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Real;Users  作者: 熊蜂
二日目
29/44

Sadism【殺人衝動】

長らくお待たせしました。

再開致します。

 Wonder Foolの傷は完治した。瞬間的な回復力に於いて彼の右に出るものは居ない。


「変身解除。」


 金沢 鶴栄は舌で唇を舐めるようにして潤す。顔は風呂上がりのようにさっぱりとした笑顔だ。


「あの娘はいずれ俺が物にする……だが、彼女はメインディッシュだな。」


 手の届きにくい者こそ得ようと貪欲なのが男という狼の本能、所詮人の行動原理など一個人の欲求不満から成り立っているのだ。


「ワイズも食いたいよなぁ……あぁ、よしよしよしよし」


 ロットワイラーのワイズは肉を貪る涎を垂らす。


 ピロピロ、と着信音が鳴る。メールの送信元は「Real;Users」運営。


「……運営から直接のメール……まさか、本当に()()事件の……」


 寸白がデスゲーム参加の際に運営との交換条件として、“一人殺す度に両親殺害の事件の真相を伝える”という約束があった。通知内容はそれである。


 そしてその内容。

 “15年前に起きた寸白夫妻殺害事件。実行犯は一人だったが、母親の方の証拠を隠滅するためにある男が実行犯と共謀していた。”


「Wonder Foolの変身者こと金沢 鶴栄は……な……ッ!」


 “金沢 鶴栄(当時16歳)が母親を骨も含め、遺体そのものを秘密裏に始末した。飼い犬に遺体をバラバラ状に分割し、餌として処理した。”


