Loser【点火】
◆
今日僕は一家心中を決行する。
理由は親の精神崩壊。
原因は自分が外に連れ出される度に向けられる憐みの視線に耐えきれなくなった事からだ。
せめてもの贖罪に自分諸とも火の中に消えてしまえば親も楽にしてあげられる。
それだけがこの無価値な人生の中で唯一なかった事にしたい“悔い”だから……と、いつもそうやって僕の心の中にある黒いものが都合よく誤魔化そうと正当化させてくる。
ただ事実、僕の将来に未来は無い。
無価値なゴミらしく野垂れ死ぬのは予期していた。
今までその寿命を母親が広げていただけにしか過ぎない。
死後の世界があるのなら、虚無がいい。
何も考えず、何も聞かず、何も喋らず、何にもなれない残骸として虚空の中へと還っていきたい。
異世界転生だとか、ご都合主義だとか、わざわざ死した命を生き返らせてまで命の弄びに付き合わされるなんて、真っ平御免だ。
死人は死人として、何も望まない永遠の安眠を望んだというのに。
「……まともな体で生まれたら、こんな事思わずに済んだのに。」
これが現世……いや、これより先の生を締めくくる事を望む最期の遺言。
そう言葉に出した。僕の霞んだ声なんて誰の耳にも聞こえやしないが。
そして「Real;Users」にも遺言を。
漆黒の戦士は【起動要塞帝国 ファスタルダ】にて人が一番集まる集会所に足を運ぶ。
ソロプレイが主流の彼は普段チャット専門の集会所には来ないものなので、周囲のプレイヤーはざわめきを隠し切れず、一斉に驚愕のメッセージを挙げる。
存在自体が注目の的である事は、虎龍王にとって今まで嫌というほど味わってきた。今更恥ずかしいとも思わないし、名誉とも思わない。
そして中心の位置で止まり一言。
「富凍 滉は今日一家心中する。遺言は一つ。」
唯一愛読していた漫画の台詞を引用し、大々的に、恥知らずに言葉を添える。
『ただ一つの敗北が知りたかった』
場はざわめきを広げ、数分後には掲示板にてスレッドが多数作られるだろう 。
さぁ全てログアウトしよう……
と志した瞬間、強烈な眠気に襲われる。僕はそのまま、何もできずに睡眠状態に陥った。
◆
知らない誰かが耳元で囁く。「目を開けてもいいよ」、と。
言われるがままに目を開けるが、目を瞑ってる時と変わらない。辺り一面果てしない暗闇が。
例えるなら当に虚無。そういえば先程“死後の世界”について話題として取り上げたような。
「現実的な夢の持ち主だね、ここを選択するとはー」
その声と共に現れたのは椅子。座り心地のよさそうな黒のアーロンチェア。
さあおかけください、と言われんばかりの置き方をされては、その親切を無下にする訳にもいかない。
僕はそこに座り……“いや、何をそんな勝手な解釈をしているんだ…?”
まあ、今は関係がない。方角の解らない声を聞き逃さないように、集中して聞き続ける外ない。
「やあ、【虎龍王】さん、「Real;Users」運営代表取締役……もとい、最高責任者だよ」
彼方より少女と思わしき声がする。流石に椅子が喋る訳ないだろう。
……それ以前に、僕よりも歳も精神年齢も低そうな声色の持ち主が「Real;Users」運営、だと?変声機でも使っているのか……?
違う、そうじゃない。状況の整理ができない。
いきなり目が覚めたら真っ暗闇な場所にいて、いきなり椅子が現れて、いきなり運営と名乗る声がして……情報の吸収が間に合わ……
「まあまあ、深呼吸してー吐いてー」
ふぅ……はぁ……
……呼吸した感触は全くしなかったが、少しは落ち着い
「それで、唐突なんだけど、君さ、死後の世界があるなら“虚無”に行きたいーとか言ってたよね?」
「んまぁ死後の世界に確かに虚無は存在するよ、実際はこんな感じだし。けーどね、自殺しちゃったら“虚無”にはいけないね。君にはとあるテストを受けてもらうよ。」
「そのテストに無事合格したら“虚無”に連れてってあげる」