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20 終わりの時

 これからの事が心配で眠れなさそうと思ったけど、ニ人の寝息を聞いてるうちに眠れたようだ。


 考えた所でなるようにしかならないか。そう割り切れたら簡単なんだけど、人間はそんな単純には出来てないんだよね。


 シモーヌさんとエリーシアさんの件は、ほんとどうすべきか。


 それとハニトラ仕掛けてきたディンさんの妹カリンさんの事もか。色々あって忘れてたよ。


 お姫様が嫁いでくるなんて事はまずあり得ないから心配してない。


 考えるより行動しよう!

 朝食後、みんなでこれからの事を話し合うことにした。


「これが恩赦の証明書なんだ。これを持って森山(モリモリ)の所に行ってくるよ」

「逃げた東の森は危なくないの?」

「ユリナも森いきたい」


「森は僕にとってむしろ安全なんだよ。あっという間に木に登って逃げられるしね。ごめん、ユリナは今日も留守番してね? 誰かを担いで木には登れないんだ」

「わかった……」


「恵は今日仕事はある?」

「あったけど今から行って全部キャンセルしてくる。コウちゃんの都合に全部合わせるから」

 恵は短いスカートをひらひらさせながら走って行ってしまった。


 ほんと可愛くて出来た嫁だよ。

 恵が戻ってきたらユリナを預けて僕は出かけるとしよう。


 恵は一時間程したら息を切らせて走って戻ってきた。

「ごめんね。遅くなって。結局髪の毛のカットとセットやらされちゃった……」


「貴族の押しの強さは知ってるからむしろ迷惑かけてごめん。じゃあ今日もユリナをお願いね」

「任せて。ユリナちゃん今日も一緒に遊ぼうね」

「うん。遊ぶ。お兄ちゃんとも遊びたいけど」


 本当はくーちゃんが居ればいいんだけどヨルバンに残した芽衣子と渚が心配なので、くーちゃんに一緒に居てもらう事にしたんだ。

 くーちゃんはかなり渋ってたけど、最終的には了承してくれた。

 闇猫はヨルさんの使いと言われてるから、手を出す者は愚か者は居ないらしいしね。


「それじゃ行ってくるね!」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

「いってらしゃい!」

 ユリナを抱きしめてなでなでしながら、少しかがんでキスを求めてきた恵にチュッってしてから宿を出た。


 これが嫁と娘に送り出されるってやつですか。今日も一日頑張りたくなるね。

 手を振るニ人に手を振り返して、僕は東の山へと走った。

 大体の位置は昨日シモーヌさんに教えて貰ったんだ。

 ただ、逃げてるモリモリがその場に留まっているとは考えにくい。

 だからと言って行動しなければどうにもならない。今は走る!



◇◆◇◆



 はい。今僕は木の上に居ます。

 森でクマさんに出会って、彼に言われるまでもなく逃げたのですが、木があるから走るにしてもスピード出せずに仕方なく木に登りました。

 彼はジリジリ着実にと木を登って僕を仕留める気です。ピンチです!


 なんてことはなく、以前クラフトしたミスリルの剣をぶん投げたら頭に刺さって落ちていった。


 最近はアイテムボックス砲使ってない。アイテムボックスの容量が∞になってから威力ありすぎてやばいんだよね。

 今は調整する練習してるんだけど、練習する場所見つけるのも難しい。


 落ちた熊と剣を収納して、木のてっぺんから周りを見回す。

 東の森はとても広く、更にずぅーーーっと向こうには大きな山が見える。

 シモーヌさんに聞いた話では東はフェンリルの領域なんだそうだ。

 

 フェンリルの領域に入っても特に何があるわけでもないらしいけど、敵意を少しでも向けたら即殺されるみたい。


 この広い森でどうやってモリモリを探すのかって?

 これを使います。じゃじゃーん。特製ポーション!


 僕は腰に手を当て一気に飲む!


「ニャッハハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!」


「モリモリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! デテこーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!」


「ニャハハハハハハハハハハハハハハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


「ヤブキがキタニャァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!」


 その音量は空気を震わせ、鳥は失神して地に落ち、大地に響いた。



◆◇◆◇



 一方その頃。


「ごめんね。リリのせいでサトシが追われる事になっちゃって……」

「何いってんだ! 俺が勝手にやったことだぜ。俺は自分の行動が間違っていたと思ってない」

『クーン』スリスリ


「ほら、マックスも同じ意見だって言ってるぜ」


 俺はあの戦争に参加していた。ドルフィノの冒険者や街の人は良い奴らばかりだったから、そこに侵略してくる帝国が許せなくて冒険者枠で参加した。


 俺には頼れる相棒、フェンリルのマックスも居るしな。


 だが、戦争は俺が思っていた様なものではなかった。帝国の兵士は女子供も兵士として多く混ざっていた。


 ドルフィノの騎士は容赦なく斬り捨てていく。腰が引けていた冒険者もそれりに習い容赦なく敵を倒しだした。

 ドルフィノの騎士は強かった。心も強いのだろう。相手が戦意を失っていようが武器を持っている女子供を容赦なく斬り捨てていく。


 俺は何も出来なかった。ただ泣いていた。


 そんな俺のすぐそばに帝国の鎧を着た獣人の女の子が走ってきて転んだ。


「お母さん……お母さん……」


 その子は泣いていた。泣いて祈っていた。


「お母さん……」


 その獣人を追って一人の騎士が一瞬で近づく。次の瞬間彼女は首をはねられるだろう。


 俺は……。


「マックス!!」

『アオォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!』


 マックスの放った電撃を含んだ衝撃波は騎士団もろとも帝国軍を吹き飛ばした。


 俺は目の前の獣人少女を抱え、マックスと共に東を逃げた。


「フェンリルだ!」「フェンリルが攻めてきた」「逃げろ!」

 帝国軍はフェンリルが怖いらしく、一目散に撤退して行ったが、騎士たちは俺を執拗に追ってきた。


 その度にマックスが蹴散らす形で俺は少女と逃げ落ちた。


「ほら、これ食えよ」

 最後の小さなパンをアイテムボックスから出して半分こにしてリリに渡した。


「ありがとう……サトシ」


「まぁ、最悪食料はマックスに獲ってきてもらった動物焼いて食おうぜ」


『ガウガウ……』

 マックスは捕まえてきた兎をバリバリムシャムシャ食ってる。生で食って美味いんだろうか?


 とはいえ……リリには焼くとは言ったが、煙で位置が騎士団にバレてしまうしな……。


 このままじゃヤバいな。


「ニャッハハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!」


 ビリビリ……グラグラ……



「――な、なんだ!?なんの声だ?」

「サトシ! 怖いよ」

リリは俺に抱きつき震えている。


『……』

マックスは特に警戒してないようだ。敵ではないのか?




「モリモリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! デテこーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!」




