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33.屠龍

「そっち行ったぞ! ツイッギー!」


 てらてらと輝く刃を無数に生やした巨大な尻尾が、唸りをあげてツイッギーの頭上をかすめる。


「あいあい! 今やってま!」


 俺たちは今、二人でブレードリードラゴ攻略におもむいていた。


「ほあぁ~! にゅくしゅさん! そっち、行きましたぁ!」


「大丈夫! ツイッギーは自分のスキルに集中して! 護れ、【アウゴエイデス】!」


 俺がスキルを発動させると、目の前に光の騎士が現れた。

 光輝存在アウゴエイデス。

 コスト9のほぼ最上位スキルの一つだ。


 ブレードリードラゴはリレー用のトラックぐらいはありそうな巨体を悠々とくねらせ、頭に鎌のようにはえた刃で、光の騎士を両断する。

 三階建てのビル程度なら軽々と真っ二つに出来るであろう一撃を受けて、光の騎士は消滅した。


「えっ!? ちょっと!」


 そのまま、死の刃をこちらに向けたまま突進。

 あわや潰されるすんでのところで、光の粒子となって消えた騎士が再び顕現し、ブレードリードラゴの一撃を受ける。


 俺は素早くステータスを確認。

 数値は……


【名前:ニュクス・トライアングリックス】

【レベル:1】

【クラス:透明さん】

【能力値】

 HP:100/100

 MP:  8/100


「あっぶな! クリティカルされてたらヤバかったぞこれ! お前は一ターンに二回も攻撃出来ないはずだろ!」


 まぁ、かなりの高乱数を二度も引いたようだが、クリティカルはしていない。

 クリティカルされていたら、HPとMPを同時に全快する最高位の回復アイテムを使用しなければならないところだった。


 当たり前ながら、現実となったこの世界の戦いはターン制ではないので、ターン制の感覚でモノを考えていると、さっきのように手痛い洗礼を受けることになる。

 気をつけないと。


 俺と竜の間に、かばうように光の騎士が浮いている。


 やたらと神々しい見た目の騎士だが、なんのことはない。

 このスキル【アウゴエイデス】の効果は、数ターンの間、HPに受けるはずのダメージをMPへのダメージにすり替える、という単純なものだ。

 MPがゼロになれば消滅し、超過分はHPへのダメージへとオーバーフローするのだが……、【透明さん】の高MPのおかげで、今のところ一度もこの守りは破られてはいない。


 素早くMP回復アイテム【魔力の霊酒(ハオマ)】を飲んでMPを全回復する。

 この戦いの前に多めに30本用意しておいたが、まだ20本以上残っている。


 本当は、アウゴエイデスの上位スキル【レティミアの騎士】があれば、受けたダメージの四分の一を跳ね返してくれるので、倒すのも楽になったはずなんだけどな。

 あっちはコスト12だから装備できないし、そもそも【透明さん】が覚えていたスキルの中にはなかったのだ。


「ツイッギー! これでまた数ターン……じゃなかった、数回は耐えられる! そっちはどう!?」


 コストのほとんどを【アウゴエイデス】に費やし、しかも、ほぼずっとMP回復薬を飲み続けなければいけないので、俺は攻撃に参加は出来ない。

 なので、ダメージソースはツイッギーしかいないのだが……


「ぎゃー! こっち来た、にゅくしゅさん!」


「おい、こっちだ! ヘボ竜!」


 さすが最強種、竜だけある。

 二人とも死ぬことはないと思うが、ツイッギーの攻撃がなかなか通らない。


 ツイッギーには矢じりに火薬を込めた【爆撃矢】を大量に渡してある。

 それでも、一本一本で与えられるダメージは毛ほどのものだ。

