19 詰みまくり
三人で優雅な食事を終えた僕たちは、今後のことを決める話し合いだ。
「みず……恵は僕と一緒にヨルバンに来るということでいいんだよね?」
「うん。早くコウちゃんと一緒に暮らしたい」
嬉しそうに言う恵は可愛くて思わず抱きしめそうになったよ。
代わりに僕の膝の上に座るユリナをギュッてしておいた。
「予定としては、六日後までには帰路につきたい。だけど、問題は森山だな……」
「森山君がどうかしたの?」
僕は一連の騒動を恵に話した。
「それって……本当にどうしたらいいんだろうね。ごめんね、どうしていいか思いつかない」
「森山には自首してもらい罪を償ってもらうのが一番だけど、難しいかもしれない」
「でもコウちゃんは友達放っておけないよね?」
「まあね。だから騎士団と司法取引したいと思ってる。出来るかわからないし、最悪その場で僕が拘束されるかもだけど」
「ダメだよ! コウちゃんに何かあったら私……ユリナちゃんだって……」
「お兄ちゃん?」
「大丈夫。交渉決裂したらとんずらするから。もし、そうなったら恵もユリナも一緒に駆け落ちしてくれる?」
「もちろんだよ。もう離れないもん」
「ユリナもずっと一緒!」
「じゃあ、決まったね。まずは仕込みからだな」
◆◇◆◇
その日は仕事がない恵にユリナを預け、最悪の場合すぐ逃げられるように恵の荷物も宿から回収した。
その後、冒険者ギルドに行って用事を済ませた。
そして、ローズ騎士団の施設にやってきた僕は門番の女性に声をかけた。
「すみません、エリーシア・マル……マルなんとかさん居ますか?」
「副隊長に何の用かしら?」
「話があります。エリオが来たと伝えて下さい」
門番さんは詰め所に控えてる人に伝言を頼むと、すぐお呼びがかかり、昨日の部屋に通された。奥にはニコニコ顔にエリーシアさんが居る。
「伴侶になるの決めてくれた?」
まだ席についてもないのに話しかけてきた。がっつき過ぎでしょ。
「いえ、それはないです。今日来たのはモリヤマに関することです」
「それで?」
急に真面目になったエリーシアさんは姿勢を正した。
「僕が説得してモリヤマを山から連れ出して自首させます。そして被害に対しての損失を僕に払わせて欲しいのです」
「庶民に支払える額じゃないのよ?」
「おいくらですか?」
「そうね。10万ゴルぐらいかしら」
「えっ?」
「これでわかったでしょ? そんな簡単なことじゃないの」
「そんな程度で良かったんですか? ミスリルゴーレムの残り全部売って失敗した」
「はい?」
「提案します。損害額、慰謝料含め20万ゴル払います。それでモリヤマと、助けた獣人とやらを無罪にしてもらえないでしょうか」
「仮にエリオさんが20万ゴル払ったとしても、無罪にするのは難しいわよ」
「それなら40万ゴルでどうでしょう」
「この話は止めましょう。平行線にしかならないわ」
「お願いします! モリヤマはたった一人の僕の友達なんです」
僕はソファーから降りて土下座した。この世界でも通じるか解らないけど。
「あらあら、やめてよ、立ちなさい」
「お願いします!」
「もう……隊長~見てないで出てきてくださいよ……」
エリーシアさんが僕ではない誰かに声をかけると、誰かがドアを開けて入ってくる気配がした。
「あなたのお気に入りの子、面白いですわね」
「隊長代わって下さい。将来の旦那様をこれ以上虐めたら、嫌われて嫁げなくなるじゃないですか!」
「いえ、エリーシアさんと結婚する気は全くありませんよ」
僕は顔を上げ、真顔で言った。
「ぷっ……アァハハハ。愉快ですわね、この子。私もこの子気に入りましたわ」
隊長と呼ばれた人は金髪ドリルの美人だった。
「私はローズ隊隊長、シモーヌ・ルシフェールよ。さあ、お立ちなさい。そんな事しても無意味よ」
「はい……」
僕は仕方なく元のソファーに戻った。
シモーヌさんはエリーシアさんの隣に座り、僕をじっと見つめ何か考えているようだった。
やめてください。そんな綺麗な顔で見つめられるとドキドキします。あとそのドリル触ってみたい。
「結論から言えばいくらお金を積もうと無意味ですわ。陛下から恩赦が出るなんてことがあれば別ですが」
「恩赦? どうすればそれは出ますか?」
