第1話:ここは異世界(断言)
あのプロローグ見て続きを読もうと思ってくれた方に超弩級の感謝です。
まだ見てない人は1時間前にプロローグも投稿されてますのでそちらもよろしくです。
唐突に目の前の景色がコンクリとアスファルトの灰や黒から草原の緑になったら、普通は誰だって混乱するだろう。もちろん俺も例外ではない。
踏みしめていたペダルから足を離し、ブレーキを握り、乗っていたMTBに急制動をかける。
混乱した頭で無意識にやったことは、そのまま地面を蹴り、バックすることだった。結果としてなんの意味もなかったが。
いや、意味はあったか。
「痛ぇ…」
MTBに限らず、自転車という乗り物は基本的にバックするようには作られてはいない。故に、バランスを崩して転けたのだ。
図らずとも、とりあえず夢じゃないということは証明された瞬間だった。
「ったく、何だこりゃ…俺さっきまで普通にいつもの道を帰ってたよな?」
俺は小さく呟く。これは昔からの癖だ。
なにか意味がわからないことがあったり混乱したりした時は、まずは自分の事を振り返るところから考え始めるのだ。
「俺の名前は武蔵、大和武蔵。26歳。趣味はゲーム、特技はサバイバル。今日で短期の仕事が最終日、今日発売のゲームをやるために帰宅中。で、路地を曲がったらいきなり大草原、と。うん、記憶に齟齬も途切れもない、と思うが」
ゲームといってもVRMMOとかいうロマンあふれる未来アイテムではない。普通にプラットステーション4で発売のモンスターズハンティングの最新作だ。
ちなみにこの妙な名前は別に両親にもらったわけではない。というか俺両親知らないし。
お陰で職場でのあだ名は超弩級とか大和型とか戦艦野郎とかだったな。名字はともかく名前はムサシじゃなくてタケゾウだってんだよ。
まぁそれは比較的どうでもいい話か。
「さて、現状把握はこれくらいにしてこの現象の考察と行くか…
パターン1、痛みが感じられたような気がしただけで夢である。
パターン2、記憶が途切れてないと錯覚してるだけで実際は気を失って拉致でもされた。
パターン3、この記憶自体がどっからともなく湧いてきただけで、俺はもともと大草原をMTBで走ってた大和武蔵とは無関係の人間である」
コンクリの道路が大草原に変わった理由を考えてみる。
現実的に考えるならこれらが正解だろうが…いや全く現実的じゃないか。
で、あんまり考えたくはないが…。
「パターン4、ここは異世界である」
一番ありえない、どこぞの漫画や小説みたいな可能性。
異世界転移とかありませんよ、ファンタジーやメルヘンじゃあるまいし。
「まぁ、普通に考えるなら夢だわな、痛みを感じる明晰夢ってのも存在しないとは言い切れないし。
拉致だった場合が面倒だな、こんな大草原日本じゃありえない。北海道?こんなに暖かい訳がない。
俺が大和武蔵じゃなかった場合は面倒だが簡単だな、公的機関に事情を話して精神病院行きで問題ない。個人的には大問題だが」
しかし、大草原の真ん中でMTBから転げ落ちて、大の字に寝っ転がったままブツブツ呟く男ってのもなかなかの不審人物だよな。普通に考えたらこれだけで黄色い救急車案件だろう。
そもそもこの異常事態に冷静すぎるって?まぁ俺の来歴ってちょっと普通とはかけ離れてるからなぁ。
まぁいつまでも寝っ転がってるのもなんだし起き上がるか。
「よっと、なんかいつもより体が軽い気がするな?」
下半身だけで反動をつけて立ち上がる。これ何気に身体能力必要なんだぜ?
「とりあえず、パターン4の可能性を潰そう、そうこれは確認のためだ。決して現実逃避のためじゃない。
いや失敗したからって可能性が潰れるわけじゃないのはわかってるんだが。一応だ、一応」
誰にともなくブツブツ言い訳しながら、俺は異世界物ではお約束のあの単語を呟く。
「ステータス、オープン」
意識して2つの単語の間を区切り、つぶやいた俺は、しばらくそのまま立ち尽くし…
膝から崩れ落ち、両手を地につけ、項垂れ、叫んだ。
「やっぱりここ異世界じゃねぇかァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」
さっきまで意識的に無視していた、空に浮かぶ2つの太陽の下で、俺の目の前に、ステータス画面っぽいのが浮かんでいた。
異世界に行くのに、トラックの運ちゃんに臭い飯を食わせる必要はない。ただ次元に切れ目を作ればいい。
きりよく切ったらやたら短くなった気がしますがこまけぇことは気にするな、とエロい人も言ってたので気にしません。