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03.授けられたチート

 そこには見たことのないスキルが書かれていた。


「〈データベース〉と、〈一時グラフィック変更〉?」


 普通に考えれば、ツクレールにも同じ機能があるから、それなんだろうとは思うが。

 そんなスキル、俺は作った覚えがない。


 エタクリのスキルはいくつかの種類に分かれている。

 大まかに分けて【固有スキル】【魔術スキル】【武術スキル】【特殊スキル】【戦型スキル】の五つだ。

 さらに、例えば魔術スキルなら【理念魔術】や【契約魔術】といった魔術の系統や、攻撃・補助・回復などの魔術の効果で細分化されている。


 各分類ごとの全スキルが頭に入ってはいるが、こんなスキルは見たことも聞いたこともない。


 俺はスキルの〈キャプション〉を探した。

 スキルには全て、俺の書いたキャプションが付随している。

 そこを調べれば、何かしら分かると思ったのだが……

 表示されたのは、やはり、というか。

 こんな感じの内容だった。



〈データベース〉

 分類【RPGツクレールスキル】

 女神からの感謝の気持ち。世界を完成させうる創世の力。〈虚神レティミア〉の加護により、〈データベース〉を利用できる。

 残:99999

[装備不要]



 ちなみに、もう一つのほうはこうだ。



〈一時グラフィック変更〉

 分類【RPGツクレールスキル】

 女神からの感謝の気持ち。世界を完成させうる創世の力。〈虚神レティミア〉の加護により、一時的に対象者と同じ姿に変身できる。

 自力解除か、時間経過、または日の入りで解除。一日一回限定(日の入りから次の日の入りまで)。

[装備不要]



 ちなみに、分類名をタップすると次のように書かれていた。



【RPGツクレールスキル】

 『Real・Paradise・Groundツクレール』の略。



 と。

 キャプションに目を通し、少し感激する。


「リアル・パラダイス・グラウンド……本当の楽園の大地か。やっぱり、女神様がくれたチートってやつだな」


 この世界では設定上時計がないので、一日は日の入りから次の日の入りまで。

 そんなところも再現してくれたみたいで、地味に嬉しかったりする。


 それから、女神の名前が〈虚神レティミア〉になっていた。

 これは俺が作った創世神話に登場する、創世の女神の名前だ。

 俺の作った創世神話を借りると言っていたのは、こういうことなのだろう。


 気になるのは、『残:99999』という表記だが……これも、どこかで見たことがあるような気がする。

 が、まぁ、今は後回しである。


 夜は魔物の動きが活性化し、レベルが上がったり、昼間は出ないやつが出たりする。

 それらから身を守る方法に、一つ心当たりがあった。


「〈データベース〉!」


 果たして、名前を叫ぶだけでスキルが発動するのか。

 少し不安だったが、問題なく発動したらしい。

 俺の目の前には、先程のステータスとは比べ物にならないほどの情報がずらりと並べられていた。


「すごい。ほぼ、ツクレールのまんまだ。ってことは、まずは〈マップ〉を見ればいいのか?」


 RPGツクレールでゲームを作るにあたり、必要なデータを全て網羅しているのが、このデータベースである。


 アクターごとの能力値や成長率。

 アイテムや武器防具。

 スキルや消費MP。

 クラスごとに装備可能な武具や、レベルアップするに従って覚える魔法。

 さらには、世界のどこに何があるか、どのパネルを踏めばどのようなイベント(ゲームの世界ではA地点からB地点に移動する、例えば階段なども、一つのイベントである)が発生するか。