「希望をもたせるのも気の毒だけど、そうね……恩赦があるとしたらマリエール様の命を救うことぐらいかしら」
「誰ですかそれ?」
「この国の王妃様よ。死病だからもう長くはないでしょう……」
「つまり、奇跡でも起こさない限りモリヤマは捕らえられてしまうと?」
「ええ、通例なら縛り首ですわ」
「モリヤマは誰も殺してないと聞きました! 何故そんな厳しい処罰に!」
「参加した戦争で突然寝返って騎士に攻撃を加えたのですよ。むしろ死罪しかありえません」
「そんな……」
「事情は聞いてます。涙を流して命乞いする獣人の、まだ幼い少女をモリヤマは捨て置けなかったのでしょう」
「それなら……」
「それでもです。戦争とはそういうものなのです」
「……わかりました」
「あなたのお友達を思う気持ちはとても尊いですわ。何もしてあげられませんが、代わりにエリーシアは差し上げますわ」
「隊長! 見直しました! エリオさんに嫁ぐまで忠誠誓います!」
「励みなさい。元気な子を産むのですよ」
「ハッ!」
「あの……勝手に話を進めないでもらえますか?」
「あら、まだ何か交渉の余地でもあるのかしら」
「ありますね。奇跡なら起こせますよ。これで」
僕はアイテムボックスから特製ポーションを出してテーブルにそっと置いた。
「たいちょ……これってまさか?」
「ありえませんわ……でも、もしそうだとしたら……」
「証明します。見てて下さい」
アイテムボックスから短剣を出し、胸から腹にかけて斬りつけた。ソファーを挟んだローテーブルに僕の血潮が降り注ぐ。
「ぐぬぅぅぅぅぅぅ……ゲハっ」
やり過ぎた……内臓傷つけてしまったらしい。
意識が遠くなりそうなのを何とか耐え、テーブルの上にある僕の血で染まったポーションを飲んだ。
こっちからは見えないが、あの怖いエフェクトが見えてるのだろう。二人は驚愕している。
「復活! そしてポヨンポヨン!」
僕は高レベル身体能力を発揮して素早くシモーヌさんに近づき、ツテインテールドリルを両手でポヨンポヨンした。
「たーのしー! なにこれバネみたい! ニャハハ!」
「え? え?」
「ついでにおっ○いもポヨンポヨ~ン! んーやーらかい!」
「なっ……」
「そっちのお姉ちゃんのおっ○いもついでにポヨンポヨ……出来ないじゃないか鎧邪魔!」
エリーシアさんの胸部装甲をむしり取り、開放された蒸したてダブル中華まんに飛びついた。
「やっぱり冬は中華まん! 両手に持って違う味を交互に食べたいよね! ニャーーーッハッハ!」
……。
…………。
はい。僕は今、今日ニ度目の土下座をしています。
首筋にはシモーヌさんの剣が当たっている。
「隊長……ニ人でお嫁に行きましょう。もうそれしか無いですよ」
「いいえ、この場で斬り捨てますわ!」
「言い訳をさせて下さい。これは薬の副作用なのです」
「斬る前に一応聞きましょう」
「ハッありがたき幸せ。この薬は初回飲んだ時はそうでもないのですが、飲めば飲むほどハイテンションになってしまうのです。ハイ」
「……私にこのような事してどう責取るつもりですの?」
「どうと言われましても……」
「なら斬りますわ」
「いいんですか? 王妃様を助ける手段失いますよ」
「ま……まだ闇の雫を持っていると言うのですか?」
「ありますよ。ほら」
僕はアイテムボックスから取り出してチラって見せてから仕舞った。
「ぐぬぬぬ……」
「隊長……ね? 初夜は先に譲りますから……」
「仕方ありませんわ。それで手を打ちましょう。エリーシアは第二夫人で良いのですか?」
「いいですよ。そうしないと収まりつきませんし……」
「感謝しますわ」
とんでもないことになった。無事解決したらモリモリとみんな連れて速攻で逃げよう。
「マリエール様には良くしていただきましたわ。何を犠牲にしてでもお救いしたいのです」
「隊長……」
「今から王城に向かいますわ!」
「え? 今から?」
さすがに急すぎなのではと思うけど、王妃様にもしものことがあれば恩赦の機会を失ってしまう。素直について行こう。
◇◆◇◆
そして僕は教えられた通り、片膝ついて頭を下げている。
チラっと見るとエリーシアさんも同じ姿勢だ。
この場所は酷い匂いが立ち込めていた。多分ガンの末期なのだと思う。
お祖父ちゃんが最後こんな感じだった。
