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Real;Users  作者: 熊蜂
一日目
15/44

White Ear【蛮勇精神】

◆ 【白山ヒルズ 一階(裏口)】


 寸白 理奈(すばく りな)は非常口の出口付近に到着すると兄の手を強く握り、走行を引き止めるよう促した。


「ちょっと待って、今のうちに変身しておこうよ。生身でいきなり攻撃なんてされたら徒死でしかないよ」


 寸白 銀(すばく ぎん)は変身、そして戦闘には否定的な腹積もりだが、この状況内では8割方戦闘は避けられないのだろう、と薄々感づいてはいた。


「…………女言葉では話さないからな?」


「今はいいってー、そんな事ー……あっ、そうだ!【変身機能】を音声認証にしといたからね?」


 音声認証に変更することにより、わざわざ端末を開いて変身ボタンを押すという動作を省ける。さながらどこぞの変身ヒーローの真似事のような事ができる。


「……助かる。」


 二人で声を揃え電灯の点かない暗がりにて【変身宣言】を行う。


「……「変身」っ!」


 その声を上げた刹那、白い光の瞬きが二人を纏う。


 一人目の女性は、先程君達が見たであろう妖艶な女性だ。


 背骨まで伸びた石灰色の髪。左脳に逆十字(さかさじゅうじ)の髪留め。その穴から伸びるポニーテール。


 そして何より目立つのが魔王……いや、“魔女王”というべきか。露出度と高貴度の喧嘩し合わない、黄金比と言えるバトルドレス。


 ゲーム内での主要武器は魔法……だが、近接武器として大量のメスを用いる。

 何故メスか、と言うとそもそもの彼女の趣味は“解剖”。

 現実内で就職する予定だったラボ、というのも生物研究、勿論生物の解剖も含まれるラボである。


 八重歯である以外に、吸血鬼要素の無い彼女にとっての()()()の定義は、吸血鬼と呼ばれた串刺し公の史実、そこから派生したカーミラ夫人の伝承より来ている。


 平たく言うなら“残酷な殺人手段も厭わない様な人間”、彼女にとって吸血鬼という呼称は揶揄、蔑称と言った表現に近い。


 二人目の女性……いや、女性と言うには幼過ぎる。

 少女と言うべきだろう。


 少女の耳は人の物とは異なり、左右の脳より突き出す、白い毛皮の獣の耳。

 尻に書道筆の様な形状の白い毛体幹(しっぽ)。雪のような純白のショートヘアと、RPGの勇者のような(春の空色の)ワンピース。


 彼女のアバターの名は【ケモ耳大好き】、(あね)同じく【Real;Users】上位プレイヤーの一人。


 【蛮勇(ソロ)】プレイを生業とする“狂戦士(ベルセルク)”、蛮勇と言えどマルチ等に参加するわけではなく、分析力に長けており、1パーティのサブリーダー、サポーターをしつつ隙あらば主要武器の“蛮王の巨剣”で殴りまくる。


 それが彼女のポリシーであり、生き様、“蛮勇故に万有を手にする”


「……クッ、……似合ってるじゃないか」


 吸血姫アナトミーは先程の仕返し感覚で嫌味らしく微笑む。


「ふっふっふー……あれ?」


 何かに違和感を感じた様にケモ耳大好きは【端末】を開き、自分のページを確認する。


 すると、【固有能力】には……

「固有……能力、【蛮勇】?」


 【固有能力】【蛮勇】

 自分自身の【恐怖】の概念を消失する。【恐怖】の概念と連鎖して【躊躇】、【緊張】等の概念も消失する。


「……おい、大丈夫か……?」


「いや、大丈夫だよ。じゃ、そろそろ行こっか!」


「……ああ。」


 非常口の扉を開けて、ようやく外の空気を浴びる。


 しかし、その空気は美味しくもなく、焼け焦げた匂いと煙り臭さが蔓延る絶望的な空気。そして空より……


 ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズッ!!!


「……ッ!なんだ、()()、は……!?」


「【Real;Users】……なのかな()()?」


 ()()と称する物は他でもなく空から弾丸の嵐を巻き起こす謎の戦闘ヘリ……いや、形状的には恐らく小型航空機(オスプレイ)だ。


 【Real;Users】は確かに作られるアバターの自由度が高いがある程度は人、生物の原型は留めていたのは記憶にある。


 しかし、()()はどう見ても、意思なく造られた兵器そのものだ。中に人が乗っているかは遠すぎて解らないが、オーバーツ感は伝わる。果たして、人が……人型の者が相手しゆるモノなのだろうか?


