転生したからって主人公になれるわけじゃない
「ぐっ……なんということなの。歓迎はされないにしても一応花嫁として迎えられると思っていたのに。魔王にとって人間からの供物の価値がこれほど低かったなんて。」
というか、一個人としての価値も低く見られた!?
あたりにはベルと一緒に持ち込まれた供物が乱雑に押し込まれていた。
かなり古いものもある。
供物として持ち込まれていた今までモノも魔王はほとんど見向きもしていないのだ。
しまわれているわけでもなく、捨てられているわけでもない。
だから、人間の姫なんてここにある荷物と同じ。
とるに足らないものというわけだ。
だからここは牢屋ではない。
ベルも縛られているわけではなく、
ただ、ここに置かれている。それだけ。
建物のつくりからしても、アールに対する石の敷き詰め方や、焼いたレンガなど、
人間の世界の造りとそう変わらない。
謁見の間だってシンプルではあるがあんなに滑らかに削られた石、
行き届いた掃除、思っていたよりも文化の水準が高い。
人間に学ぶところはない。
そういわれているような気がした。
自分が価値のない人間。
この状況はそれを強く自覚させた。
でも、自分の価値ってなんだろう。
転生前の29年間の生きたオタクの知識と、
転生後の姫としての知識。
なんの価値があるというのだろう。
この世界には無い、様々な便利な文明の利器を扱える。
この世界には無い知識もある。
でもそれだけでは何の意味もない。
冷蔵庫は冷える仕組みも、電気がなぜ明るく照らし続けるかも、
味の素が何でできているのかも分からない。
前世で読んだ転生してきた物語の主人公がが活躍できたのは、
それらの知識を活かして、実行したからだ。
私には何の価値もない。
ひんやりと冷たい石造り空間に、小さな明かり取りの穴がいくつか並んでいる。
その明かりのおかげでこの倉庫がどれだけ広いのか確認はできた。
かなり空間だけは広そうだ。
少しを覗くと、貯水槽なのか、水が広々と溜まっている。
匂いは臭くはないから、きっときれいな水なのだろう。
小さな窓からの夜の光が控えめに水に反射してキラキラと揺れた。
「綺麗……」
また涙が出てきた。
ここは檻でもなければ、倉庫でもない、
ただどこにも置き場のないものが、
一時的に置かれてそのまま忘れ去れるような場所。
「無関心って、“嫌い”よりも下なんだからね!」
あ、また涙が出そう。
でもこのまま餓死するのは嫌。
あ、トイレ行きたい……(白目)
夏。楽しんでいる人も、楽しんでない人も、
ちょっとした息抜きで読んでいただけたら。
感謝。