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29 魔法学園

 昨晩はお楽しみでした。


 タイツってこういう手触りだったんですね。

 なかなかクセになりそうです。

 そして時は丑三つ時、芽衣子と渚に挟まれて寝ている僕の元に妖怪バール娘が来てしまいました。


「ふぅふぉふぁいふふぁふぅひぃはんへふふぁ?」


「……はい?」

「ぷはぁ、何でも無いです。好きです。はむっ」


「…………あふっ」


 職人の匠な技により釘は四本抜かれてしまいました。


 こちらとしては、いつバレるか心配でシャレ怖ですよ。おやすみなさい。



◇◆◇◆



「米を買う目的と魔法学園を見学するためにセイラに行ってくるよ」

 朝食が終わり、一息ついた所でみんなに告げた。


「俺も行きてぇ!」「ユリナも!」

「いいよ。というわけで、ユリナとモリモリで行ってくるね。リリさんはいいの?」

「帝国の近くには行きたくないかもです」


「一応逃亡兵みたいな感じだもんね。でもお母さんのお墓参りしたい時は言ってね」

「はい。ありがとう」


「コウちゃん気をつけてね?」「矢吹っち女作ってきたらダメだよ」「ヤバ……それフラグでは…」「矢吹君を信じてる」


「みーちゃんと一緒だから危険はないよ。そういえば七星さんたちは?」


「早朝から仕事行ったみたいだぜ。なんか店を開くとか言ってた」

「なんというバイタリティ……こういう努力あって勝ち組になれるんだね」


「俺らには無縁のものだなプププ」

「失敬な! 僕はやる時はやりますよ!」


「違う意味でもなぁーププゥー」


 朝からそんな下品なネタかまさないで欲しいよ。


 いつもの開けた森の所に来た僕らは、先頭にモリモリ、真ん中のユリナ、一番後ろは僕の順にみーちゃんに乗った。


「じゃあみーちゃんお願いね? セイラの近くに行ける?」

『問題ないニャ』


「では出発!」「しゅっぱつ!」「おぉー」


 そして僕らは流星となった……。


「すっげ……聞いてはいたけどマジすげぇ」「もう着いたの??」

 理解が追いつかないスピード体験したニ人は混乱しているようだ。


 ここから数キロ先にセイラはあるみたいだ。

 結界の関係でこれ以上近づくとフェンリルと人間の戦争になってヤバイらしい。人間が。


「じゃあ、無難に僕の竜車でいこう」

「おー」「りょーかい」


 セイラは高い壁に囲まれた街のようだ。あれだけの壁をよく作ったなという感想しか出て来ない。

 しばらく城壁沿いを進むと重厚な門が見えてくる。

 これだけでもうワクワク感が凄い。門を過ぎると、高い建物が目に飛び込んでくる。

 いかにも中世の街並みという感じなんだけど、魔法技術が使われているらしく洗練されている。


「……すごいねお兄ちゃん」「おぉ……ドルフィノとはまた違った感動があるな」


「うん。凄いワクワクする。あ、あれ買ってみんなで着ようよ!」


 ローブの店のマネキンが着ているカッコイイ魔法使いのローブを見て僕は提案した。


「着るー!」「なんか恥ずかしくないか? でもこういうの嫌いじゃないぜ」


 僕たちはお店に入り、金にものを言わせて高級品のローブと中に着る服をお揃いで買った。

 高級品だから肌触りもとても良い。なんとお一人様4万ゴル、日本円にして一着400万円ぐらいだ。


「かわいいー?」「俺結構イケてない?」


「うんうん、ユリナは何着ても可愛い。モリモリもかっこいいよ」


「そして矢吹は……それを標準装備にしろよってぐらい似合ってるな。プププ」

「お兄ちゃんかわいいー!」


