僕は一度死ぬ
僕は今日死ぬ。
市役所の屋上。真夏で蒸し暑く、大振りの雨が降っている。
吐き揃えた靴は歩きすぎてかなりすり減っていた。
すり減っているのは靴だけではない。
自分自身の精神もだ。
あの時こーすればよかった。
あの時無理に止めていればよかった。
あの時手を離さなければ今こんなことは起こらないのか。
自らが転職し、はいった市役所の屋上で1人考える。全てに意味はなかったんだ。
幸せになるために辞めた営業も、
公務員になって努力したことも、
全ては水の泡だ。
もういい。
全てをゼロにしよう。
お父さんお母さんそして弟のりょうの顔が浮んだ。
ごめんな。
屋上の手すりにつかまる。
恐怖で足が震える。
最後にもう一度会いたかったな莉奈。
目頭が熱くなる。
さよならさよならさよなら
意を決して飛び降りた。
死ぬんだな。あのとき僕があのとき僕が
おまえを愛知に行かせなかったら!
後悔とともに
僕は落ちた。
その時だった。ピカっと眩しい光とともにごごごごと音がした。
僕は死んだのか?
周りの景色がぐるぐると渦巻いている。
いろんな色がうごめきあい、それは虹色にも灰色にもみえる。まるで、死後の遊園地にもみえるその光景とともに、脳内をえぐるぼくの記憶。これが走馬灯か。
様々な事をおもいだす。
莉奈と大学1年の新歓で出会い、すぐに付き合ったこと。2人で一緒にみた大学の近くの町田海岸の景色。花火大会で一緒に食べたきゅうりの一本漬け。コンビニまで手を繋いで買いに行ったからあげクン。温泉でプレゼントしたネックレスが盗まれたこと。沖縄の名護パイナップルパークでパインの試食をたくさんしたこと。ペアリングをなくしたこと。ぼくの就活が上手くいくように応援してくれたこと。僕が大手住宅営業として働き出したこと。莉奈が旅行会社で働き出したこと。たくさん喧嘩をしたこと。常に笑顔で落ち着けたこと。一生一緒にいると誓ったこと。ぼくのプレゼントした婚約指輪を指にはめてくれたこと。同棲をしたこと。僕が会社をやめて公務員を目指す時も離れずにいてくれたこと。公務員に受かってとても喜んでくれたこと。結婚式場をゼクシィをみて決めたこと。
愛知のおじいちゃんが倒れ、介護のために愛知に引っ越したこと。公務員になる前に別れを告げられたこと。
新しい彼氏ができたと連絡をもらったこと‥
風の噂で結婚したと聞いたこと。僕は裏切られた?
あれからもう三年か。
莉奈といた5年間は幸せの毎日と最後の絶望だった。あの時愛知にいくことを止めていれば、ぼくは!!!俺は!!!!!!!
その瞬間再びぼくを光が包んだ。
ギューーーーンという音とともに周りの景色が揺らめく。巻き込まれるようなはじき出されるような渦巻きに飲み込まれる。
回転する景色。僕も周り、世界も回る。
9月20日僕が死んだ日。
いや巻き戻された日だった。