Encounter【始末弾丸】
長らくお待たせしました!本編開始です!
◆
オレに見える世界は、いつも退屈ダ。
スリルという非日常も、ニューヨークの同時多発テロ以来、甘ったるい生クリームの様に面白味に欠けている。
別にオレ自身が非日常を体験したいという訳ではないガ、そんな妄想がいつの日か現実になるのを期待していた。
ビルの屋上に一人佇むウエスタンガンマンの様な服装の無頼漢が佇んでいる。
恐竜の牙の様な模様のスカーフを鼻の下にまで締め、泥色に汚れきったテンガロンハットを眉毛が隠れるまで深々と被る。
ソレが俺の理想の“オレ”、「Real;Users」PK記録世界一の【ブランギャズ】様ダ。
──との、挨拶代わりに,何も見ず、空高く銃口を向け、一発分のトリガーを引いた。
バシュン、と低い銃声が鳴り響く。
骨肉脳髄を抉るグロテスクな不快音と共に一羽のカラスが墜落していくのが見える。
検証終了……この弾丸は頭と認識した場所に必ず追尾するようダ、防壁がなければ、脳天一発。
殺害があまりにも簡単ダ。つまんねェ……つまんねェなァ!?
……ケッ、結果が全てダ。
あの自称最高責任者のガキの言ってる……殺し合いゲームだったか?が事実なら、ヒット&アウェイで遠くから撃つだけで即終了だ。
だが──
折角こんなシャブでも吸った見てェに気持ちいい体を手に入れたンダ。
暗殺なんてつまんネェ……PKの流儀なら一つしかネェ、そうサ、速打ち勝負をよォ……ッ!
◇
そう、呑気に構えていた瞬間、あまりにも早すぎる宣告が出された。
【ブランギャズ 様 が登録されました】
「……え?」
富凍 滉は端末を起動して間もない“他者との情報共有”に驚愕し、思わず声を漏らした。
残念なことにそれに対応する思考時間も、行動猶予も与えないまま、彼の真っ正面のガラス窓の付近から一発の発砲音が鳴った。
富凍 滉はその音声に混乱する間もなく先制攻撃を受ける。
「ああああああああっ!」
混乱、恐怖、そんな生半可な精神不安定を考えられない程の痛み。不幸にも気絶できないという絶妙なデッドライン。
痛い。呼吸が乱れる。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い────
患部から急速に痛みが広がり燃え盛るような熱を放つ、顔面に至る神経が死に行く、
窓ガラスを割り、やや方向の逸れた【始末弾丸】は彼の右頬をいとも容易くた。
滉は水揚げされた魚のようにピチピチと、小刻みに震えており、前記の叫び声に彼の母親が気づくのはこの数秒の間だった。
「いやァ悪ィ悪ィ、一時間探してようやく会えたからよォ嬉しくて発砲しちまった。で……どいつがトップランカー様だ?」
風穴の空いた窓ガラスをキック一本で粉々に粉砕し、【ブランギャズ】という【Real;Users】はキッチンから此方に駆けてくる富凍 滉の母親の姿を見る。
母親はこの惨状を見て声を出せなかった。
滉もようやく思考できるようになった……が、恐怖と混乱を同時に受け、「あっ、あっ」という嗚咽を漏らすだけだった。
「どっちも良い顔立ちの癖して言葉の一つぐらい喋れねェのかヨ、解りにくい野郎だナァ……」
ブランギャズはニタり顔で拳銃のトリガーを引きかける。
「虎龍王じゃねェ奴はどっちだァって言ってんだヨ!アァ!?」
壁しかない、真っ正面の方向に拳銃の引き金を引く。強烈な音と共に弾丸の方向は非物理的なカーブを経て、滉の母親の脳天を貫いた。
かつて富凍 滉の母親であったものは呆気なく地に伏した。
本来、彼の手で殺される予定の身であった彼女は無惨にも、無関係の【Real;Users】の手により。
ただし、富凍 滉には現状が解らなかった。周囲に何が起こる以前に、この苦しみから逃れたい、だけど、致命傷とまでは行き着いていないから死のうにも死ねない。
ブランギャズが激昂している間に、震える指で、“変身”のボタンを必死に押そうとしていた。