「エルフだからね。こういうファンタジー服は似合うよ」


 衣装はゲットしたので、僕はみーちゃんを肩に乗せユリナと手を繋ぎ、三人で街の散策を始めた。


「猫を肩に乗せてるとか完全魔法少女だな。ププ。黒猫だったら完璧なのに。プププ」

「言われてみればそうだね。ははは」

『黒くもなれるニャ』

「やって下さい先生」『わかったニャ』


 モリモリが勝手に許可出すと、みーちゃんが少し縮んで黒猫になった。可愛い。ツヤツヤ可愛い。


「可愛い! 三毛も可愛いけど、黒も可愛い!」

 僕は夢中になってモフってしまった。


 気を取り直して黒猫みーちゃんを肩に乗せ街の散策再開だ。


 セイラには屋台は無く、飲食店は店舗しかなかった。食べ歩きという意味ではあまり向いてないけどコレって店見つけて入るのも楽しいかも。


「ところで米って何処にで売ってるんだろう?」

「わかんねーから冒険者ギルドで聞けばいいんじゃないか?」


 しかし、ここの街の僕を見る目は他の街とは違う気がする。

 尊敬の眼差し的な。憧れの先輩を見る後輩のような。


「すみませーん。道を訪ねたいのですが冒険者ギルドはどこにあるかご存知ですか?」

 僕が道行くおばさんに聞いてみた。


「あらあら! ハイエルフ様に話しかけて貰えるなんて幸運なこともあるものだねぇ。案内しますよ」

「いいんですか? では、お言葉に甘えます」

 どうやらこの街ではハイエルフは親切にしてもらえるらしい。ラッキーだね。


 おばさんに案内してもらって無事に着いたけど、門から結構歩いた場所だった。

 そこは冒険者ギルドなのに美術館みたいに豪華でオシャレな感じ。

 ここに比べたら、ヨルネットの冒険者ギルドなんて場末の酒場だ。


 おばさんにお礼を言って中に入る。

 僕たちが入ると一斉に注目が集まる。最近慣れてきたけど人に注目されるのは苦手だ。


「なんか見られまくって居心地悪いね」

「気にしなくていいんじゃねーの? それより相談カウンターに行こうぜ」


「そうだね。テンプレ絡みされないだけマシだよね」

 確かに考えても仕方ないので相談カウンターに行く事にした。


「すみません。ヒカリを買える場所を探してます。あと、魔法学園を見学したいのですが許可とか必要ですか?」

「ヒカリでしたら、地図のこの場所で買えます。ご存知かもしれませんが、魔法学院はここです」

 受付のお姉さんは親切に地図にヒカリが買える場所と魔法学園の位置の印つけて渡してくれた。


「それと魔法学園ですが、ハイエルフ様御一行であれば許可は必要ありません」

「わかりました。色々親切にありがとうございました」


 僕たちは全員でお礼を言って振り返った時、何処かで見たことの男の人を見つけた。


「モリモリ、あれ佐藤君じゃない?」

「どれ? あ! 達哉ーーーーーーーーー!」

 モリモリは佐藤くんの元に走って行ってしまった。


 二人は合流して凄い嬉しそうに話してる。これから二人で飲みにでも行きそうな雰囲気だ。

 モリモリは僕と違って友達多いしね。なんだろう、このモヤモヤした気持ちは。ぼっち君の特有な気持ちかもしれない。


 二人が落ち着くまで見てようと思って何処か座れる所ないかなと見回していると、入り口からお揃いのローブ纏ったファンタジー制服を着た集団が入ってきた。


 もしかしなくてもあれが魔法学園の生徒だよね! 感動的でつい見入ってしまった。


 生徒たちも僕に気づいたようで、まるで芸能人を見つけたかの様な視線を送ってくる。

 なんかこういうの妙に気持ちいいかも。承認欲求に目覚めそう。イン○タ始めたくなった。

 

