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Real;Users  作者: 熊蜂
一日目
8/44

Consequence【双方逃亡】

◇ ~虎龍王視点~

 死を免れた。そして一気に疲れた。


 折角ならここで一泊していきたいが、変身を解かないと寝付ける気がしない。


 解こうと思っても、鋭く抉られた頬の痛みがまた来ることが怖いから、僕は変身を解けない。故に余程の勇気が無ければ元の姿に戻る気にはなれない。


 開始早々【Real;Users】に実際に遭遇し、死にそうになったのに不思議と実感は湧かない。


 体験したのに教育しない僕の悪い癖だ。それでも、いきなり殺し合いなんて言われて、実感が湧くわけがない。


 だけど自分は信じるしかない。ボロボロの倫理観も、下らない正義も、全部捨てて、殺さなければ虚無に行き着けないという真実を。


 【虎龍王(こたつおう)】の体は動き心地が良く、優しい暖かみが僕の体を包む。虎龍王(僕自身)はやはり炬燵というトレードマークが無ければ虎龍王に非ず。


 そう言えば……あそこにあるのは何だろう?


 甲冑の隙間から見ゆるのは一つの肉塊。


 ああ、何故僕にはそれはお母さんでも母親でも、配偶者にも見えないんだろう。僕という罪人に心を囚われている過去の産物、可哀想な抜け殻だったからだろうか。


 僕ももう僕ではない。僕という抜け殻はもう存在しないようなもの。虎龍王の抜け殻に富凍 滉(ふとう こう)という幽霊が入り込んだだけのポルターガイストなんだ。


 何年も自分に絡み付いた(しがらみ)の様な何かがほどけた気がした。


 こんな大層な鎧を着ても、接骨院に行ったかのように体が軽くなった気がする。


 こんな重々しい具足を装着しても、今までやったことすら無いようなスキップですら軽々と踏めるような程まで。


 肩の荷が降りるって、このような事を言うのだろうか?


 そんな問いに返す言葉があるわけが無い。


 数秒の後虎龍王は亡骸の頭部を踏み潰し、キッチンに向かう。キッチンには中火が点いたままのコンロの上に鍋がある。デミグラスソースの香りがそそると共に焦げ臭さも入り雑じっているのが解った。


「この家への餞別の品でも送ろうか」


 虎龍王は【点火】を使用し、コンロの火を増幅させる。


 火は勢いと共に膨張を重ね、火をあらゆる場所へ移動させていく。


 言うまでもなく、虎龍王は脱獄しようとしているのだ。この家の全てを火葬して。


 数十分後、炎は見事に家を包み込む。この灼焔が鎮火させられたのは何時頃だったのかは、その場から消えた虎龍王が知ったことではなかった。


◆ ~ブランギャズ視点~

 もう、虎龍王は追ってこない……最悪の事態は免れた……


 違うだろうが!殺せなかッたンだぞ!?


 ガキ一人すら殺せないたァ、落ちぶれたモンだ!折角……キャリアにまで行ったってのに、なんでコーつまんねェ事でしくじりやがるンだ全くよォ……


 トラックの上に揺られ、傷を癒やすブランギャズは顔をパーで押さえ込みながらブツブツと呟いていた。


「それにしても……この体は再生が早えェな……」


 モロにタックルを食らってバキバキになりかけた胴体も数分も経てば完全とはいかないが充分に動き回れる程には回復していた。


 ブランギャズは胡座をかいて泥色の端末を開く。色は違えど端末そのものの機能は全員共通の物らしい。


「かのトップランカーはァ……とあった。」


 【参加者情報】の欄に追加された【虎龍王】のページを開く。


「はァ……ステータス可笑しいだろコイツよォ……」


 握りこぶし一つを床に叩きつける。そのコンテナに拳と解るほどの歪みが生成され(でき)た。


「クソッ!チャンスを溝に捨ててしまッたじゃねェかッ!!」


 ブランギャズは頭上に歩道橋があるのを影で察知すると、コンテナを更に凹ませるほどの脚力で跳躍(ジャンプ)し、歩道橋の手摺に掴まる。そして、くるりんと逆上がりし、歩道橋の地面に着地する。


