Beast【自業自得】
◆
三人の【Real;Users】が一匹狼を囲う。
初めに斬りかかったのは【帝都乃旋風】、走りながら抜刀し腹部目掛けて突撃。
「行きますっ!」
初撃は回避。
【Wonder Fool】は思考する。
(この女の斬撃は予測できなかった。スピード系のステータスがあったとしても挙動ぐらいは見えていた筈だったがその構えすらも確認できなかった。)
前回の戦闘からの復習、【嚮後瞬旋】への対抗策が無いことに尽きる。
(能力としてあり得るとするなら時間停止とか幻覚系……いや、一気に米字に撃ち込むのは幻覚ではない、時間系の方が近いだろうな。)
本人としても結局あの時“何が起こったか”を理解できていないのだ。
ならばそもそもコイツを相手にはしたくない。できれば1vs1に持ち込めるようにしたい。
「着いてこれるものなら……着いてこいッ!」
四足歩行に切り替え、コンクリートの地面を駆ける。
車道に突っ込み、車を飛び越えながら逃げるように走る。
(本来の目的は“O市警察署”だ。こいつらをどうにか掻い潜る事はできないか……)
「別ルートから挟み撃ちにしますよ。」
【吸血姫アナトミー】が二人を取り仕切る。
【ケモ耳大好き】は車道側から【Wonder Fool】と対峙、【帝都乃旋風】、【吸血姫アナトミー】は別々の建物の上から接近しつつ観察すると指示をする。
「わかった!」
「わかりました……!」
◆
逃げるWonder Foolを追う一人の影。
軽トラックの積み荷の上からケモ耳大好きが迫っていた。
「3手に別れた……なら都合が良い。」
気付いたWonder Foolが通りかかったバスの上に乗り、こちらの様子を伺う。
だが相手が一人である以上都合の良いことこの上ない。
「一人なら確実にヤれる……からなァ!」
牛若丸の如く車の屋根を伝ってバスに飛び乗るケモ耳大好き。
狭く、揺れる戦場の上でも果敢に斬りかかる。
「ふんぬっ!」
両腕で受け止めるWonder Fool。
受け止めた大剣を握り、奪おうとする。
(すげぇ馬鹿力だな……だが武器なら……)
引っ張られる力を応用して、瞬時に大剣を手放してムーンサルトをかます。
「武器は飾りだよ!」
顎に命中。
大きく仰け反り、姿勢を崩す。
「グォっ!!オオオォオオオ!?」
Wonder Foolはそのまま斜め方向にバスから転落。
車道から離れた歩道の脇沿いに崩れ去る。
(ただのワンちゃんじゃないねぇ……流石の耐久力、特に分厚い毛皮で基本的には効かないのがマズい。)
「傷付けることが難しいなら気絶まで追い込ませるぐらいの刺激だよね。」
ケモ耳大好きは歩道の方へ軽々しくジャンプして移り、大剣を構えようとするが、その前にWonder Foolが着地した瞬間を狙って両腕の爪で引き裂こうとする。
「ドゥラァッ!食らえやッ!」
だが、ケモ耳大好きの固有能力【蛮勇】の思考力、判断力では想定内だ。
着地前に大剣を突き刺し、その反動で跳び跳ねて華麗に空中を舞う。
がら空きのうなじに踵落としを一発決める。
「はぁっ!よっと……ここら辺はどうかなッ!」
「ぐっ……!」
命中。
だが、先程のムーンサルトよりは反応は薄い。
背中の毛皮はそれ程分厚いという事だ。
(さっきよりは薄いね……反応が良かったのは顎辺りだから……)
「邪魔臭ェ……ナァアアアアアアアアッッッ!!!!」
鼓膜の潰れる程の叫び声を上げる。
ケモ耳大好きは瞬時に耳を塞ぐが、それに気をとられてWonder Foolの背中から落ちる。
「うわっ……と!」
姿勢は崩したが、ケモ耳大好きはいつでも反撃に回れる構えにあり、双方一定の距離を保つ。
キリがないと踏んだWonder Foolは一つ問いかける。
「そういえばお前らは“金沢 鶴栄”に用があるんだよな?」
「ん?君が金沢 鶴栄さんじゃないの?」
「兄さんは……死んだよ、オレは兄さんのフリをしてるだけだ。」
ケモ耳大好きは溜め息をつく。
「悪いけど、それが嘘でも本当でもさ、“君”が夕夏梨ちゃんに危害を加えようとしたことは事実だから逃がすわけにはいかないんだよねー」
Wonder Foolはわかりやすく舌打ちを鳴らし、爪を立てる。
「聞き分けの無いガキめ……」
「しょうがないじゃない、自業自得だよ。」
対話は無駄でしかなかった。
そうだ、こんな事態になったのはただの自業自得だ。
そんなこと、わかりきっていた。
自分が殺してしまった命が生き返るワケも無いし、生き返ったところでまた意思の相違で殺してしまうのもわかりきっていた。
どうせ自分では3人殺す所まで行き着くことすら無いこともわかりきっていた。
自業自得だ。自業自得だ。自業自得だ。
それでも……つかの間の幸福を求めていた。それだけわかりきっているから、彼は殺そうとする、自業自得の獣だ。Wonder Foolだ。
「そうだよ……そうだよ……全部!オレの!自業!自得だよ!」
獣が真正面から切り刻もうと突撃。
(やっぱこれ剣でやった方が良い感じだね、狙うは……)
「そこだーっ!」
足に向けて大剣を一振り。
最後の一撃は切なくも、一瞬。
「──ッ!」
姿勢を崩し、地面に手足を付いて止まるWonder Fool。
「今だよ!お姉ちゃん!」
上空から吸血姫アナトミーが降り、【温度変化】で“コンクリート”を溶かす。
溶かす位置はWonder Foolが四足に崩れた地面。
「“溶けろ”。」
そう命じた後、Wonder Foolの取り巻く地面が陥没し、液状のコンクリートの中にWonder Foolが沈む。
「まっ……」
「夕夏梨ちゃん!」
「はい!」
時間は“一纏め”になる。
帝都乃旋風の【嚮後瞬旋】を使われ、Wonder Foolの手足はコンクリートにより生き埋め状態となる。
「……?」
「ッ!?」
自分の体が何一つ動かないことにWonder Foolは気づくことすらできなかった。
「才羽教授の策がこうも嵌まるとはな。」
「……変身解除」
アナトミーは変身解除し、寸白 銀の姿へと戻る。
「手荒にはなったが……これで逃げることはできない。」
「後二人とも、武器は構えたままだ。」
一方的に銀がこの場を取り仕切る。
そしてメスを一本構え、Wonder Foolの目に一本突きつける。
「聞かせてもらうぞ、“15年前の事件”についてな。」




