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Real;Users  作者: 熊蜂
一日目
11/44

Re:Prologue 【寸白兄妹】

 すまないが、もう一度今日を振り替えってもらおう。別の男の視点でな。


◆ 

 今日も……落ちたか……


 今日の【薬師丸ラボ】……医療研究機関に於いては平均より上、と言ったところだろうか。医療設備が充実し、私の専門とする解剖学の応用としても充分に活躍が出来ると推定される職場だったが……


 面接の時点で落ちただろうな……


 丈の長い清廉な黒いスーツを着た青年がいる。


 ネクタイは赤く、均一に黒い立方の斑点が目立つ。見栄えだけ言うのであれば、寛爾たる社会人の様には見えるだろう。だが、仕草はそんな晴れ晴れしさとは全くの逆だ。


 電車の雑な震動にガタンゴトンと揺すぶられている。


 そんな細長の男性はため息をつきながら、垢まみれのガラス越しの日差しに焼かれている。


 就活浪人、経歴よりも人間性を重視した社会の抱える闇。


 面接そのものの理念の聞こえは良いのかもしれないが、要となる判断材料は経歴、個人の能力、そして“容貌”だ。


 人は容貌を見て3秒で印象が決まると言う。それだけで面接の7割が決まったといっても過言ではない。


 流石に盛りすぎではないか?と思うのだろうが、彼は例外なのだ。


 何故なら、彼の姿そのものがは独特なものであるからだ。

 顔の焼け跡を隠すために顔の右半分を伸ばした前髪で隠し、左目しか見えない。

 後頭部にかけて生えている髪の色はブラックジャックのように白く変色している。


 この情報だけでも独特以前に“怖い”事が伝わる。


 加えて、彼の容貌を見た者はいつも同じ台詞を吐く。


 その目は身の危険を……いや、“()()()()()()()()()|”をしていた……と。


 顔を暗くしながら(元より顔は暗いが)、その男性は質素かつ閑静なマンション【白山ヒルズ】に立ち寄る。


 数十年前にコンクリートで改装され、10階建てになるように設計された。至ってシンプル、ありきたりな、大した小洒落た説明の無いただのマンションだ。


「ああ、銀さんこんにちは」


 40代ぐらいだろうか、小太りのマダムは日頃会っているような接し方で声をかける。その顔は慣れ親しんでるように自然な笑顔に見える。


「……こんにちは、大家さん」


 その男性は枯れ気味の声……テンションのなさそうな顔で答える。


 彼女曰く常日頃、いつも会う度そのような顔で、初めて会った日からそれらしく、もう慣れているとの事。


 その青年は“305号室”と銅で鋳られた板を貼り付けられている扉の前に立つ。


 扉の材質はヒノキ製、“白山ヒルズ”はまさに昭和世代に相応しい雰囲気漂うマンションであることは見て取れる。


 時代劇の様な口振りで“銀さん”と呼ばれた男は、錆びかけたドアノブの、すぐ下の穴に鍵を差し込みドアを開く。


「……ただいま」


 その部屋に入ると共に帰りの挨拶を先程と同じ声色で呟く。


「お兄ちゃんおかえりー」


 警戒心のない少女の返事が返ってくる。アニメ声優と聞き間違う程の声色だが、目の前に出てきたのは身長160cm程の……


 ……別にやましい関係でも何でもない、只の大事な妹だ。


 名前は寸白 理奈(すばく りな)


 血縁上、私の唯一の親族であり、歳の差は約2年程度しか離れていない。私と同じ大学の……今は二回生か。私とは正反対に理系寄りではなく経済学専行だ。


 この帰るタイミングと同時に妹は黒法師に機嫌良く水をやっている。昨日も水をやっていただろう全く。


 水をやりすぎると(しお)れると言ってるのに確実に忘れているな。


 「まーた落ちたの?」


 水やりを終えると私の浮かない表情から察して質問してくる。


「……ああ」


「やっぱそっかー……」


「笑顔が足りないとか?一回笑顔してみてよ!」


 「……」


言われるがままに自然なばかりの笑顔をしてみた。自然にと言ったものの眉間に(シワ)がよせてある感触はしないでもないがそれは気のせ


「ぶぶっ」


「あっはははははははははははっゲホッははははっはははは!」


 妹はよく笑う。表情豊かな少女だが完全にアホにされて笑われた。


「お兄ちゃん『命の危険を感じる顔』してるよぉふっふふふ…なんか悪の科学者が最終兵器使うときの顔!」


 妹の腹からは震えが止まらず床を軽く叩き、若干泣き顔になっている。……そこまで酷いとは思わなかった。


 加えては向日葵の様な笑顔は疎かラフレシアのような笑顔だったよ、とまでこっぴどくバッシングされた。

 私の顔は他人から見れば余程凶悪なものなのだろう……と思い始める。


 彼女の表現はいまいちピンとは来なかったが、兎に角笑顔が酷かったのは伝わった。


「あっそうだ、パブローおじさんのチーズドーナツ買ってきたよー!」


 私が特に気に入ってる菓子店。口どけの素晴らしいチーズドーナツが売りの名店だ。特に抹茶チーズドーナツは画期的な製法で作られた一級品。いや、それを遥かに凌駕した──熱くなりすぎた、これ以上はやめておこう。


