創造錬金は膨大な魔力を使うから、コウイチぐらい魔力が無いと意味がないスキルニャ』


「そうなの? ちょっとやってみるね」

 とりあえず、自分が使ってた音楽プレイヤーを創造錬金で作ってみることにした。

 スキル使ってみて解ったけど、確かに使おうとした時点で魔力をグイグイ持っていかれる。

 そして段々と明確になってくる音楽プレイヤーのイメージ。スキルが僕の脳にアクセスしてるのだろうか?


「発動!」


 滝の水が流れ落ちるように膨大な魔力を使い、アイテムボックス内に音楽プレイヤーが生成された。

 全身冷や汗が止まらない。多分、顔色も最悪になってると思う。熱中症で倒れた時みたいに辛い。


「出来た……。でも、ダメだ。倒れそう。こんなに魔力使うなんて想像もしてなかった」

『何を創ったニャ?』


「音楽プレイヤーだよ」

『構造を理解してない精密機器を作るなんて無茶するのは止めるニャ。下手すれば死ぬニャ』


「もしかしてパソコンやスマホだったらヤバかったかな?」

『多分スキルが発動しないと思うニャ。スマホなんてこの世界に必要無いから止めるニャ』


「でも写真とか撮りたいじゃない?」

『絵師のスキルを極めれば写真と変わらないニャ。唯に頼めばいいニャ』


「わかったよ。複雑過ぎる物は創らないにするよ」

『そうするニャ。あまりに危険と感じたらミーが錬金術スキルを没収するニャ!』


 みーちゃんに怒られてしまったので、創造錬金の使い方には注意しよう。没収されたくないし。

 この日は魔力使い過ぎて倒れそうなのでみーちゃんに乗って、ヨルバンに帰り休んだ。



◆◇◆◇



 翌朝、たっぷり寝たおかげで頭はスッキリした。寝る前に依子が聖女の癒やしを何度もかけてくれたおかげかもしれない。

 窓の外を見ると、まだ暗いし起きるにはまだ早いな。


 僕の腕の中では相変わらずユリナが寝ている。なでなでしながら錬金術の使い方を考えてみるか。

 アイテムボックス内で、ミスリルゴーレムの核に意識を集中して錬金術を発動してみる。

 ボックス内錬金でも凄いと思ったのに錬金術はもっと凄いや。プレ○テ1とプレ○テ5ぐらい処理能力が違う気がする。


 ミスリルゴーレムの核を書き換える。魔力を大量に込めて、強く、誠実に、騎士の様に、言葉を理解し、話す。……ゴーレム核作成発動!


 後はボディだな。バレットさんが着てたフルプレートアーマーを参考に、ミスリルゴーレムの素材を用いて鎧ボディを作り上げる。……ゴーレム作成発動!