「コイツが……私の……私たちの母親を……隠滅処理した……だと……」


 心音が狂う。あまりにも猟奇的な隠滅方法、非人道染みた行為の描写に吐き気を催す。


「クッ……気分が悪い……」


「お兄ちゃん……大丈夫?」


 銀にとって負担が重すぎる。銀は口を押さえ、低い姿勢でトイレに向かった。


「あ、あの……ごめんなさい、無関係なのに……首突っ込んじゃって……」


「あのねー夕夏梨ちゃん?謝る必要なんてないよ!確かにうちの問題かもしれないけど、そもそも夕夏梨ちゃんはアイツに殺されようとしてるんだからね!?」


「は、はい……ごめんなさい……」


「あーもー、なんで謝るのさー!」


 そう先程の空気を誤魔化している間に不動住職が割り込む。


「すまぬが理奈、拙僧はそろそろ宗祖降誕会の式辞をしなければならんのでな。留守番は頼む。」


 浄土宗界隈の中で不動住職の名は広く親しまれている。御仏の誕生日である宗祖降誕会の式辞を勤めるのは約20年間皆勤賞である。


「あ、いってらっしゃーい!」


「あー僕はもうちょっとお邪魔させてもらうよ」


 才羽教授はようやく「Real;Users」の話に切り出せる、と表情が柔らかく変わる。それと伴って銀が居間へ戻る。


「……見苦しいものを見せたな……悪い……」


「お義祖父ちゃんも居なくなったし、んじゃあ自己紹介と言ってもなんだけど変身しちゃう?」


「……あの感触好きじゃないのだが……」

 強引に銀の頬を引っ張り“変身”の声を


「ほらほら、行くよ!」


「……「変身」!」


 一斉に全員の姿が【Real;Users】の身体に変化する。

 理奈、夕夏梨は変身に抵抗はない。獣の耳が生えようが、鬼の角が生えようが、カッコいいぐらいにしか見ていないだろう。


 銀や才羽教授は男性だが、変身体は女性型。

 若干の抵抗があるのは仕方ない。


 特に才羽教授に至っては6歳程度の幼女……なのだが、この中の誰よりも変身には乗り気である。


「みんな女の子かいっ!」

 変身した直後の【ケモ耳大好き】の第一声はこのツッコミ。

 流石に才羽教授まで女体化するとは思いもしなかった。【蛮勇】の能力かあってしても流石に冷静にはなれまい。


「あっ……可愛い」

 【帝都乃旋風(おろし)】の姿と化した夕夏梨は初恋したかのような初々しい眼差しで、【吸血姫アナトミー】に変身した銀を見つめる。


「やめてくれ……そんな顔で見ないでくれ……」

 女性にそんな“可愛い”だの言われるのは屈辱である。

 一抹の“満更でもない”心はあるのかどうかは知らないが、恐らく複雑な気持ちなのだろう。


「つくづく思うんだが銀君、君女の子で生まれるべきだったのでは?」


「なんっ、なんてこと仰るんですか!」


「私も思うよー」


「理奈まで……」


 アナトミーは、諦観決め込んだ顔でため息をついた。


「……コホン、じゃ、今までのおさらいをしようか!」


 以下、ケモ耳が仕切る。


「デスゲーム開始は昨晩……私と理奈はデスゲームに参加せざるを得ない状況となった。」


「しかも開始早々まさか別のデスゲーム参加者に襲われようとはねぇ。」



「えっ、そうなんですか!?……あ、だからヒルズがあんな有り様に……!」


 金沢に大雑把には教えられたが、具体的に何があったかは旋風は知る術がなかった


「その参加者は……AIが【Real;Users】に変身してました。撃破に成功しましたが……あ、遺体回収し忘れてる……」


「それは興味深いね、【Real;Users】が人間である必要は無い……か。」


 【Second】は人ではなかった、と推測した。

 本当は“機械の様な人間”だったのかもしれないが、殺した後も変身が解除されることはなく停止したのみだった。


「怪我……とかしませんでした……お兄──お姉さん?」


「貴女まで私をからかうのですか……全く……」


 旋風にも煽られ、男性として大事な何かを潰されたような感触がした。

 純粋無垢だからこそ尚更傷つくのだ、精神的に。


「利用規約とかにも書いていたが、【Real;Users】と人間体との間には瞬間的に回復する特典付きだ。後遺症だとか、生まれつきの障害は兎も角として、変身する前に受けた傷、変身後に受けた傷等も変身解除でなんとかなる。」


 重要な部分である。一個人のMB(メガバイト)容量により、自然治癒量、及び再変身に必要な時間数が必要なのである。


 これはRPG等に於ける“体力”、ではなく“HP(ヒットポイント)”を重視した【Real;Users】ゲーム本編のオマージュである。


「……ところで教授は何故参加を?」


「デスゲームを止める為、かな。」


「デスゲームを……止める……?」


「そんなことが出来るんですか!?」


「デスゲームなんて恐ろしい事を明るみに出せれば、の話なんだが……ここで証拠を揃えてアンジェラを訴訟し、社会的に抹消する。それさえできれば主催者不在のデスゲームは自然消滅するはずだ。」


 才羽教授の確固たる望み。

 科学者としても、技術の悪用を認める訳にはいかない。


 教授はゲーム版【Real;Users】のISP開発に携わった一員でもある為に、デスゲームを止める役回りは自分にある。


「なんていうか、フワフワとしてない?」


「しょうがないよ、僕だってまだ頭の整理が追い付いてないんだからさぁ。んで、夕夏梨君はどうだい?」


「私は……家族を守りたいからです……」


「家族……あぁ、絶対に守ってやれ。」


「はい……っ」


「そんな中夕夏梨ちゃんは金沢に遭遇したんだよね?」


「はい……怖かったです……」


「奴はまだ恐らく生きている筈だ。生きている間に締め上げて、私たちの家族の真実を聞かなければならない……」


「私も……お母さんを殺した人をみすみすと見逃すわけにはいかないよ。」


 アナトミーは深く頷く。

 自分の親を殺した相手を許すことはできない。

 そして、真実を知らなくてはならない。


「作戦会議だね。」


 殺さないように、加えて徹底的に、金沢を捕らえねばならない。


 豪邸。

 100年以上前から日本の金融を支え続けた由緒正しき財閥、金沢家の所有する白を基調とした巨大建築。

 彼の名高き宮殿とは比にはできまいが、その費用、数千億は下らないだろう。


 金沢 鶴栄は今まさにその豪邸内に立ち寄っていた。


「……ただいま、親父。」

 金沢 勇治郎(かなざわ いさじろう)、金沢金融の元社長、約三十年間金融の契約者を増やし続け、黒字数を年々増やし続けた逸材。

 二人の息子に恵まれ、定年退職後もその息子二人が社長、社長秘書を引き継いだ。そして、金沢 鶴栄はその息子の内の兄、現社長である。


 だが──


「……お前の顔なんぞ見たくない、失せろ。」


 親子関係は良好とは言えない。

 あの危険な、そして歪みきった性的嗜好を親が認める訳がない。実際に何人かに実行してる以上家族の縁を切り、落とし前をつけさせてから勘当するというのが勇治郎の決断だった。


