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Real;Users  作者: 熊蜂
二日目
31/44

Cockroach【生殺与奪】

 金沢 鶴栄の家宅捜査の日はそう遠くない。

 残る身辺調査の情報は“弟である金沢 亀成への事情聴取及び、家宅捜査”である。


 そして今昼、捜査一課は金沢 亀成の自宅へ捜査を始めた。


「……一課、私含め5名金沢 亀成の家に入りました。」


「了解、慎重に行け。」


 現場監督の捜査一課長が応答する。


「……臭いな……」


 一課がまず勘づいたのはこの異臭である。

 腐った生卵の様な、嫌な臭いが鼻に染み付き離れない。


「……ッ!?これは……」


 そして、階段を昇るにつれその臭いの正体に近付く。

 言わずもがな、臭いの正体は死体である。


 首を深く斬り、テーブルにうつ伏せの状態になったまま死んでいる。

 左腕の付近には血痕の付いたナイフが落ち、血のこびりついた遺書を、右腕で押さえつけている。


「どうした?何が起こってる?」


「金沢 亀成……自殺しています!遺書を残してます……!」


 この状況証拠から推定するのなら十中八九自殺に見える。


 だがそれ以前に問題なのは金沢 亀成が殺されたこと。“遺書”の内容にとっては一課の狙い全てが覆ってしまう。


「なんだと!?兎に角、遺書は丁重に扱え!捜査一課、全員そちらに向かう!」


 その遺書の内容とは──



 ──『拝啓、これを読まれる親族と、皆様方へ。私金沢 亀成は4人に及ぶ女性を拉致し、強姦の果て、おぞましい方法で命を至らしめました。全ては私金沢 亀成の犯した犯罪であり、私以外の親族に関係がありません。本来ならば罪を償うために出頭するべきですが、悔やみきれない罪の為に、私の命で全てを終わらせる事を決めました。残られた被害者のご親族の方には大変悔やみきれないお心遺りがあるのは重々承知ですが、裁判では正当な裁きを与えられない事を見越して、この選択をさせてもらいました。私の財産及び所有物は全て兄である金沢 鶴栄に託します。』


 あぁ、何の捻りも心も込めてない言葉並べだ。

 でも兄貴、兄貴なら解ってくれるよな?これが一番正しいんだって……


「これは……俺が生き抜く為に下した決断だ……」


「仕方なかったんだよ……!」


 そう正当化しながら、無人の豪邸を後にする。

 外に出た瞬間、【端末】から通知が鳴る。


【末吉 様を登録しました】

【Wonder Fool 様を登録しました】


「……!また【Real;Users】か!」


 亀成は最大級の警戒を持って周囲を見渡す。

 シャリン、シャリン、と何かを鳴らす音がこちらに近寄ってくる。


「カッカッカ……」


 気味悪げな笑い声と共に現れた、純白の面布を顔中に巻き付けた僧衣の男。

 そう、参加者の一人、【末吉】だ。


「漸く一人遭遇、か。……殺し慣れてそうな目をしておるな。」


 シャリン、と“錫杖”を鳴らす。

 錫杖、そう。

 僧侶が持ち歩く杖、錫杖伝用として攻撃性能にも優れ、先端は槍の様に鋭く尖っている。


「……これも兄貴の為だ。そっちがその気なら……」


「変身ッ!」


 漆黒の殻を破り、狼男(ワーウルフ)のアバター、【Wonder Fool】が姿を見せる。


「釈近謀遠……当然のように殺す前提で在られると足下は掬われるものよ。」


 会話を自ら断ち切るように先制攻撃。長物の攻撃は数歩踏んだ時点で間合いに至る。

 先ずは【Wonder Fool】の膝元に一突き。


『達観したつもりか?何人殺ってるかは知らねぇが……ァッ!?』


 初撃は難なく回避、そのまま自然と前に出た右腕で首もとを掴みかかろうと──


 した、その瞬間に勢い良く振り上げられた錫杖で、右腕が切断された。


(なんだ今の攻撃……ッ!?右腕が一撃で吹っ飛んだ……!?)


(いや、あの腕の位置は丁度関節の場所……アレだ、“マジで人を殺し慣れている”……ッ!)