 ……ああ、何かが足りないと思えば、自己紹介か。語らせてもらおう。


 私は寸白 銀(すばく ぎん)……去年R大学(諸事情により名を伏す)を主席で卒業した解剖学専行の大学生だった。漸くこれから就職生活にも苦もなく安定して金を稼げると思った矢先だ。


 私の評価を買っていて、卒業後に迎え入れる予定だった医療機関三社が先月()()に大がかりな不祥事を起こしたために私はそこの志願を延期せざるを得なかった。


 繋ぎとしては他にも二社程あったが……そちらは想像以上にレベルが低かったので拒否した。


 そして今……この有様だ。妹はバイトで塾の講師をしてるが為か、貯蓄には余裕があるのかはどうでもいいが、どちらにせよ、(いささ)か申し訳ない気分だ。


 こういう研究機関に限って、“学歴的な偏見”という概念を撤廃させた賢い連中が多いからな。


 こういう見た目で判断されるのは本当に勘弁だ。企業そのものは即戦力を求めている筈なのに、何をそう折角の即戦力を溝に捨てるのだろうか。理解に苦しむ。


 しかし、そこまで私はしかめっ面では無いと思うのだが……


「もー怖い顔してないでさー、レイド付き合ってよー!」


「……その前に晩飯を作るから後にしろ」


 つれないなぁという声を聞きつつ、私は冷蔵庫を開け、何を作るかを思案する。


 先程話題に出た“レイド”という単語は【Real;Users】というオンラインSRPGのレイドシステムだ。


 強力な敵を大勢で協力して倒し……超レアアイテムや武器を手に入れる。古典的だが、ボス一つ一つに一致団結性を、それに伴って得られる達成感と多量の報酬のお蔭で中毒者は多い。ク、私も含めてな。


 度々考えるが、【Real;Users】……興味深いゲームだ。私のパソコン及び周辺機器から私の人間性を読み取ってアバター化するとはな、全てにおいて完璧だ。


 だがな、第一に私の性別を間違っているという事実がある以上、AIの進歩もまだまだという事だ。


 ……その性別の間違った私のアバター?【吸血姫アナトミー】……度重なる理想装備を考えしつくし、まるで魔王の様なバトルドレスのファッションになってしまったが、真っ白な肌で、灰髪ロングの妖艶な女性。


 女性アバターになったのは気恥ずかしいが、只の仮想媒体だ。

 ただ、恥ずかしいのは恥ずかしいが、嫌いという訳ではないがな。


 配信直後から日課的なもの、定期的に行われるレート戦も怠った事が無いからかどうかは知らないが、ランキング上位には維持しているが……別にそれ以外では別に大して他人に自慢できるような所は無い。


 特にレート戦など【虎龍王(こたつベーダー)】の独壇場だからな。実際に戦ったことはあるが、ダメージ一つ与えられないまま撃破(キル)された。


「お兄ちゃん!なんか!運営から個人メール届いてるよ!私もだけど!」


 おい待て、何故勝手に私のまで起動させているのだ全く……

 運営から個人メール……?違反行為は別にしていないと思うが、それ以外で思い当たる節は……無いな


「お兄ちゃん!なんか!運営から公式プレイヤーとして採用したいってさー!いいじゃん!小遣い稼ぎ感覚で出来そうだしー!」


「姉妹そろって可愛いアバターなんだから人気出ると思うよー!」


「誰が姉妹だ、私をからかうな……まぁいい、どうせ運営を騙るただの嫌がらせだろう」


「いや、でもこれ運営固有のユーザーIDだよ?」


「……適当に返事してろ」


 笑いたければ笑え。

 その返事が仇となり、実に面倒な何夜へと巻き込まれてしまった。


 それに加えて次の日もその次の日も、呼吸が整わずには布団に身を置けぬ最悪の日々を過ごす。


 絶望に陥いりかけた追悼も、尋常ならざる恥辱も受けた、心臓の止まりかけるような、張り裂けるような激痛も、恐怖にも晒された。


 ……ここまでの不幸を実感した……が、希望もあった。


 最終的に良い結果と進めたのはその一握の希望のお蔭だ。


これから見せるのは、その過程。

私はこの【Real;Users(闘い)】にメスを入れにいく。

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