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08.スキルは装備しないと意味がないぞ

 飛び出してきたハム魔導士は、小さな手で自分より大きな樫の杖をぐるぐる回しはじめた。

 あいつが唱えている魔法も当然俺は知っている。

 下級雷霆魔法ギルガだ。

 雷属性の魔法はほぼすべて単体魔法なため、一人が食らうダメージは全体攻撃魔法である昨日の中級炎熱魔法メギラムともほとんど変わらない。

 当然、下級の冒険者が食らえばひとたまりもないだろう。


 どぱんっ!


 という音とともに閃光が走り、目の前が真っ暗になった。

 全身をぶっ叩かれたような衝撃が走る。


 だが――


「こええ……。でも、俺の読み通りだ」


 俺は下級雷霆魔法ギルガの直撃を受けて、平然と立っていた。

 素早くステータスを確認すると、HPが初期値の2割程度にまで減っている。


「っぶねぇ! 本来なら4割くらいは残ると思ってたのに! 精神10って耐性低すぎない?」


 一部訂正。

 俺は魔法の直撃を受けて、平然ではないが、死なずに立っていた。

 透明さんの能力はほとんどが他のアクターたちに比べて低い。

 だが、HPとMPだけはその限りではない。

 俺は高いHPにあかせて、ハム魔導士の初見殺し魔法を耐えきってみせた。


「こっからはもう勝ち確なんだけどね」


 そう言って俺は、腰にかけていた二つのアイテムを手に取る。


 一つは〈錆びた枝打ち斧〉だ。

 もともとエタクリにはなかった小斧だが、俺がどうしても付け替えられなかった戦型スキル〈死力の暗黒斧3〉に合わせて、暗黒属性を付与してある。

 これを作るのには色々試行錯誤があったし、データベースの限界も一部垣間見えた。


 実はこの斧、攻撃力はプラス6と低め。

 数値をこれ以上に設定しようとするとエラーが出たのだ。

 レベル1でも装備できるという制限を外せば、いくらでも攻撃力は上げられたが……


 RPGツクレールはプログラミングの知識がなくてもゲームが作れる制作ツールである。

 だが実際には、知識があるともっと複雑なゲームが作れるのもまた事実だ。

 俺もプログラミングとは縁もゆかりもない職場だったが、もっと複雑なシステムを組み上げたいと思い、独学でプログラミングを学んでいた。


 そのなけなしのプログラミング知識をつぎ込んで作ったのが、エタクリの目玉でもあるスキル装備システムと、武器防具のレベルによる能力制限システムだった。


 俺はため息をつく。


「あくまで女神がくれたチートはデータベースだけにしか干渉できないんだよな……。俺がプログラムした法則には抗えない。まぁ、プログラムに抗えちゃったら、人間社会とかじゃなくて、世界そのものをぶっ壊す恐れがあるから、女神もそこは制限したんだろうけど」


