そいつは逃がすなっ
「えっ?」
なにを言っているのか理解できなくて、僕は言葉が詰まってしまう。
「レ、レベルゼロ?」
「ああ、どうやらスライム程度を倒したところでレベルは上がらないらしい」
「ちょっ、ちょっと待ってくれよ!」
流石にこれは予想外だった。
直人のことだから、期待させておいて本当はレベル三でしたってくらいのオチは想像していたけど、いくらなんでもゼロはひどすぎやしないか?
「レベルがあがったからビデオ通話ができるようになったんじゃないの?」
「それはスキルレベルの話だから別物ね。俺本体のレベルはひとつもあがってない、これには深い理由があって・・・・・・・」
そう言って直人が説明してくれたのは、どうも持っている職業によってレベルの上がりやすさが違うらしい。そして、直人が持っている不遇職は、全職業のなかでもトップクラスにレベルの伸び率が悪い。しかも、複数の職業をもっていると余計レベルがあがらないみたいだ。
「えっと、君はサグラダ・ファミリアかい?」
「それはどういう意味だい?」
「何百年も建設を続けても完成しない超大器晩成型ってこと」
「へぇ、なんか格好いい響きだな」
「そうだろ? オブラートに包んで言わないとあまりにも君が悲惨すぎるから、少しでも格好良くしたんだ」
「そう言われると傷つくな」
弱くてザコモンスターしか倒せないのに、強い敵を倒さないとレベルがあがらないという矛盾を抱えた、永遠に完成の道筋が見えない器。
しかも完成したところで、遊び人と寄生ニートとテイマーというふざけた職業。
寄生ニートに関しては職業ですらない。
異世界転生を果たした者とは思えないほどの雑魚仕様。
なぜ神様は、何者にもなれない彼にひとつくらいの取り柄を与えてくれなかったのか。
僕はどこかに打開策が隠れていないか考えていると、あることを閃いた。
「そうだ、仲間を募集して一緒に強い敵と戦いなよ。こういうのをパワーレベリングっていうらしいよ」
「ちーちっち、俺を舐めて貰っちゃ困るよ友よ。そんなことはとっくに考えたさ。でもダメだった」
「なぜ?」
「俺の持つ職業、寄生ニートの特性はな、一緒に戦ったパーティーメンバーから経験値を多めに横取りするんだ。嫌われすぎて誰も仲間にいれてくれない」
「それは・・・・・・言葉がでないね」
異世界にいってもボッチ属性を脱却できない彼に同情する。
「じゃもう完全に詰んでないか?」
「地道に雑魚モンスターを倒していくしかないね」
「でもこっちの世界の君にどれだけ時間があるか分からないよ?」
僕は、直人がトラックに跳ねられて植物人間であるこを彼に伝えている。
今は延命措置をとっているが、家族がいつ諦めて直人の体に繋いである機械を止めるかは想像がつかない。
なるべく早くしないと、戻る肉体が消滅してしまうかもしれない。
「君の持っているテイマーの能力でモンスターを味方にできないのか?」
「ほぼ無理だな。テイムできるモンスターって見ただけで直感で分かるんだけど、これまでに一回しか発動したことないうえに、対象がスライムだったよ。スライムなんて仲間にしてもしょうがないから見逃してしまったよ」
たしかに、自分よりも弱いものを味方につけても意味がない気がする。
だけど、僕は直人の次の言葉を聞いて時に、頭のなかでなにかが引っ掛かった。
「そういやー特殊なスライムだったなアイツ。なんかずっと洞窟でウロチョロ動き回って草とか岩とかパクパク食ってたな。あんな小さな体のいったいどに吸い込まれてるのか不思議だったよ」
なんだろう、最近どこかで聞いたフレーズだ。
スライム・・・・特殊・・・・・異世界・・・・・無限の胃袋・・・・・
僕はハッとした。
まさかっ
「直人、いまからそのスライムを見た洞窟にむかうんだ」
「ええ、なんでだよ。俺疲れたから帰ろうと思ってたのに」
ダルそうにしている直人に、僕は口角を吊り上げて言ってやった。
「知ってるか、異世界転生においてスライムは最強なんだぜ?」