 などなど、そういった諸々をこれで作るのだ。


「えっ! ここって〈パンクラツ周辺の草原〉だったの?!」


 この〈マップ〉機能は優秀で、即座に俺の現在地を捕捉して表示してくれた。

 それによると、どうやら俺のいる地点はゲームでも始まりの町にあたる、パンクラツにほど近い草原らしい。


「ってことは、あそこにぼんやり見えるのが〈双子岩〉か!」


 視線の先には、特徴的な形の白い岩が二つ並んでいた。

 サブイベントの待ち合わせなどでもよく使われる〈双子岩〉である。

 さっきは斜めから見ていたので気づかなかったが、正面から見れば、2Dマップではよく見慣れた岩が二つ並んでいるのだろう。


 ならば、正面方向にひたすら歩けば、パンクラツの町に着くはずだ。

 今から町に向かってもいいが――


「距離感が分からないんだよな」


 2Dマップが3D……いや、現実になったおかげで、どのくらいの縮尺か見当もつかない。

 夜道を魔物に襲われないとも限らない。

 それに、今から町に向かって入れてもらえるのか、という問題もある。


「見渡す限りパンクラツの市壁は見えないか。ってことは、壁の高さを考えると、大体16キロ先まで町はなさそうだな。壁が低けりゃ、もう少し近いけど」


 地平線というのは、遠くに見えても案外近い距離にある。

 高低差のない平原であれば、その距離は4キロほど先でしかない。

 町を囲む壁が多少は遠くから見えるだろうが、仮に壁の高さが10メートルとしても、16キロほど先には見えるはず。


 この世界が地球と同じサイズの惑星だと仮定すれば、少なくとも4キロ以上先までは町がないことになる。

 今から歩いていくのはちょっと危険だろう。


 よって、俺は最初のプラン通り、安全策を取ることにした。

 まずはデータベースを操作し、マップ画面を開く。

 さらに、自分の足元を選択しダブルタップ。

〈簡易イベントの作成〉コマンドから宝箱を選択し、入手アイテムを選ぶ。


「おお……」


 思わず、感嘆の声が漏れてしまった。

 目の前が光り輝き、二つの宝箱が出現している。


 中にあったのは組み立て式の〈テント〉だ。

 この〈テント〉は俺が作ったエタクリのアイテムの一つ。

 町の外でも、宿に泊まったのと同じ効果を得られる持ち運び可能な簡易休憩所である。

 キャプションに『簡易魔法陣で、一晩だけ魔物を寄せつけずに休める』と書いてあるのが、これを選んだ理由だった。


 もう一つは〈無限ランタン〉。

 初代ド〇クエのような、暗闇のダンジョンで威力を発揮する優れものである。


「ほんとに、天幕に魔法陣が描かれてる。キャプションに書いてあることは現実でも反映されるのか」


 妙なところに感動しつつ、さらに俺は〈ふかふかパン〉と〈おいしい水〉を出した。

 どちらもHPが回復する食事アイテムである。

 宝箱から食べ物が出てくる様子は少し異様ではあったが、気にせずテントの中に入った。


 計四つの宝箱を出して、再度確認したところ、データベースの表示は『残:99991』となっていた。


「やっぱこれ、残量表示だったか」


 据え置きゲーム機のツクレールでは、使用可能なデータ容量が決まっていた。

 その容量の中でやりくりしながらゲームを作るのがツクレーラーの腕の見せ所でもあった、とは叔父の弁だ。


 アイテム一つで2減ると考えると、あまり無駄遣いは出来ない。

 スキルの力に頼らず、食事くらいは自分で入手できるようにならないとマズい。

 まぁ、一日二食、食べ物と飲み物を一つずつと考えても、一人なら30年近くは食べていける計算ではあるけどな。


 テントの中で、俺は今後のプランについて頭を巡らせていた。


「とりあえず、やることを整理しよう。第一は身の安全の確保。これは、まぁ何もしなければこのテントと宝箱産の食事で、あと30年近くは行ける。なら、次に目標とすべきは、不測の事態への対処と、生活の質を上げること……か」


 さすがに30年テント暮らしはきつい。

 しかし、この問題を解決するには、まず町の様子を見てみないことには何も分からないので、今は保留だ。


「生活が落ち着いたら、あいつらの手助けもしてやりたいなぁ」


 俺の分身とも言える、このゲームの主人公……アクターたち。

 彼らの冒険を影ながら支え、見守るのも、今後の目標の一つではある。


 だが、まずは自分の足元を固めるのが先決だ。

 俺のことを『小心者』『真面目系クズ』と人は言う。

 確かに慎重すぎる自覚はある。


 しかし、非難されるような言われもないはずだ。

 だって、死んだら終わりなんだぞ?

 一度、『漂白』の一歩手前まで行ったぶん、俺には「次はない」という思いが強烈に刻み込まれていた。


 ということで、今すべきことは一つだ。


「寝るまで、手持ちのスキルの検証だな」

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