 核は壊れない様に周りをミスリルで覆い、メンテナンスハッチを付けたボディの中へ収納して固定。


 我ながら完璧なゴーレムが出来た気がする。でも、ごーちゃんは改修しないであのままでいいかな。ユルい感じがみんなに馴染んでるし。

 作ったゴーレムは二度寝してから後で検証しよう。おやすみ。



 朝食後、屋敷の庭で造ったゴーレムの出来を確かめる事にした。

 アイテムボックスから出したゴーレムは、僕の前で膝を着いた。


『はじめまして、マスター。ご命令の前に名前を頂けますか』

「おおぉぉ! カッコイイ。声もイケボ声優のあの人のイメージにしたらからバッチリ反映されてる」


『おおぉぉ! カッコイイ。声もイケボ声優のあの人のイメージにしたらからバッチリ反映されてる。では名前が長過ぎませんか?』

「いや、そんなわけないでしょ。今言ったのは名前じゃないよ。名前はそうだなぁ……『ごーくん』で」


『ありがとうございますマスター。これより自分はごーくんと名乗ります』

「武器はこのミスリルの剣と、ミスリルの盾を装備してね」


『装備できました。マスターご命令を』

「じゃあ、そうだな。まずは性能を見たいから魔物と戦ってもらおうかな」


 性能試験会場に行くためには、モリモリに車で乗せて行ってもらうことにした。聖女のゆらめきばかり使ってるとつまらないしね。


「その後ろに座ってる鎧の奴ゴーレムなのか?」

「一見、人間が中にいる感じに造ったから、良い出来でしょ」


「すげぇな。言われてもわかんねぇ。それよりマジで東の遺跡に行くのか?」

「新作ゴーレムのごーくんの腕試しには丁度いいと思ってさ」


「俺とマックスは基本戦わないからな。前回で懲りたぞ」

「構わないよ。僕たちはごーくんの後ろを付いていくだけ。ダメそうになった時点で車に乗って退却だ」


 僕たちは東の遺跡に着くと、誰も居ない事を確認してごーくんを先頭に突入した。

 中からは相変わらず不気味な声がしてくる。遺跡の中は薄暗いので、聖女の光を照明として使い、天井にいくつも配置する。


「これなら見やすいな、あの時これあったら全然違っただろうな」

「だよねー。薄暗い中で全方位から襲ってくるからストレスやばかった」


 そんなこんな話してるうちに、最初の敵が現れた。頭が二つある狼で、時々炎を吐いてくる。

 二頭狼が走って来たかと思うと、突然二枚おろしになって倒れた。


「あれ? どうなってんの?」

『自分が斬りました』


「速すぎて見えなかった……」

「こいつバレットさんより強いんじゃね?」


 この後も、ごーくん単身で全ての魔物を一撃で真っ二つにして進んでいった。僕は素材と魔石を拾う事ぐらいしかやる事が無い。

 そして、ついに地竜のフロアまで来てしまったよ。


「こいつ強すぎじゃね?」

「うん。でも地竜はどうなるか解らないから、僕たちはフロアの外で見ていよう」


 ごーくんは一人で地竜三匹の下へ歩いていく。恐れるでもなく、油断もせず。


 臨戦態勢に入る三匹。そして戦いは始まった! と思った矢先に地竜三匹の首が落ちた。


『終わりましたマスター』


「は? 僕たちの前回の苦労は……」

「ビビってたのに急にアホらしくなってきたぜ。帰るべ」

『クウゥゥン』


 経験値がドカっと入ってきたせいで、少しクラクラするから地竜を回収して車で遺跡を出た。


「どーすんだよ、そのゴーレム。そいつ連れて冒険者活動でもするか?」

「いやぁ、自分で造ったとはいえ、なんかチート過ぎるからお店の護衛として働いてもらうつもり」


「見た目は黒い騎士みたいだから護衛で居ても大丈夫そうだな」

「手加減してもらうのが難しそうだけどね。この事はこれでいいや。それよりアレを作ろうと思うんだ」


「なんだよアレって」

「バイクだよ。僕、乗ってみたかったんだよね」


「水野に怒られても知らないぞ?」

「ヘルメットもちゃんと作るから大丈夫でしょ。多分」


 そして僕たちは車の試運転に使っている森の開けた場所に来て、家を出して中でバイク作成の打ち合わせをした。

 しかし、中々決まらなかった。ミッション構造を再現したいモリモリと、核に動きを書き込んでオートマ式でいいじゃんの僕と意見が割れたからだ。


「そもそも僕はギアの構造が解らないよ」

「構造解らないのに音楽プレイヤー創った奴が言うなよ。スキルでなんとかならないのか?」


「絵に描いてくれた、動くギアと固定されたギアの組み合わせというのは何となく理解はできるけど……。やってみるか」


 僕は創造錬金を発動する。構造に関して描いてもらった絵でしか知らないし、正直、理解出来た気もしない。

 でも、音楽プレイヤーに比べれば楽に行けそうな気がする。

 スキルを発動させ、モリモリが描いてくれた絵を見てる時に、絵から伝わってくる何かが僕の中を駆け抜けた。情報元に触れることで、より高度な情報を得ることができる気がする。


