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Real;Users  作者: 熊蜂
一日目
14/44

Second【思考兵器】

「……茶番はもういいだろう、変身解除……」


 可憐なる【吸血姫アナトミー】の姿は光に包まれて一瞬の内に寸白 銀(すばく ぎん)の姿へと帰還した。


「いやぁいやぁ()()()()()()()()()()の姿が見れて面白かったなー!」


 返ってきたのはご満悦の返事。

 理奈は満面の笑みで兄との至近距離から離れ、定位置に戻った。


「それにしても、デスゲームが始まったとか云々言ってたが……逆にバチが当たりそうなぐらいの平穏さだな……」


 平穏な方向へと掻き回すなら喜んでジョーカーになりたいぐらいだ、と洒落を付け加える銀の表情は“ラフレシアのような笑顔”からはある程度和らげていた。


 その表情が見られるのは竹の花が咲く程滅多にない。簡単に言うなら絶好の機会(シャッターチャンス)。それを逃すような鈍感な妹ではない。


「あーっ!」


 カシャリと“例の端末”ではなく、スマートフォンを慣れた手捌きで起動し、咄嗟に写真を撮る。その間隔、秒二桁も行っていない。


 「これ見て、これ!凄い良い笑顔!これだよこれ!向日葵っぽい奴」


「いきなり叫んでなんなんだ全く……」


「……いや、これより此方の方が良いだろう」


 銀は自信満々気に先程の“ラフレシアのような笑顔”を見せつけた。


「いや、それはおかしい」


 理奈は何かを察したような顔でバッサリと兄の自信に満ちた表情を「なんで面接に落ちるのかがわかった気がするよ……」と切り捨てる。


【Second 様 が登録されました】


 その刹那、端末から【無慈悲なる宣告】が出される。通知音が共鳴し合い(ハモり)、兄妹の反応も仕草も秒間隔もほぼ同じだ。


「「──ッ!」」


 残念ながら本当にデスゲームは開幕しているのだ。

 殺し合いからは逃れる事はできないのだ。運命論的に語るのなら、結果的にいずれは此方を見つけ、襲いかかってくるのだから。


「お兄ちゃん!とにかくなんか大事なもの取って!裏口から逃げるよ!」


「……ッ……ッ……あ………………ああ……」


 思考が纏まらない銀の手を引っ張り、理奈はその場にあった銀の物であろう黒い皮鞄を手渡し、部屋を後にする。


 裏口からは一階まで続く非常階段へと進む。勿論だが二人とも何が起きているなんて解らない、否、解りたくもない。


 ただ、理奈は僅かながらだが、覚悟は出来ていた。ぶっつけ本番には強いタイプであったからか、行動も早かった。


 それだけの話である、具体的な理由や伏線もなく只反射的に動いた、それだけの話である。


◆同刻


ズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガ


ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズ


ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズ……


 小型航戦機(攻撃型ヘリコプター)から発せられる銃撃音。視界に収納不可であり、命を徹底的に狩り尽くす無数の弾丸。

 網付き硝子だろうが、ベニヤ板だろうが圧倒的な量の前では防ぐ事など語るまでもない。


 と、実弾の威力だとか、そんな日常的でない事を語る以前にこの状況でパニックに陥るのは当然である。

 それだけで平和という酒に酔った無知で罪無き民間人は告死的恐怖も、物理的恐怖も味わされる。


 一階の左端から順に虐殺は執行される。突如として撃ち込まれた弾丸の雨。


 搭載されている焼夷弾(ナパーム)により、壁も破壊され、箱庭の中にある新鮮な人肉が粉砕されるのは然るべき情景。


 悲鳴すら上げさせない。これ以上と無いぐらいの痛々しい音を上げ続け、周囲に更に混乱と恐怖を与える。


 外に出て逃亡を望む者が出てくるのは遅くなかった。

 裏口から逃げようとした者は運が良い。だが、出入口からそのまま逃げようとした不幸者は目前の虐殺兵器(Second)を目にし、“あ”の声も上げさせず、小型ミサイルの爆発により永遠に黙りこんだ。


 寸白兄妹はどうやら運が良かった様だ。


 銀は呼吸が落ち着かない。急いで手渡された黒鞄に何が入ってたなんざ、今は思い出している暇もなく、ただ非常階段を下るので精一杯だ。


 理奈も同じくして兄に着いてきて降りるが、彼女は先程の通り、別に混乱している訳ではない。知ったかぶって行動している訳でもない。加えて言うなら降りながら『次にどう行動するべきかを考えている』。


「カ、ハッ……どうする……どうすればいい……!」


 銀はようやく最低限の落ち着きを見せる。

 非常階段の中でも(おびただ)しい程の銃声も、爆発音も、逃げ惑う人の悲鳴も、気持ち悪く聞こえるが故に錯乱状態に陥っても仕方がないが、銀の心の丈夫さ故か必要最低限の冷静さを欠くことは無かった。


 何の前触れも無く登録された【Second】の情報だけで二人とも“何をするべきか”の決断を早める事ができた。

 裏口から逃げたことは最早、“白山ヒルズ”の誰よりも情報の取得が可能だった故に前提条件とも言える。


 やはり銀が推測した通り、【Real;Users】のデスゲームに参加した方が命の安全性が保証された。





 …………なんて負け惜しみにしか過ぎないと、この兄妹は身を以て理解する羽目となる。


 そして今日は記念すべき最悪の日々の始まりとなるのである。

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