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21 みーちゃん


 僕から弾けたソレは、遙か上空に飛び出し、小さな太陽の如く輝いた。

 そして、その光が収まると再び僕の体へと戻り、光が体を包んだ。

 やがて光が収まると


「矢が……なくなってる?」


 刺さった矢も無くなり、傷も完全に消えていた。


「矢吹! 大丈夫なのか!? マックス! 全力だ!」「コウちゃん!」

 モリモリが、わんちゃんに命令すると、後ろに潜んでたと思われる射手達が木々諸共粉々に吹き飛んだ。


 恵は安心したからか、ぐったりしてしまった。


「配下に手を上げたな! お前の目の前でこの女を犯してやろうと思っていたが皆殺しだ! やれ!」


 僕がアイテムボックス砲で豚を消し飛ばそうとしたその時、東から山が動いてきた。僕も豚侯爵もあっけに取られ皆フリーズする。


 地響きと土煙を上げて近づいてくるアレは……山なんかじゃない。


 山の様に大きな狼だった。


「グオゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」


 その雄叫びは大陸中に響いた。


 やがてすぐ近くにまで来た巨大な狼は僕達を見下ろした。


「ふぇ……フェンリル王だと……」

 豚は腰を抜かし、豚の配下は全員武器を放り投げた。格が違うのだ。生物としての格が。全員それを感じ取ってしまった。





 僕にもわかった。この狼が何者なのか。理由はわからないけれど確信めいたものが僕の中を駆け抜けた。










「みーちゃん!」


『コウイチ…! 待ってたよ。ずっと、ずっと待ってたよ……』


 みーちゃんは泣いている。大きな瞳から流れる涙はまるで滝のようだ。

 僕も泣いている。


 僕たちは異世界でこうして再び巡り会えた。


 ……完。


 なんてアッサリ終わらせないよ! 覚悟しろ豚野郎!

 と、意気込んだけど、みーちゃんが大木のような腕を上げて僕を制した。


『おまえだな。おまえがコウイチを殺したな?』

「ちが……わしでは……あ……」


 何か言いかけていたが、豚侯爵は遥か上空にまで飛ばされた。

 そのまま空宙で固定され、蹂躙が始まった。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 上空で何が行われているのか解らないけど、豚侯爵は雷の様なものに包まれている。

 放電音と豚の悲鳴が見てい者の恐怖を誘う。豚の配下は次は我が身と絶望的な表情だ。僕たちもあまりの迫力に足が竦んで動けない。


 かれこれ30分以上続く地獄の拷問に、そろそろ止めた方が良いのでは? みたいな雰囲気が漂い出すが、みーちゃんの鬼気迫る姿を見て、誰もそれを言い出す事は出来なかった。


