トイレの重要度は高め
結果から言おう。
トイレは間に合った!!!!
人間としての尊厳失わずに済んだ!
それもこれも、ここにおわしますリリ様のおかげ!
この絶望の空間に意思疎通のできる魔物がいるなんて
五体投地したいくらいありがたい存在です。
うんうん。そうだよね。これって主人公補正てやつだよね!
だって主人公がトイレ間に合わなくて漏らしたとかさ、ないじゃん!
いろんな物語はそこんとこはしょっちゃってるけど、
人間の3大欲って欲って食欲、睡眠欲、性欲、排せつ欲だよね!
頭の中のもう一人のベルが一つ多いがな!と突っ込みを入れてくれた。
トイレに間に合ったという幸運の恩恵をひしひしと噛みしめる。
いや、トイレとか結構、いや、かなり超絶大事だからね!?
「あのぉ……ベル様?」
「あ、ごめんなさいね。わたくしったらたまにトリップしてしまう癖があって。」
笑ってごまかしてみる。
今、恐る恐る声をかけた少女は、
自分をリリと名乗った。
ふわふわの、大きな瞳をしたかわいいツルペタロリ少女!
薄い綿あめのような水色の髪の結び目から出た
小さな角と蝙蝠のような黒くて薄い羽、
長い尻尾が魔族の証であると主張している。
それらを最大限邪魔をしないように背中が大きく空き、
短パンにニーソという、
童貞を殺す服の親せきのような黒い服を着ている。
なんてこった。
おやっさん方、ここに天国がありますよ。
「ええと、リリちゃん、まずはおトイレまでの道案内、本当にありがとう。」
「いえ、このくらい大丈夫なのです。おトイレ間に合ってよかったのです。」
このですます口調、ロリ少女のテンプレかな?
さて、これからどうするかだ。
リリちゃんは私のことを大きな目をさらに大きくして、
次にどんなことを伝えられるのかを待って見つめている。
いや、かわいいな、おい。
ゲームの様に選択肢はこの3つ、とか
分かりやすくウィンドウが出ていればいいのにと思う。
ここから逃げる?
贄、いや、花嫁としてここに送られてきた。
魔王が私に関心がないとしても勝手に逃げ出すのはきっと良くない結果になるだろう。
では魔王に立ち向かう?
どうやって?これはない。人生終了する。
あとは……何もしない。
このお城にどうにか居場所を作る。
やっぱこれかなぁ。
何もしないって選択肢もそれはそれで難しいような気がするけど、
それ以外の選択肢も浮かばない。
残念な脳みそですみませんね。
「いくつか教えていただきたいのだけれど、いいかしら。」
「ベル様、ボクはただの下働きとしてここにおりますです。。残念ですが何も知らないですし、何もお伝え出来ないのです。」
ボクっ子かよ!
じゃなくて。
目の前で扉が閉まる音が聞こえた気がした。
私からのアクセスを遮断した音だ。
いや、違う、何も考えずにすらすらと出てきた言葉は、
初めから用意されていたセリフだ。
つまり、何か聞かれたら、こういう風に受け答えすること、と誰かに言われている。
リリちゃんが目の前に現れたのは、主人公補正の偶然なんかじゃない。
私を監視するためにいる。
そうよね、そもそも地下のこんなところに少女が一人
うろうろしているわけがないわ。
……じゃぁ、どこまでリリちゃんはしてくれるの?
どこまで監視して、私の行動はどこまで制限されているの?
