Resignation【正義衝突】
虎龍王の一閃は確かに蒼蟲の身体を貫いた。
派手に燃える蒼蟲に炎を掻い潜る術は無い……筈だった。
「ぐわ、ぐあ?ぐぐわぁ……ふぅ」
本当に燃えていたのは“脱皮寸前の皮”だけ。
重要なことを忘れていたと言うのなら、蒼蟲はあくまでも“人間型”でなく“昆虫型”の【Real;Users】という事だが、実際にそこまで発想が行き着くかと言われれば微妙な範囲であり、迂闊だったとは言い難い。
だが結果として本体に初めから何一つとダメージは与えられていなかった。
その事実が塗り替えられることはない。
「擬態能力、そう俺の【鏡面擬態】は皮膚に薄い“鏡面”を作り周りの光を反射させて背景と同化する能力だ。誰にもない“固有能力”ならそれだけだ。」
「だが、俺は人ではなく“カマキリ”だ。脱皮の一度や二度、丁度さっき脱皮着後だった、みたいだな?」
第二ラウンドはこれからだとファイティングポーズを取る蒼蟲。
「ならもう一度燃やすまで。」
虎龍王が再度“ストーブレード”を構えようとした瞬間、赤兎が「邪魔だ」の一言を添え、ゴッと軽く殴り飛ばす。
「悪いが、ここは俺にやらせてくれ」
蒼蟲の正面に出る赤兎。
「那須さんから聞いたよ、鎌田 桐和……」
何一つとして笑みの無い、静けき怒りを抑えきれないまま。
ゆっくりと端末を取り出す。
「この2年間は、この為にあったんだな。正義、変!身!」
『コテ!・メン!・ドウ!』
変身演出共に赤兎の姿は“仮面刑事 牙狼”へと変貌する。
「黙れよ、有象無象が。」
怒りを込めているのは赤兎だけではない。
殺人鬼らしい下卑た笑いなんてない。
「正義なんて言葉には聞き飽きた、本来ならここで立ち去るべきだっただろうが……もう知らねえ。」
双方に共通した“気に入らなさすぎる”嫌悪感は止められるものではない。
「お前みたいに!自己の利益の為に!正義を語る偽善者がいるから!不正も捏造もデスゲームも許される時代になってんだ!」
「ッ!」
いや、そもそも双方ともここで殺し合う為に生まれてきたかもしれない。
「藤野 赤兎!お前の姉だって国家権力の犬だ!テメェらの親父の威を借りて捏造で事件を解決して昇進ルートだ!」
「……違う」
相反する正義同士、互いのタブーが重なり合ってしまう。
一人は死者への侮辱、一人は正義の騙り。
「だから顔を剥ぎ殺した!これこそ正義だ!俺は仮に誰に恨まれようと、殺されようと、覚悟した上で正義を執行してんだ!」
皮肉にもこれがどちらも正義であり、どちらも悪である。
これが下らない、いや下ることしかできない正義の本性だ。
「やめろ」
「正義を騙った連中が咎められず、俺だけが孤独のままに悪人のまま死ねってか!?黙れよ偽善者が!!」
空想上の自己陶酔に浸され、現実を霞める言い訳にしか過ぎない。
本当に馬鹿な人間が誰か、もうわかっただろう。
何度も人殺しを悪だと決めつけようが、死人の侮辱を認めなかろうが、絶対に正しい事は無い。
この物語に主人公がいない限り、今にもそこらの人々に紛れてしまいそうな群像が好き勝手喋り、不確定要素まみれの理論とこの私地の文が躍り続けるだけだ。
何故か?
これは、誰の物語でも無いからだ。
「やめろって……」
「言ってるだろ!!」
『ドウ!・ドウ!・ドウ!』
『カマエ!“牙狼・ゲダン”レッツリング!バトリング!ガトリング!』
牙狼の仮面が青く変色し、竹刀型の専用武器“バンブレイバー”がガトリング砲の形状に変化する。
今まで上段、中段とあったが、今回は“下段”らしい。
『イッポンワザ!大破壊拡散殲滅砲』
ガトリング砲型の“バンブレイバー”から小型のミサイルと無数もの弾丸が嵐のように発射される。
荒く、そして身体にとても負担のかかる大技だ。
「姉さんを……殺した癖に、更に姉さんを侮辱するつもりか!」
「あぁ、何度でも侮辱してやる!お前らのそういう所が、気に入らねぇから、なぁ!!!」
大破壊拡散殲滅砲を諸に食らえばいくら【防御力 A】だろうと無傷ではいられない。
だからこそこの荒業に対する回避方法、迎撃方法は簡単なものである。
蒼蟲は体を独楽の様に回転させ、迫る弾丸、爆発物を、自身の巨躯と遠心力を組み合わせて破壊する。
そして隙だらけの牙狼の懐へ飛び込み、鋭利な鎌で斬りつける。
「な、何?ぐわぁあああッ!……げほっ……げほっ……不味い……体に負担が……」
命中、大ダメージ。
反動で動けず、圧倒的な地力の差を見せつけられた牙狼は体を思うように動かせず、強制的に変身が解除される。
「ハァ……ハァ……クソ、痛ぇな……消えろ……消えろッ!」
蒼蟲も蒼蟲で相当無茶な選択だった。
相手の心を折らせるには最高の選択だったが、何分相手の攻撃を受けに行ってるので、ある程度防御が補填されようが、ダメージを受けることに変わりはない。
膝を付き、ボロボロの体から変身解除。
だが、殺す気は満々だ。変身前の状態でも彼は人を殺せる武器がある。
「チッ……そうか、お前が居たか……」
と、武器を構えたが、額に向けられた“ストーブレード”が目についた。
【虎龍王】の存在である。
「……さっさと逃げろ」
「……お前、本当は交渉する気があるだろう。」
そう思い当たった節はいくらかある。
【Real;Users】である事を知ってるのはこの戦いでの一部始終を見ていた筈なのに虎龍王の言及はしなかったこと。
警察を目の敵にし、こちらとの決着を遅らせたこと。
そして、“肉体”には一切攻撃せず、兜や鎧に対してしか攻撃していなかったこと。
虎龍王はその手加減に気づかない事はなかった。
「冷めた、俺に仲間なんて生温いもの要らねぇって事がわかった。」
蒼蟲自身は試しはしたが、先程の一戦により興が覚めた様だ。
ソロプレイの方が割にあっている。
虎龍王の“甘い”提案により、蒼蟲こと鎌田 桐和はつまらなさそうな表情で立ち去った。
「……最後に言っておく、警察組織を信じるな。この男もまた、偽善者でしかない。」
この言葉を言い残して。
◆
大破壊拡散殲滅砲で受けたダメージは変身前の体を介して、肉体的負担が大きいものだった。
今にもその意識が消えてしまいそうな程に。
「……クソッ、意識が遠退く……」
人目のつかない路地裏の壁にもたれ、息を整える。
「ハァ…… ハァ… …」
不意に足音が聞こえる。
そして、聞き覚えのある、加えて今聞きたくない着信音が聞こえる。
【■■ 様 を登録しました】
何と発したか聞こえない。
聴力は健在だが、それを理解しようとする頭が働かない。
「まずい……また……ある……ざー……ぁ」
確実に狩られると終わりを覚悟し、意識をゆっくりと消していく。