 僕はモリモリの右手を取ると、彼の知識にアクセスした。


 創造錬金にはこんな使い方もあるのか……。今なら解る。バイクの色々な事が。これなら創れる。バイクそのものを。

 こうしてエンジン以外はモリモリが知ってるそのままのバイクを創る事に成功した。

 素材は自由に出来るらしくて金属部分は総ミスリル製で創った。ゴムみたいな部分はそのままゴムだ。


「おい。俺の手を取って見つめられると変な気分になるんだが。も、もしかして嫁になってくれるのか?」

「何言ってるんだよ。創造錬金の新しい使い方に目覚めただけだよ」


 相変わらず下半身が自由なモリモリの発言はスルーして、アイテムボックスから創ったバイクを出した。


「すげぇ! ニ○ジャ400そのままじゃねーか!」

「機種は知らないけど、モリモリの知識にアクセスして出来たのかこれだよ。実家で乗ってたんでしょ。悪い奴だね」


「だから、私有地内なら合法なんだって前に言っただろ?」

「ほんとにー? まぁ、異世界に来ちゃったし、そんな事もうどうでもいいか」


「エンジンをゴーレム式にしたから、その調整はしないとだね。はい、ヘルメットと防具付けて試運転してみて」

「任せろ!」


 モリモリは防具を装備すると、早速バイクに跨り、左のレバーを握ると、左足のペダルを踏み、カチャンと音をさせた。

 そして軽く右手のハンドルを回して、左手のレバーをゆっくり離したモリモリはスピンしてひっくり返っていた。


「痛ててて……。パワーあり過ぎだろ。何だよコレ。アハハハハ。楽しいぜ」

「大丈夫? 一応聖女の癒やしをかけておくよ。それっ」


 その後、核の調整を何回もして、現物より少しパワーあるぐらいで収まった。

 モリモリは超楽しそうに乗っている。ただ、地面が舗装されているわけじゃないので、少し滑るみたいだね。たまにコケそうになってる。

 対策として、タイヤをオフロード仕様のものに変更してそれなりに落ち着いたようだ。


 後は、僕用の小さいバイクを創るだけだな。サイズはいくらでも変更できる。手のひらサイズにだって出来そう。


 僕の身体に合う大きさを木で試作して跨り具合を模索する。大きさが決まったので創造錬金発動!