 ブレードリードラゴは弱点らしい弱点のない無属性竜で、ツイッギーとのレベル差もかなり大きいことも原因だろう。


「だめれす! なかなか狙いをつけさせてくれません!」


 ツイッギーのいるあたりを、ブレードリードラゴの凶暴な尾の一撃が見舞う。

 彼女には【隠密】効果のある頭巾を渡してあるのだが、射撃体勢に入り、【隠密】効果が解除されると、ブレードリードラゴは俺を無視して真っ先にツイッギーを狙う。

 俺には攻撃手段がないことを、見抜かれているのだ。


「ツイッギー! 今、矢はどのくらい残ってる!? 言ったと思うけど、連続で当てなきゃダメージ出ないから!」


「半分くらいは撃っちゃいましたぁ!」


 ツイッギーが携帯できる矢にも限りがある。

 両脚の矢筒に二十本ずつ。

 最初から【竜口十連装バリスタ】にセットしてある矢が十本ずつ。

 計60本以内に仕留めなければならない。


「もう無駄打ちできないぞ!? 【アンフェール・チェイン】は連続攻撃が成功するごとに威力が上がっていくスキルだって言ったろ!?」


「もう! 何度も聞きましたんれぇ!」


 ツイッギーに強奪スナッチしてきてもらったのは【アンフェール・チェイン】というスキルだった。

 モンタルバートに棲む【ピヨバード】という小型の魔物が持つスキルで、本来は同種のモンスターが連続で攻撃すると、一匹目より二匹目、二匹目より三匹目のダメージのほうが大きくなるというスキルである。

 一匹だけなら大したことのない魔物だが、どんどん仲間を呼び、アクターのうち一人だけを執拗に狙うので、放っておくと手がつけられなくなる。

 ……ように設定してあるモンスターだった。


 一匹目の時点ではまだ【アンフェール・チェイン】は発動しないし、一匹目と二匹目の間にスキルスナッチを発動させてしまうとチェインが切れてしまうので、グッドラックポーションで確定奪取も出来ない。

 このスキルを強奪するのにツイッギーはかなり苦労したはずだ。

 その分、ツイッギーが持つ【竜口十連装バリスタ】との相性は抜群……のはずだったんだけど。


「くそ! 遠距離狙撃可能な【爆撃矢】を新しく作れば良かった! ……いや、なんでゲーム的には意味のない『矢じりが重いため、遠距離狙撃には向かない』なんて一文を、キャプションに書いてしまったんだ! 生前の俺は!」


 どうせ、アクションではないターン制RPGの戦闘に、攻撃可能レンジの概念なんてないんだから。

 ただ世界観を深めるためだけに、そんな一文を書かなくても良かった。


 ……でもまぁ、世界観は大事だよな。

 ツクレーラーとしてやっぱそこは譲れないから、しょうがないと割り切って次善の策を考えるしかあるまい。


「仕方ない。あれを出すか」


 俺は〈データベース〉を操作し、新たな装備を出現させた。


「ぶぷっ! なんれすかぁ、それぇ!」


 俺の背中には今、大きな旗がはためいている。

 装備すると強制的に【挑発】状態になる【のぼり旗】だ。

 これで、こちらから攻撃を続ける限り、ブレードリードラゴの注意をこちらに引き続けておくことが出来るはず。

 めちゃくちゃかっこ悪いし、接近してブレードリードラゴを殴り続けないといけないのはかなり怖いけど。


「俺が注意を引きつける! 射撃体勢に入れ!」


「うぃ~っすぅ!」


 もともと装備していた【錆びた枝打ち斧】で斬りかかる。

 今は【死力の暗黒斧】を装備していないから、シナジーがあるわけではないんだが、手に馴染んでいるし、そもそも俺が攻撃に参加する予定はなかったから、前に作ったまま【神の御手(アイテムストレージ)】にしまってあったのを使っていたのだ。