『そろそろ終わりにしてやろう。地獄の業火で700万年生きたまま悶え続けろ』


 みーちゃんが豚に何かのスキルを発動しようと目を見開く。


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。お許しを……」




「お待ちください!」


 振り向くといつの間にか、シモーヌさんとエリーシアさんがローズ隊を引き連れ、近くまで来ていた。

 全員武器は持っておらず、跪いている。


 よく見るとカリンさんも居る。


 一応みーちゃんはスキル発動を止めたようだ。


『こいつに与するならば、お前たちも同じ運命を辿ることになるぞ』


「待ってみーちゃん! 多分この人達は味方だと…思う」

『コウイチがそう言うなら……』


 このスキに僕はニ人を捕らえていた兵士達を思いっきり殴り飛ばして、ユリナと恵を回収し、アイテムボックスから出した毛布を巻いた。


「恐れながら申し上げますフェンリル王。その豚、ピッグー侯爵を我々は捕らえにまいりました」


「なんだと! 騎士風情が我を捕らえるだと!」

 勢いよく立ち上がり地団駄を踏む豚侯爵。


 さっきまでみーちゃんの拷問受けてたのに豚侯爵意外に余裕あるな。


「黙れ豚。貴様が動いたと知って、屋敷に踏み込み、証拠は全部抑えてある。言い逃れはできませんわ」

「なんだと! そんなもの出てくるはずがない!」


「貴様の執事が証拠の場所を全部話しましたわ。屋敷からでも見えるフェンリル王を見て心が折れたようですわね」

「な……なぜだ! フェンリル王は関係ないだろ!」


「貴様が軍を派遣した場所に怒れるフェンリル王が姿を表したのです。余程の阿呆でもなければ事態は把握できますわ」

「そ……そんな」

 豚が膝から崩れ落ちた。


「貴様はかつての公爵家、カルナレス家当主と子息を無実の罪で陥れ、殺し、その罪を被せた。相違ないな?」

「……」


「別に黙っていても構いませんわ。貴様の屋敷からこれが出てきた時点で終わってますし」


 シモーヌさんは自分のアイテムボックスから何かを出した。


「これは[闇の瞳]。貴様いわく、カルナレス公爵が王家の宝物庫から盗みだそうしたのを貴様が目撃し、止めようとして抵抗され、止むを得ず殺害した。しかし、その混乱に乗じてカルナレス公爵の子息デュラン様が闇の瞳を持ち逃げしたとされるものだ。その後デュラン様は行方不明となり、貴様の証言は信用された」