『ドリャァッ!!』


 足で地面を蹴り上げ、砂埃を上げる。


 そのまま末吉への攻撃としても狙ったが、錫杖で軽く往なされてしまう。

 一時的に視界を眩ませ、後退。


(この俊敏性……【Real;Users】で付いたものだとは思うが……武芸百般そこ辺りの往なし方だな……)


『何人か……じゃなくて何人も……殺ってるな?』


 この会話の間に【固有能力】の【腫肉変成】を見せつける。

 切断された箇所からうにゅり、うにゅり、と筋肉、脂肪、骨が形成され、毛は生えないものの、腕が元通りの形となる。


「カッカッカ……どうであろうな?」


(ほう……この再生能力……只では殺せまい……いや、これは首を切り落とそうが生えてくるのではないか……?奴にはそれほどの“生”への執着を感じる。)


 能力の取得は“変身者本人の中身の具現化”だと末吉は持論立てている。


 ISP(インタースキャニングプログラム)で本人の中身を分析している以上、狼男の外見なのも、強度の再生能力を保持していることも、“本人の中身の具現化”なのだ。


『なら……後悔もねぇな!』


 はぐらかし、沈黙は肯定と同義だ。

 殺すことに躊躇の無い“殺人犯”を殺すことに慈悲など無い。


「……ッ!」


 今度はこちらの反撃。

 変成した右腕で殴りかかる。


 末吉は錫杖で往なしたが、更に次の攻撃が襲いかかる。


 腕だけでない。左腕の尖った爪、蹴り技の猛攻の嵐。

 八つ裂きのフルコースはそう容易く守りきれる事はない。


『オラ!オラ!オラ!ドラァ!』


 錫杖が甲高く、鈍い音を鳴らす。

 三連撃の後、強烈な蹴りを当てられる。


「ぐぐ……!」


 なんとか右腕で止めることはできたが、一発の蹴りで【Real;Users】の骨にヒビが入る。


「孤狼の豪脚……確かに恐ろしき威力であるが……見誤ったな」


 だが、錫杖の尖端は既に【Wonder Fool】の首を抉ろうと位置に達していた。


『首元を……ッ!』


「覚悟ッ!」


 回避する間もなく錫杖がWonder Foolの首を突き刺し、うなじまで貫いた。


『ぐぁああああああああッッ!!!』


 悲鳴を上げる。

 だが、それだけだ。


「何……ッ」


 【腫肉変成】があれば“首を裂かれた程度”で死にはしない。

 そもそも人の体では無いのだから、生命力が段違いだ。ゴキブリの様なしぶとさを誇る。


『首だろうが……俺は再生するぞ……その程度で怯むと思うな……』


 首元を斬られたWonder Foolに異存怯みすら無い。

 【腫肉変成】により外傷は自動的に修復するからだ。


「……だからこそだ。」


 ──そう、()()()()、ではない。

 ()()()()、が末吉の目的だ。


 グチャリ、首元で気味悪い音がした。

 その咀嚼音は一ヶ所だけでなく、約16箇所にも及ぶ範囲で気持ち悪い感触を鳴り響かせる。


『ッ!お前!首に何を入れたッ!?』


 何かウィルスでも混入したのか、体を何者かに食い破られている。

 喉元を特に集中され、声帯が掠れる。


『ナ、何かが、体を食い破るッッ!!!』


 Wonder Foolの肉を勢い良く食い破り、出てきたのは、大量の()()()()


 末吉の固有能力、【生殺与奪】で大量のゴキブリの死体を侍らせていた。

 驚異的な繁殖力と集団で肉を食い破る力、そして走行に於ける俊敏性は蛆虫よりも強力である。


「ゴキカブリであるな。」


『おっ、おぉごごごぉおおおっ!!ぐぁぶるるるるるごぉ!!!』


 喉元、口、頬、右肩、左肩、五臓六腑を食い破り、去り際に卵を無数に産み付けるゴキブリ。


『ででででめぇは……でめぇだげげごぉぶるるるるる……許さ……ねぇ』


 更に急活性したゴキブリの子供が更に体から溢れ出る。

 蟻の軍列を作るかのように体が白い剛毛と黒の斑点で染まり、モザイク柄になる。


「……とは言ってもゴキカブリでは役不足であるな。……仕方あるまい一時退散、か。」


 これでもか、という程死骸ゴキブリを活性させたというのに、Wonder Foolにはまだ意識がある。

 末吉はそれでも尚戦い続けるなら、流石にこちらの消耗もキツい物だと考察する。


『覚えて……ろ……へんしん……かい……じょ」


 厚い攻撃で想像以上に体力を消耗した末吉は一旦退散。


 それを見計らって【腫肉変成】を発動し続け、

 末吉に“このままでは死なない”と思わせ続けたWonder Foolは去ったと同時に、変身解除。


 流石にこんなおぞましい攻撃が効かないわけがない。

 彼なりの賭けだったのだろう。これ以上動けない事はないが、こちらも同様、消耗は激しい。


「ハァ……ハァ……!俺に、俺に……ゴキブリ食わせた事は後で倍にして返してやる……!」


 そこら中に汚ならしいゴキブリの死体がパラパラと落ちる。

 地面に這いつくばり、恨みつらみ鬱憤を滾らせるこの男には、かつて裕福な生まれだった面影も何もかも消え去っていた。


 ただ生きることに貪欲で、生きるために他者を殺す、【Real;Users】として覚醒しているからだ。

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