 核の設定もしたし、後は乗るだけなんだけど、ちょっと怖いかも。


「50ccサイズのニ○ジャ可愛いな。プププ」

「乗るのはちょっと待ってね。多分乗りこなせるまでに僕は何回もコケると思うんだ」


「だろうなぁ」

「だから助っ人を呼ぶ! みーーーーーーーちゃぁぁーーーーーーーーん」


「呼んで来るのかよ? 屋敷まで声が聞こえ……」


『どうしたコウイチ!』

 あっと言う間に現れた狼姿のみーちゃんに、モリモリはびっくりして立ちゴケしていた。


「ごめんね、呼びつけちゃって。僕に以前かけてくれたバリア的なやつ張って欲しいんだ」

 この前、大平君に爆弾投げつけられた時の教訓で、みーちゃんは常に僕にバリア的なものを張るようになったんだ。過保護だよね。

 その時は過保護すぎると思って一旦止めてもらったんだけど、今はバリアがあれば安心できる。


『何かあったのかと思ってびっくりしたニャ。今、張り直したニャ』

「みーちゃん、ありがとう!」


 バリア的なものだけで十分かもだけど、更に防具類を付けた僕はバイクに跨った。頑張った。何回も転んだ。多分、人生で一番頑張ったかもしれない。

 やがて夕方になり、やっと乗れるようになったのだ。ほんと僕は不器用だよね。ゲームは得意なのにな。

 そろそろ帰宅時間なので、そのままバイクでヨルバンまで戻った。多分40~50キロぐらいは出てると思うけど、マックスは余裕でついてきた。流石フェンリル。

 みーちゃんは僕の後部座席で丸まってる。良く落ちないな。


「創ったバイクで走り出す~♪」


 僕たちは歌いながら夕焼けをバックに明日に向かって走るのだった。



◇◆◇◆



「コウちゃん! 私、危ない乗り物はダメって言ったよね!」

「は……はい」


 そうです。怒られてしまいました。ヘルメットもしてるし、みーちゃんにバリア的なもの張ってもらってると言ってもダメでした。


「諦めろ矢吹。女はこうなると話を聞いかねえ。逃げるかベッドに押し倒して対話しろ」

「さすがモリモリ。経験豊富な人の意見は参考になる」


 夕食前には一応許してくれたけど、恵が僕にマジギレを初めて見せたので怖かった。


「矢吹っちさ、バイクが作れるなら自転車も作れるんでしょ?」「自転車あったらヤバい楽そう」

 夕食の(オーク)の生姜焼きを食べてる時に芽衣子たちから声がかかった。


「作れると思うよ。でも、乗ってたら目立つんじゃない?」

「確かにー。マジ目立つかも」「ヤバい目立つかもしれないけど欲しい」


「それでしたら、矢吹様が創った自転車を、ヨルネットのドワーフさん達に見せて研究、制作してもらい、ヨルバンに普及させてはどうでしょう」

「マジ、それいいじゃん。さすが七星さん」「ヤバ、いきなり解決しそう」


 そんな会話があって、夕食後に早速自転車を創った。自転車の構造は僕だってある程度は知ってるので難しくはなかった。

 創った自転車を依子が引き取ってくれて、ドワーフに話を通してくれる事になった。有能な嫁過ぎて逆に辛い。



 夜も更け、ユリナとお風呂に入り、フカフカベットに寝かしつけて今日は渚の部屋だ。


「今日はウチらもコスプレしてみたよ」「セーラー服初めて着た。ヤバい可愛いかも」


「そ、それは……人気エロゲ『俺の姉と妹がヒロインなんて有り得ない』の姉妹の衣装じゃないか!」

「ゲームはよくわかないけど可愛いよね、この制服」「うちの旦那はこういうのホント好きだよねヤバ」


 このエロゲの何か凄いって、実の姉妹と一線を越えてしまうのだ。