てかヨルさんお祖父ちゃんの記憶は弄らなかったんだね。
まぁ既に亡くなってる人だしね。
「シモーヌ。いくらお前の言葉でもとても信じられぬ」
「陛下! どうかお聞き下さい。もし万が一があれば私を斬り捨ててもかまいませんわ」
「お父様! ヨリュア様の奇跡があるのだとしたら、今はそれにすがりましょう」
「陛下! 私はこの目で確かに見ました。奇跡の瞬間を。マリエール様の為にどうか。平にお願いします」
「……わかった」
「エリオ! 薬をここに」
頭を下げたままシモーヌさんの所へ向かい特製ポーションを渡した。
「良い。顔を上げよ」
「はい」
言われた通り顔を上げると状況が見えてきた。
シモーヌさんは特製ポーションを受け取るとマリエールさんの口元へと運ぶ。どうやらその刺激で目を覚ましたようだ。
「……シモーヌ。最後まで心配かけてごめんなさいね。私が亡き後も娘をテレシアを守ってあげてね」
「マリエール様……」
「お母様……」
超可愛いお姫様は号泣してる。
王様も泣いちゃってるし、良い家族なんだね。この王族は。
ヤバイ僕まで涙が。鼻かみたい。
「マリエール様。これを飲んで下さい。今から奇跡をお見せします」
「ありがとう。シモーヌ。もういいのよ」
「マリエール様! ご無礼お許し下さい」
シモーヌさんは王妃様の首の下に手を入れて顎を上げさせ薬を流し込んだ。
その瞬間、例のごとく闇が立ち込め、まるで宇宙にちりばめられた星々の様に沢山の猫の目が輝いた。
相変わらず怖っ……ぼぼホラーだよ。
闇が晴れると悪臭はなくなり、腫瘍は消え去り、体どころかベッドや服まで綺麗になった王妃様がそこに居た。
治った王妃様は凄い美人さんだな。さっきまでげっそりして今にも死にそうだった人と同一人物と思えない。
「マリエール!」「お母様!」「マリエール様」
王様はお姫様はマリエールさんに抱きつき号叫している。
一歩下がった場所でシモーヌさんも号泣していた。
これにて一件落着ですね。
よし帰ろう。無理か。
しばし時が経ち、片足ついたエリーシアさんの足が限界迎えそうな頃、やっと王様達は落ち着いたようだ。
「シモーヌよ。貴重な薬を手に入れてくれて、なんと礼を言えばよいか」
「シモーヌ……ありがとう。何度お礼を言っても足らないわ。ヨリュア様とシモーヌに感謝を」
「陛下、マリエール様、薬は我が夫となる予定の、そこに居るエリオが所持していたものですわ」
「なんだと、そなた嫁ぐのか?」
「はい。エリーシアと共にエリオに嫁ぎますわ」
「祝ってやりたいところだが、すぐは困るぞ」
「はい。心得てますわ」
「しかしあのお転婆だったシモーヌが妻になるとはのう」
「して、エリオよ。そなたには最大の感謝をしておる。何か望みはあるか?」
「はい。我が友に恩赦を出していただけないでしょうか」
「ふむ? どういうことだ?」
それについてシモーヌさんが陛下に説明してくれた。
「なるほど、そなたは友の為に世界で一番貴重な宝と言える闇の雫を手放したのか」
「なんて気高い御方なのでしょうか。きっとヨリュア様の御使い様なのですね」
お姫様が腰をクネクネしながら感動している。感受性豊かで可愛い。
「よかろう。恩赦を認める」
「ハハ、ありがたき幸せ」
「そう固くならなくても良い。シモーヌの夫になるならば、我にとっても息子みたいなものだ」
「そうよ。あなたはもう家族みたいなものだからね」
「お父様……お母様……私もエリオ様に嫁ぎたいです」
「それはまだ無理だが、いずれは可能になるかもしれぬぞ」
「本当ですか! 嬉しいです」
嬉しそうにくねくねするお姫様は可愛いけど……。
なんだこれ……作戦成功したと思ったら詰んでないか?
僕は冷や汗が止まらなかった。
◆◇◆◇
あれからなんやかんやあったけどあまり覚えていない。
必死で帰りたいアピールしてやっと帰してくれたけど、もう夕方だよ。
でも、恩赦を証明する国王の印入の書類を即交付してもらえた。
これでモリモリの事は解決した。
多くの問題を残したままだけどね。
宿に着くと、僕を心配してたユリナと恵が飛びついて来て泣いた。
シモーヌさんとエリーシアさんの件は伏せたが、モリモリの事は話した。
明日はモリモリの捜索に行かないとだし、恵と致すこともなく、夕飯食べてから三人で寝た。