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13 うまあじ

 はい。只今ニ人のエルフさんに睨まれ中でございます。

 突然馬車が消えて地面に落ちて転がったせいで、ただでさえ粗末な服はボロボロ。泥だらけだし、鼻血も出してる。

 傍から見たら僕がエルフ達に乱暴してるように見えなくもない。


「えっと……それじゃあ僕は帰りますので。それでは」

 二人の分前のお金を地面に置いて、そそくさと逃げる事にした。


 少し進んで振り返ると、ニ人はお金を拾っていた。

 うん。大丈夫そうだな。良かった。


 ていうか、とんでもない事に気が付いたぞ。ここって何処?


 エルフさん達に聞こうかと思い振り返ると相変わらず睨まれていた。

 会話しにくい……。元々コミュ障なんですよ。僕は。


 仕方ないので、ヤブの中に放置されたボロ雑巾の所に戻り、墳墓に戻る方向を聞いた。

 こいつらの言葉を信用して良いのか解らないけど、とりあえず行くしか無い。


 レベルがかなり上がったおかげか体が軽い。今の僕なら、今度こそゴブリンぐらいは武器で倒せる気がする!

 すぐ武器で戦えるようにゾンビナイトが持っていた鋼の剣を出し、腰に装備した。


 ズリズリ……ズリズリ……


 剣の鞘を地面に引きずリながら歩く。


 ズリズリ……


 はいどうせチビですよ。日本に居た時より更に小さくなって、

 せっかく異世界来たのにカッコイイ装備とか身に付けられない。


 仕方ないので鋼の剣を戻し、最初にクラフトした短剣を装備した。


 ペタペタ……ペタペタ……


 着いてくる。

 なんかこのパターン前もあったぞ。


 あの時は黒豹みたいな生き物だったからぶっちゃけかなり怖かった。今もある意味怖い。

 ボロボロのエルフがストーカーしてくるんだもん。

 このままじゃ埒が明かないので、二人に質問してみることにした。


「何で着いてくるのですか? それとも同じ方向に歩いてるだけですか?」


「……」「……」


「失礼ですが、正直不気味なので何かあるなら言ってくださいね?」


「……」「……」


 面倒になり、無視して歩くことにした。


 もう夕方だな……。少しペースを上げよう。

 ユリナを心配させるわけにもいかないしね。


 レベルが上がった今なら結構早く走れると思う。いくぞクラウチング……スタート!


 速い! まだ全力ではないのに自転車を全力で立ち漕ぎしてる時ぐらいのスピードが出ている気がする。

 この身体能力が日本に居た時にあれば、マラソン大会でみじめな思いしなくて済んだのになぁ。


 一応後ろを振り返るとエルフたちも必死で走っていた。あ、こけた。

「はぁ……」

 僕は足を止めて道を戻りエルフたちに強気の姿勢で話しかけることにした。


「着いてくる理由を話さないならこのまま先に行くからね」

「……わたしたちエルフは、始まりのエルフ様に出会ったら服従しないといけないと聞いてます」

「金色の目のハイエルフ様がそうだと聞いてました。違うのですか?」


「うん。違うよ。僕の目は……そう、病気の後遺症でこうなったんだ。前は青かったらしい」

「……」

「……」


「じゃあ、そういうわけで僕は行きます。おニ人もお元気で」

 では、再びクラウチング……スタ

「あの!」


 前傾姿勢で踏み出す瞬間、急に声かけられて僕はずっこけた。


「あ、すみません……」

「いえいえ、何でしょう?」

 膝についた泥を払いながら答える。


「わたしたち行く所が無いのです。ハイエルフ様の庇護下に置いていただけないでしょうか?」

「お願いします」


「元居た里に帰れないんですか?」

「もう里はありません。ヒイロ帝国にみんな連れて行かれてしまいました」


 またヒイロ帝国か……。ヒイロ帝国が起こした戦争に巻き込まれて多くの戦災孤児を出したせいで、ユリナが教会に行けなくなった件もあるし、個人的にも大迷惑だよ。ほんとロクな国じゃないな。


「庇護下に置くことはできませんが、さっき分配したお金で足りなければ僕がお金を貸しますので、とりあえずは生活の基盤を作ってみるのはどうですか?」


「はい。よろしくおねがいします」

「よろしくおねがいします」


 話が纏まったので、三人で墳墓を目指して歩く。墳墓まで行かないと帰り道が解らないからね。


 それにしてもボロボロだな。服も汚い上にボロイ。ニ人とも痩せこけているし傷だらけだ。

 でも不思議と臭くはないな。エルフは臭くならない体質なのかな?


