Childhood【痴話喧嘩】
【Wonder Fool 様がログアウトしました】
街路の端に転がる残骸。
抉られた首から血の赤が地面に広がっていき、次第に固まっていく。
寸白 銀、寸白 理奈(変身中)、松平 夕夏梨(変身中)の三人はこの惨状をただ見ることしかできなかった。
“人が死ぬ瞬間”を目の当たりにしたのだから。
「……死んだ、のか」
「…………」
銀と夕夏梨の二人はこの状況を理解したくはなかった。
それ故に、非日常の恐怖から逃れるために“理解しないフリ”をしている。
当然の反応だ。
だが一人、【蛮勇】の能力を有して恐怖の概念を捨てている【ケモ耳大好き】は死体の近くに歩み寄り、背中に挟んでいたファイルをくすねる。
「おい、理奈……」
「この資料何かな?」
なんの恐怖心もなく疑問を持ちかける“ケモ耳大好き”。
銀も夕夏梨も【蛮勇】の能力の事についてはわかりきっている。
だとしても、その行為に黙って答えるわけにはいかない。
「……おい。」
「どうしたの?」
「人が死んでるのに、何も思わないのか……?」
銀としては決して怒っているつもりではない。
ただ心配なだけなのだが、それ以上のストレスと葛藤が自制心を圧し殺す。
「んー、能力の影響で私としては別にどうも思えないんだよね~」
「ッ!」
銀の腕が“ケモ耳大好き”の服の裾を掴む。
「ん」
「ちょっとお兄さん……!」
「何をそんな、感情的に……」
怒りとはかけ離れた“心配”を止めることができない。
彼女の事が心配だから、ここまで感情的に動いてしまう。
「感情的でいいだろ!」
「能力の影響なのはわかっている、わかっているから、お前自身の心の内を……能力で圧し殺してるようにしか見えない。」
「……ふーん」
「理奈、お前がそんな事を言わないでくれ」
銀の言っていることはただの我が儘だ。
他人を束縛する行き過ぎた心配だ。
「本当は……不安なんだろ……?」
銀自身でもわかっている。
中途半端な気持ちで、覚悟もしていないままにデスゲームに参加してしまったから、情緒不安定になってしまうのだ。
「変身解除。」
「……ごめんね」
理奈の変身解除後、掴みかかっていた腕を軽く突き飛ばす。
「お兄ちゃんの期待には応えられない妹で──」
理奈は銀から逃げるように走り去る。
「おい!何処へ行く!別に私はお前を支配しようなど──」
釣られるように追いかける。
行き違いを理解する間もなく二人してその場を離れた。
◆
2、3kmは走った。
運動はからっきしな銀は理奈の影を追いかけるだけで精一杯。
「おい!ハァ……待て!ハァ……」
息切れしつつも粘り強く追いかけた先には、満開の夜桜の目立つ休憩所に辿り着いていた。
花見会場として最適な場所と巷では有名な緑地である。
「ちょっ……ゲホッ、ゲホッ」
桜の木の近くにもたれる理奈。
「……はぁ、あのさぁ。」
「お兄ちゃん、ここ覚えてない?」
「この桜……」
思い当たりがある。
何年か前に運良く一番大きな桜の木の下で花見をした場所。
「ここ、家族で最後のお花見いった場所。」
そして……最後の花見の場所、か。
「私の家族の記憶ってここのお花見までしかないんだけど……」
反応の薄い銀に対して理奈は心底呆れた表情で変身宣言する。
「……あーもうめんどくさーい!変身!」
“ケモ耳大好き”の姿に変身。
相手が兄だろうが構わず、急に殴り掛かる。
「なッ……ちょっ、待て!変身ッ」
状況に焦るも、銀も彼女に対応するように変身。
