Past【昔】
テスト投稿から約半年以上経ちましたが今回から本格的に執筆を始めます。ご期待ください。
◆日本 O市 富凍家
アルビノ。
メラニン生成の不調による先天的な色素欠乏により髪、皮膚が真っ白に、瞳孔が赤くなる遺伝子疾患。
Wikipediaにはあくまで“そう定義つけられた病気である”と書かれているが決してそうだとは思えない。
この体は日光に弱く、視力も弱く、絶対的に人間社会に適合しないはみ出しものとして生まれたとしか思えない。
病気なんかじゃない、生まれながらの呪いだ。
数年前からその結論は出ている。
何を頑張ったとて、僕の将来は白紙でしかない。
この18年間僕はそう運命付けられた、無価値な人間だ。
僕の名は富凍 滉。過去、現在、未来永劫、無職の身。
アルビノだったので学校の同級生や先生からは、遠慮がちな視線で見られ、そこに居場所も関わりも一切無かった。
小学三年生の時には親が教育委員会で問題を起こし、半ば強制的に中退せざるを得ない状況となり、学校には行かなくなった。
騒動の根本的な原因は僕自身、この世に生まれた事が消えない罪であるように。
その後お母さんとお父さんは離婚した。
人間関係の悪化ではなく、金銭的な問題で引っ越しをせざるを得なくなった為に。
それから僕はお母さんの方で住み着いたが、それは誤算だった。
当時お母さんはずっと僕にこんな事を言い聞かせるからだ。
“誰とも関わる必要はない”
“私に養われていればいい”
“もう何も頑張る必要はない”
まだ自我の芽生えも未熟な状態ではお母さんには逆らえず、
どれだけ説得力も正当性も無かろうと、「うん」としか頷けない。
そんな無力な子供だった。
それから数年後。
何度か仕事やこれからの人生について少しは自立したいと、反対はした。
“気持ちだけでも嬉しい”と渇いた笑顔であしらわれる始末。
お母さんはこの数年間で何一つ変わっていない。
もの言わぬ鳥を籠の中に入れて自己満足に耽っているだけだ。
でも、それが一番安全だった。
親に黙って外出し、身体的にも貧弱な故に道端で倒れてしまい、病院に運ばれた時。
そこに駆けつけた母親に周囲の人はいつも憐みの視線を送る。
他人の子供をアルビノというだけで“勝手にマイナスな話題にされる”。
母親としてそんな悪目立ちは苦痛でしかない。
いつか見捨てられるものと思っていたが、何もできない自分に食事も居場所も作ってくれた。
それは母親としての見栄なのか、愛なのか。
そして今は一年中パソコンの前に顔を合わせるだけの毎日。
「Real;Users」、まぁ今や誰もが知るオンラインSRPGの説明は不要だろう。
プレイ時間の差か、僕はトップランカーにまで登り詰め、何一つ人生で頑張ってこなかったという“罪の称号”を手にしてしまった。
◆
外観に若い桜の六分咲が見える、ありふれた一般家庭。居間があり、炬燵があり、パソコンがあり、アルビノ少年が座している。
“罪人”はパソコンのカーソルを動かし、「Real;Users」というゲームを始める。
処理を終え、開始と共に魅せてくれる一瞬の景色、
ゲームの中に引きずり込まれるような電子的な描写、
視界に映り込むとても端麗で豊かな自然美はこのゲームがいかに現実的且つ幻想的なものであるか、の証明でもあるだろう。
暗転と共にパソコンの画面は黒を基準とした近未来的なメガロポリスを出現させる。
【起動要塞帝国 ファスタルダ】という白い明朝体が右上に映し出され、数秒後に背景に溶け込んで行く。
その画面中央に出現したのは、黒い鎧兜の人型。炎の煮えたぎる描写、専用音声に違和感は全く以て感じ取られない。
そして炬燵布団のように優しく包み込んでくれるような──
もはや炬燵布団一式にしか見えないようなマントを装着した、ダース・なにがしの様なアバター。
【虎龍王】という“戦士”のアバターで、現在全プレイヤー中トップの実力を持つ男。通称『こたつベーダ―』。
先程記した通り、富凍 滉こそがトップランカー【虎龍王】だ。
彼はログインを怠ったことはない。
休憩時間も睡眠を除いては少し挟む程度。
対人戦でも無敗の実績は未だ更新を続けている。
【虎龍王 様 に一通のメッセージが届きました。】
見慣れたメッセージの表示と共に、クックルーと愛らしい鳩の鳴き声が聞こえる。このゲームではスタンダードなカスタマイズで聞くことのできるボイスの一つだ。
ランカーという身分からか変にちやほやされて、基本はミュートにしてる筈なのだが、何かの不手際か、バグか、音声が鳴った。
そういうのは大抵運営からの「メンテナンスのお知らせ」、だとか「Verアップのお知らせ」的なものだろうとは思ったが、即時確認する癖かメッセージ一覧を開く。
開けば、運営の通達ではあるものの少し奇妙な内容だった。
文面は下記のものとなる。
『拝啓 【虎龍王】 様
「Real;Users」運営です。あなたのゲームの腕を見込んで本ゲーム公認のゲームプレイヤーとして
あなたを雇いたいと考えています。決断するのは【虎龍王】様のご意向次第なので自由で構いません。
また、このお近づきを機に運営との個人チャットを可能にしましたので、お伝えください。
かしこ 平成■■4月6日 Real;Users運営より。』
文面上での理解はできたが、ランカーとしての実績を良しとは思わない富凍 滉は「ただ単に己が今まで人生で何一つ頑張ろうとはしなかったという恥を世間に晒すだけではないのか?」と自虐の念を膨らませる事しかできなかった。
だがそれは、拒否するという理由とは逆だ。蜘蛛の糸が如く吊るされた、人生を変える最後のチャンスであることは承知している。
少し大袈裟かもしれないが、彼にとっては最後のつもりでいる。
そしてもう遅い、タイムオーバーな提案だ。
昨日言ってくれればもしかしたら承諾したかもしれない。本当に絶好のチャンスだっただろうに。しかし、よりにもよって今日。今日はもう何と言われようと無意味だ。
“無意味”だから適当な返事をした。どちらにせよ承諾しようがしまいが、今日でこの契約は終わってしまうからだ。
「現実世界で会わないことを条件として許可します」と。
何故ならば、この日に一家心中すると決めたから。