Assassination 【常識爆発】
◆ 数分前
「あー、あとこの鞄、何入ってるか覚えてる?」
「……財布、スマホ、身分証、鍵、緑茶、ハンカチ、ティッシュペーパー、マスク、ボールペン……あと私物の解剖用メス、ハサミ、納体袋だな。」
「……なんで解剖用具を常備してるの?」
「忘れたか?私の何よりの趣味は生体解剖……手先を器用にする良い運動だ。例えばプライベートの時間に猫の死体とか見つけたら回収し、自室で解剖する様な……」
「そんな事いつもしてたの!?私初耳だけど!?……それはともかく!とりあえず武器として使えるのは直ぐに取り出せるようにしといてよ!」
「……あぁ。」
◆
【Second】は予想した通り、空中から液体のような物を散布する。
地面にベットリとこびりつき、離れようとしない。そして、引火させた大量の爆薬を地面に叩きつける様に落とす。
爆発。炎上。大爆発。大爆発。
ハリウッド映画の様に派手な大爆発が。
何かに掴まらないと吹き飛ばされるような、尋常ではない強さの爆風。
それで且つ耳を抑えないと、鼓膜など容易く破れるであろう轟音。
鼻に残る黒煙の猛毒臭。
【Real;Users】の体でなければ、死のリスクは非常に高い。
特に、人型の【Real;Users】ならば煙による一酸化炭素は有毒。無傷で切り抜けられる状況ではない。
「がぁあああ……ッッ!」
【吸血姫アナトミー】は耳を抑え、しゃがみこむが……思った以上に威力が浅い。
「……?」
目の前は確かにナパームで焼き払われた戦場。……だが、アナトミーの周囲に火は行き渡ってない。
「……まさかッ」
頭によぎったのは【ケモ耳大好き】の所在が解らないから所在の解ってる自分とは該当外の場所に集中砲火した、という結論。
「……クッ……不味い不味い不味い……!」
走る。燃え盛る火は【温度変化】によって炭へと変えていく。
走る。妹の所在地は解っている。
走る。走る。走るーーーーーーーー
「おい!起きろ!」
【ケモ耳大好き】は白い肌も、群青色の衣服も炭で汚し、体内はもう炎の匂いが染み付き、むせていた。
「ゲホッゴホッ……ごめん……ちょっと寝かせて……お姉……ちゃん」
その台詞を吐くと、妹は声を出さなかった。永遠に、ではないが、その時はアナトミーはもう死んでしまったかの様に感じることしかできなかったのだろう……
「……おい……おい……おい!」
「あ、あ、あ」
「あ……?…………あ?」
「貴様……貴様……」
貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様
「キ、サ、マァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
「ふざけるのも大概にしておけよ、鉄屑風情がッ!」
「貴様は必ず殺す……いや、殺しはしない。生きながらに苦しめてやるからな。……この汚ならしい癜狂院産まれの産業廃棄物風情がッ!人間様に触れようと、同等の立場に立とうと思った事から懺悔しろッ!」
妹に怪我をさせた。
この事実が彼の怒りを、非常識的状況への鬱憤を爆発させる。
最早この【Second】への考察は、そして抵抗は一滴も無い。
殺すか、殺されるか。
標的が何処にあろうが、標的にされようがどうでも良い。
さっさと抵抗無しに解剖されろ、と。
派手な爆発のデメリットとして、空中から状況が見えない。
だが、Secondは空中で【吸血姫アナトミー】を確実に勝てる算段が無かった。できるだけ近距離で撃つ方が致死率は高い。
【Second】は小型航空機を収納し、【全身機械】の人型状態で着地する、と同時に【吸血姫アナトミー】に向けて、左腕を機関銃に変換、銃撃。その後左側へ移動。
回避。
反射神経、速度は前回より上昇。極限状態の可能性、80%。
右足を機関銃に変換、銃撃。
「グッ……!!」
太股に命中。姿勢が崩れ、前転。殺害確定圏内に入りました。
右腕を旋条銃に変換、射──
【Second】は姿勢を崩す。……いや、既に右足は【吸血姫アナトミー】の投げた、何かが深く食い込んでいた。
「Error 險ュ螳壹&繧後◆隱崎ィシ縺悟ョ溯。御ク榊庄閭ス縺ォ縺ェ繧翫∪縺励◆」
認証されたデータが実証不可能、【標的1】が力強く投げたハサミの刃先が右足を引きちぎった。
それと同時に、筋力Aのかかるエネルギーに耐えきれなくなったハサミが破損して、機械の体の中に、更にあり得ない角度で食い込む。