「ばーか!ばーか!あほー!」
「ちょっ、痛い痛い痛い」
“ケモ耳大好き”の初手はかわしたものの、腕を噛みつかれる。
「なんで!そんな人間臭く悩んでんだバーカ!」
「やめろっ……て!」
噛まれた腕を強引に引き離すと、今度は回し蹴りをかましてくる。
命中。
“吸血姫アナトミー”は体勢を崩して転びそうになったところを、“ケモ耳大好き”に胸ぐらを掴まれる。
「あのさ!私は!このデスゲームにクソ興味もないけどさ!お兄ちゃんがちゃんと“あの事件”の事を突き詰めるって言うから!他人の命の心配なんか捨てて!協力するって!意思示してるのに!」
「──ッ」
「なんで!お兄ちゃんは!なんでそんな覚悟も何も中途半端なんだよ!ムカつく!バーカ!バカバカバカバーカ!」
胸ぐらを掴んだ状態で0距離の頭突き。
命中。
罵声を浴びながら殴打ラッシュに遭う“吸血姫アナトミー”。
「ッ折角、こっちが、心配してやってるって言うのに……!バカっていう方が大馬鹿者だろうがッ!」
いくら妹だろうと殴られっぱなしというのは癪に障る。
膝蹴りを撃ち込み、反撃に出る。
「このッ!スカポンタン!」
命中。
だが“ケモ耳大好き”はひるむことなく膝を掴んで地面に投げ飛ばす。
「黙れ!蛮勇気取り!」
命中。
吹っ切れた“吸血姫アナトミー”もまた痛みに一々反応していられない。
掴まれた片足を勢い良く曲げて“ケモ耳大好き”を転ばせる。
「うっさい私より稼げてない金むしり!」
命中。
その後“吸血姫アナトミー”も“ケモ耳大好き”も地面から立ち上がりファイティングポーズを取る。
双方一定の距離を保ったまま静止する。
一瞬の沈黙の後、二人同時に攻撃が繰り出される。
「図に乗るなよ!ロクに料理も作れない癖に!」
腹に向けて両腕でジャブを幾とどなく放つ。
「女の子になって満更でもない癖に!」
殴り掛かった腕を足で蹴り上げてそのままタイキック。
「なっ、ちょっ、そんな事あるわけないだろ!バカ!」
タイキックを受けたまま顎に対してアッパーを繰り出す。
命中。
一歩後退して双方拳を握り締める。
数歩歩いた後、感情的な笑顔でお互いの顔面に勢いよく──
「この……」
「「馬鹿野郎がぁ!!」」
──拳をぶつけ合った。
「……」
「……」
「変身解除」
「……変身解除」
「……こんな歳にもなって何やってるんだろうな」
「変わらないね、私らいつだって」
「そうだな。」
ようやく夕夏梨が夜桜咲く休憩所に訪れる。
彼女が見たのは地面に倒れこむ銀、理奈の二人。
「ちょっ……理奈ちゃん、お兄さん……何やってるんですか?」
「ガキの喧嘩に巻き込まれただけだ。唾塗ってたら治る。」
「……はぁ。」
「んじゃ、帰ろっか!」
◆
──と、理奈が今までの内容を鎌田 桐和に述べる。
「……って事があったんだけど」
「いや、なんでオレに言うんだよ」
気怠げな表情で聞き流す桐和。
だが、理奈の持っていたファイルには興味ありげだった。
「あ?富凍って……言えばあの【虎龍王】だな。今日殺りあったからな。」
今日戦った【虎龍王】の変身者、“富凍”の名字が入っていたのだから。
「クッ、それでまんまとやられたんだな」
「あ?煽ってくんなボケ」
「あー面倒臭ぇ面倒臭ぇ、今日ぐらいは寝かせろや。」
ファイルを読み終えてちゃぶ台に置いた後、苛ついた態度でその場を立ち去る。
すっかりとこの家に馴染めたのか、すぐにいびきが聞こえてきた。
「富凍……あの虎龍王か。」