〈錆びた枝打ち斧〉も、レベル1で装備でき、かつエラーが出ないよう数値を1ずつ下げながら確認したところ、攻撃力プラス6でようやくエラーが出なくなった。

 それでもなお、敏捷と器用にマイナス3の補正がある。


「まぁ、お前を倒すならこれで十分だ。さぁ、来いよ」


 手に取ったもう一つのアイテム、虹色に輝くポーションをぐいっとあおり、俺はハム魔導士に向かって手招きする。


 ハム魔導士はしばらく戸惑っていたみたいだったが、やがて決心したように、俺に跳びかかってきた。


 小さいながらも鋭利な爪が、俺の残り2割になったHPを削り切ろうと迫ったとき――


 俺はその攻撃を『パリング』した。


 外せない死にスキルだったはずの〈パリングカウンター〉が炸裂し、ハム魔導士を枝打ち斧が袈裟斬りにする。


 ――俺がさっき飲んだ虹色の薬は〈グッドラックポーション〉だ。

 主人公パーティーはどんなに多くとも同時に三つまでしか持てない超希少アイテムである。

 その効果は、次の行動にかかわる全ての確率計算を100%成功させるというもの。

 本来5%でしかないパリング率だろうと、これさえ飲んでおけば100%と変わらない。


 そして当然、〈死力の暗黒斧3〉の発動条件であるHP半分以下は満たしているから、与えるダメージは1.6倍になる。

 さらに、〈グッドラックポーション〉のおかげでパリングカウンターは必ずクリティカルするので……


 結果、ハム魔導士は「きゅうぅ」という切ない鳴き声とともに轟沈した。


「ふっ、完勝……」


 この『スキルは装備しないと意味がないぞ』なエタクリのシステムだが、スキルがかっちり組み合わさればこのくらいは朝飯前である。


「ほら、おっさん。立てる?」


 ハム魔導士が下級雷霆魔法ギルガを放ったあたりからすっかり腰を抜かしていたらしいおっさんに手を貸してやる。

 すると、おっさんが悲鳴を上げた。

 人の顔を見て悲鳴を上げるなんて失礼なやっちゃな、と思っていたら、おっさんは俺の後ろを指さしわなわな震えていた。


「あんた! ハ、ハム魔導士が!」


 振り返ると、ハム魔導士がぷるぷると首を振って立ち上がるところだった。


「ま、まだ生きてやがる。逃げねぇと!」


 だが、慌てるおっさんをしり目に、俺はのほほんとその光景を見つめている。


「ラッキー。起き上がったか」


 初日にステータスをチェックした時から、見知った称号が一つついていることに俺は気づいていた。

 それは〈魔獣使い〉だ。


 ハム魔道士はチィチィと駆け寄ってきて、足元をぐるぐる回り始める。


 称号はスキルとは違って、装備しなくても常時効果を発揮するものである。

 この〈魔獣使い〉という称号があれば、魔物を倒せば一定確率で仲間にできる……はずだった。

 ただ確か、魔物が仲間になった場合のステータスや、覚えるスキルやらを決めるのが面倒で途中で放り投げたんだっけ。

 ハム魔道士と他何匹かのデータを作ったところで構想自体がお蔵入りになっていたはず。

 透明さんだけははたまたま、効果をチェックするためにつけておいたまま、外していなかったのだ。


「ええと……、お前、仲間になってくれるの?」

「チィ!」


 俺が尋ねると、ハム魔導士が元気よく鳴いた。


「じゃ、名前つけてやんないとな。ハムスターだから、ハム……ハムレット……うーん、ちょっとステータス見せてもらえる?」


 ダメもとで聞いてみる。

 すると、ハム魔道士は俺の脚に頭を擦り付けながら、杖を振ってみせた。

 瞬間、俺の視界に、新たなステータス画面が浮かび上がる。


 そこにはこう書かれていた。



【名前:未設定】

【種族:ハム魔道士】

【性別:メス】

【年齢:一か月】

【レベル:6】

【クラス:魔法使い】

【能力値】

 HP:31/31

 MP:12/12

 攻撃力:20

 防御力:28

 筋力:14 強靭:20

 敏捷:36 器用:15

 知性:46 精神:51

 魅力:60 集中:28

【装備スキル】

[スロット:1/4 総コスト1/12]

◎〈下級雷霆魔法ギルガ

【習熟度】〈雷魔法2〉〈戦術眼1〉

【称号】なし

【加護】〈王獣グレオ:C〉



「ほおお……。他人に見せてもらうことも出来るんだな」


 こうやって自分以外のステータスが見れることを知って、俺は感激する。

 ステータスの共有や隠蔽についてはオフラインゲームであるエタクエでは設定の必要がなかったので、この世界ではどうなっているのか気になるところだ。

 定番の設定だが、ステータスがギルドなどでの個人証明に使われている可能性もある。


「ってか、ハム。お前、女の子だったのな」


 俺はしばらく考えて、ハム魔道士の名前を決めた。


「うーん、うーん……、よし! お前の名前は今日から『オフィーリア』だ!」

「チィッ!」


 俺たちがそんなやり取りをしているのを、おっさんはすっかり呆れたような目で見つめていた。


「なんつーかすげぇよ、あんた。あの、魔晶石灯一本一本だってかなり高価なものなのに、いつの間にか村中を照らしてるし。ハム魔導士の魔法を受けてもぴんぴんして、あまつさえ手懐けちまうんだからよ」


「へへ。照れる」


「……オレはもう何も言わねえわ」


 おっさんが絶句したのを見て、俺は村中の瓦礫を、平地のマップチップで上書きした。

 すっかり更地になった村に、真四角の簡単な豆腐ハウスをコピペで大量にはりつけていく。


「さ。これで、みんなこの村に戻って来れるよね」


「こんな……一瞬で村が元通り……いや、元より断然立派に……」


 おっさんはもうただただ口をあんぐり開けるばかりで、俺のことも見えてないようだった。


 最後に村の中央に進むと、倒れ、踏みにじられてぼろぼろになった燭台があった。


「これもなぁ、ただの再利用だったのが、こんな騒動を巻き起こすとは」


 実は『英雄の灯火』なんて、最初はエタクリにはなかった設定だ。

 俺がぶっ倒れる少し前、神ドッター様のガス灯のマップチップ素材を購入したおかげで、最初からツクレールに収録されていた素材が不要になった。

 それで何とか素材を再利用しようと思って思いついたのが、『英雄の灯火』という設定だったのである。


 俺は『英雄の灯火』のマップチップを村の中央に配置。

 さらに、その周りを頑丈な鉄製の檻でかこっておく。


「これ。この檻の鍵。しっかり持っといて、無くさないでね」


 その時、だ。

 村の隣にある高台の丘から、ヒヒーンと、馬のいななく声が聞こえた。


「……エマ?」


 高台から村を見下ろしていたのは、遠目で見えにくいが、確かにエマだった。

 俺があのブラックゴールドの髪は見間違えるはずがない。

 エマと数人の警備隊員たちが、馬を走らせ一気に丘を駆け下りてくる。


「こ、これは一体どういうことなの!? タペンス村が壊滅したって聞いたから見に来てみれば、壊滅どころかすっかり立派に……」


「あ、エマ! 村に入らないで!」


 驚きながら門をくぐろうとしたエマを、俺はあわてて止めた。

 それから、おっさんに向き直り、しっかり鍵を握らせる。


「おっさん。みんなを呼び戻してあげな。じゃ、行くぞ。オフィーリア」


「な、なに!? ニュクスさん!? あなたなんでここに?! この村で一体何が起きているのか知っているの? っていうか、入っちゃダメってどういうこと?! もしかして、あなた何かこの村で怪しいことを……!」


 すっかり動揺しているみたいで、エマが早口でまくし立てる。

 俺はエマの近くまでいくと、一つだけ、ある重要な質問をした。


「エマ、大事なことだから答えてくれる? エマはパンクラツの町からまっすぐこの村に来たんだよね?」


「え、ええ……そうだけど、それがどう……」


 俺はエマの答えに満足し、エマの柔らかな手に芭蕉扇を握らせた。

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