「足下……がお留守ですよ、と……でも言いたかったか……?」
「そんな……お前は……目先の利益ばかりに……動かされて…………足下を掬われたようだ、が、な!!」
右足を機関銃に変える。この場から動けないが、確実に近寄らせない。
その魂胆で最後の迎撃を開始する。
「お互い……覚悟は充分のようだな。」
「だがお前は赤外線などのセンサーで私たちを見ず、サーモグラフィーで視界を形成しているな。」
「理奈が試しに低温の氷に包まれたジャングルジムに隠れたら、物事を2D的に見ることしかできないお前は理奈を見つけられない。だからここ近辺を全て燃やす。」
「一気にダメージを与えられるに加えて、爆炎で周囲の温度は人間よりも高い。これで私もちゃんと判断できるはずだ。」
「理奈の言ったことがよく解った。そして私が取るべき行動は。」
炎滾るこの50°C付近の空間を、人の体温とほぼ同じ36°Cに変える。
Secondのサーモグラフィーには吸血姫アナトミーの姿が見えない。
この温度変換された空間から吸血姫アナトミーは霧のように消えた。機械をも騙す擬似的なステルスである。
だが、Secondも“見つけられない”から撃たない訳ではない。全身に銃器を突起させる。
乱射。足掻きとしては凶悪で且つ命中率の高い無差別破壊。どの範囲に居ようが確実に当たるものである
──が、トドメとなる筈だったライフルの射撃は空しくも、虚空にへと飛ばされた。
標的1、吸血姫アナトミーはSecondの頭部を叩きつけたからだ。
そして頭部にまで行き着いたと言うことは2.5m圏内である。
という事は──
「ここは、私の、領域だ……!」
「チェックメイト」
生物ではなく【思考兵器】の【Second】の機体は、内部で約1500℃に変換され、じわじわと、泡を出して融けて行く。
「譛ャ菴薙↓逡ー蟶ク逋コ逕溘??逡ー蟶ク逋コ……逕溽ョ?園邏……?2…………ツツツツツツ8縲√■■■■■■■■■52149…………ツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツツ」
AIの断末魔とはこのようなものなのだろうか。目の前に見えるのは頭部からドロドロに融けていく鉄色の【思考兵器】。
彼なのか彼女なのかは知る由も無いが、人のように苦しんでるのだろう。
「……クッ、気持ちの悪い、……勿論遺体は残すんだろうな?……先に喉笛……的な場所でも潰しておくか」
融け行く姿を見ながら、変身を一旦解除し、もう一度変身する。
これが【Real;Users】の回復方法。
吸血姫アナトミーは私物の解剖用メスを懐から取り出す。
◆
恐らくここは公園。遊具などはナパーム弾での爆破で破壊され、唯一残った滑り台の形も焼けただれている。爆破の範囲外だった、ベンチやゴミ箱などは見られる。
そこには三人の人……いや、【Real;Users】が音もたてずにいた。
一人は妖しげな服装……形容し難い形状のバトルドレスを着た灰髪の女性、【吸血姫アナトミー】
次に地面に突っ伏して気絶しているのは、獣らしき耳の見える白髪の少女、【ケモ耳大好き】。見た目的にはファンタジーの勇者のような姿だ。
最後に胸部から焦茶色の血を溢し、動かなくなった【Second】。
つい先程まで漏れ出たオイルと、融けた鉄と、火花が接触しかけて、今にも炎上しそうだったが、急激に全身が冷えて、火花は発しなくなった。
妖しげな服装の女性【Real;Users】は溜め息を吐きながら、ゆっくりと殺し終えた【Real;Users】の素肌に手をかざす。そして、もう片方の手で、首もとにトドメの連撃と言わんばかりにメスでメッタ刺しにする。
真っ青な冷たさ。生の無い冷たさが指先から感じ取られる。
数秒前に端末からは振動が鳴ったのは恐らく【Real;Users】を一人殺したから……なのだろう。
今私の感情は人を殺した恐怖心などを書き消す“妹を傷つけた事”への怒りで囚われていた。
殺しただけでは許しはしない。四肢を砕き、全て解剖しつくし、部屋のインテリアとして永遠にその汚ならしい肉片を飾ってやる。
長い灰髪の【Real;Users】はこの死体を、何処からか取り出した黒い納体袋の中に詰め込む。そして、見た目に反した怪力で持ち上げて、ベンチの下に、雑に隠す。
そして、気絶した獣耳白髪の【Real;Users】を姫抱きし、闇夜へ消えていった。
◆
「…………カッカッカ……」
そして、末吉は陰よりその顛末を見届けた。




