E-phage 389【殺害不正】
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亀成はまだ仁野の発言が引っ掛かっていた。
“現在薬師丸ラボにて行政解剖中なのでお見せする事はできません。上からの指示なので”
まるで本人に死体を触れさせないように、隠そうとしている様にしか見えなかった。
「警察組織がなんで兄さんを隠そうとするんだ……?」
「確か薬師丸ラボ、とか言っていたな……」
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解剖による死体の原因、多数の医療設備と最先端の研究技術により新たな生命の可能性を“究明”するというキャッチコピーの元設立されている研究機関、薬師丸ラボ。
亀成が事情説明をするとカード認証式の自動ドアが開く。
その後警備員の案内の元、3番研究室に入る。
「あぁ、貴方が鶴栄さんですか。この度はお悔やみ申し上げます。担当の植津と申します。」
白衣を纏った初老の男。
コイツも【Real;Users】ではないのに変な違和感を感じる。
「何故家族である私の了承も得ず死体をお運びになったのか、を聞きに来ました。」
若干の怒り混じりで応答する。
「なるほど、その件で。」
植津がファイルを取り出しそこから検査結果の紙を一枚提出する。
「実はですね、亀成さんの体からある“細菌”が検知されまして。」
「珍しい種類のもので我々はE-389型ファージと呼んでおります。」
顕微鏡写真で写っている六面体の頭部と四本の足を持つ細菌。
生物の講義でよく見るバクテリオファージに類似している。
「……はぁ。」
「現在取り出したもので実験をしているのですが、なんでも海外の情報によりますと短期間で潜伏し寄生虫の様に体内の細胞、器官を乗っ取る性質があるだとか……」
「それで緊急検査……と?」
「はい、検査は終了して後に葬儀の手続きに移させてもらう予定となっております。遺言状は預かってあると聞きましたので問題はないかと……」
「いえ、もう帰らせていただきます。」
亀成は心底落胆した顔で薬師丸ラボから離れた。
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何か陰謀があったりだとか、隠滅を覆す捏造があったりだとか、そういうファンタジーに少し期待していたのだろう。
だが、結局は自分の策略通りに終わり、真実は本当に隠滅された。
(……引っかかる……こんなにも円滑に死体の手続きが決まっていることが何よりも問題だ。)
(いくら事故死にできるといっても医者の目まで誤魔化せるモノなのか!?)
植津から貰った検死結果のファイルを開くともう一枚、別の資料が混じっていた。
「っておい!別の奴の検死結果も混ざってんじゃねぇか!」
「ちょっと待て……富凍?」
「昨日の火事の被害者……いや、アレはどうみても“殺人”だろ、行政解剖されるわけが……」
そう、昨夜の火災。
アレは意図的な焼殺であると警察からも報道していたはずだ。“行政解剖”が許されるはずがない。
事件性がないのはありえない。死体の手続きが早すぎるのもありえない。
なら、何故このような結果が現れているのか。
「まさか……!」
“許されるんだよ!金は全てを解決してくれる!捏造冤罪万歳だ!”
兄の言葉が頭によぎる。
この世は捏造まみれだ。だが、それは企業のものだけだと思っていた。
亀成が警察署へ再度向かおうと走ったその時、一人の少女が立ち尽くす。
「待ちなさい」
【帝都乃旋風】こと松平 夕夏梨。
臨戦準備万端の眼差し。
「……お前は……チッ、今はそれどころじゃ無ェ!オレにはやるべきことが──ッ!!」
不意に後ろからメスが一本、剛速球の様に投げられる。
頬を掠めるだけで攻撃を避けるものの、危機感を覚える。
【吸血姫アナトミー 様を登録しました】
【ケモ耳大好き 様を登録しました】
【Wonder Fool 様を登録しました】
殺気を込めた声で寸白 銀がこちらに近づく。
「金沢 鶴栄、お前にはじっくりと聞かなければいけないことがある。」
「抵抗しなければ聞くだけで終わらせてやる。」
「だからそれは後からでもいいだろうが!こっちは今行かないとマズいんだよ!」
相互不理解は当然だ。
「「「変身」」」
三人同時に変身。
灰髪の吸血姫、【吸血姫アナトミー】。
純白の獣耳尻尾を持つ蛮勇、【ケモ耳大好き】。
鬼の三つ角を有する侍、【帝都乃旋風】。
全員“金沢 鶴栄”を殺す。
その覚悟で武器を構えている。
「ああ、クソ!オレをイライラさせやがって……」
「変、身ッ!!!!!」
“金沢 鶴栄”の全身が黒い殻に包まれ、【Wonder Fool】に変身後その殻をぶち破る。
悪鬼羅刹、暴獣の憤怒の化身が雄叫びを上げる。
最早この怒りを止めることはできない。
体纏うこのストレスこそ彼の原動力なのだから。
『こうなったらヤケだ……聞き分けの無ェガキ共が調子に乗ってんじゃねェぞ!』




