Neck【存在抹消】
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コンクリートの床に手足を埋められて地に突っ伏す【Wonder Fool】。
狼男の頭部に足を踏みつけて、その眼球にメスを突きつける。
その際に銀が言い放った“15年前の事件”という単語は決して聞き覚えの無いものではなかった。
「15……年前?」
マズルを中心に踵部分で強く踏みつけて圧をかける。
「覚えていない、とは言わせない。」
「なんでも、遺体の証拠を消す為に“遺体そのものを自分の飼い犬に食わせていた”、だとか。」
Wonder Foolは嗚咽を漏らしつつも沈黙を保つ。
そもそも自分は実行犯の“金沢 鶴栄”ではなく、彼を演じていただけの偽者だからだ。
「……寸白という名字に覚えはあるか?」
だが、その単語を聞いた途端にWonder Foolの反応は変わる。
「寸白……だと」
◆
15年前、忘れてはいない。
そもそも金沢金融は地方自治体とグルのヤクザ企業だ。
不正も捏造もなんでもした。信頼と金こそがこの世の全てだったからな。
主な仕事は死体の処理。
牛肉を削ぎ落とすみたいにバラバラに処理してペットの犬のワイズに食わせる。
餌代にも困らないし効率の良いことは間違いなかったが、流石に倫理観というものが薄れていく。
「なぁ……兄さん、この処理、しなくちゃいけないのか?」
かれこれ何件目か。
死体は週1ぐらい送られてくるし、どれだけこの街が腐れているのかよくわかる。
「上から言われてやった事なんだ。死体処理なんて今まで何回もやって来たじゃないか。」
「……わかってる」
でも、信頼を勝ち取るのが金沢家の仕事だ。
要は金、金が全てを満たして、金が絶対的な信頼となる。
だけど、この15年前に予想だにしない出来事があった。
送られてきた中に“生存者”が紛れ込んでいたことだ。
「……おい、兄さんこれ……」
20代後半辺りの灰髪の女性。
染めているのではなく恐らくこれは地毛だ。
「“心臓”がまだ動いている。こいつ死体じゃない……」
送り主からの身元、事件による資料を参照すると数日前に起こった住宅火災の被害者であることがわかる。
「身元は……寸白……確かあの火災事故の──」
否、事故ではない。
「ここに運ばれてきてるってことは……そういうことだろ、事故なワケがない。これには事件性があったって……事だろ。」
「……おーい、起きてるかー?」
鶴栄が灰髪の女性の頬をつねるものの、反応はない。
「兄さん、流石に……」
「まぁ、そうだよな。気絶状態に陥ってる。」
「流石に生きてる人を殺したくはないよ……」
「なら……そうだな、ここの裏手のゴミ捨て場に捨てておこう、そうだ、そうするべきだ。」
両方とも顔を青くしながらこの件を“無かった事”にする。
社会的に存在が抹消されているのなら、どう処理をしようと問題がない筈だから。
「じゃあ……運ぶよ」
◆
と、Wonder Foolはその経緯を話した。
「……寸白って事はあの女の……」
「息子だ。隣にいるのが娘。」
「……クッ、殺したという意味は“社会的に戸籍を抹消した”ということか!」
半ば憎み、半ば安心する銀。
15年越しで家族の安否が判明した事を喜ぶべきなのか、それとも消されかけた事を怒るべきなのか混乱している。
が、理奈は15年前の事件に何か裏があることを先に勘づいていた。
「って事は、やっぱりあの事件って……」
途端、何の前触れもなくWonder Foolの姿が元に戻る。
【変身解除】の音を告げて。
「あ……?何故戻った……」
飼い犬のワイズと、地面に仰向けになった亀成に分離される。
「ワイズ?何故オレを見ている?」
ワイズは無様な姿の亀成をじっくりと見つめている。
「あぁ、そうだったよな、痛かった……よな。ホラ、さっさと向こう行けよ……ガァッ!?」
命中。
ワイズが亀成の首に食らいつく。
食欲のままに牙を立てて、物凄い力で首の肉を引き離そうとする。
「がぁあああああああああああっっっ!!!やめろ!ああああああ!!??」
首から血を流し、絶叫する亀成。
離そうと力を入れようとしても、思うように力が入らない。
「なんでだよ!!ワイズ!!お前はっ……ああああああっっ!!オレの……飼い犬だろうがぁ……ああああああ!!!!」
三人の【Real;Users】はこの、グロテスクな光景をただ見ることしかできなかった。
殺し合う以上の恐怖がそこにあり、ただ立ち尽くす事しかできない。
「ぎぁあああああああああああああああっっっっっっっっっっっっ!!!!!」
ワイズは主人の呻き声に何の理解も示さず、首の肉を引きちぎった。
食欲旺盛に人肉を頬張る。
人の味を知りすぎた。生臭く、苦い血の味の人肉を摂取しすぎてしまった。
断末魔を肴のように、首の肉を咥えたまま何処かへ去るワイズ。
「嫌だぁあああああああああああああああ!!俺は嫌だぁあああ!兄さんを、兄さんを取り戻さないと!!」
声帯が潰れても尚、執念のままに地面を這って“O市警察署”に向かう金沢 亀成。
「俺は、オレは、オレは、消されたくない!!」
「ニィザ、を!!遺だい、を、くぇセよ!どこうぇ、ぃ体を連れてつっん、、お"よッ、」
理解不能な言動を幾度か繰り返すと、だんだんと力が抜けていき無人の街路の端に寝そべる。
「ヌぁっ!!」
最期の咆哮は力無く、どこにも響くことの無い虚しい叫びだった。
「な……………………」
血液が床を濁し、ただ孤独のままに一つの生命が途絶えた。
【Wonder Fool 様が ログアウトしました】
【Wonder Fool 様の アカウントの再設定中です……】