「なに? 今モリモリ出てこいって言ったか?」

「そう聞こえたかも……」




「ニャハハハハハハハハハハハハハハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」




「モリモリ? まさか……」

「サトシ?」




「ヤブキがキタニャァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!」




「矢吹! 矢吹なのか!?」

「え? だれ?」


「俺のダチだ。だが……どうやってこれほどの大声を出してるんだ? こういう魔物なのか?」

「怖いよサトシ。もうダメなのかな? 死ぬ前にサトシのお嫁さんになりたかったよ」

「俺がなんとかするから大丈夫だ。つーか、リリはもう俺の嫁だろ」


「サトシ……」

「リリ……」


「あの、お取り込み中、申し訳ないニャァーン。チューは後にして欲しいニャァァァァン」


 そいつは突然現れた。


 なんだこいつは……。見たこと無いエルフの子供? 目が金色に輝いている。まるで猫みたいだ。

「ハイエルフ……」

「ハイエルフ? エルフとは違うのか?」


 その瞬間そいつは消えた。目を一瞬たりとも離してないのにそいつは消えた。


「ヨーシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシ可愛いわんチャンダニャーーーーン」


 振り向くと、いつの間にかそいつが居てマックスをモフりまくってやがった。


『クーン、クゥゥゥン。フニュフニュ』

 あんなフニャフニャなマックス初めて見た。俺にしか体を触らせないマックスに一体なにが……。


 しばらくモフっていると目の輝きが消え、急にそいつは冷戦になった。

 マックスはもうデレデレ状態だ。物凄いNTR気分だぜ。


「あ、モリモリ元気そうで良かった!」

「矢吹……なのか?」


「うん。あの後ヨルさんのせいでハイエルフにされちゃったんだよ」

「つーかお前……超可愛くなったな……ヤベェ……嫁にしたい」

「サトシ!」


「落ち着てよ。それに僕は男のままだよ」

「男でも……アリだな」

「サトシー!」


「アリじゃないよ! 少し落ち着こうよ」

 ひとまず話とかしたいので、僕はアイテムボックスからそこそこ大きいタイプの家を出した。


 二人は突然の事にかなりびっくりしている。


「そういうば矢吹はアイテムボックスに極振りしたんだっけか」


「そうそう。だから中で落ち着こう。かなり汚れてるみたいだし、お風呂入ってスッキリしてきなよ」

「ああ……わかった」



◇◆◇◆



「落ち着いた?」

「ああ、まさか風呂に入れるとは思わなかったぜ。いい湯だった」

「ふにゃゃん」

 猫耳さんはモリモリに抱きついてスリスリしてる。匂い付けか? ちょっと羨ましい。


「それはいいんだけど、お風呂でハッスルするのやめて欲しかったよ。声聞こえてきたし」

「スマンスマン。緊張が解けてタガが外れちまってよ」


「可愛い猫耳のお嫁さんできて良かったね」

「そうだな……。でも、事態はそんなに甘くないんだ」


「うん。知ってるよ。でもコレを見て」

 僕は恩赦の証明書を出した。

 モリモリはそれを手に取りじっくり読み始めた。


「これは本当なのか?」


「本当だよ。ただ、書いてあるように罪は問われなくなったけど、モリモリはもうドルフィノでは活動できない」


「だよなぁ。しかし、どうしてこれを矢吹が?」


「これのおかげだよ」

 僕はアイテムボックスから特製ポーションを出した」


「なんだこれは?」

「フニャャ!」


 さっきまでフニャフニャだった猫耳さんがモリモリから離れて薬を凝視し始めた。


「これって……もしかして闇の雫?」


「そう言われているらしいね」


 猫耳さんは興味深そうにずっと見ている。


「それでその薬がこの恩赦とどういう関係が?」


「その薬はどんな病気も怪我も一瞬で治すんだ。これを使って癌を患っていた王妃様治して恩赦をゲットしてきた」

「矢吹……矢吹!」

 モリモリは感極まって僕に抱きついてきた。泣いてるし。やめてください僕には心に決めたお嫁さんが三人もいるんですよ。


「僕はいつだってモリモリに助けてもらってたしさ、やっと恩返しできたよ」

「ありがとな……マジで。あと、ついでに俺の嫁になってくれ」


「サトシーーー!」


 ちょっと修羅場になりかけたけど、今はみんなでご飯食べてる。


「うまっ……なんだこれ肉じゃが? 豚の角煮もうめぇ」

「うにゃうにゃうにゃ」

『ガウガウガウガウ』


 余程お腹空いてだのか、みんな夢中で食べてる。


「みんなの口にあって良かった。ちなみにそれはオークの角煮だよ。岡さんと伊澤さんが作ってくれたんだ」


「あー料理部の? 合流したのか。しかし美味いな。調味料どうなってんだ?」


「アイテムボックスが進化してどんな物も複製できるようになったんだよ」