 その生徒たちの最後尾には、エルフの少女が居た。姉妹エルフと一緒で、やや緑ががった金髪の髪と、少し垂れ下がったエルフ耳。

 ただ、なんだろう……そのエルフを見ていると、かつての僕を見ているようなぼっち感がある。


 エルフさんは僕に気付いたようで、曇ってた表情がいきなり晴れやかとなり、僕の所に駆けてきた。


「始まりのハイエルフ様!? 私、セーラと言います!」

「僕はエリオです。こっちの子がユリナ」


「僕……? エリオ様はもしかして男の方なのですか?」

「そうですよ。よく間違われますけど」


「でしたら私を娶っていただけないでしょうか! ダメでしたら下僕でもかまいません」

「いきなり過ぎますね」


「ダメでしょうか……?」

 少女はすがるような目で僕を見てくる。


「もしかして僕を始まりのハイエルフってやつだと思ってます? でもこの目は突然変異のもので元は青です。僕はただのハイエルフですよ」


「だとしても関係ありません。お願いします」

 セーラさんは土下座でもしそうな勢いだ。

 まいったなぁ……。


「それよりセーラさんは冒険者ギルドに用があって来たんじゃないですか? 僕に構ってていいんですか?」

「いいんです。どうせ私なんてみなさんに付いていくだけで何もできませんし……」


「ともかく嫁にも下僕にもできません。ほら、生徒の人たち行ってしまいますよ」

「……どうしてもダメですか?」


「思うに、セーラさんは何かから逃げたくて僕の所に来ようとしている様に見えます。違いますか?」

「…………」


「何か変な事件に巻き込まれて困っているとかならば協力しますよ」

「そういうわけでは無いですが……うう……」

 ついに泣き出してしまった。


 なんか面倒くさい子に絡まれちゃったなぁ。


「おーい! あれ? また女ひっかけたのか? しかも可愛いエルフ娘とか。水野に笑顔の抗議されるぞ。ププゥー」

 話が終わったみたいで、モリモリが佐藤君を連れてやってきていた。


「いや、そういうのじゃないから、チクらないでね」

「まぁ、いいよ、それより達哉たちが借りてる部屋行こうぜ。清水もそこに居るんだってさ」


「清水? りょーかい。じゃあセーラさんそういう事で」

「待って……おね……」


 なんか言ってたが、僕たちは無視して冒険者ギルドを出た。


「しかし……この女の子がほんとに矢吹なのか?しかも水野さんと付き合ってるとか……意味わからん」

「そうだよ。男だけど」


「達哉は水野が好きだったんだってさ。まぁ大体の男子は水野の事好きだっただろうけど」

「モリモリも恵の事好きだったの?」


「まぁ……何回か使ったことはあるな。何にとは聞くな。ププゥ」

「ユリナが居る所でそういうネタやめてね」


「お兄ちゃん、使うって何使うの?」

「多分魔法を使うんだよ」


「スッキリする魔法な! ププ」

「ええかげんにしなさい」


 そんな話しをしているとボロアパートみたいな所が見えてきた。


 うーん? この……この香りは!


「モリモリ! この香りはアレだよな!?」

「間違いないアレだ!」

「お兄ちゃんおいしそーなにおいする!」


「今日は清水が最後のカレー作ってくれてんだよ」

「最後……? もうルーは残ってない?」


「無いんだなぁこれが」

「なんてことだ……でも作ったカレー自体を複製すれば……まだ望みはある」


「矢吹は何言ってるんだ?」

「まあ、見てりゃわかるよ。それより行こうぜ」


「いいけどカレーはあまり無いからちょっとしか分けてやれないぞ?」

「いいからいいから」


 こうして僕は佐藤君に連れられアパートの一室に入った。


「おかえりー。いい依頼あった? え!? さ…智?」

「おぅ、清水久しぶり」


「清水さんてモリモリの知り合いだったんだ?」

「知り合いというか、中学の時のモトカノだな」


「大丈夫? 気まずい展開にならない?」

「ならねーよ。それより問題はカレーだ。俺の予想が正しければヤベーぞ」


「ヤバイとは?」

「それは後だ。清水、カレーは出来たのか? ちょっと味見させてくれ」


「……いいけど」

 なんかちょっと嫌そうだ。


 モリモリがカレー鍋の所に行き、スプーンで少しすくって口に入れた。


「にげぇ……。なんでカレーが苦くなるんだ。逆にどうやればこうなるのか知りたいぞ」

「またそうやってわたしの料理バカにして!」


「おい、森山~せっかく作ってくれたんだから文句言うなよ。香りはいいじゃん」

「香りだけはなぁ」


「もう! 智にはあげないから!」


「あのー、僕も少し味見させてもらえます?」

「そういえば、この女の子は誰? わたしに新しい超可愛い彼女見せつけに来たの? このロリコン!」


 なんか面倒くさいから勝手に味見させて貰う。ペロッ……これは……何? カレーの香りがする腐ったゴーヤ?

 少しアイテムボックスに入れて不味い成分を分離できるかやってみよう。


 モリモリと清水さんがじゃれてる間にボックス内錬金でオーク肉から滲み出たアク? と野菜から出た毒物質?

