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魔法の世界に産まれたらそりゃあ魔法を学ぶよね

今回ちょっとグロ注意です。

まだ、3.4歳くらいだったころの記憶。


城からそう遠くない森にある乳母と侍女と兵士を何人かつれて

いつもの水浴びに来ていた。


猛暑日が続いていたが、アンステラ国最大の山脈からの雪解け水を運ぶ

本流から分かれたその小川からはいつも冷たく清い水が流れていた。


強く記憶に残っていること。


マリアに強く抱きしめられている息苦しさと、

震える体、人の悲鳴、顔に落ちる生暖かい液体。


ポタ、ポタ、ポタタ


マリアの後ろに黒くて大きな獣が次々と飛び掛かる。


小さい頃からずっと育てて貰っていた母のような存在の

乳母のマリアから赤い、赤い血が流れている。


マリアは、ずっと

「大丈夫ですよ、怖くありませんからね。

私がベル様のことを絶対に守りますからね」

と話しかけてくれた。


襲われたのはラットという魔物。

一匹一匹は強くはないが、食べ物や水を求めて群れをなして

人里まで下りてくることがある。


兵士がしばらく戦っていたが、

いつの間にか侍女の一人が近くの町に助けを呼びに行っていたらしい。

町の傭兵が加勢してくれている間に

町の人に助けられ、城へ戻ることができた。


もう一人の侍女はあの時どうなったんだっけ……



「ベルよ、あやつらのごちそうになりたくなければ

そこに座り込んでいないほうがよいぞ」


そういってケイリーが、ナイフで次々にラットを切り刻む。

ざっと見てラットの数は100以上。

ケイリーのスピードは速く戦い慣れてはいるが、

体力もナイフも耐えられるわけがない。


血の……匂いだ。

手と足が震える。


リリちゃんは!?

探すと、後ろの方にいた。

リリちゃんも小さなナイフを持っているようだが動けないでいる。

あの時の侍女の姿が重なる。

そうだ、あの時一緒に遊んでくれた侍女は……


眩暈がする。


そうだ、私はあの時はじめて死を見たんだ。


それを自覚したとき、胸から熱いものが込み上げてきた。

吐き気かもしれなかったけど、それを飲み込んで力にする。

膝に手を添えて、震えを押さえ込むように

力を入れて立ち上がる。


あの時、私は呪った。

ラットだけではなく、魔物も、魔族も。


でも何も変わらないのはわかっていた。

だからこそ、許せなかった。

ラットがではない。

弱い自分。


可愛い、大切な姫だともてはやされて、

ただただ守られていた自分。

恐怖で動くこともできなかった。


歯を食いしばる。


その時ラットがケイリーの後ろから襲おうとしているところだった。

「ケイリー!後ろ!!!」

思い切り声をあげると同時に

足に力を入れて駆け出す。


思ったより力が入らなくて前に転びそうになったけれど

それを推進力にかえて次の足を出す。


手に持っていたハサミを順手に持ち換えて、前に出した足を軸に

思い切り右手を前から後ろに振ってスピードをに力をのせる。


ザッ!!


ラットの毛のないおなかの皮膚が横に割れて

内臓が飛び散る。


ベルの存在に気付いた足元のラットが

ベルの頭をめがけて飛び掛かってくる。


それをぎりぎりまで低くしゃがんでよける。

振り切っていた右手を次は振り上げながら、

持ち手を指でかけて回してハサミの刃をラットに向け、

頭の上で弧を描きながらラットの腹をえぐる。


獲物に飛び掛かるときののラットのおなかは無防備。

剣術の先生にはじめに教えてもらったこと。

それから、


「吹き飛べ!!そして、燃やし尽くせ!!!」


息をつく暇もなく、

すぐ近くでベル達を襲おうと群れている場所を確認し、

手のひらを向けて叫ぶ。


見えない圧力を受けたかのように

5.6匹のラットが後方に吹き飛ぶと、

電子レンジに入れられたように

一匹のラットの中からゴポゴポと熱が上がっていき、

破裂した瞬間周りのラットとともに吹き飛んだ。


炎が出ているわけではない。

急激に熱気が上がり、まわりの景色をゆらす。

これが私の魔法。


視覚から脳、脳から腹、腹から腕、腕から手の平に力を巡らせる、

息を止めないように、ゆっくりと空気を吸って、吐く。

大切なのはイメージをする力。


ラットは毛がない分、体温調節が下手で、冷気と熱気が苦手。

ラットには火の魔法か、氷の魔法が有効。

ベルの頭の中の知識をなぞるように呟く。


ラットでなくても、

この熱気の中で生きられるものは少ないだろう。


こちらへ向かおうとしていた後ろから来ていたラットは

熱を感じて次々と方向転換していく。

もともと、水を求めて来ていただけで、

敵意があったわけではない。

好戦的ではあるが、自分の命を投げ出してまでは戦わない。

追ってまで倒さなくてもよい。


……というより……もう、体力が…限 か  い


ラットがみんな方向転換をするまで

何とか立っていたが、体中の力が抜けて重力に従って

体が傾く。地面に体を打ちつけると思ったが痛みはなかった。


小さな二つの体が下敷きになってくれていた。


「おぬしもなかなかやるのぅ」


そんな言葉を耳元で聞いてから、意識を手放した。



あれ、恋愛要素が全然出てこないぞ?

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