「……」


「執事の証言により、デュラン様の……ご遺体も貴様の屋敷から見つかりましたわ」

「ふ……ふざけるな! わしをハメようとして貴様らが仕込んだのだろう!」

 また豚は立ち上がり地団駄を始めた。いい加減うざいな。


 イライラしたのかシモーヌさんは豚へ歩み寄り高速の蹴りを三発浴びせた。

 豚侯爵は血反吐を吐いて地面を舐めた。


「デュラン様は、強く優しい御方でしたわ……」

シモーヌさんは涙を流し、思い出を辿っているようだ。多分想い人だったんだろうね。


「見苦しい真似はもう止めなさい。どの道、貴様は終わってるのです」


 前門の薔薇、後門の狼ってやつか。


 豚侯爵は少し冷静になって今の状況がわかったのか、流石に諦めたようだ。


「みーちゃん、あの豚はドルフィノの法律で裁いてもらおうよ」

『コウイチがそう望むならそれでもいいニャ……ぞよ』


「今なんか語尾が変にならなかった?」

『なってない!』


「何必死になってるんだか」

 僕は安心したせいか笑いながら腰が抜けた。




◇◆◇◆




 豚侯爵はローズ隊により連行され、この場にはシモーヌさん、エリーシアさん、カリンさんが残った。


 カリンさんは連行される豚侯爵のケツを思いっきり蹴飛ばしてすっ転んでいた。足を挫いたようだ。ちょっとかっこ悪い。


 一息つけたので、ユリナと恵に特製ポーションを喉に流し込み回復させた。


「お兄ちゃん! しゅきーペロペロお兄ちゃんおいしー! ペロペロ」

「コウちゃん!」

 飛びついてきたニ人を僕は抱きしめ何度も何度も謝った。泣きながら謝った。

 僕のせいじゃないと二人は言ってくれたけど、こんな目に合わせて僕が僕自身を許せないよ。


 しばらくそんなやり取りをしてたけど、薬の副作用でハイテンションになってるユリナを見ているうちに少し和んだ。



「ところで矢吹さんよ、こちらのでっかいフェンリル様とお知り合い?」

「サ……サトシ」

 リリさんは尻尾をピンと立たせ、モリモリに抱きつきながら震えている。

『クゥーン……』

 マックスは尻尾を股に挟んでプルプルしてる。可愛い。


「この子はみーちゃん。以前僕と一緒に暮らしてた三毛猫だよ」

「猫ォォ!?」


『恵も久しぶりだね』

「うそ……本当にみーちゃんなの? 私の事が解るの? コウちゃんは気づいてくれなかったのに」


『匂いでわかるよ。恵の中からコウイチの匂いもする。番になれたんだね』

「うん。早く赤ちゃん欲しい」


「おいおい矢吹さぁ……」


「ところでみーちゃん、その姿だと大きすぎて困るからどうにかならない?」

『それなら大丈夫!』


 みーちゃーんが光に包まれると、かつてのみーちゃん。三毛猫のみーちゃんが居た。


『コウイチ!』

「みーちゃん!」

 唖然とするみんなをよそに、僕は飛びついてきたみーちゃんを抱きとめ、涙を流しながら気が済むまでモフモフスリスリし合ったのだった。



◆◇◆◇



 色々疲れたので、僕がアイテムボックスから出した家でとりあえずみんなで休憩する事にした。


 僕の膝にはユリナとゴロゴロ言ってるみーちゃん、横には恵が寄り添っている。


 ずっと黙っていたカリンさんだったが、僕の所へやって来て土下座をした。


「ごめんなさい! 私が豚にあんな言い訳したせいでご迷惑おかけしました」


「いいですよもう。でもこれで婚約とか言うのはナシでいいですよね?」

「いえ、それは有り得ません。口づけも交わしましたし、私はもうエリオさんのものです」


「それは……」


「どういう事ですの? (わたくし)とエリーシアをの身体を弄んだ上に、カリン嬢はお手つき済なんて……」

「エリオさんは手が早いんですねぇ。隊長、早く嫁がないと私達居場所なくなりそうですよ」


「コウちゃん!」


「矢吹さぁ……」


「ち……違うんです。これには深い訳が……」



◆◇◆◇



 結局誤解を解くため一時間ほど要した。


 セクハラしたのも事実だし、カリンさんが仕掛けたハニトラとはいえ、婚約したのもキスしたのは事実なので、

 誤解が完全に解けたとは言えなかったが。


 もう疲れた……もう今すぐ寝たかったが、ここに留まっても仕方ないので家を収納し街へと皆で歩いた。


「結局その闇の瞳ってなんなんですか?」


「闇の瞳は使えば、心を掌握できると言われてますわ。豚は闇の瞳を使い、国家転覆を狙っていたのでしょう」

「使うと死罪だから使っちゃダメですよ隊長」

「解ってますわ」


「そんな物騒なもの壊しちゃえばいいのに」


「破壊は不可能なのです。ヨリュア様が齎したと言われる秘宝なので」


 破壊が不可能と言えば……無い。輝く石がアイテムボックスから消えていた。

 みーちゃんは今回みたいな事を予想して輝く石を用意してくれたのだろうか。

 あえて聞かなくてもいいかなって僕は思った。



 ドルフィノの街に着くとシモーヌさんたちは今回の事を報告に王城へ、僕たちは宿に戻った。

 戻ったのだが、今回僕が貴族とモメて宿にも被害があったせいで追い出されてしまった。いい宿だったのになぁ。

 あいつら宿の扉をぶち壊して恵とユリナを拉致ったらしい。


 賠償金は豚侯爵の家族にでも貰ってくれと言って出てきた。


 仕方ないので少し街を散策して、僕たちは新たにシックな高級ホテルを見つけ、そこに宿泊することにした。


 モリモリとリリさんはニ人部屋を、僕たちは中に仕切りがある四人部屋をとった。


 ユリナは疲れて寝てしまい、僕は恵と一緒にベッドに入っている。


「ごめんねコウちゃん。ここはコウちゃんと私達の赤ちゃんの為のものなのに豚に触られちゃって……」

「僕の方こそごめん。守れなかった」


「コウちゃん……」

 恵は瞳を閉じた。


 僕たちはこの日もいっぱい愛し合った。


 みーちゃんに見守られながら。


「あの……みーちゃん。なんで見てたの?」


『面白そうだったからニャ』


「ニャ?」


『恵は小汚かった時からずっとコウイチと交尾したそうだったニャ』


「みーちゃん! 言わないでよ」

 恵が焦ってる。


「へーそうなんだ、どんな風に?」

「コウちゃんもやめて!」


『ミーを抱っこしながら、どうしたらコウちゃんににキスしてもらえるかなぁ、みたいな独り言をよく言ってたニャン』

「もーやめってってぱ……」


「ごめん。意地悪しちゃって。慌てる恵が可愛くて」

「もう……キスしてくれたら許してあげる」


「オッケー!」


 ラウンドⅡの始まりのゴングが鳴った。



◇◆◇◆



 翌朝、僕が連日ハッスルしたせいで恵にダメージが出てしまい、歩くのかなり辛そうだったのでユリナと宿で休んで貰うことにした。

 すみません。反省してます。

 もう大丈夫と思うけど護衛はみーちゃんに任せた。最強すぎる護衛だ。


 僕とモリモリたちは今森の開けた所に来ている。


 モリモリに車作った話をしたら凄い興味を持ったので、一緒に仕上げる事にしたのだ。ニ人なら良いものが出来るかもだしね。


 こんな感じになるって作った車を乗ってみせたら、案の定木に衝突した。


「まずあれだ、クラッチに当たる部分がないからこういうことになる」


「クラッチ? なにそれ」

「いきなり全開パワーの動力が車軸に加われば急発進するだけだろう」


「まぁそうだね」

「解ってるならなんとかしろよ」


「クラッチってどう作ればいいの?」

「そんなで簡単に作れるものじゃないぞ。それこそ核の設定でどうにかならないのか?」


「ちょっとやってみる」

「おう」


「出来たかも……。魔力の流す量で強弱を付けることにした」

「やりゃーできるじゃん」


「エヘヘ。じゃあ試運転してみるよ」


 魔力はシートから伝わる構造で座ってさえ居れば魔力が通るようにした。ドアを閉め、ハンドルを握り、最初弱めの魔力で…


 ギュルルルルルルルーーーシャーーーガシャーーーン!


