命だいじに
僕がこれまで読んできた漫画の展開では、だいたい盗賊に襲われているところを助けた女の子は主人公になぜか一目惚れしてヒロインになるパターンだ。
だが、僕も直人の言うとおり、現実世界でヘタレだった彼が急に美人にチヤホヤされてモテる姿を想像できなかった。
なにか思惑があって近づいてきたと指摘されるとそうなのかとも思ってしまう。
だから一応検索エンジンに 婚約破棄 異世界 と入力してみた。
すると、驚きのワードが随所に目に飛び込んできた。
「直人、君の勘は当たっているのかもしれないよ」
「なに、なにか分かったのか?」
「ああ、とりあえず彼女に該当しそうな条件を入力して調べてみたんだが、とても不吉な言葉が沢山ヒットした」
通話画面を見ると、緊張した面持ちで直人は構えていた。
「そ、その言葉とは一体なんだい?」
僕はゆっくりと、落ち着いて、直人に真実を伝える。
「驚かないで聞いて欲しい。僕が見つけた言葉、それは・・・・・・・・・・悪役令嬢だ」
「あ、悪役!?」
衝撃のワードに驚いて直人は開いた口が塞がらないようすだった。
僕も驚いた。まさか恋愛ルートだと思っていたのにこんな不吉な言葉が現れるとは予想外だ。
「悪役ってことはつまり悪ってことだよな?」
「うーん、そうだと思うけど、これも一応調べてみよう」
僕は 婚約破棄 異世界 の文字を消して、新たに悪役令嬢とは? と入力すると、ページトップに説明がでてきたので声をあげて読み上げた。
「いわゆる悪役の令嬢を意味している。 様々な理由から主人公に・・・・・敵対しその行く手を阻む障害となる・・・・・・キャラクター・・・・・・」
予想を遥かに超える展開に僕らは二人してプルプル震えてしまう。
「滅茶苦茶危険な存在じゃないか、俺はこのあとどうすればいい?」
「と、とりあえず、逃げるしかないんじゃないのか?」
「逃げるってどうやってさ!?」
「もうこうなったら宿に泊まって寝ている隙に夜逃げするしかないだろ」
「そんなぁ、せっかく苦労して新しい街にきたばかりなのに・・・・・」
直人は絶望を顔にたずさえて、情けなく弱音を吐いた。
「仕方ないだろ、命あっての物種だから・・・・・・・」
こうして直人は、なにも悪いことをしてないのに犯罪者のようにこっそりと街から逃げ出すことが決定したのだった。