 ならば、成り切ろう。二人は僕の姉と妹だ。


 偶然にも芽衣子と渚の行動は、この姉妹と良く似ていた。

 一本しか無いペロペロキャンディを取り合うのだ。

 姉が頬張ると妹が引き抜き、妹が頬張ると姉が引き抜く。

 最勝的には二人で仲良く半分こずつ召し上がるのだ。


 そして姉は素早くキャンディを自分のポケットに入れてしまう。

 妹は負けずと、姉から奪ったキャンディを自分のポケットに入れて微笑む。


 ラストはどちらのポケットも幸せで満たされる。

 この姉妹のエンディングにniseBOATは無いのだ。


 こうして僕は、幸せな姉妹を連れて自室に戻るのだった。



 そして丑三つ時。妖怪バール娘が活動しだす時間。


「ふぃふゃはぅふゅふぇふぃふぁ」


「はうっ……その衣装は姉妹の恋敵の幼馴染の制服……」

「ぷはぁ、唯は奪うのが好きなんです。はむっ」


「ぬふぅ……み、みんな仲良くして欲しい」

「ぷはぁ、そこで寝てる姉妹を起こしてみますかぁ? はむっ」


「はぐぅぅ……お、幼馴染最高です……」

「ぷはぁ、わかれば良いんですよ。はむっ」


 今日のバール娘は、いつもより優しく釘を何本も抜いて帰った。



◆◇◆◇



 翌日。

 僕はゴーレムのごーくんと、新しく造ったゴーレムのごーさんを店に配置するためにドルフィノへ向かった。

 ちなみに『ごーさん』もミスリルゴーレムで、声は永遠の17歳の声優の人をイメージして造った。


 エリオ商店にはごーくんを配置して、みんなとも顔合わせは済んだ。

 よく考えたらこの店ってヤバくない? だって邪教の使徒に利用されてた建物だし、正常化されて黙ってるとは限らない。

 とはいえ、ごーくんなら余程の相手でもない限り、遅れは取らないと思うけどね。地竜三匹を瞬殺する子だし。


 ごーくんの事を先生に任せて、次は海の家だ。



 海の家に着くと、店は相変わらず繁盛している。オーナーとしては嬉しいね。店員さん的には大変だけど。


「おはよーございまーす」

 挨拶して中に入ると、もはや懐かしいとさえ感じる人が居た。

 委員長だ。一人なのに四人席でドカッとエラそうに座ってる。


「い、委員長お久しぶりです」

「……誰あんた」


「あ、言い忘れましたけど、矢吹です」

「ふーん。で?」


 なんか、委員長の様子が変だな。田中さんとあゆみの方を見ると苦笑していた。

 ていうか、委員長が飲んでるのってビールじゃん。お酒を提供しちゃったのかよ。


「いえ、特に何かあるわけじゃないのですが、ビールは二十歳になってからの方が良いのでは……」

「うっせーわ。あっち行け」


 すっかりやさぐれてしまった委員長にあしらわれて、田中さんとあゆみの所へ歩いて行った。


「矢吹ちゃんでもダメだったかぁー。委員長は来た時からあんな感じで手に負えないよ」

「委員長どうしちゃったんだろ? 辛い事あって変わっちゃったのかな」


「なんかもう完全に別人だよね。あ、委員長の事で忘れてたけど、今日は店の護衛のゴーレムを配置に来たんだ」


 僕はごーさんを出すと、店のスタッフ全員に紹介した。

「何これ凄い! かっこいい」「矢吹ちゃんが作ったの? 凄くない?」

 あゆみ、田中さん、北沢さん、カナ(ママ)と順番に挨拶をしていく。そして最後のシイリスさんと対面した時に、それは起きた。


 シイリスさんがクワっと目を開くと、気が付いた時にはごーさんの首元に剣が当てられていた。

 しかし、いつの間にかごーさんも剣を抜いてガードをしていた。


「素晴らしいですね。これ程の護衛ならば安心出来そうです」

