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07.マップ作りのあれこれ

 俺たちは【芭蕉扇】の力で一瞬のうちにタペンス村に到着していた。


「あ、あ、あんた! 今のは帰還アイテムってやつかい!?」


 と、おっさんが口をあんぐり開けている。

 だけど、質問の意図が分からないぞ?


「さっきも説明しましたよね?」

「そりゃ聞いたが、あんなの嘘だと思うに決まってるだろ!」


「そんな高いもんでもないでしょ」

「ありゃ、雑貨屋が原価で置いてるだけだ。神殿の認可を受けた店って印みたいなもんだ。ほとんど買うやつなんざいねえ」


「え、そうなの?」


「帰還アイテムなんて、限られた人間にしか使えないんだから、当然だろ」


「はぁ?」


 詳しく聞いてみると、なんでも帰還アイテムなどの一部のアイテムは、そもそも一般人には使えないらしい。

 高名な騎士団の団長とか、町を救うような英雄とかじゃないと、反応しないのだそうだ。

 つっても俺、レベル1なんだけどな。

 おっさんはあいにく知らないみたいだが、どういう基準なのか気になるところではある。


 まぁ、一般人が誰でも帰還アイテムを使えるようじゃ、物流が便利になりすぎて大変なことになってしまうよなぁ。

 砂漠を渡る商人みたいなNPCも作った覚えがあるし、そういう設定と矛盾しないよう、女神のほうで調整してくれたんだろう。

 さんきゅー、女神。


 勝手に納得した俺は、いまだに喚くおっさんを無視して、村を見渡した。


「いやー。なんというかこれはまた、綺麗に破壊されてますねぇ~」


「……そりゃ、百どころじゃない、千や二千の魔物の大群が一斉に山のほうへと逃げていったんだからな。こんな小さな村、ひとたまりもねぇよ」


 忌々しげにおっさんがつぶやく。

 山の麓にあったタペンス村は、簡素な木造家屋が立ち並ぶファンタジーな風情のある小村だったんだろう。

 だが、今は見る影もなく破壊されており、火事も起きたのか、フリゲーでありがちな『村焼き』状態になっていた。


「まぁ、最初の村ってのは基本的に焼けるものだよ。うん」


 問題は、その原因を作ったのが俺自身であることなのだが。

 まぁ、フリゲーでも、物語的には主人公たちと敵対する組織が村を焼いているわけだが、究極的には製作者が村を焼いているのである。

 同じようなものだと思おう。


「じゃ、今から直していくね」

「は?」


 俺は素早く〈データベース〉を開き、マップの項目を表示させた。

 古き良き2Dのドットマップだが、うまいぐあいにこの村のことが再現されているし、アングルも変えられる。

 ちなみに、アングル変更は本家のツクレールにはなかった機能である。


 ツクレールでマップを作るには、マップチップからドットパターンを選んで方眼用紙のようなマス目に入れていく。

 その昔、後輩に見せたところ、「2D版のマイ〇ラみたいなもんすっね」とぬかしやがった。

 断然ツクレールのほうが歴史は古いので、俺としては憤懣やるかたないのだが、今の子にはそっちのほうが分かりやすいのだろう。


 言っとくけど、サンドボックス型クラフトゲームみたいに3Dでマップをいじくれるのだって、『RPGツクレール5』のほうが先なんだからな。


「この村って何か産業はあったの?」

「……ここは、タペンス川の魔晶石を採取するのに自然と集まって出来た村さ。女は川に入って魔晶石を網ですくうのが日課だった。男は農作業に村の警備に、要は力仕事だけどよ」


「へぇ。面白い。そんな地場産業があるんだ」


 魔晶石とはマジックアイテムを作成する時などに使う魔力をためやすい性質を持つ鉱石だ。

 おっさんが言うには、大きな魔晶石は鉱山に分け入って採掘するが、小さなものは川に混じって流れてくるので、採って売ればいい金になるのだという。


「じゃ、せっかくだから、サービスでちょっと採りやすいようにしとくか」


 俺は村から川まで、整備された石畳のマップチップを敷きつめた。

 それから、魔晶石が溜まりやすいように川も多少蛇行させておく。

 こうすることで、流れに乗り遅れて曲がり切れず、そこに溜まる魔晶石が増えるだろう。


「な、何をしたんだ!? あんた! いきなり石畳が……」


 唖然とするおっさんのことはさらりと無視。

 次に俺は、すっかり焼けた木造の家屋を、平地のマップチップを敷きつめて更地に……しようと思ってやめた。


「ねぇおっさん、必要な家財道具ってある? タンスとか机とかの家具はマップ機能で出せるから心配しなくていいけど、洋服とか台所用品とかは全部アイテムとして出してたらポイントの出費がバカにならないからさ。どうせ、ほとんど何も持ち出せずに逃げてきたんだろ?」


