私、何しにここに来たんだっけ?
あの可愛い顔してあの短いパンツの下に
凶暴なものが!?
と、どうしても腐女子の性で想像せずにはいられない。
でも、うら若き(外見は)女子として
そこははっきりさせてはいけない気がする。
そう、今は。
とはいえ、先ほどのイチャイチャで
リリちゃんは早々に心の扉を開いてくれたらしく、
色々とお話しする仲になっていた。
今ではベルの質問攻めだ。
フッ。チョロいぜ。
リリちゃんの様に、二つの種族の特徴を持って産まれてしまうことは少ないらしく、
魔族にとっては忌み嫌われる存在らしい。
サキュバスという稀少で高位魔族の血族だからこそ、
この魔王の城で下働きとして働くことを許されているとリリちゃんは言う。
「あのー。まさかそのお仕事というのは……」
「このお城でお食事をする方々に配膳をしたり、厨房のお掃除をしたりするです。」
「あ、そうよね(にっこり)((夜のお食事とか事後のお掃除ry))」
くっ!駄目だ!!どうやら今の私は正常な思考ではない様だ。
全てがいやらしい隠語に聞こえてしまう!!
頭の病気になってしまったのか。あ、元からか。
「魔族って一体何を召し上がっていますの?」
「みんなバラバラですよー。お肉とか、お魚とか、フルーツとか、色々です。」
大分ざっくりだなー。
「リリちゃんの好きな食べ物は何ですの?」
「ワイルドピッグのお肉なのですー!!」
“ワイルドピッグ”って生き物知らないけど語感がすごい。
イノシシっぽいものかな?
もっと別の、生々しい答えが出てこなくて良かった
グーーー
グキュルルル
二人で顔を見合わせて笑ってしまう。
同時にお腹が鳴ってしまった。
数刻前、何も知らない、と言い放った子は
迷いもなく、ベルを連れて厨房へと歩いて行くのだった。
最初にベルのいた場所から、そう遠くもない場所そこはあった。
生臭い臭いが鼻につく。
厨房と呼ばれる場所につくと、ベルは吐き気をもよおした。
王座の間は塵一つ無く、綺麗になっていたのに、
ここはどうだろう。
流しに雑に流してある何か生き物の血。
床には何か臓物のようなものが点々と。
おえーーーーー。ムリムリ。え、待って。無理。
「待って」と「無理」を尊いもの以外に使うのは久々だよ。
先述の通り、前世で健康食品、化粧品の会社にて研究室にいた身としては
細菌、ウイルスレベルで不衛生なのMAJIでMURI☆なんだ。
いや、別に全然潔癖症ではないよ?
でもさ、ここって、
「リリちゃん、まさか、ここで、お城の皆様のお食事を調理しているのですか?」
「そうですけど、どうしてです?何か問題があるのですか」
「いやいや、問題ありまくりでしょ!不衛生!こんなんじゃ病気になっちゃうわよ!!」
そんな風に言われてもリリちゃんの頭には?マークが浮かんでいる。
「病気にはならないです。毎日殺したて新鮮な食材使ってるですし、
リリが毎日お掃除して、残飯も残さず食材の餌にしてるですよ?」
殺したて言うなーー!食材の餌、て、この状況で食育とかいらないからね!?
ベルはめまいで倒れそうになる。
今のところ 衣・食・住 一つもままならない自分の境遇。
自分で何とかしなくては。
満ち足りているのは萌え……だけか。
いや、人は萌えさえあれば生きていける。
前世の私も萌えの力で何とか東京砂漠を生きてこられた。
だから……
「1、2、3、ダーーーー!!!気合じゃー気合じゃー気合じゃーー!!!」
リリちゃんはビクッと体を震わせる。
「ベル様たまに怖いのですー。」
と小声でもらすリリちゃん。
ふふ。聞こえてますよ。
「リリちゃん、人間のわたくしが食べられるものを探したいので、
その食材とやら、見せてもらってもよろしいかしら?」
と、意気込んで言ってみたのはいいものの……
初っ端から心折れそう!!
広っ!!何もない!!
何にもないよー!!!??
厨房を出ると、そこには小道と小屋程度はあるものの、
赤く乾燥した荒野が地平線まで広がっていた。
ここに来るときは城の周りに街並みがあった気がしたんだけど。
「リリちゃん?一応確認なんだけど、ここに食材があるのよね?」
「世界広いです。なんでもありますです!」
「いやいやいや、そういう感じ?うそでしょ?」
呆然と、その広大な景色を眺めていると、
「おい、お前ら、こんなところで何をしているんじゃ?」
背後からいきなり声がして、びっくりして振り向く。
ん?誰もいない。
「おい、こっちじゃ!」
少し怒気をはらませた声が、目線よりも少し下の方で聞こえた。
あら、かわいい。
そこには人の大きさの半分……よりちょっと大きいぐらいの成人男性が、
いや、耳がとがっている。魔族?
小っちゃい魔族が腰に手を当てて仁王立ちしてる。
かわいい。
「あ、師匠なのですー!」
リリちゃんはその姿を見るやいなや、その可愛い魔族をギュッと抱きしめた。
「えぇい、やめんか!馬鹿者!」
リリちゃんも少女とはいえ、その師匠と呼ばれた魔族より一回り大きいので、
バタバタと苦しそうにもがいている。
かわいい。
そのうちリリちゃんの腕から逃れて、
手に持っていた高枝切狭のような棒で遠慮なくリリちゃんの
頭をぶっ叩いた。
おおぅ。
痛いですーと言いながらもにやにやしているリリちゃんの姿に
あ、いつものことなんだな、いう安堵と、
この突然現れた魔族が危険な人物ではなさそうだという安堵と、
リリちゃん、君、忌み嫌われる存在だとか言いながら、人とのパーソナルスペース
狭くね??という思いで、そのやり取りを生暖かい目で見守っていた。
「で、おぬしは何者じゃ?」
敵意の浮かんだ目と声が向けられた。
さっき安堵したばかりだったが、緊張感が漂う。
その空気をりりちゃんが感じ取ったのか、その空気を打ち消すように
両手をブンブンとふって中に割って入る。
「師匠!違うのですー!!この方は、」
「わたくしは……」
リリちゃんを遮るように言い放つ。
「わたくしは、本日付で下働きとして雇われたベルと申します!」