「凄まじい剣速でした。動作を確認してからでは間に合わなかったかもしれません」


 シイリスさんは優しい雰囲気に戻り、ほっとしたよ。いきなり喧嘩が始まるかと思った。

 それはいいんだけど、委員長が気になるな。でも、相手にしてくれないし放っておこう。僕は二階に上がって休むことにした。


 すると、階段の方からドカドカと荒い足音がしてきた。

 見えてきたのは酔って顔を赤くした委員長だ。


「おい矢吹! お前のゴーレム貸せよ」

「どうしちゃったの委員長。何かあれば手伝うから話してよ」


「手伝うぅ? だからゴーレム貸せって言ってんだろうが」

「事情を聞かないと貸せないよ。ごーさんはとんでもなく強いんだ。僕の預かり知らぬ所で何かあっても責任取れないし」


「……巨大な蛇みたいなやつが来て、ヨルドナ村の人達をみんな殺したんだ。絶対に敵討ちしたい。だから貸せよ」

「なるほど。そういう事情なら貸すのもやぶさかではないよ。でも、その前にみーちゃんの意見が聞きたい」

『娘よ、巨大な蛇みたいと言ったが、どんな奴だ?』 


「猫が喋ってるように見える。酔ったのかな……」

「みーちゃんは喋れる可愛い三毛猫なんだよ。それで、蛇みたいな奴の事話してよ」


「……白くて赤い小さな目がいくつかあって、大きな口がある。みんなを食べながら笑ってたんだあいつ……。笑って……」

 ついに委員長は泣き出してしまった。僕は背中をよしよしと撫でる。


『間違いなく破壊神の指だニャ。コウイチはこの件に関わってはダメニャ』

「破壊神の指が何か知らないけど、それじゃ委員長が気の毒だよ」


『破壊神の指は、事故物件の地下で現れる筈だった破壊神の一部ニャ。アレの始末はミーとバルデュアスに任せるニャ』

「僕とも因縁の奴だったのか。そんなに強いの?」


『腐っても破壊神の一部だからニャ。人がどうこう出来る存在じゃ無いニャ』


「それなら今すぐ行って殺してきてよ! あれを倒せるなら、さっさとやってよ!」

『ヨルドナ村に行っても、恐らくもう居ないニャ。次の生贄を探しに行った筈だニャ』


「行ってみなきゃわからないじゃない!」

『コウイチ。ミーはこの娘を連れてヨルドナ村に行ってくるニャ』


「ちょ、大丈夫なの? 危なくない?」

『問題ない無いニャ。おい娘。ついてくるニャ』


 みーちゃんは委員長を連れて出ていってしまった。僕も行こうと思ったけど絶対に連れて行ってもらえないオーラを感じて何も言えなくなっちゃったよ。


 一人ぽつんとソファーに座っていると、カナ(ママ)が階段を上がって来た。優しそうな笑顔に癒やされる。

 隣に腰掛けたカナ(ママ)は僕を抱き寄せて、いつもみたいにイイコイイコしてくれる。僕も胸に飛び込んで優しいママの香りを吸い込んで癒やされた。


「それじゃあ、ママは仕事に戻るからね。吸っても出ないけど、あゆちゃんとママのパパになってくれるなら、出るようにしてくれてもいいからね」

 ママはそう呟いて階段を降りていった。え? 今なんて? それより、みーちゃんと委員長の事が気になる。


 みーちゃん遅いな。何かあったのだろうか?



◇◆◇◆



 それから一時間程して、みーちゃんと委員長が帰ってきた。知らない美しい少女も居る。


「みーちゃん、遅かったけど何かあったの?」

『生き残りの子供が居たから連れてきたニャ。他にも居ないか探してたニャ』

「矢吹君ごめん。この子をここに置いてあげてください」

 委員長はスっと頭を下げた。やさぐれモードが終了したのかな?


