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03 エルフの里

「目を覚まして!」



「エリオ! お願い!」



「ダメ! 死なないで!」



 うるさい……なんだこれ。



 苦しい……空気を無理やり送り込まれている……苦しい。



「エリオ!」



 声がする……女の子の声が。



 ぼんやりと周りが見えてくる。



 っ! むぐぐ……至近距離で顔はよくわからないけど女の子に激しくキスされてる。

 いや、これは人工呼吸か?


 意識がハッキリしてくると……痛い! 背中がめっちゃ痛い! 女の子に抱き起こされてるせいで背中に手が当たって死ぬほど痛い!


 あまりの痛さに女の子を突き飛ばす形になってしまった。


「エリオ!?」


 状況が全然解らないけど、重い手足を動かして痛い背中をかばい腹ばいになる。

 僕が倒れていたと思われる場所には血溜まりができていた。

 僕の背中一体どうなってるんだ……?


 突き飛ばしてしまった女の子を改めて見ると、エルフだ! 紛うことなくエルフだ! でも、背中痛すぎて割とそれどころじゃない。


「エリオ! 良かった!」


 エルフの女の子は涙と鼻水でもうぐちょぐちょだ。

 僕の顔もべちょべちょになってる。


「今治療するから少し我慢しててね!」


 はい、どなたか存じ上げませんが早急にお願いします。痛くて声も出せない。

 ていうかエリオって誰だよ。


 エルフの子が合図するとエルフのおばあさんがやってきて陶器に入った青い軟膏のようなものを背中に塗り始めた。


 痛い! もっと優しくして!


「ぐぅぅぅ……」


 もう唸り声しか出ない。


 薬を付けた指が触れるたびに拷問のような痛みで意識が遠くなってくる。


 はやく……終わって……く……。


 意識がぼんやりしてくる。

 出血のせいもあるのだろう。僕は再び意識を失った。



 気がつくと藁の山に腹ばいで寝かされいてた。

 どれぐらい意識失ってたのか辺りは暗くなってる。


「知らない床だ」


 まだ背中は痛いものの、意識失う前に比べたらかなり楽になった。

 おばあさんの薬すごいな。


 ところで、ここは何処なんだろう?


「目が冷めたか? 痛みはどうだ?」

 そこには例の薬を持ったおばあさんとエルフの女の子が居た。


「はい。かなり楽になりました。どなたか知りませんがありがとうございます」

「ふむ……我らが誰か解らぬか?」


「はい」


 そもそも異世界に知り合いなんて居ないもんね。

 あ、まさかみーちゃんじゃないよね? ヨルさんが会えばわかると言ってたから違うか。


「エリオ! 顔をよく見せて」


 急接近してきたエルフの女の子に両手で頬を固定された。近くで見ると超絶美人でドキドキする。

 七星さんや仁科さん達ギャルグループも美人ではあったけどエルフと比べるとそうでもなく思えてしまう。


「エリオ……目が」

「これは一度魂が抜けてしまったせいだろう」


 なになに? 僕の目何かおかしいの?

 困惑してる僕にぎこちない笑顔を見せるエルフさんを見て更に不安になってくる。


「エリオではあるが、もうソニアの知るエリオではない」

「そんな……」


 おばあさんは相変わらず意味不明な事言うしソニアさんは泣き出しちゃうし僕も泣きたい。


「僕の目どうなってるんですか?」


「以前は我ら同様に碧眼であったが、今は金色になっておる」

「でも、エリオはエリオだから!」


「すみません、状況が飲み込めないので僕の背中が怪我したあたりから説明してもらえませんか?」


「ふむ」



◇◆◇◆



 聞いた話をまとめると、僕はソニアさんの弟エリオ。

 薬師のおばあさんは、おじいさんだった。老人でも美形だから性別が解りにくい。名前はコロロムさん


 事の発端は、(エリオ)が御神樹様におしっこをかけたから鞭打ち100回の罰を受けたらしい。

 御神樹様を汚す行為は本来死罪らしい。

 助かりはしたが、里から追放の可能性が高いとコロロムさんに言われた。


 それもだけど、一番の問題は……。

 これって転移じゃなくて一度死んだエリオくんの体を僕が乗っ取っちゃった感じじゃん。ヨルさんどうなってるんですか……。


 ていうか、何やってんのエリオ。本気でバカじゃないの。いかにも神聖そうな樹におしっこって……犬かよ。


 ソニアさんはずっと泣いてるし、コロロムさんは難しい顔で何か考えてる。

 これから僕はどうなるんだろう?