「これが()()だよ、親父。言われたことはしっかりやってきたから……もう後はアンタの知らないところで好きにやらせてもらう。」


「反省の色すら無いか、この愚息が!金沢家の恥晒しが!」


 勇治郎は渋茶の入った湯飲みを地面に叩き割る。

 腐れきった脳の鶴栄に対し怒号を放つ。


 だが、その怒りはどの方向にも向いていない。

 そもそも鶴栄がこの屋敷に来れる訳が無いからだ。


「……おい。まだ気付かないのか?」


 声色が変わる。

 静かな怒りはじわりじわりとボルテージを増す。


「恥晒しはお前だろうが……この人間のクズが……」


 声も口調もかつて鶴栄だったものではない。


「お前……まさか……!?」


 親ならわかる。

 彼は、金沢 鶴栄の弟、金沢 亀永(かなざわ かめなが)なのだ。

 双子だから顔が似ているため、髪型、服装さえ変えればどちらが鶴栄か、亀成か、親にだってバレなかった。


 そして勇治郎は思い出した。

 昨夜鶴栄に告げた“落とし前”の条件を。


「俺も兄貴の事なんて知らなかったよ……目の前で暴露されたけど信じたくなかったよ……!なんで!なんで!()に全ての罪を被せようとした!」


 落とし前に自首を求めることを要求しなかった。それ程までに鶴栄の社長としての才覚を捨てたくなかったのが、彼の言い分である。


 では何を要求したのか。

 それは、弟である亀成を自殺に装わせ、鶴栄の犯した全ての罪を亀成になし付けることだった。


「ちょっと待て!誤解だ!私は穏便に済むように……」


 警察相手にとっても、一番穏便にすむのはこの方法だった。

 だが、ここでハプニング。


「嘘つけこのカスが!なんで俺がこんな……兄貴を()()()まで……!こんな思いしなくちゃならないんだ!」


 亀成は【Real;Users】の力を使い、鶴栄を殺した。

 そして、自身を鶴栄と偽っているのだ。


「この負の連鎖はもう止まらない……!何人殺っても……俺の怒りは止まらない……!来い!ワイズ!変身!」


 愛犬のワイズが飛び出し。端末を取り出す。

 そして溜まった鬱憤の化身を露わにする。


『どうだ?親父……怖いか……?もう俺の味方は……家族は、ワイズしかいない……!』


「ば、化け物が……!」


 腰を抜かした勇治郎は雑言罵倒を上げるのみ、人材としては出来上がっていたのかもしれないが、消費アイテムの様に扱った挙句最後まで化け物と揶揄する親など最低だ。


『最後まで……最後まで……!俺を邪魔者だって言うか!?何一つ!俺はこの会社のサポートをし続けたのに!家族としても!悔いの無い経歴を持ったというに!何が足りないんだ!消費できる分の命か!?』


『命か…………ハハハ……』


『お前が!払えよ!』


 勇治郎の全身を鷲掴みにし、見るに堪えない顔面を見つめる。


「あ……あ……あああああああアアアアアアアア────ッ!!」


 グチャリ、と激しく頭が粉砕される音が響いた。

 大理石の床に汚らしく肉塊が飛び散り、【Wonder Fool】の剛毛は鮮血に染まる。


「変身解除、ごめんよ兄貴……先にコイツさえ……このゴミさえ……ぶっ殺しておけば良かったんだよね……」


 ワイズは地に転げ落ちた肉、贓物、骨をハイエナの様に口に入れる。


「兄貴……ごめんよ……俺、このデスゲームで生き残ったらさ、生き残ったら……運営の人に兄貴を蘇らせてもらうからさ……また、昔みたいに遊ぼうよ……」


 亀永はやりきった顔で空と喋る。

 その純真で、狂った願望の願い先に勝利の女神は存在しない。


 これは生き抜くための殺し合いなのだから。

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