「委員長も行く所が無いなら、ここに居ていいよ。僕の部屋使っていいから」

「ありがとう……。でも迷惑でしょ?」


「その子も委員長に懐いてるし、一緒に居てあげなよ」

「ありがとね。お世話になります」

 少女はどれだけ辛い思いをしたのか、殆ど反応が無い。何も言わず委員長にしがみついているだけ。もし、心が壊れてしまったのなら特製ポーションの出番だ。


「とりあえず、お風呂にでも行ってリラックスしてきなよ。そこの奥だから」

「何から何までありがとう。さっきはあんな態度取ってごめんね。私、酷いことばかり言った」


「気にしてないよ。しばらくはゆっくりしていていいから」


 何度もお礼を言って二人はお風呂に行った。みーちやんに事情を聞くか。


「破壊神の一部が居なくなったという事は、もしかしてヨルバンやドルフィノも襲われる可能性あるの?」

『儀式を事前見つければ問題無いニャ。それに今回犠牲になった村人は200人を越えるニャ。半年は地の底で潜むはずだニャ』


「200人って……。邪教の使徒を捕まえられないかな」

『ヨルドナ村近くに潜んでいた邪教の使徒を8人始末してきたニャ。記憶を見たけど仲間の情報は無かったニャ』


「そっか。邪教の使徒は何が目的でそんな事してるんだろう。僕には理解出来ないよ」

『破壊こそが救済を謳ってるニャ。あながち間違いではないけど、それを決めるのは邪教の使徒では無いニャ』


「どこの世界にもカルト教団ってあるんだね。僕も覚悟を決めたよ。そいつらに慈悲はかけない」

『コウイチの手を煩わせるまでも無いニャ。ミーに任せるニャ』



 その後、お風呂から出てきた委員長のバスタオルが落ちるハプニングがあったけど、表情は少し明るくなった。


「そう言えば、委員長はメガネどうしたの?」

「あの蛇みたいなの奴との戦いで壊れてしまったのよ。だからよく見えなくて、目付きが悪いと思うけどごめんね」


 それだと生活しにくいよね。それならと、委員長の手をちょっと拝借して知識にアクセスして創造錬金でメガネを創り出した。


「これ僕のスキルで創ってみたよ。多分合うと思うからかけてみて」

「そんなスキルあるの? 凄い……。よく見える。使ってたのとほぼ同じじゃない」


 委員長の表情は更に明るくなった気がする。


「やっぱりメガネかけてる委員長はいいね。似合ってるし可愛い」

「な、何言ってるのよ。それよりも矢吹君こそ凄い可愛いじゃない……。女の子になっちゃったの?」


「僕は男のままだよ。それよりも、その寝ちゃった女の子はどうなの? 精神的にやられてる?」


 女の子は委員長の膝に顔を埋めて寝ている。年の頃は中学生ぐらいかな。僕よりは少し背が高い。


「エリカは元々こうなのよ。初めて会った時から心を閉ざしてるのか話す事が出来ないの」

「精神ですら治せる薬あるけど、飲ませるべきか迷ってるんだ。委員長はどう思う?」


「どうかしらね。そんな薬があったとして、飲ませて良いかの判断は私には出来ないわ」

「じゃあ、少し様子を見よう。夕方だし僕はそろそろ帰るね。食事はこのお店の無料で食べていいから」


 そう言って立ち上がった僕のローブの裾を無言で掴む委員長。手が震えてる。


「今日は一緒に居てくれない……かな。怖いの……震えが止まらなくて」

「わかったよ。じゃあ、ここに泊まるって事を家に伝えてくるから、ちょっと待ってて」


 聖女のゆらめきで屋敷まで転移して、ドルフィノで泊まる事を伝えた。

 話を伝えて行こうとしたら、唯に捕まって入念に釘抜されて大変だった。バールとしての仕事は毎日しないといけないものらしい。勤勉だ。


 海の家の自室に転移すると委員長は下着姿だった。

「あ、ごめん」


 去ろうとする僕を、委員長は手を取り引き寄せた。

「いいよ、もう。さっきバスタオル落ちて見られちゃったし今更だよ」


 委員長は僕を抱いて持ち上げると、ベッドの中に引きずり込んだ。エリカという子も寝ている。

 どうやら今日は委員長の抱き枕にされてしまうようだ。色々当たってアレして困るけど我慢しよう。おやすみ。


 ……。


 ……。


 何かを感じて夜中に起きると、エリカが僕を覗き込んでいた。

「な、なに?」

「…………」


「ずっと見てられると気になって寝られないんだけど……」

 エリカの髪が僕の頬や首筋に当たってくすぐったいし、目の前に人の顔があると威圧感ハンパない。


「后にして欲しい」

「え? 何いきなり。意味がわからないのだけど」

 僕の言葉を聞いたからか、エリカの目は赤く輝いた。何か目の力を使ったようだ。

 みーちゃんが起きてこないという事は危険な力では無さそうだけど。


 この子が一体何者なのか、鑑定してみよう。


----------------------


エリカ・ミラード


レベル 2036978


種族 吸血鬼 真祖


年齢 45980


スキル エナジードレイン

   

    吸血


    吸精

      

    真祖の雷

    

    崩壊

   

    死の瞳

    

    時の瞳

   


配偶者 エリオ


-----------------------


 なんだこの子。吸血鬼? レベルも年齢も桁外れだ。

 それより気になるのは、配偶者の項目なんだけど……。僕じゃないよね?