震える右腕を、左腕で押さえ、ゆっくりと、液晶に指紋を。
「……ったく、本当に一発K.O.だナ?……オッ」
【機能;変身のコマンドを認証しました。】
富凍 滉の体は立ち上がると、瞬時に影絵の様な漆黒に変色する。
次に、右目が唐突に紅の光を放出した瞬間、虎龍王の甲冑、鎧、具足が皮膚から“にょきり”と浮かび上がる。
そしてどこからともなく現れた炬燵布団のマントが空より覆い被さり、愛用武器“ストーブレード”は鞘に入った状態で、腰に装着されている。
疑問の第一声。先程の軟弱そうな姿から一転、一気に威圧感が増す。
「……何故殺した。」
「カッ……!言うまでもねェ、出逢っちまったからだろうが。」
ブランギャズはそんなこと、当然だろ?と呆れた顔で返答する。
「そうか。」
彼は静かな怒りを、ブランギャズに向ける。結果的に親が死ねば良いという問題ではないからだ。
「元々は、僕が殺す予定だったのに……」
「アァ?どういうこッ……オォ!?」
ブランギャズの【動体視力】では反応しきれない様な早業を与えた。“ストーブレード”の抜刀からの袈裟斬り。
ジリジリと空気を焼く熱線が剣の形を成す。
軽々しく振るわれたその斬撃を直に触れれば、火傷どころでは済まされないだろう。
ブランギャズは話を割り切る不意討ちに対処しきれず、彼の鞣し革のマントが引火する。
「相手の次の行動は何か」を考える間もなく、胸元に襲いかかる火を急いで叩いて、取っ払ったが……それこそ最初の仇となる。
「他人の事情に関与するな。僕の自己満足に邪魔をするな。」
滉の自己満足、心残りの問題である。
汚れきった自分の手で自分の不始末は処理しなくては気がすまないのだ。
彼の倫理観は粉々に崩れ去り、人殺しに躊躇いは無く、そして傲慢だ。故に、“自己満足が上手くいかない事”が怒りの火種となる。
そして、虎龍王は相手に次の攻撃の機会を与える程、甘いプレイヤーではない。
いくらブランギャズがPK世界一だろうと全ての頂点に立つトップランカーとでは“立ち回り”という意味で住む世界が違う。
追撃の牙突を、ブランギャズのがら空きの胸に突き刺さまいと……
「カッ!あの軟弱そうなカスタードに」
がら空き、ではあるが軽装であるブランギャズの俊敏性はあの牙突を充分に回避可能。
クルリと右方向へ一回転……
だが、牙突しようとした刹那、虎龍王は“ストーブレード”から手を離し、黒鉄の鎧の側面で鈍重なタックルをお見舞いする。
「グがががぁァアアッ!!」
左脇腹にヘヴィな突進が突き刺さる。
大きく姿勢を崩したブランギャズは割った窓の方へと転がって行き、そのまま車道方向まで飛ばされる。彼の口からは唾や痰と共に赤黒い液体が入り雑じっている。
ブランギャズには虎龍王の様な甲冑もなければ防弾チョッキも装備していないので、【筋力A】の虎龍王のタックルなど諸に食らえば軽傷では済まされない。
現状、圧倒的に不利だと悟り始めた彼はあの時点で仕留めるべきだったと後悔する。
「クソッ、正々堂々速打ち勝負してぇのは山々だったがァ……相手が悪かったなァ……!」
「今日の射手座は最下位だったから仕方ネェ……逃げるッ!!」
虎龍王との距離が約6m程開いた為、ブランギャズにとって有利な距離は充分にある。
しかし、この時点でもう彼は虎龍王を仕留めるのは難しいと悟っていた。ご自慢の【始末弾丸】もお相手が完全武装の為、意味を為さない。(そもそも能力が暗殺向けであるのも含めて)
だから彼はチキンとして生きて逃げる事を選んだ。
「……逃げたか。」
道路を走行する大型トラックの積み荷の上で、悔しそうに便所座りするブランギャズの姿が映り、その姿は水平線の彼方と同化していった。
虎龍王は深追いすれば逆に相手の思う壺と察したのか、見逃す事を選択した。
“事故死”として処理される事に信憑性を抱いてないのもあって、死体の状態が心配であるからだ。