 今までで最大の事故だ。

 モリモリとリリさんとマックスが驚いた顔でこっち見ている。


 ヤバイ……クラクラする。

「おい! 大丈夫かよ!」

 正気に戻ったモリモリは慌てて駆け寄ってきてドアを開けた。


「大丈夫。シートベルトって大事なんだねぇ」

「はぁ、あのさ、俺が運転してみていいか?」


「ちょっと心が折れたのでモリモリに任せるよ」


 僕は車を収納すると僕用のチゃイルドシートを外し、普通の座席に変えた。

 モリモリと色々話し合い、更に改造を続け、サスペンションを改良し、外観はもうマ○ラティではなくジ○プみたいになってた。


「タイヤ大きくて車高上げた方がこっちの世界向きなんだよ。よしよし、いい感じ」

「僕のマ○ラティが……」


「セダンタイプは帰ってからまた作れよ。今回はヨルバンに行く足として使うんだから、こっちの方が良い」


「そうするよ」

そう。ヨルバンに戻る足として使いたいんだ。ミスリルボディの車なら魔物なんて蹴散らしながら走れるしね。

しかも速いし、上手くいけば数日で帰れるかもしれない。


 モリモリは一時間も乗ってると上手く乗り回せるようになってきた。センスあるなぁ。悔しくなんてないんだからね!


「ふぅ。これかなり楽しいぜ。矢吹に感謝だな」


「魔力は大丈夫? 流すのは少しの量で変化できるようにはしたんだけど」

「問題ないな。多分一日ずっと乗っても大丈夫そうだ」


「じゃあ後はシートをもっとフカフカにしたり、乗りやすくする工夫ぐらいでいいかな?」

「だな。シートのクッション材料あるのか?」


「無いからこれからドルフィノ行って仕入れる。今日はお開きにして明日続きやろうよ」

「おう」



◆◇◆◇



 材料は布の扱う店で仕入れた。低反発みたいな面白い素材を手に入れた。木の中身なんだって。不思議な木もあるもんだねぇ。


 夕食を終え、みーちゃんとユリナと散々遊んだのでそろそろ寝る。


「そんな事あったんだー。じゃあ上手くいけば明後日には出発するの?」


「そのつもり」

「早くコウちゃんとお屋敷で暮らしたい」


「僕もだよ」

「コウちゃん……」

 恵が目を閉じる。



『また痛くなっても知らないニャ』


「プハァ……僕はそんなに鬼畜じゃないよ。これ以上はしないよ」

「……コウちゃん」



 ……。


 ……。



『恵にコウイチが食べられちゃうのかと思って一瞬焦ったニャ』


「ふぅ……アメージング」

「……ゴクン」


 よし。明日も頑張るぞ!!




◇◆◇◆




 次の日、午前中に車の調整が済み、午後に出発することにした。


「なー、あの騎士の姉ちゃんとかに何も言わないで行っていいのか?」


「いいのいいの。面倒事は避けたい」

「矢吹はどんどん大胆不敵になっていくな」


 僕たちは六人乗りシートに乗り込み、シートベルトをして、いざ出発!


 速い! 多分60キロ以上出てるんじゃないだろうか?


 最初は窓ガラスじゃなくて、ミスリルの網を窓につけてたんだけど雨降ってきたら困るからガラス式にした。

 こっちの世界のガラスは地球のほど頑丈じゃないので振動しただけで割れる。なので数本作ったミスリルの剣を一本潰してガラスと結合させてみた。

 ちょっとした実験のつもりだったけど、上手く行ってかなり堅牢なガラスができた。こんぼうで強めに殴っても割れなかったよ。


 うっすらとスモークガラスの様な色が付いてしまったけど、許容範囲だ。


 モリモリの運転で順調に走り出したし、これならすぐ着きそうだ。いざヨルバンへ。

評価、ブックマークありがとうございます!

※フェンリル王と豚侯爵のやり取りを修正しました。

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