「鑑定して見たか。先程寝てる間に純潔は貴方に捧げた。妾はもう貴方の物だ」

「寝てる間にって、どうせなら起きてる時に……じゃなくて、いきなり后にしてくれと言われても困るよ」


「そうか。無粋であったな。今からもう一度捧げるゆえに許せ」


 すると僕とエリカ以外は時が止まったかのようになり、妖しく目が輝く美しい獣に蹂躙され続けた。


「ふぅ……。君は一体なんなの? ステータス的に言えば破壊神の一部と戦えたんじゃないの?」

「妾もさっき目覚めたのだ。きっと貴方の持つ力のせいであろう」


「みーちゃんが起きないのも君が何かしてるの?」

「その猫の周りの時を止めてある。フェンリルの相手は面倒だからな」


「でも、后の件はすぐに返答できないよ。僕には嫁も居るからね」

「構わぬ。妾は貴方を護り、貴方は妾に精を注ぐ。その関係で今は良い」


 僕はまだ質問しようとしたけど、唇を奪われ蹂躙され続けた。

 どれ程の時間そうしていたのか解らなくなる程に。


 ……。


 ……。


「すまぬな。妾は傷がすぐに回復してしまうゆえに、毎夜貴方を破瓜の血で汚してしまう事になる」

「難儀な体質なんだね。毎回痛い思いするなんて」


 疲れ切った僕は、もうどうでも良くなってエリカを抱いたまま寝てしまった。



◆◇◆◇



「矢吹君起きて!」

 ペシペシって誰かに頬を叩かれている気がする……。


「起きなさい!」

ドゴォ、とお腹を殴られて僕は飛び起きた。


「い、委員長なにするの……」

「何するって。矢吹君こそエリカに何したのよ!」

 お腹の方を見るとエリカが裸で僕に覆いかぶさって寝ている。シーツは血まみれだ。


「こ、これは違うんだ、僕はむしろ被害者で……」

『ミーの失態だニャ。気付いていれば出会った時に即始末したニャ』


 怒る委員長、言い訳する僕、落ち込むみーちゃん、寝たフリしてこっち見て妖しく笑うエリカ。

 事態が収まるまでしばらく時間を要した。


「つまり要約すると、エリカは吸血鬼で、矢吹君のお嫁さんになったという事?」

「そうだ。昨夜純潔を捧げた。妾はもうエリオの物」

 僕にしだれかかるエリカを見て委員長とみーちゃんはため息をついてる。


 いや、僕だってため息つきたいよ。


『そいつの番になってしまった以上、ミーは手が出せないニャ』

「なんで? 吸血鬼ってみーちゃんでも勝てない程に強いの?」


『戦えば勝てるニャ。しかし、そいつを殺せば真祖の呪いでコウイチも巻き添えになるニャ』

「これは呪いではない。死ぬも生きるも一蓮托生の愛の絆だ。勘違いするなフェンリル」


「エリカって、そんな話し方する子だったのね……。もう疲れちゃった。下で朝ごはん食べてきます」

 委員長はメガネを外して目頭を揉んで深くため息ついて下に降りて行った。なんかごめんなさい。


「僕たちも朝食に行こ? 朝からドタバタしてお腹空いたよ」

 僕はみーちゃんを抱っこして一階に降りようとしたら、エリカに裾を掴まれた。一緒に降りるらしい。


「少し待って欲しい。服を着る」

 エリカは何処から出したのか綺麗なドレスを纏った。髪も昨日とは違ってサラサラ、キラキラしている。

 その姿は怖い程に美しくて、真っ直ぐ見る事が出来なかった。


 どうしたものかね。屋敷に帰るのが怖いよ……。

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