30分の世界
【あと30分】
「タイムリミットは、30分です」
無常にも、テレビからはその声が流れた。
「あと30分で何するっていうの!?」
「ちょっと待ってよ……」
私たちの世界は、あと30分で終わるらしい。
なんの前触れも無く、突然、いくつかのチャンネルがニュースに変わり、残りは放送休止になり、スマホにも緊急速報が来た。
「……アメリカの専門機関の発表によると、あと30分、17:30に何らかの原因で地球が滅ぶとのことです……」
「……大切な家族と過ごしてください、繰り返します、家に帰って、家族と過ごしてください……」
「そんな事言われても……急すぎるって……」
姉妹は学校を終え帰宅したところだった。
両親は仕事で家を空けている。
「とりあえず……姉ちゃんお父さんに連絡するから、お母さんに連絡して。「私たちは家にいる」って」
「わかった」
つけっぱなしのテレビからは、繰り返し、同じ情報だけが流れてくる。
【あと20分】
「連絡したよ。お母さん、なるべく急いで帰るけど渋滞してるからギリギリかもって」
「わかった……お父さんは既読つかない。電話もパンクしてるみたいだし……」
「待つしかないけど……あと20分……」
「お願い。間に合って……!」
それから私たち姉妹は、煩いテレビを消し、両親の連絡と帰宅を待ちながら、固まった。
芸能人のインタビューやプロフ帳なんかで「今日が世界最後の日だったら何をする?」という質問はよくあるが、「残り30分」とも言われると人間はこんなにも非力になってしまうものなのか。
姉が口を開いた。
「姉ちゃんさ……まだやりたいこといっぱいあったな。アイドルになって歌って踊ったり、CMに出たりさ。昨日収録したドラマだって、やっとオーデションで勝ち取った役だったのに、日の目を見ずに終わっちゃうなんて」
姉の気持ちはよくわかる。
姉は元々アイドル志望で小学生の時からたくさんのオーデションを受けていた。
私にはそんな勇気なかったから、いつも尊敬の目で見ていた。
明るい姉と、引っ込み思案な私の性格はまるで逆なのだ。
私も口を開く。
「私も……私も、もっと勉強して、大学に行って、文学を学んで小説家になりたかった。私の世界を、みんなに届けたかった。」
【あと10分】
私たちは涙を流していた。
最後に両親にも会えずに、人生が終わってしまうかもしれない。
やり残したことだって多いし、それに私たちはまだ未来があったはずなのだ。
つい20分前までは。
姉がもう一度テレビをつけると、どこのチャンネルも砂嵐だった。
スマホも電波がおかしくなってきてうまく見えない。
「……姉ちゃん、窓。見て。」
そこには、惑う私たちを嘲笑うかのような、きれいな夕焼けがあった。
「せめて……最期に綺麗なもの見れてよかった。」
「そうだね。」
私たちはお互いの泣き顔を見るのもなんだか恥ずかしくて、そのまま外を見ていた。
道行く車たちは渋滞して大変なことになっているし、歩道も人でいっぱいだった。
そして。車の渋滞が動き出し、玄関のドアが開く音がして、私たちの名前を呼ぶ両親の声が部屋に響いて、
私たちの世界は終わったのだと言う。
初投稿です。
中の人は高校2年生なのですが、「親が帰ってくるまでの30分間で30分間の短編小説を書こう!」として本当に書くほどの馬鹿です。
【】内の時間は、作中の時間経過でも、実際に私が書いている時間経過でもあります。
また書く機会があったら書こうと思います。読んでいただきありがとうございました。
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