 だが、少なくとも、無差別的な殺人を許容は出来ない。仮にこの状況を切り抜け、逃げれたとしても、この殺人機は人を殺し続けるし、また、こちらの命を脅かすやもしれない。


「……コイツは絶対に殺さなければならない。勿論、私達の今後のメリット、としてだ。」


「気が合うね、私も同意見だねー。……アレ?そういえばお姉ちゃんの能力、聞いてなかったけど?」


「……そういえば【固有能力】とかあったな……」


「お姉ちゃんどうやって戦おうと思ってたの!?」


 妹のツッコミに“うっ”と溢しつつも、【端末】を開き、自分のページを確認する。


 【固有能力】【温度変換】

 自分の所在地の半径2.5mにある【生物以外の物質】の温度を自由自在に変化できる。死んだ細胞や、死骸などの温度も同じくして変化可能。だが、あくまで温度を変化できるだけであり、温度を過度に高く、低くすれば、自分にもその現象の影響は受ける。


「……だそうだ。」


「よし!やることは決まったよ!」


「……即答?」


「なんかね、上手には説明は難しいんだけど……物事を冷静に()()分析できなくなってるみたいなんだー!」


「……それは【蛮勇】の能力が原因……と?」


「さーねー、とりあえずあのヘリの方に向かって、奇襲を仕掛けるよ。あの戦闘機を溶かしたり、凍らせたりしたら何とかなるかな?兎に角!善は急がないと!死人増えるよ!」


「……生物でないなら……恐らくは有効だと思うが……」


 走る。

 二人は火事場へと駆ける。もう既に白山ヒルズは野次馬で溢れかえっている。ただ、野次馬とヒルズとの距離は自宅の屋上から花火を見るような距離なので野次馬とは言い難いが。


 つまり、白山ヒルズにはこの【Real;Users】二人以外では迂闊に近寄れないのである。


 ……そして、【戦闘ヘリ型Real;Users】の背後に二人は立った。


「じゃあ……距離、合わせるよ!」


「……任せろ!」


 そう掛け声を合わすと【吸血姫アナトミー】は【ケモ耳大好き】の目の前に走り、ギリギリ接する距離で高く跳び上がる。


 ケモ耳大好きを飛び越えた先の足元にあるのは、【ケモ耳大好き】の持つ“蛮王の大剣”。


 もう一々説明する必要もあるまい。

 【ケモ耳大好き】は【吸血姫アナトミー】が大剣の先端に着地すると同時に、思いっきり力を入れてカタバルトを撃つかの如く、勢いよく飛ばした。


 【吸血姫アナトミー】は無防備な戦闘ヘリの背後へと飛び着々と距離を縮める。そのまま何も起きなければ、確実に此方の勝ちだ。


 ……だが、そう上手く行く筈が無い。やはり此方の行動に感づいて、機体の方向転換を始めかけたからだ。


「……ッ!」


 そしてその移動と同時に【小型ミサイル】16発がアナトミーに向かって射出される。……感づいた……果たしてそうだろうか?


 違う、違う。初めからその存在に認知していて、此方に行動を仕掛けるのを待機していた。爆発音や炎上音で気付かないのを裏目にギリギリまで近付いてから総攻撃で、徹底的に殺す。


 コレが【Real;Users】、【思考兵器】の【Second】である。


 だが、思考する兵器であれど、そもそもの【吸血姫アナトミー】の能力を未だ見てはいない。


「なッ…………凍って……くれぇぇぇええ!」


 その咄嗟の足掻きに躊躇するも、此方には【温度変換】がある。どれだけあろうが、全て凍らせば意味がない。


 そして【Second】の攻撃を掻い潜り、戦闘ヘリの上部に到着。

 さぁ、此方の勝ち……


「……ぜんッ、ぶッ、…………凍って……しまぇえええ!!!」


 その言葉と共にアナトミーの手元から順に機体に霜が、氷が、凍結が蝕んで行く。絶対零度とまではいかないが、氷点下は確実に過ぎているのは確実。何度も射出しようする弾丸も、ミサイルも、焼夷弾もカチンコチンに凍りつき……


 断末魔も煙すらも上げることなく落下した。

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