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Real;Users  作者: 熊蜂
二日目
30/44

Sacrifice【予定不和】

 昨日の事だ。

 兄貴はいつも通り社長としての責務を果たしていた。


「社長、これが先月のレートの上がり幅です。」


 金沢金融本社ビルは、各支部での商談を随時確認する場。

 本社の社員として来れるものは、各支部より選抜された高学歴高実績の有能、勿論通常の支部より厚待遇高収入である。


 そしてこの資料は月における全支部の利潤を総算し、先月のデータの倍数と比較したものである。

 この資料を作るだけでも莫大なデータの比較、大量の計算機、人材が必要であり、最低でも一日半はかかる。


 レートの上がり幅は前回より1.163倍。

 実際にこれで利潤が増えているという事は、鶴栄のカリスマ性がいかに高いものであるかの証明とも言える。


「あぁ、ありがと。んじゃあもうそろそろ今日は切り上げるか、残業率0%を維持したいしね。」


 そして本社の掲げる目標はまず“残業率0%”。

 前社長は残業上等の理念を掲げていたが、鶴栄はそれを否定、“働き方改革”と“心理学”の知識を応用し、より効率的なタイムテーブルを考案したのである。


「そうですね。」


 夕焼けの見える18時。

 二人兄弟はぽつりぽつりと会社を後にする。


「あ、そうだ亀成、今日ちょっとお前の家で飯食っていいか?久々にお前と一杯やりたいんだ。」


「兄貴からそんな事言うなんて珍しいな、酒は嗜む程度じゃなかったの?」


 鶴栄は滅多に酒を飲まない。

 酒癖が悪く、絡み酒をしてしまう事が多々あることに気づいているからだ。


 それでも呑みたいと言うのは親しい家族間だからこそできる自分勝手である。


「たまにはそんな時だってあるだろ?お前の好きな白ワイン買ってくるからさぁ!」


「了解了解、じゃあ19時ぐらいに準備して待ってるよ。」


 さること19時。

 亀成はサーモンのカルパッチョ、ボンゴレパスタとワインとの相性バッチリな料理を(こしら)えていた。


 そして鶴栄がやってくる。

 社長ともあろう身分ならば30000は下らないワインを、カードで2本は買って来るほど金銭には余裕がある。


 仕事についてだったり、世間話だったり、色々と駄弁った後、グラスにワインを注ぎ、乾杯する。


 それから少し時間が経った後、鶴栄は真剣な表情で亀成に質問した。


「なぁ……亀成……もし俺が……犯罪を犯していたとしたら、お前は……どうする?」


「なんだよ、急にそんな物騒な話……」


 藪から棒にと言わんばかりに投げつけられた例え話。


「真剣に考えてくれよ、もしもの話なんだからさぁ亀成、お前ならどうする?」


 あまり語るに相応しくは無い話だが、金沢兄弟二人は学生時代にとある犯罪を隠蔽したことがある。

 共犯の身ではあるがここは敢えて正論を言うべきだと悟る。


「……自首してもらう、かな。でも……ほら、有能な弁護士とか連れてできるだけ穏便に済むようにするからさぁ!」


 精一杯のフォローは付けたつもりだった。

 だが、鶴栄の顔は期待とは逆、加えて刺激までさせてしまった。


「……チッ……そりゃそうだ、当たり前だよなぁ……」


 確かに、こと穏便に済まし、早く出所させてもらう、というのが弟の言い分、賢明な判断である。


 だが、それは一般人の兄弟ならという話である。

 鶴栄は金沢金融の、差し引いては日本経済の未来を支える一人てもある。


 そう易々と捨てられるわけにいかない。

 上層部が彼を捨てる選択に行くわけがない。


「これしか方法が無いもんなぁ……」


 そこで上層部の出した決断は、単なる隠蔽ではなく徹底的な隠蔽。


 カチャリ、と亀成に向けて鉄の塊を突き付けた。


「兄貴……?なんだよそれ……」


「亀成……悪いけどよぉ……“俺の為に死んでくれねぇ”かな」


 切羽詰まった表情で安全ピンを抜きかける。

 無抵抗で驚きを隠せない亀成に若干の躊躇を抱いているのか、動作は酷く重かった。