 モリモリに会えても僕と解ってもらえるだろうか。



「ごめんねエリオ。鞭打ち止めてあげられなくて……」

 きっと優しいお姉ちゃんだったんだろうな。こんなアホ弟に愛想尽かさないなんて。


「記憶は無いけど、僕の方こそご迷惑をおかけして申し訳ないです」

「もうこんな時間だ。ソニアも休め。話はまた明日だ」


「はい……」

 何度も振り返りながら去りゆく超美人お姉ちゃんに添い寝してほしかったなぁ……なんて、少ししか思ってないよ。


 ソニアさんが去ってしばらくすると、ゴリゴリやってた乳鉢を片付けたコロロムさんにいきなり言われた。

「エリオよ、今晩中にここから出ていくのだ」

「え?」


「明日になれば恐らく追放と言う名の処刑が始まるだろう」

「自ら出ていくのと追放に何か違いがあるのですか?」


「追放とは縛られた状態で魔物の巣に放り込む事を指す。生きて帰れる自信はあるか?」

「……」


「その鞄に薬と食料が入ってる。それを持って道沿いに西へ行くといい」

「何故助けてくれるのですか? 聞けば僕はかなり悪ガキだったみたいですが」


「お前は一度死に、罪は償っている」


 それきりコロロムさん何も話さなくなった。

 僕は一礼してから鞄を手に持ち、痛む体を引きずるように裏口から西へと向かうのだった。



◇◆◇◆



 僕は裏口から草むらを抜け小さな体を活かし、木の柵をくぐり抜け西の森に出た。

 今、これだけ動けるのはコロロムさんの薬のおかげだな。感謝しかない。

 できればソニアさんに別れの挨拶したかったけど、今は進もう。


 しばらく西を進むと細い道が見えてきた。

 馬車の車輪の跡と思われる2本の轍があるからこれが西へと向かう道なのだろう。


 色々あって言われるまま出て来ちゃったけど……忘れてたよ!

 僕にはアイテムボックスがあるじゃん!


「開けアイテムボックス!」


 僕がそう叫ぶと、頭の中に目録が立ち上がった。

 アイテムボックスというかインベントリぽい。


 ついでにコロロムさんに貰った鞄を入れてみよう。

 触れていれば入れようと思うだけで入るみたいだ。

 ただ、入るまで数秒ほどかかった。

 とにかく使いまくって早く使い方に慣れよう。


■■アイテムボックス+8■■


所持ゴル 20000


美味しいパン  89

美味しい水   89

特製ポーション 89

バナナ     

幕の内弁当   

カップ味噌汁  

お茶      

革の鞄

芋虫      20

高品質傷薬


輝く石     


■■機能■■

容量=6畳間ほど

時間停止

ボックス内鑑定

ボックス内パーティション作成

■■■■■■


 所持金らしきものを出してみるか。

 どこかの王様にアイテムと交換してもらえそうな小さな金貨だった。

 これが2万枚枚入っているわけではなく、20枚で2万ゴルらしい。

 パンや水やポーションはヨルさんの支給品だろうか? 何故89個?

 弁当、バナナ、味噌汁は寝坊して朝食べられなかったから新幹線の中で食べようと思ってコンビニで買ったやつだ。

 カップ味噌汁なんて何処でお湯入れるつもりだったのか我ながらアホだな。


 革の鞄以下はコロロムさんに貰ったやつだ。

 芋虫とか書いてあるような気がするけど、気のせいだよね。

 エルフの貴重なタンパク元ってやつですか? はい無理です。薬は高品質なんだね。さすがだ。


 輝く石ってなんだろう? これがヨルさんの眷属さんが僕に渡したかった物だろうか?

 みーちゃんだとしたら、何故これを僕に渡したのか気になる。


 とりあえず出してみるか。

 それ! うっ……結構難産……。


 ドスン!


「デカっ!? なにこの石デカッ」


 確かに輝いてるが、兎に角でかい。直径2メートルほどの石の玉だ。

 何に使うのかさっぱり判らんからアイテムボックスに戻そう。


 そしてこれがまた時間かかる。石が入るまでに10秒ぐらいかかったかも。


 アイテムボックスの項目の下の方を見ていくと、機能という項目があるな。

 容量……微妙すぎる。


 時間停止はいいね! これが無いと始まらない。

 ボックス内の物を鑑定できるのか。そうだ輝く石を鑑定してみよう。


●輝く石●

膨大なエネルギーを内包する石


 なにそれ……爆発したりしないよね?

 触れずにボックス内で放置しておこう。


 パーテション作成は便利かもね。

 全部同じ場所に入れてるとゴチャゴチャしてきそうだし。


 ふむふむ……。なるほどね。


 そうだ! 背中の傷が癒せるかもしれないから特製ポーションを使ってみるか。

 取り出してみると真っ黒の毒々しい見た目だった。

 コルクの蓋を抜き、勇気を出して一気に飲み干すと、味はしないが体にスーっと入っていくような飲み心地だった。


「うぅ……背中がムズムズする」


 しかし痛みは完全に消え、コロロムさんが巻いてくれた包帯を外すと、僕が見れる範囲で傷はもう何処にも無かった。

「凄いな特製ポーション。ヨルさんに感謝だ」

誤字や矛盾点は見つけ次第修正します。

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