Family【一期一会】
◆ 一色宅
「……早く結論が出たな。」
アナトミーは何やら不服そうな仕草を取りながらも、結論が出たことに一息つく。
「不明瞭な点は多いけど、今夜はさっきの内容を覚えておいて欲しい。鍵は夕夏梨君と、理奈君にかかってるからね。」
さいばぁは無料通話アプリを通じて今話した内容を纏めている。
「はい……!」
「うん!」
入力し終えて時計を見てみると時計は16時を示していた。
夜からも夕飯の都合上でも個人で準備を整えたい為、さいばぁ、帝都乃旋風は帰ろうとする。
「んじゃあ、僕はそろそろお暇させていただくよ。変身解除。」
「あ、私もそろそろ……!へ、変身解除……」
「「変身解除」」
一同揃って変身解除宣言。
瞬間の光が4人の姿を元に戻す。
その後「またね」の一言で、二人は一色宅から出ていった。
「……ところで、“アレ”は本当にしなくてはならないのか……?」
「あーもうなんでそんな頑なに行きたがらないのさ!?教授が全額負担してくれるって言ってるのに!」
「いや……その……」
言葉を詰まらせているのか、理奈に目線を合わせようとせずに銀は黙り混む。
そんな微妙な雰囲気を割って入るように、なにも知らない不動住職が帰宅した。
「ただいま戻った。」
光景として異様なのは、一人の男を介抱して、家にまで連れてきた事だ。
「あ、爺……ってまた拾ってきたのか……」
「今日は人がたくさん来るねぇ……」
この家ではよくある出来事だ。
だが、いつもとは違うのは拾ってきた行き倒れが【Real;Users】だった事。
【蒼蟲 様 を登録しました】
「「──ッ!」」
先程までの平和ボケした空気が変わることは安易であろう。
◆
俺は“正義”が嫌いだ。
昔見ていた仮面刑事シリーズの主人公の正義には憧れていた。
子供の頃の夢は“警察”。市民を脅かす悪を許さない、といつも呟いていた刑事の父の姿は大好きな仮面刑事の様だった。
……だった。好きという気持ちはもう過去のものだ。
とある火災による事故現場の担当をしていた父親の言動が一日二日で一転していた事だ。
父の活躍を心待ちにしていた俺は、こんな歳になってもいつも警察になりきったつもりで父から事件の内容を聞いていた。
事件調査1日目には「死体に刺し傷がある、そしてもう一つの遺体が発見されていない。」と。
事件調査2日目には「死体の刺し傷は見間違え、あの家族に母親はいなかった。」と。
その時父親の顔が急に偽物の、仮面のように見えるようになった。
それが俺の言う“面の皮”だ。
俺は単純にその“面の皮”が気になって、剥ごうとしただけだった。
剥ぎ終わった父の顔はクシャクシャで人のモノとは思えない、“この世の闇”の様な表情だった。
俺が顔剥殺人鬼になる一日前の深夜、父が警視総監の指示の下様々な事件を隠蔽と冤罪により解決していた事が解った。
そうだ、警察に正義なんて初めから無かった。この世界は汚い“面の皮”を被った偽善者しか居ない世界だと。
「……ったく人って簡単に死なねぇもんだなぁ……」
なんとも無様な姿だが、俺はしぶとく生き残っていた。
「あ、起きた?」
理奈は気絶していた【Real;Users】に対し親切に布団をかけて寝かせていた。
「あ?ここは……」
「私たちのお家、名前、わかる?」
手慣れた物言いで話を切り出す。
そもそも自分が何者か解るか、解らないかで対応が大きく変わる。
「……ケッ、鎌田 桐和。」
わざわざ偽名を使ったところで警察が来て面倒なことになるのは変な恩をかけられるのはゴメンだ。
最初っから関わらせない方がこちらとしても楽だ、さっさと脅して──
「お互い【Real;Users】同士だから今更どんな経歴言おうが関係無いよ。」
つまらなさそうな顔で声色を落とす。
鎌田 桐和が殺人鬼である事を知っているのか、それとも無愛想な返事で落胆させたのか解らないが本性を現した様に見えた。
「ッ!?この女……!」
桐和が酷く顔を歪めようと舌打ちを繰り出すと同時に、銀が理奈を退かせる。
「……代わろう、理奈。」
「どういった過程で【Real;Users】に選ばれたかは知らんが……助けられた事に感謝するんだな。」
「恩を返せってか?」
「恩なんてお前の気が済むか済まないかの問題だろう、別に何者だろうが、こちらに危害を加えず適当に飯でも奢られてたらそれでいい。」
一色家ではよくある風習の一つ、行き倒れ、身寄りの無い人を見つけ次第保護する、どんな経歴を持とうがどんな極悪人だろうが対等に接し、食卓を共にする。
それが一色 不動が生涯で見つけた生き様、浄土宗の教えの中に見つけた真理である。
「はぁ……?」
銀本人はその生き方に否定はしない。
縁という物がどれだけ重要か、一期一会に何が必要かを知っているからだ。
「何を切羽詰まってるのか知らないが今日は休め。」
乱れた布団をかけ直し、溜め息をつきながらも落ち着いた物腰で対話する。
「なんなんだお前ら……」