 ふと頭上に陰が差したと思った瞬間、アウゴエイデスが切り裂かれていた。

 尻尾を回り込ませ、死角から襲われたんだ。


 ステータスを確認している暇はない。

 勿体ないかも知れないけど、【魔力の霊酒(ハオマ)】を即使用する。


 竜の目が再び俺から外れ、ツイッギーのほうにむけられた。

 すかさず全力で手斧を振り下ろす。

 竜の鱗には傷一つつけられなかったが、ビルぐらいの高さにあった竜の巨大なあごが一瞬で落ちて来て、俺をかみ砕こうとした。

 すんでのところで、またしてもアウゴエイデスが身代わりになる。

 そのチャンスを逃さず、また竜の鱗に刃を立てた。


 斧を叩きつけた巨大な足が、その大きさには似合わぬ凄まじい敏捷さで一瞬で持ち上がり、俺を踏み潰さんと迫る。

 アウゴエイデスが間に割って入ったが、消滅。

 あまりの衝撃に吹き飛ばされ、全身に激痛が走った。

 クリティカルしたんだ。


「マジかよ……」


 今の俺に防御はない。

 アウゴエイデスを発動しなおすには、その前に空になったMPを少しでも回復させなければならない。

 だが、アイテムを使ってMPを回復させる前に、突進してくる竜の肩から生えた、凶悪な刃が俺を串刺しにするだろう。


 俺は死を覚悟した。

 その時、


「いぃーち!」


 竜のこめかみが爆裂した。


「にぃーい! さぁーん! しぃーい! ごぉーお!」


 ツイッギーの声と共に、爆発音が大きくなっていく。

 こめかみをしたたかに撃たれ続け、ふらついた竜は大きく息を吸った。


「ツイッギー!」


 俺が吐いて見せたようなお遊びの〈火の息〉とは比べ物にならないほどの高温の炎がツイッギーを襲った。

 いかにツイッギーの炎耐性でも、あれではひとたまりも……


 だが。


「ろぉーく!」


 炎の中から飛来した矢が、炎を切り裂き、竜の口内に突き刺さった。


「しぃーち! はぁーち! きゅーう! じゅう!」


 爆音はやがて轟音と化していた。

 最後の矢が竜の口内で爆発し、頭蓋を半分吹き飛ばされ、竜はようやく沈黙した。



   *   *   *   *   *



「ひやぁー。これ、うちらがやったんれすねぇ」


 首を伸ばし力なく倒れているブレードリードラゴはまるで小さな丘のようで、今でも倒したという実感がわかない。


「やべ。ずっと緊張しっぱなしだったせいか、体中筋肉ガチガチで痛いや」


「エーテルの分配はどうします? にゅくしゅさんが全取りでもうちはいいれすけろ」


「え? 分配比率って決められんの?!」


「比率は無理っすね。全取りか均等分配かだけれす。どうします? レベルアップしといたほうがよくないれすか?」


「いや、いいよ。わけあって、もうしばらくは低レベル進行で行くつもりだから。ツイッギーが全取りしてよ」


「はぁ?! 何言ってんれすか。傭兵としてやっていくなら、こんなおいしい話は……」


 と、ツイッギーが声を荒げたその時、小さな丘……ならぬ、ブレードリードラゴの体を挟んだ反対側から男の声がした。


「おぉい! これ、あんたらがやったのかい? おいらぁ、パンクラツの商人だ。良かったら話を聞かせてくれねぇか。なんなら、素材は買うし、回復アイテムも売ってやれるぜ」


 俺の背の高さよりも太い竜の首を挟んで、俺は大声で質問した。


「パンクラツの人がこんなところに? どうしたんですか」


 男も負けじと怒鳴り返してくる。


「いやぁ。いつものようにパンクラツに商いに向かったらよ、途中でラージャと思われる軍と鉢合わせてな! 巻き込まれちゃかなわねぇってんで、逃げてきた。この山を抜けてリンクスへと向かってる最中だ」


「はぁ!? ラージャが動いたですって!?」


 そんな、まさか!

 トネルネ様の話じゃ、まだ一月は猶予があったはず。

 まだ、パンクラツを経って一週間も経っていない。

 それほどまでに、世界はもう独り歩きをしているのか……?!


「にゅくしゅさん!」


 その時、それまで力なく倒れていた竜の首が突如持ち上がり、商人のほうへ襲い掛かった。

 俺とツイッギーはすっかり気を抜いて、武装を解除してしまっていた……。

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