「複製? よくわかんねーけど美味い! この味求めてたんだ。あと水が死ぬほど美味いな。なんだこれ?」


「特別な水だよ」

「矢吹はいつドルフィノに来たんだ? 見かけなかったが」


「数日前からだよ。水野さんもドルフィノに居て合流したよ」

「水野ってあの水野?」


「どの水野さんか知らないけどギャルグループ三人組の水野さんだよ」

「へぇ、あの水野ねえ。居たなんて気が付かなかった。他のギャルニ人は居ないのか?」


「ニ人は違う場所に飛ばされたらしい。水野さんは美容師の仕事で生活してたんだって」

「フッフッフ……知ってるんだぜ。矢吹は水野の事好きだったろ? いつもチラチラ見てたしな」


「バレてたかーアハハ」

「あまりにも高嶺の花過ぎたな。でも、これからはチャンスあるかもな」


「あーうん。水野さんには嫁になってもらった」

「は?」


「お互い好き同士だったみたい。テヘヘ」

「はぁぁぁぁぁ?」


「まぁいいじゃん。モリモリも可愛いお嫁さんできたし」

「嫁ってことは、もうやったのか?」


「……やった」

「まじかよ……あの大人しい矢吹が異世界に来て色々変わっちまったんだな……」


「みんな多かれ少なかれ変わったよ。変わらないと生きていけない」

「だな……」



◆◇◆◇



 しばらく休憩して、みんなで森を出ることにした。


 森の魔物も野生動物もマックスが居れば全く問題ないらしい。

 可愛らしいだけのわんちゃんじゃないようだ。

 さっきのフニャフニャな雰囲気は消えて、モリモリの横でキリッてしている。


 森の出口に差し掛かった時、前方に軍隊が居るのに気が付いた。


 ドルフィノの騎士ではない。なんだあれ?

 一応用心のためにマックスを先に歩かせ森から出た。


「お前が我が妻を奪ったハイエルフの小僧だな? ほほぅ……いいではないか。聞いていた以上の美貌だな。カリンと共にわしの所に来い。可愛がってやる」

 一方的に告げたのは、わざわざ用意したと思われる高台に乗った豚だった。もしかしてアレが豚侯爵?


「何のことかわかりませんね。僕には関係ない事なので失礼しますね」

「そうかそうか。わしの慈悲を解らぬ愚か者か。ならば」

 豚はチラっと軍の指揮官らしき男に合図すると一斉に矢が飛んできた。


「無駄ですよ!」

 僕は範囲収納を展開し、全ての矢を収納、ボックス内でぐるっと回してその勢いのまま矢をお返しした。


「なっ!」


もちろん当ててない。少し手前の足元に当たるようにした。


「僕がその気だったら今ので全滅かもですよ?」

「デュフフ……愉快な小僧じゃないか。ますます欲しくなってきたぞ。だがこれはどうだ?」

 また豚が目配せすると、後ろから良く知った人物が連れられてきた。


「ユリナ! 恵!」


 二人は拷問を受けたかのようにボロボロで、ユリナはぐったりして、恵は意識あるがほぼ下着だけになっていた。


「こいつらはお前の大事な女らしいな? この女は良いな。後でわしが直々に可愛がってやる」

 そう言って恵の胸を鷲掴みにした。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ! 汚い手で触らないで! この豚っ!」

 恵は涙でぐちゃぐちゃになっている。


「フンッ! 後で薬使ってよがり狂わせてやるわい」

 胸を掴んだ手を離し、恵を殴りつけた。


「こっちのチビはどうするかな。こういうのが好きな連中に売ってやるとするかデュフフ」


「なん……で……」


「なんでだと? わしが娶るはずだった女をお前が横取りしたんだ。報復するのは当たり前であろう」


「……カリンさんのことか?」


「そうだ! いきなりだぞ! いきなり約束を反故にしおって! あの女! もう生娘じゃないから結婚できません。などとほざきおった!」


「……」


「おい、矢吹どうする?マックスにあいつらぶっ飛ばしてもらうか? 水野とあの子供だけ攻撃範囲から外すことも可能だ」

『グルルルルルルルルル』


「いや、僕にやらせてほしい。もう我慢できそうもない。み……なご……ろしだ!」

 僕は理性のタガが外れ、目が金色に輝いた瞬間、後ろから放たれたニ本の矢に僕は貫かれた。


「ガッハッ……」


 矢は僕の首と胸を貫いており、明らかな致命傷だった。


「矢吹!」「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁコウちゃん!」


 もう……アイテムボックスを開く力さえ無い……僕は遠くに見える青い海を見つめながら崩れ落ちた。

 もう意識も殆ど無い。ただ耳鳴りだけがずっと頭に響いている。

 ごめん……みんな。ごめん……。




 その瞬間




 僕のアイテムボックス内で何かが弾けた。


評価、ブクッマークありがとうございます! 誤字などの修正中ですのでご了承下さい。

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