 特製ポーション飲ませるべきか? いや、それほど切迫はしてないか。


 ニ人には少しだけ歩くペースを上げてもらい、一時間程で墳墓に戻って来れた。

 悪徳奴隷商の言葉は真実だったのか。ちょっと見直したよ。


 そこから街まで歩いてニ時間はかかる。

 もう辺りは暗いし、ヨルバンに着くのは完全に夜だな……。


 ちなみに奴隷商の馬車に繋がれていたニ頭の馬は獣人さんたちが乗って行ったから僕たちは歩くしか無い。 

 それからしばらく南へと歩いていると馬車が後ろから来た。


「あんたらヨルバンいくのか?」

「はい、そうですよ」


「乗っていくか? 金は貰うけどなーガハハ」

「乗ります!」


 話を聞いてみると、後ろから来た馬車はヨルバンと北の街ヨルネットとの乗合い馬車らしい。

 馬車にはアルファベットのMみたいなマークが描いてあって、それがヨルバンの紋章なんだって。

 ヨリュア様の猫の耳をモチーフにしたものらしいよ。


 乗合い馬車なんてあるの知らなかったよ。交通手段等をもっとよく調べてから出かけるべきだったね。


 馬車に乗り込むと、お客さんのおばちゃん達に撫でくりまわされて可愛がられた。

 こういうのは、もうさすがに慣れた。正直に言うと出来れば若い子に撫でられたい。


 その一方、ニ人のエルフはボロボロだし、死んだ目をしていたので、お客さん達からは距離を置かれていた。



◇◆◇◆



 やっとヨルバンへと帰ってきた。

 もう真っ暗だよ。魔道具の光で街は結構明るいけどね。


 エルフニ人は僕たちが泊まる宿に連れてきた。

 二人部屋が空いてたので、そこに泊まってもらうことにした。

 奴隷商からふんだくったお金あるから、しばらくは心配ないだろう。


「じゃあ僕は泊まっている部屋に行くので、またね」

「はい。今日は本当にありがとうございました」

「ありがとうございました」


「あ、ちょっと待って、服これと……これあげるから着替えた方がいいよ」

 一方的に服を渡した僕は、ダッシュで泊まっている部屋へと走った。


「ただいまー」

「お兄ちゃん!!」

 ユリナは飛びついてきて泣き出してしまった。

「うえぇぇぇぇん……よがっだ……」


 よーしよしよしと、ユリナを撫でまくり落ち着かせるまでしばし時間が掛かった。

 今は僕に抱きついたまま寝てる。


「矢吹っちが帰ってこないからさー、ユリナちゃんが探しに行こうとするし大変だったよ」

「ごめんごめん。ちょっとしたトラブルに巻き込まれちゃってね」


「そーなん? あ、ウチらギルド行ってきたよ。ウチと渚は教会で働くことにしたよ」

「教会? 孤児がいっぱいで大変だと聞いたけど」


「うん。だから子供の世話したり、ウチら調理スキル取ったから、炊き出しとか色々仕事あるんだ」

「へぇ……意外に家庭的だったんだね」


「嫁にしたくなった?」

「いや、それは……。ところで伊澤さんは?」


「話そらしやがって。渚なら寝てるよ。面接に行ったら浄化スキル使わせられまくってダウンした」

「いきなり採用、即日倒れるまで仕事か……ブラックすぎる。でも便利だもんねーあれ」


「ねー。ウチも取れば良かったよ」


 宿の夕食時間は過ぎてたけど、岡さんが教会で作った芋と野菜のごっちゃ煮をアイテムボックスから出してくれたので食べた。


 美味い! 素朴な味だ。こういうのが食べたかったんだよ。

 ところで、この鰹出汁的な風味はどうやっ再現してるんだろう? 異世界にこういう調味料あるのかな?


「お世辞抜きで美味しいよ! でも、出汁の味ってどうやって再現してるの? 鰹とか昆布がこの世界にあるの?」

「ウチら元々料理部だからさー、レクリエーションの時に料理出す予定で調味料持ってたんだよ。こっちに来た後にアイテムボックス見てみたら何故か入ってた」


「修学旅行のレクリエーション? そんなの僕知らないんだけど」

「なんで知らないんだよ。クラスで話し合ったじゃん。ちゃんと話聞いといてよね」


「ごめんごめん。そういえば僕も幕の内弁当とカップ味噌汁入ったままだった」

「マジー? 弁当絶対腐ってるよ、ばっちぃな捨てなよ」


「いや、僕のアイテムボックスは時間停止してるから大丈夫。ほら」

 幕の内弁当を出してみせると岡さんは食べたい! 食べたい! と大騒ぎしたので仕舞った。寝てる子が居るんですよ。

「でもさー、粉末ダシもうあまり残ってないんだよね」


「そうか~それはとても残念……いや? スキルでなんとかなるかもしれない!」

「どーすんの?」


「残りの粉末ダシを貸してもらえる?」

「はいよ。これと、これ」


 予めボックス内に複製用のスペースを作り、受け取ったダシを入れた


■■■■複製用■■■■


かつおだし 01 

こんぶだし 02


■■■■■■■■■■■


 これらを複製だ。


 やり方は複製したい数を心の中で指定して開始すればいいみたいだ。

 とにかくやってみよう。かつおだしとこんぶだしを10本複製……開始!


 うん? うにゅにゅ……? これが魔力を持っていかれる感じなのかな? くすぐったいけど特に辛くはない。


■■■■複製用■■■■


かつおだし 11

こんぶだし 12


■■■■■■■■■■■


 おーーーーーーー! 成功した!


「ほらほら、見て岡さん!」

 僕は岡さんの前に増やした粉末ダシの細長い小分け袋をドサドサって出した。

「増えてる! すげーよ矢吹っち!」


 余程嬉しかったのか岡さんが抱きついてきた。


「いぇーい! チュ」

「いえーい……え?」


「あ、初ちゅーあげちゃった」

「HAHAHA……。アメーリカでは挨拶代わりデスヨネー」

 テンパって変なリアクションしてしまったぞ。


「……ねぇ、もう一回ちゃんとしよ? 初チューがノリでやったとかウチ嫌だし」

「いや、ほら膝の上でユリナ寝てるしまた今度……」


 逃げようとしたが、顔を掴まれて問答無用でデュープな洗礼を受けた。


「これ、凄いかも……ドギドキするね」

「あはは……」


この夜は悶々として寝つけなかったのは察して欲しい。

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