 その諸々の不要と思われる成分を抜いてみた。一応……これで許容範囲には落ち着いたかな。

 それを複製で増やして、炊いてあったヒカリにかけてモリモリに提供した。


「これ食べて見てよ。なんとか頑張ってみた」

「どれどれ……うめぇ! カレーだよ! これがカレーライスだよ!」


「どうなってんだ? 俺にも食わせろ!」

「なんか腹立つ!」


 みんな味見して美味しかったみたいなので、鍋のカレー全部同じ様に物体X成分抜いてから量を増やしてみんなで食べた。


「ふん……。わたしが作ったカレーよりは少しだけ美味しかったかもね」


「お兄ちゃんユリナこれ好き!」『あまり美味しくないニャ』


「「猫がしゃべったーーーーーーーーーー」」


 その後みーちゃんの事や今までのことをモリモリがみんなに説明した。

 終始信じられないみたいで「ほんとかー?」「うそでしょ?」とツッコミいれてた。


「その女の子が矢吹君なんて言われても信じられない。本当はわたし達にドッキリ仕掛けに来た魔法少女とかなんでしょ?」

 清水さんはジト目で僕を見ている。


「違うからね。その話は置いといて、僕たちはヨルバンで暮らしていて、屋敷が大きいから望むなら二人を受け入れる事もできるよ」


「達哉も清水も来いよ。メシ死ぬほど美味いぜ」

「行く!」


「なんで即答なの? そんなにわたしのごはん不味かった?」

「それは……」

 佐藤君は目を泳がせている。


「清水さんはどうする?」

「行くに決まってるじゃない。置いていかないでよ……」

なんかショボくれてしまった。言い方悪かったかも。


「ごめんごめん。じゃあ、みんなでヨルバンに行こう。僕たちはこれから米買うのと、魔法学園見学してくるから、何か準備あればしておいて」



◆◇◆◇



 モリモリは清水さんたちの準備手伝ったり色々話したいからとアパートに残った。


 なので、今僕とユリナの二人で手を繋いで街を歩いている。

 聞こえてる声から察するに、魔法少女コンビみたいに見られてるぼいけどまぁいいか。


 まずは地図にあるお米売ってる見せに来てみた。

 お米売ってるお店は、どう見ても小売店じゃなくて問屋だ。


「ヒカリ買いたいのですけど、僕個人でも買えますか?」

「10袋以上ならおっけーだぜーって、ハイエルフ様なら小袋でもいいぜぇ」


 色々種類があったけど最高級の形が日本のに似てるお米を10袋買った。

 一袋が僕の背丈と同じぐらいの大きさででかい。それを次々アイテムボックスに入れる姿を見て店員さんはポカーンとなっていた。



◇◆◇◆



 次はいよいよ魔法学園。楽しみだ!


「門おっきーね」

「ほんと大きい門だねぇー」

 魔法学園に着くと、高い塀と巨人でも通るかよと思う大きな門が出迎えてくれた。


 ハイエルフ効果で門番に止められることなく素通り出来たので、中に入って見ると、一見普通の学校にも見える。

 でも、奥の方は色々な施設が立ち並ぶ研究所みたいだった。屋外練習場で魔法の訓練受けてたり、自主レンしてる人たちも居る。


「お兄ちやんこれが前に言ってたがっこーなの?」

「そうそう。でも、ここの学校は随分と大きいみたいだね」


 ユリナと手を繋ぎ奥に入っていく。突然学校に芸能人が来たみたいなザワザワ感が凄い。

 まず、僕たちは訓練を受けてる生徒たちを見に行った。

 この世界に来て結構経つのに何気に攻撃魔法って殆ど見たことないんだよね。


「火よ!」「火よ!」「火よ!」「火よ!」「火よ!」


 生徒たちが5人ずつ並んで火魔法を放っている。カッコイイ! 火炎放射器ぐらいの火力ありそう。


 魔法放っていた生徒たちが下がり、次の生徒たちが前に出た。


「火よ!」「火よ!」「火よ!」「火よ!」「火よ!」


 うん? なんか一人だけカセットボンベのガスバーナー程度の火力の生徒が居るな。

 あ、さっきのセーラさんだ。

 ヤバイ! 目が合っってしまった。しかも泣きながらこっちに走ってくる。


 どうする? ユリナ抱えて逃げるか? そうしよう!

 と、思った矢先にセーラさんに捕まってしまった。足速っ!

「エリオーざばー! きてぐれたんでずねー!」

 号泣しながら抱きついてきた。ちょっ……やめてよみんな見てるし、ローブに鼻水がつく!


「セーラさん。ほんと情けないですね。ハイエルフ様に泣きつくなんて」

 声をかけてきたのは金髪ツインテールの生徒だ。リアル金髪ツインテールの魔法少女見れるなんて感動だ!