 平地のマップチップを敷きつめたら、多分瓦礫と一緒に家財道具も消えてしまうんじゃないだろうか。


「あ、あぁ……。あんたが何を言ってるのかはわからねぇが、服はもう使いもんにならねぇだろうが、採集に使う『ふるい』や、農機具が残ってたら引っ張り出したいところではあるんだが」


「オーケー。そればっかりはデータベースじゃどうしようもできないから、おっさんが家の中から大丈夫そうなのを探し出しておいてよ。俺はその間に、次は多少は持ちこたえるような塀を作ってくるからさ」


 そうして俺は、村の周りを石壁のマップチップで囲うことにした。

 村をどういう形にしようかちょっと悩む。

 今後の拡張性も考えて、少し広めにしてもいいが、そうすると井戸ももう二つ三つあったほうがいいんじゃないか。

 いちいち川まで水を汲みに行くのも大変だろうし。


 それと、せっかく魔晶石採集がこの村の産業なんだから、ちょっと幻想的な雰囲気にしたい。

 フリゲーにありがちな、意味のない柱のオブジェとか。

 いや、分かってはいるんだよ?

 冷静に考えると、その柱で何を支えてるんだよってなるけどさ。

 少ないマップチップで町ごとに個性を出そうとすると、意味もなく道の両脇に石の柱を置いたりすることになるんだよ!


 幸い、有償で購入した神ドッター様のマップチップ素材はこちらの世界に来てもデータベースに残っていた。

 お気に入りの素材の一つである雰囲気の良いガス灯……ならぬ魔晶石灯のランプを鉄柱に吊るしておく。


 村への出入り口をいくつか確保し、残りを石壁で囲っていく。

 壁の内側にはちろちろとオレンジの灯がともる魔晶石灯のランプがいくつも鉄柱に吊り下げられる。

 ついでだから、村の広場には女神像と噴水まで置いちゃう。

 これもいわゆる、特に意味もなければ設定もない、ただマップが寂しいから置いたってやつだ。

 いいだろ別に!?


 と、誰に言い訳しているのか分からないが、一通りの作業を終えた俺はおっさんと再び合流した。


 おっさんは汗だくで瓦礫から農機具をひっぱりあげ、ようやくそこで村の周りを白い石壁が覆っているのに気づいた。


「こ、こんな短時間で! 何をしたんだ? あんた!? こりゃ、そこらの小さな町とは比べもんになんねぇ立派な石壁だぞ!?」


「……まぁ、俺が直接作った二十個の町って多分この世界では大きいほうだもんな。そこで使われてる建材と同じって考えれば、そうなのかも」


「作った? 何を言ってるんだ!?」


「あ、いや。こっちの話。それより、もう必要なものはない? そろそろ、村の再建に取りかかってもいい?」


「あ、ああ……大体、必要そうなものは掘り出しておいたが」


 おっさんと会ったのは早朝だったが、すっかり日が昇っている。

 俺が壁を作っていたのは半日ほどだろうか。

 よくまぁ、おっさん一人でこれだけ掘り出したものだ。


 俺が壊れた家屋に向かってデータベースを開き、更地にしようとした、その時――

 瓦礫から小さな影が飛び出した。


「わわっ、な、なんだ? は、ハム魔導士だ!」


 おっさんが叫ぶ。

 現れたのは、魔女がかぶるようなつばひろの三角帽子をかぶったハムスターだ。

 やや間抜けで愛嬌のある本物のハムスターよりは、多少しゅっとしたフェネックに似た顔だちをしている。

 エタクリのザコ敵の一種である。


「気をつけろ! そいつ、魔法を使うぞ!」


 そんなこと、当然俺も知っている。

 っていうか、モンスターの大体の性質は名前と見た目で分かるようにしてある。

 俺のゲームは分かりやすさ第一。

 本当は混乱が効くのに混乱耐性ゴーレムなんて名前はつけないし、本当は全快しないのに満タンドリンクなんて名前もつけない。


 ただし、ハム魔導士の魔法は初見殺しだ。

 このレベル帯の魔物が使うにしては、食らうとかなり痛手をこうむる魔法を使ってくる。

 一発分しかMPがないので、知っていれば充分に対処可能ではあるのだが……。


「ファースト異世界ビトがエマだったのもそうだけど、ファースト魔物がお前なのも嬉しいよ。なんたって、エタクリの顔になってもらう予定の魔物だったからな」


 いわゆる、国民的人気RPGでいうスライムみたいなマスコット的存在のつもりで作った魔物だった。


 レベル1で、一人で戦うにはかなりの苦戦を強いられる相手だが、俺にはある秘策があった――

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