夢でもいい。配給をお願いします。
御覧の作品は異世界に転生した腐女子の話で合っています。
青空、荒れた学校の屋上に二つの影
二人の男が仰向けになって並んでいる。
他に人影はなく、授業をサボったのだろう。
「あいつらの戦いにケイがいなかったら、やられていたかもしれない。ありがとな」
「礼なんてすんな。お前がやられるわけない。
俺がいなくてもお前は天辺とれていただろう?」
そっけなく言う赤髪にピアスをいくつも付けた男。
「ここが天辺だって?」
そう言って跳び起きると、屋上の入口の建物のはしごを登っていく。
「俺はもっと上を目指す。ケイ、お前も一緒に来てくれるんだろう?」
太陽を背にケイに手を差し出す。
眩しい。
眩しすぎるよ。
眩しすぎて目が、目がーーーーーーー!!!
眩しさに……目が覚めた。
やばい。待って。いい夢すぎる。
少年たちの淡い恋の始まり。
よし、二度寝しよう。
「おい」
あれ?夢の中のケイが目の前に……
じゃない、目の前にいるのはドワーフの料理長ケイリーだ。
「夢だけど、夢じゃなかった。」
体を起こそうとすると、全身に痛みが走る。
「痛っ」
「ベル大丈夫か?」
そう言って心配そうな顔で髪を撫でる。
すごく……筋肉痛です。ラットに引っ掻かれた腕も痛い。
包帯が巻いてあって、処置してあるようだ。
そもそも体に力が入らない。
「ここは?」
「ここは魔王城にある医務室じゃよ」
なるほど。ここは病院のような匂いがする。
「あ、目が覚めましたか、ベル・シンクレア・エレアノール・ラ・アンステラ様」
そう言って仰々しくお辞儀をするのは、
白衣を着てベルに似た薄いピンクの髪を後ろに束ねた、
ミドルエイジの女性。
目が合うと、ニコッと笑う。
切れ目でカッコいい印象の女性だが笑った時の両側にできる
えくぼが印象的だ。
この笑顔は忘れない。
「エレナ伯母様!?」
「久しぶりだな。久しぶりの再会がこんなところなんてね」
抱きつきたいところだったが体が動かない。
「やはりおぬしたちは顔見知りか。」
エレナは父の腹違いの姉だ。
一時期エレナ伯母様に国の事業を手伝ってもらったことがある。
「動かない方が良い。魔力の使いすぎて身体中が傷ついている。
2、3日は体を動かせないだろう。」
「来たと思ったらもうさぼりか、いいご身分だな、下働きよ。」
衝立の奥から声がする。この声は……
「魔王様!」
皆が一斉にひれ伏す。
急に緊張感が走る。
ベットのカーテンが閉まっているので、
声しかわからないが、
魔王と、銀髪の鬼、サリク・エイハを連れて部屋に入ってきたようだ。
「楽にせよ、エレナ、先日の件どうなった?」
「その件でしたら直接こちらにいらっしゃらなくても、
まとめたものを届けさせますのに」
「別に良い、ついでに寄っただけだ」
「まだ解明までは至っていませんが、先の魔王様と同様のものかと」
エレナが報告書らしきものを机の上からまとめてサリク・エイハに渡す。
「引き続き調査を頼みます。では、これで。」
サリク・エイハはそう言って魔王を早々に外へと促す。
ドアが閉まる音。
え?もう帰っちゃうの??