桐和の思考が追い付かないまま、事は転々と動き出す。
不動住職が様子を見にやって来た。
「要件は済んだか?」
「あぁ。そろそろ夕飯の準備をする。」
そのまま立ち話を終えると、3人とも桐和から離れたので一旦目を閉じることにした。
◆
それから1時間後。
桐和は起き上がれる程の体力は回復していた。
さっさと立ち去りたい所だが、どこにも行くアテが無いという事に関しては図星だ。
まずどこまで移動したかが分からない、停泊中だったホテルに荷物を置いたままだから最低限の物しか持ってきていない、スマホの充電は切れている、など都合が悪い。
「……なんだお前、休めと言っただろう。」
台所に寄ると先程の痩せ男が野菜を切っているのを目にする。
「他人の施しは受けねぇ。」
愛想の無いな言葉を発しつつも腹は正直に“ぐぅ”と鳴る。
素直じゃない返事を聞いた銀は包丁を置いて冷蔵庫からニラを取り出す。
「…………わかった、大皿料理にしよう」
「テメェなぁ!?」
銀は桐和の体つきをじっくりと見下ろした後、深刻な表情で「勿体無い」と言い放つ。
「その筋肉量に対してこのやつれた顔は明らかに栄養不足し続けている証拠だ。これから生き残るにせよ栄養の管理は大切だ。このままでは栄養失調になるぞ。」
顔面蒼白で唇が蒼くなるのは栄養失調の初期症状。
栄養学の知識を持つ銀の目を騙すことはできない。
「気に食わねぇ“面の皮”だ……」
桐和の目からは“面の皮”は見えていない。
どうせ皮を被ってるだけの偽善者だと思っているのに、“面の皮”が見えないのが気持ち悪くて堪らない。
「気を食うな、肉を食え。今日はレバニラ炒めだな。」
巧いこと言ったつもりな表情で豚レバーを酢を入れた袋に浸し、臭みを取る。
特にレバーは造血補強としての鉄分を摂取できる上、タンパク質も豊富。
「じゃあ俺一人で作ってやらぁ!退いてろ!」
料理中の銀を押し退け、桐和が料理を担当する。
レバーを袋の中で揉みほぐした後、フライパンに油をかけて点火する。
丁度良い温もりになった辺りで予め切っておいたニラ、もやし、ニンニクを入れる。
「何あの人?」
「カッカッカ、威勢の良い若者だ。」
料理ができるのを待つだけの不動、理奈の二人はこの異様な光景に“?”を浮かべつつも面白げに見つめている。
「雑だな。まさかレバーとニラを炒めたらそれで完成だと思っていないだろうな?」
「アホにしてんのか!?レバニラ炒めぐらいできらぁ!」
「炒めている最中にタレを入れて混ぜろ。タレはウスターソースと味噌を3:7だ。後隠し味にバルサミコ酢が引き……」
「お前の好みは知らねぇよ!!」
◆
それから数十分後。
大皿にドンと盛られた5人前程のレバニラ炒めが出来ていた。
銀が小皿と白米を添え、桐和が机の中央に大皿を置く。
「まぁ、初心者にしては中々ではないか」
「なんでお前はさっきから上から目線なんだよ!?」
漫才を始める二人を見た理奈は笑いを堪えきれず思わず吹き出してしまう。
特に交遊関係の薄い兄がこんなに人と仲良くしているのは珍しいので、理奈にとっても新鮮な感覚なのだ。
「もう仲良くなってるじゃん!」
銀自身はそういうつもりだが、桐和は即否定。
「なってねぇ!」
「カッカッカ、馴染めて良かったな。」
「まぁまずは夕飯だ」と銀が座布団に座り、取り仕切る。
一同手と手を合わせ、揃って食前の挨拶をする。
「んじゃ、いただきまーす!」
「「いただきます」」
「……はぁ、いただきます。」
早々銀が桐和の小皿を奪い、レバーを大量に入れて渡す。
「おい、オイお前レバーどんだけ入れんだ!?」
「だから言っただろう、“肉を食え”と、タンパク質、そして鉄分、ビタミンAだと。だからまずは食え、ちゃんと噛んで、食え。」
「お前は俺の母ちゃんかよ!?ッたくよぉ……」
そうツッコミつつも桐和も流石に善意に堪えたのか、仕方なくレバニラ炒めを口に入れる。
◆
廃ビルでの戦闘は消化不良と言うのが一番正しい表現だろう。
どちらも怪我を負うだけで、犠牲者一人として出ない。
デスゲームとしては全く機能しない戦闘。
だが、それほど慎重に命を賭けている。
今までの戦闘からも解るに、命を投げ捨てようと戦いに明け暮れる人間はいない。臆病で無慈悲な人間らしさの滲み出た生存競争なのだ。
「……おい!赤兎!?大丈夫か!?」
那須は土左衛門状態の赤兎を起こそうとするが、無駄だと滉にジェスチャーされる。
納得する以前に那須と滉は初対面だ。
「……んでお前は……」
「……富凍 滉、藤野刑事の専属の……あ、“ハッカー”。今は、それでいい。」
滉は自分の素性を正直には明かせないので、適当に取り繕おうとした。昔見た刑事ドラマの刑事の相方がハッカーだったのを思い出して、設定を作る。
「……?変な奴だな……まぁわかった。ちょっと赤兎を家に戻すから道を教えてくれ。」
喋り方に違和感があるも、力なんてからっきしな子供にしか見えない。
怪しさ半分信頼半分で滉に協力を求める。
「……あぁ。」