「優秀なエリザベスさんには私の気持ちなんてわからないんですよ……」

「泣いてる暇があるなら魔力増やす訓練でもしたら?」

「……ほっといてください!」


「あのー。僕そろそろ帰りたいので開放してもらいたいのですが……」

「エリオ様お願いです!少しだけお話に付き合って下さい」


「まぁ少しだけなら……」

「では、こちらに!」


 僕はセーラさんに手を引かれ、女子寮に引きずり込まれた。

 ここはセーラさんの部屋みたいだ。なんか質素で女の子の部屋ぽくない。

 僕はユリナを抱っこしてソファーに座っている。


 考えてみたら付き合っても居ない女の子の部屋入ったの初めてかも。

「お兄ちゃんユリナ眠くなっちゃった」

「じゃあ寝てていいよ」

 僕の膝を枕にしてユリナをソファーに寝かせた。


 セーラさんは僕たちを座らせて隣の部屋に籠もってしまった。もう20分ぐらい待たされている。


「遅くなってすみません。準備に手間取り……まして」

「いえいえ、それでお話とは?」


「それはここではなくて、隣の部屋でいいですか?」

「……わかりました」


 セーラさんに連れられて行くと花のような匂いのするお香が炊かれていた。

「お願いします」

そう言ってセーラさんは魔法学園の制服を脱ぎ始めた。


「ちょ、なにやってるんですか……」

「魔力をわけて欲しいのです」

そしてついに全裸になってしまった。


 セーラさんは裸のまま僕の所まで来て僕の手を取りベッドに押し倒してきた。

 そして僕にぎゅーっと抱きついてくる。


「あの? これはいったい?」

「精を頂きたいのです。活性化できれば私は魔法を使えるようになりますから!」


「ちょっと意味が解らないので帰っていいですか」

「帰らないで下さい! エリオ様が何故ご存知ないのかわかりませんが説明します!」


 要するに、魔力というのは女性の場合卵巣で作られるらしい。

 そこが不活性化している、精を受けると復活、だからよこせ! 今すぐに!