「ふぅ、あっという間に帰っていったのう。」
同じような感想を言って息を吐くと、ケイリーが立ち上がる。
「わしもまだ仕事がある。ちょうど良い、エレナと積もる話もあろう、
2、3日養生しながらここでの生活の仕方を教わるが良い」
「待って下さい、ケイリー様、入ったばかりなのに、
お休みを頂くなんて……役に立たなくて申し訳ありません。」
申し訳ない気持ちしかない。
会社に入った新入社員が次の日からいきなり熱出したみたいな事でしょう?これって。
社会人としてダメじゃん?体調管理も仕事のうち。
「クソ真面目なやつだのう、おぬしはわしとリリの命を救った。
それだけで働きは十分じゃ。」
そう言って小さく微笑み、また小さな温かい手が髪を撫でる。
「それから、わしのことはケイリーで良いぞ。」
温かい手から伝わる心。
会ったばかりの魔族なのに、私のことを気にかけてくれている。
「……分かりました。ありがとうございます。ケイリー。」
フッと笑うと、ケイリーも部屋を出て行った。
かっちょえーーー。イケメンじゃんか。
「フフッここでも皆に好かれているんだな。」
「はぇ?」
エレナが目を細めてベットの端に座る。
「分からないか?ケイリーとリリが二人で頑張ってこちらにベルを運んできて
ずっと、心配していたよ。」
え、やだ、嬉しい。泣いちゃう。
「それに、、、フフッ」
さっきからニヤニヤと笑いをごまかそうとしてごまかし切れてない。
「魔王様、こんなところに今まで一度も足を運んだことなんてないのに、ブフフッ
あの興味ありませんって顔しながらチラチラと、ブフーーーッ」
「え?ちょっと何ですの?その笑い方も変わってないですわね、エレナ伯母様!?」
「いや、失敬、ベル様にお会いするには10年ぶりくらいだけれど、
相変わらず可愛いなと思ってね」
イケメンな笑顔でおでこを人差し指でツンッと突く。
ここはイケメンパラダイスか?
「何か、ごまかしてません?」
訝しげな視線を送る。
でもそんなことより、
「エレナ伯母様、色々お聞きしたいのだけれど」
「そうだね、答えられることなら何でも答えよう。」
エレナはアンステラ王国前王様が即位した10年ほど前に
魔王の花嫁としてベルの様に魔界へ送られてきた。
エレナはその時既に27歳。
しかも若い時に嫁いだ先の夫がすぐに病で亡くなり、
子どももいなかった為、皇室に戻されたという経緯もある。
エレナは皇室に戻った後も縁談はあったが何処へも嫁がずに、
病院や救貧院などを建て、
国のために尽くしていた。
ベルの曾祖父が亡くなり、祖父が王位を継いだ時、
(曾祖父はかなりお年を召していたので、実質すでに祖父が実権を握っていた。)
王室嫁いでいない女子はベル6歳、そしてエレナの義理の妹が3歳。
幼い子どもを魔界に送るわけにもいかず、エレナが選ばれたのだった。
どんなに悔しかったことだろう。
自分の人生を呪ったかもしれない。
「でもな、ベル様、私は今のこの生活も気に入っている。
色々あったが、私はこの魔王城に医務室を作ってもらい、
こうやって人を助けることができる。
まぁ、魔族はあまり自分以外のものに傷や病を癒してもらうという
概念はあまりない様だが。」
「エレナ伯母様……」
「その色々って、具体的に何があったのです?」
正直そこが一番気になるな。
「まぁ、色々は色々だ」
教えてくれへんのかーい!
その時扉が開いて、
4、5歳くらいの顔のそっくりな男の子と女の子が入ってくる。
双子だろう。
リリちゃんよりも身体中に鱗があり、
顔は青白いが、健康そうだ。
灰褐色の髪の毛は、所々光の具合で緑や紫などの色に変わる。
その間から尖った耳が覗く。
魔族の子供だ。
「ママ〜。」
!!!?
ママとは?
男の子と女の子がエレナに走り寄る。
「ママ!!」
エレナの足元にギュッと捕まる。
これは、もしかして……もしかしなくとも
「エレナ?」
エレナは顔が真っ赤だ。
「ビビ、ネネ、今ママはお仕事中!ここには来ないってお約束だろ!?」
「だってジジが僕のおやつ取るんだもの!」
その時扉が乱暴に開いた。
「ビビ!ママには言わないでって言ったじゃん!!」
もう一人おんなじ顔。
3つ子かーい!
リア充爆発しろ。