「トップランカーにャァ勝てねェ、割り切るしかねェ。」


 ブランギャズは切り替えが早い。それが社会で、加えてこの“殺し合い”を生き抜く為に得た手段だから。


 家に帰るまでベラベラと反省会をする気もねェし一つ話をしてやろうじゃねェか。


 俺が初めに殺した“一人の女(人格)”の話だ。


 “メリル・レェゼン”という名の女は裕福な家庭(イイトコ)に産まれた英国の……スコットランドだったか?の才女だったらしい。


 乳もデカく、顔立ちは悪くねェ、美味しく食っちまえる程にな。


 その女は運動も人に誇れるぐらいには優秀だったがァ、才女って言うだけあって特にお勉強は上手だったそうだ。親から勧められたピアノも良い出来だったサ。


 そしてその女は地元じゃ割と有名な国立大学の経済学科に行って、それなりに楽しいカレッジライフを送ったサ。


 【Real;Users】のゲームを始めたのもこっからだったカ。こいつの女友達もやってたゼ?


 特に傑作だったのはオレのアバターが【ブランギャズ(オレ)】だったってなァ周囲から変な目で見られた事だナァ、ありゃァ面白かったゼ。


 でもまぁこの女はどこか兄貴肌だったり、行動力高かったり、まぁ見た目はよくても全く以て色のねェ女だったのサ。


 そんでもって大学も卒業したら、政治家の道を進んだンだ、その女は。

まぁ、信頼に厚い奴だし、人脈も深い奴だから当選は確実だッたサ。その後も着々と仕事こなしてなァ、華のような人生ってこんな事言うンだろうなァ。


 だァ~がァ~なァ、この女は知っちまったンだよ、このスコットランド(クソ)が不正に麻薬を売り捌いて金をたァ~んまりと政治資金に宛がってたのさ。


 その女はよォ、知らずにその金でのうのうと“ありもしねェ政治改革”だとか、“必要のねェ税金削減”だとか、つまんねェ事言ってた自分が恥ずかしくなったのサ。


 まぁ他のキャリアは残ったけどな。


 言うなれば自分の信念をメレンゲみてぇにグチャグチャにされて、政府の犬にされた。


 そッからその女は出版社で地道に働いて、出張でこの日本(ジャパァン)にまで来たのサ。


 ただ、その女の心はこの時点で、もォズタボロサ、直ぐにキレちまう様になってサ。


 日々働いては、合間の時間には鬱憤晴らしの為に、呼吸するみてェにPKに明け暮れる。


 段々と楽しくなってきたサ、【ブランギャズ】の演技(ロールプレイ)がナ。


 日が経つ度に睡眠時間も、勤務時間も減っちまッてよォ。


 遂に堕ちたモンさ、あれほど嫌ってた麻薬にまで手を染めやがった。更には昼間にも酒をたらふく呑むようになった、ゲームと現実の区別もつかなくなりかけてきた。


 そして、漫画みてェにドカーンと来る刺激を欲するようになッた。


 そんなときにお出まし、【ブランギャズ(オレという人格)】は目が覚めた。


 今日の21時、あの自称最高責任者のガキに「何もかも忘れるぐらい楽しませろ」って言ったらニッコリと「オッケー」って言ってくれたゼ。

この体に変身した瞬間、世界が変わったように清々しい気分になった。


 もう今までの苦労なんてどうでも良い、クソ食らえってな。

 ズタボロの女の心をぶち殺すのはァ、インスタントラーメン作るよりも早く、容易かッたサ。


 ……とまァ、こんなモンか。俺はあの自称最高責任者には感謝してるぜェ、本当に生まれ変わったみたいで楽しめそうサ。


 俺ァまだまだ遊び足りねェ、デスゲームなんて最後まで楽しんだ者勝ちだからなァ!

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