A Plan【共闘協定】
◆
此処は……
暗い、寒い、視界のぼやつきが激しい。
左腕には張り裂ける痛み、ジンジンとした重圧が身体中に行き渡る。
体が……動かない、椅子に……座っている?両腕を縛られている?
……そうだ、僕は刑事に腕を折られてそのまま気絶……
……そういえばアイツ、僕の首を掴んで喋らせないようにしたな?まさか、アイツはデスゲーム参加者なのか……?
と、痛みから忘れる為に物思いにふけようとした瞬間、ドアは開けられる。入ってきたのは男一人。見覚えのある、あの刑事だ。
警察帽ではなく某配管工の帽子なのが凄い気になる。
「やぁ。元気じゃなさそうで何より。」
「……ここは」
「警察署の地下室で、ちょっと乱暴な犯人を大人しくさせる為の……まぁ一種の“拷問部屋”って奴かな?」
「あっ、そうそう君は今4方向の録画カメラに撮影されている。言わば生中継だから、発言には気を付けたまえ。」
……そうか、捕まったのか、僕は。
居場所もない、おかえりを言ってくれる家族もいない、自分の怠慢が引き起こした……当然の報いだろう。
「と、いっても拷問なんて強行手段は法律的にアウトだから法律に引っ掛からない程度のきつーい“審問部屋”って考えたらいい。」
「君は賢いと思うから正しいことを言うなら悪いことはしない。じゃ、始めようか。那須さん、そろそろ」
その言葉を告げた途端、停電した。いや、ガチンと音がしたからブレーカーが切れたのか?先程の発言といい停電させることが狙いなのだろうか。
真っ暗になったことを確認して刑事は声色を変える。
「いやー虎龍王君、こうも俺の計画に当てはまってくれるとはねぇ」
「……どうした……?」
「くーっ、疲れた疲れた!君をここまで来させる為にここまでやってのけたのよ。」
「まぁまぁ簡潔に済ませるから身の上話でも聞いてくれよ」
先程の真面目な顔からは一転、まるで友達と談笑するかのような気の抜け様になる。
些かゲーム感覚の様に物語るのが肌につくが。
◇昨夜
部署、オカルト課。
課長は那須 隆二、藤野 赤兎を含めた5人の課員がいる。
赤兎を除き、自発的にこの課に入ったものはいない。刑事としての無能のレッテルの烙印を押された者ばかり。
オカルト課は地域の人の相談所的立ち居ちで、刑事の本職とは程遠いゴミ貯めでしかないから。
そして、相談所と言っても頻繁に相談が来るわけでもない。そして帰省時刻の17:00、隆二、赤兎を除くオカルト課所属の課員は定時で帰る。残りのことは二人に任せた、という暗黙の了解を込めて。
そして20時、暇なので【Real;Users】で遊んでいた赤兎にいきなり黄金色の端末が贈られた。そう、【Real;Users】に変身する用の端末である。
だが、赤兎は直ぐに変身しようとはしなかった。
何か変死事件が起こるのではないか、と狙っていたのだ。そして、それは赤兎のアバター【牙狼】の能力的にも好都合。
そして赤兎の狙い通り事件発生。
内一件は謎が多く、警察でも手が付けられていない……が、“富凍家銃殺放火事件”に関しては【Real;Users】が絡んでる事はすぐに解った。
そして、偽装工作するかの如く、ある【固有能力】を使用し、“事故死”と処理される筈の事件を“他殺”として処理させた。
そして、富凍 滉を誘き寄せたのだ。
◆
ここ近隣に富凍 滉がいることは偶然だったが、
どちらにせよ、警察の目から掻い潜るために頻繁に【虎龍王】に変身して、【Real;Users】の足跡は残していくだろう。
近い将来彼は【牙狼】に居場所を突き止められていた、と彼はしてやったりとの顔で、身の上話をしてくれた。
「……何が目的で……」
「確かにあそこで殺していても問題無かったかもね、けどね、俺、頭良いプラン思い付いたんだ。」
「虎龍王、君、俺と共闘協定組まない?」
本題がコレだ。彼の狙いは【虎龍王】を仲間に率いれる事。
【利用規約】の説明を見て、恐らくトップクラスの【戦闘技能】を持つであろう【虎龍王】との共闘協定で、安心安全を貫く。これがデスゲームで勝ち残るに於いて藤野 赤兎が出した決断。
「……僕へのメリットは」
「“悪いことはしない”って言ったっしょ?」
「メリットその1、君への疑いはもうすぐ晴れる。」
「メリットその2 衣食住はこちらで用意する。」
「メリットその3 君の正体は極力晒さない。」
「メリットその4 俺は正義は絶対に貫き通す!」
滉の顔は暗くなる。彼に正義はないのは、彼自身がよくわかっているから。
「……僕に正義はない。どちらかと言うと悪、このデスゲームに対しては肯定的かもしれない。」
「……いや、コレはデスゲームに見立てただけで、法では裁けない真の悪を裁くゲームじゃないのかって思うのよね」
「…………?」
「あーゴメン、なんでもないなんでもない。ところで、君はなんでお母さんを殺そうと思ったのかね?」
「……殺したと言っても間接的に」
「解ってる解ってる、多分アレでしょ?君の端末に登録されてた【ブランギャズ】っていうガンマンが殺したんでしょ?だーかーら、殺そうと思った理由を聞いてんの」
「…………そうか、遭遇した時に……」
刑事の推理力に驚きながらも、こちらも今までの身の上話を、つい最近の事まで淡々と告げていった。
「なるほどねぇー、大丈夫じゃん、君には正義の心はちゃんと残ってるよ。」
「コレで君が俺と共闘協定を結ばない理由なんて無くなったけどどうする?」
「…………」
コイツは信頼できる人物なのか、【Real;Users】である以上疑ってかからないと安心して呼吸することもできないのか、と滉は彼とは真逆の思考でいた。
だが、一つだけ食い違いがある。
滉は親から解き離れようとはしたが、彼の根性は変わらない。
人として、ではなく道具のように扱われることの方が余程心の安らぎになるのだ。
「…………違う、人として見るな。」
「僕は……ただの道具として使われた方が心地良いんだ……」
富凍 滉は虚無のような暗黒に包まれ、【虎龍王】の姿へと変貌していく。椅子を強靭な“筋力”で破壊し、そのまま刑事の首めがけて“ストーブレード”抜刀…………
彼はピタリとも動かなかった。
あろうことか笑顔で言い放つ。
「ほーら、お構いなしに人殺せるような人間じゃないジャマイカ。ついでに……君の自由と扱い方は尊重してあげるよ。」
「“その協定を受諾する”、でいいね?」
【虎龍王】、藤野 赤兎の人間性に完敗。
戦闘は……兎も角、精神での最初で最後の敗北を、“旧辞世の句”の望みが叶ってしまった。
「…………ああ。」
以降、彼の心が赤兎以外に揺らぐことはない。
家族ですら氷のように固く閉ざしてしまった、滉の心を溶かしてしまった只一人の相手は皮肉にも赤の他人であった。