 まとめるとこういう事だった。

 なんだそのファンタジー系のエロゲ設定。


「他の人にお願いしてもらっていいですか? 僕には嫁がいますので」

「ハイエルフ様はエリオ様しか見たことないです!」


 更に聞くと、エルフの上位のものじゃないとダメみたい。これはエルフだけに伝わる治療方らしい。


「みーちゃん、特製ポーションで治らないの?」

『生まれつきの不活性なら無意味だニャ』


「え!? どうして猫が」

「みーちゃんは特別な猫なんだ。それでセーラさんは以前は凄い魔法使えたの?」

「いえ……私は生まれつきの低魔力症ですから…」


『じゃあ無理ニャ』


「エリオ様……お願いします」

「いや……でも……」

『これはただの治療ニャ。さっさとやるニャ』


「エリオ様……」

 セーラさんの瞳が潤んでいる…いや…でもマズイって……マジで……唯の事で懲りたんだ僕は……


 ……。


 ……。


 ……。


「見て下さい、エリオ様! 火がこんなに出ます!」


「ハハハ……」


「お願いします! もう一度下さい! 痛くても我慢しますから!」


「いや……それは……」


 ……。


 ……。


 ……。


「はぅぅ……エリオ様ぁ愛してます……」


「あの? 火は?」

「そうでした。火よ!」

 セーラさんが魔力を込めると天井近くまで火が上がった。

「嬉しいです! そして心があたたかいです。これが愛なのですね」


「あの……ユリナが起きたら大変なので、そろそろ帰りますね」

「それなら心配ありません。ジャス花のお香炊いてるから子供は眠りやすくなります」


「あのお香はそういう意味があったんですか……。なんと用意周到な」

「エリオ様ぁ……もう一度だけ、もう一度だけ下さい」


「流石に初めてでそんなにしたら後で腫れちゃいますよ?」

「かまいません!」


 ……。


 ……。


 ……。


「エリオ様ぁ……次はいつ来てくださいますかぁ?」

「えぇぇ……」


『もう完全に愛人枠ニャ』


 その後、まだ求めてくるセーラさんを振り切り、なんとかベッドから脱出した。


 そして急いで服を着て、ユリナを抱っこして逃げるように帰った。


 ただ一つだけ言わせて欲しい。


 エルフは凄かった。似た種族同士相性がいいのかもしれない。



◆◇◆◇



『いつも以上に早かったニャ』

「それは言わないで……」


 ボロアパートに着くと、佐藤君たちの準備は終わっていた。


「じゃあ、持っていくものは全部収納しちゃうね。あ、あれは!」

 ゴミを箱を見てみるとカレールーの箱とビニールの内箱を見つけてしまった。


 そっと取り出してよく見てみると、小さな破片がまだ結構残されているようだ。


「やったー! 汚されてないカレールーをゲットだぜ!」

「は?」

 僕の心無い発言に清水さんはおかんむりのようです。

 でも今はそんな事忘れて本気で喜ぶのだった。


 ボロアパートの前に竜車を出して、中で元の服に着替えてからみんな乗せてそのまましばらく走り、結界外に出たのでみーちゃんにお願いする。

 フェンリルの姿に戻ると二人共腰抜かしいていた。

 この街ではフェンリルがかなり怖がられているみたいだ。


「みーちゃん全員一度に行ける?」

『問題ないニャ』


「では、出発!」


 僕たちは光の世界へ旅立った。


「なんだこれ……言葉にできねぇ……」

「なんなのよこれよ……」


 車を出してみんなで屋敷に戻り、中に入ると案の定嫁たちに睨まれてしまった。


「コウちゃん……」「矢吹っち……」「フラグ回収……ヤバ」「信じてたのに……でも好き」


「清水さんは違うからねぇ!」

 浮気してきた事自体は本当だけど。


 モリモリが説明したこともあって、疑いは解けたけど、後ろめたい気持ちは晴れなかった。


 そんな話しをしている最中……。


「水野さん、ずっと好きでした! 付き合ってください!」

 脈絡もなくいきなり始まった佐藤君の告白にみんな目が点だ。


「ごめんなさい。私コウちゃんが好きだし、結婚もしてるから」

 崩れ落ちる佐藤君。許せ佐藤君。悪いが恵は渡せない。


 ちょっとしんみりしてしまった空気を晴らす様に、僕は複製して作ったカレールーの塊を出した。

 みんな大喜びだ。

 そして芽衣子と渚が作ったカレーは美味かった。僕が調整したカレーなどゴミかと思えるほどに。

 ライスの炊き加減も完璧。米だけ食べてもいける程美味しい。


「おいしーーー!」

 ユリナが物凄い喜んでる。僕も嬉しくなってきちゃうよ。

 ちょっと落ち込んでた佐藤君もカレーの美味さで復活した。


 七星さんたちも「これが庶民の味なのですね」とか嫌味に聞こえなくもない事を言っていた。

 彼女らは嫌味の気持ちは全然無いのだけど、こういう所が浮いてしまう原因のようだ。


 リリさんは無言でカレーをかきこんでいる。もう四杯目。

 地球の猫には毒だけど、この世界の猫には関係ないみたいだ。


 食事も終わり、お風呂に行こうとしたら唯に捕まった。

「今日は唯の日だから、一緒にお風呂入りたいです。ダメですか?」

 屈んで上目遣いしてくるあざとい奴め。


「じゃあ今日は三人で入るか」


 僕たちは脱衣所で脱いでいく。

 呪いのせいでドキドキが止まらない。


「くんくん……くんくん……唯が気づかないと思いました?」

「な、なんのことかな……」

 心臓が跳ね上がった。


「でも、いいの。矢吹君がわたしのところに帰ってきてくれるなら」

「は……はい」


 ニコニコしている唯の笑顔が怖くて今日のお風呂はあまり楽しくなかった。


 そして癒やしのユリナは寝てしまった。

 唯の部屋に行こう。


 ……。


 ……。


「ぷはぁ……。お腹いっぱいになっちゃいました」


「僕は魂が抜けた気分……デス」

「今日はお仕置きしないとなので、まだ終わりじゃありませんよ」


「……まだ痛いだろうし、無理しない方がいいよ」

「知ってますか? 他にも戦える場所はあるんです」


「え?」

「浮気な矢吹君を汚してあげます。お仕置きです」


 ……。


 ……。


 ……。


「痛かったですぅ……うぅぅ……お風呂連れて行ってください……うぅぐぅぅ」


 どっちがお仕置きされたのかわからない状態になっていた。

 でも、そんな唯が本気で可愛く思えてきたのは呪いのせいではないと思う

評価、ブックマークありがとうございます!誤字報告もありがとうございました!これからも是非よろしくおねがいします!

猫がカレー好きという文面は万が一にも勘違いされる可能性があるため書き直しました。

ご指摘ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] リリさんは無言でカレーをかきこんでいる。もう4杯目だ。 猫はカレー好きだもんね。 猫にカレーはガチで死にます ネギ科とカフェインは犬猫にとっては猛毒です ちなみにニンニクやらっき…
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