あ、ちょっとだけゲームみたいで楽しくなってきたかも。
多分私、ちょっと悪い顔をしている。
「では、りりちゃん、わたくしに聞きたいことはありますか?」
一瞬ぽけーっとした顔をしてから、ぱぁっと目を見開く、
それからブンブンと頭を振る。
本当に百面相する子っているのねー。
葛藤が目に見えるようだわ。
だから、さらにもう一押し。
「私は人間の国からこの城に招かれているのだけど。
でも、今お友達がいなくてちょっと寂しいの。だから少しおしゃべりしたいのよ。
それとも、りりちゃんはおしゃべりをしちゃだめって言われているのかしら?」
また、ブンブンと頭を振るリリちゃん。
今までだって言葉を交わしているのだ。私と話してはいけないとは言われていないはず。
それをりりちゃんに再確認してあげる。
私からの要求は“おしゃべりすること”だいぶハードルは低くなったはずだ。
それに私に対する好奇心が駄々洩れなんだよなーこの子。
りりちゃんが私のことをどう伝えられているかはわからないけど、
ただの通りがかりをリリちゃんが装っている以上、
“魔王の花嫁”というワードはややこしくなりそうだから出さないほうがいいかな。
「あの……本当に人間なのです?」
「ええ、そうよ」
「触っても、いいです?」
ん?あ、そうくる?いいけどね、別に。と、うなずいて腕を出す。
「うわぁー。すべすべなのですね。つのも、尻尾もありませんです。」
「わ!ちょ、ちょっとぉ~、そこはさわっちゃだめだってぇ~」
りりちゃんは人間そのものに興味があったのか、
ありとあらゆるところを触ろうとしてくる。
「もう、リリちゃんの角だってつるつるしているし、
尻尾もちょっと冷たくてしんなりしているのね」
負けじと私もおさわりする。
「ふわぁぁあ。そ、そこはだめですぅ」
ビクンッとりりちゃんが急に触られて体をびくつかせる。
え、これなんてエロゲ?
きゃぴきゃぴ
イチャイチャ。
おっと、、そんな事している場合じゃないでしょ。
「はぁ、こんなにすべすべでうらやましいのです」
まぁね、一応気を使ってスキンケアしてるから。
健康食品と化粧品の会社に勤めていたから、
その辺、結構この世界に来てからもちゃんと気にしてた。
でもきっとそういう事じゃないだろう。
リリの肌には青紫色の鱗のようなものが所々にある。
「リリちゃんって竜族なの?」
リリちゃん自身のことなら聞いても教えてくれるだろう。
「!?竜族なんて、めっそうもないですなのです!」
「でも確か皮膚に鱗がある種族って限られていましたわよね?」
「うー、母がリメア族で、父がサ、サキュバスなので……こんな醜い姿……なのです。」
「醜い姿?醜い姿ですって!?そんなこと誰が言いましたの!?こっっんなに可愛いくて児ポ案件待ったなしなのに!!!」
かぶせ気味に出たのは本心からの言葉だった。
いや、ちょっと本心出過ぎちゃったけど。
こんな年端も行かないかわいい子がこんなことを言うなんて、
きっと周りの大人たちに醜いといわれてきたに違いない。
でも、後からじわじわと理解が追いついてきてベルの頭が混乱をきたしていたので、
リリが涙を浮かべるほどに嬉しがっているのかは、
全くベルの目には写っていなかった。
ん?サ、サ、サ、サキュバスって言った?確かここに来る前に魔族について勉強した時に、
リメア族っていうのは半分蛇のような形のエロい魔獣なのは知ってる。
サキュバスって、あれよね?
諸説あるけど、夢でエロい女性の姿に化けて精を吸い取る的なけしからん悪魔だよね?
王宮にあった書物には詳しい記述はなかったけど、大体同じようなことが書いてあった。
前世の世界と個体種名が一緒の種族も多かったので、驚いたのも覚えている。
この子がそんなエロとエロを掛け合わせたような存在なの!?
一部の大きなお友達には、見た目も合わせてそういう存在かもしれないけど。
このラブリー☆フェイスに控えめパイパイにサキュバスとか……
「あんさんは、魔族の宝物やぁ……」
と、膝から崩れ落ちて本性を晒すベルだった。
もう一つの知識がふと頭に浮かぶ。
『サキュバスは、相手に合わせて姿を変えるが、
性別がないわけではなく、両性具有というのが定説である。』
先ほどのイチャイチャが頭をプレイバックする。
あれ、さっきあんな所やこんなところを……
頭を振って、無かったことにする。
リリちゃんはかわいいただの女の子!
はい、今、私が決めた!
異論は認めん!!
想像してごらん。
女子が異世界へ行った際の、トイレが周辺ににないことを…
怖いなー怖いなー