「どうしたんだよ兄貴!いつもの兄貴じゃない!落ち着いてくれよ!」


「親父の言ってることは最もだ……ハハハ、そりゃ最もだ!」


「俺は有能なんだ!この金沢金融の手腕を握るものとして絶対に外せないキーマンなんだ!」


「ハハ、でも自分の性癖には逆らえない、ハハ、お前に隠れて何人殺したっけなぁ……」


 女性を誘い、別荘にて強姦及びあらゆる残酷な方法で惨殺した。

 その死体をさながら標本のようにして部屋の地下に飾っていた、その旨まで説明してくれた。


「ここで警察の押収が入ったら金沢金融はおしまいなんだ!お前だって俺と一緒に一人、殺しただろ!?どっちかがツケ払わなくちゃいけねぇんだよ!」


 後はない。

 欠片でもバレれば終わりだ。

 自殺すら許されないのなら、堕ちるまで堕ちるしかできない運命の奴隷なのだ。


「だからって……そんな勝手……!」


「許されるんだよ!金は全てを解決してくれる!捏造冤罪万歳だ!」


「だから……死ねって言ってんだよ!」


「────ッ!」


 引き金が引かれる。

 バンッ!と鉛の重高音が部屋中に鳴り響く。


 だが……弾丸の行き先はどこでもなく空を掠めただけだった。

 鶴栄の飼い犬のロットワイラー、ワイズが鶴栄の腕を噛みついたのだ。


 文字通り、“飼い犬に手を噛まれた”とはこの事だろう。


「……がッ!ワイズてめェ何しやがる!俺の犬だろうがァッ!?クソ、外れたじゃねぇか!」


 そして、その隙に亀成は茶色の端末が目の前に落ちるのを確認した。


「……これは……端末……!もしかして、【Real;Users】のGMの言ってた……」


 鶴栄はワイズを振り払い、血を流した右手でもう一発、今度は躊躇なく感情的に引き金を引いた。


「今度こそ、死ねぇええ!!」


「変身……!」


 それと重なって変身の音声入力を起動させる。


「な……ッ亀……成……?」


 弾丸は真っ黒な殻に吸収され、不穏で禍々しい殻が亀成とワイズを包む。

 その殻はストレスの権化の様な不気味さであり、触れてはいけないという本能的な嫌悪を感じさせる。


 そして、その殻を突き破り【Wonder Fool】が出現する。


『兄貴……考え直してくれ……あんなクソ親父の言うことに耳を傾けるな……』


 彼としては無抵抗の状態にしたかった。

 今ならまだ考え直してくれる、相手に攻撃の手段が無くなればきっと考えを改めてくれる、そう信じていた。


「うわッ、うわッ、うわぁぁあああああああああッッ!!!」


 弾丸が切れ、焦り以上の、生命に関わる危険を感じた鶴栄は異形と化した弟を見た段階で正常ではいられない。

 銃を投げ捨て、カルパッチョを食べる際に使ったナイフを持って亀成に差し掛かろうとした。


『……そうか。もう、ダメか……』


 この兄はもうダメだ。

 きっと生かした所でもう不幸しか見えない。そう思う前に己の腕は兄の首を切り裂いていた。


 そう、反射的に、体が、動いて、いたのだ。


『さっきから……一方的に死ねだ、死ねだ、煩わしい野郎だな!俺が、何のために今まで、働き続けたか解ってんのかこのクズがァ!!』


 それは、昔、人を殺した、事のある、俺の、側面、なのか?


「ぎぁああああああッッ!!!」


『ふざけんなッ!ふざけんなッ!!どんな、神経したらこんな、クソみてぇな思考に行き着くんだッ!!クソ親父かッ!?』


 断末魔も、何も、聞こえない


『……そうかよ、こんなゴミみてぇな家系なんて俺が断ってやるよ……!』


 いや、違う、これは、俺を、痛め付けてる、だけ、俺が、叫ばない、から、断末魔は、聞こえない


『……おい、返事しろよ……』


 そうだ、そうだ、俺が、兄だったら、何も、問題がない、服と、髪型さえ変えたら


『……クソが』


 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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