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25.俺氏、あらすじを語る

 神殿を出た俺は、もう一度苺売りのおっちゃんのもとへ行き、トネルネ様の加護を受けられたことを報告した。


「ほほう。そいつぁ良かった! 商神様の福音を広めることが出来て、わしも鼻が高いよ」


「確かに、とてもありがたい加護をお持ちですよね。それで、アイテムストレージの使い方についてお聞きしたいんですが……」


 神官の人に聞きたかったんだが、トネルネ様の神託についてずっと議論してて話が出来なかったんだよな。こっそり抜け出してきちゃったけど、大丈夫だろうか。

 するとおっちゃんが変な顔をした。


「アイテムストレージ……とは何かね?」


 しまった!

 原作のゲームにだってアイテムストレージなんて言葉は一度も出していないのに、通じるわけがない。トネルネ様には通じたけど、あの人は神様だもんな。

 わざわざゲーム内でそういうメタいセリフなんて書かないよ。どうしても書かざるを得ないときだって、すごく配慮して書いてたし。

『このアイテムを使う時は、装備や状態を確認する時のような気持ちで』とかね。

 これはちなみに、ステータス表示ボタンを押せって意味だ。

 もちろん、メタいセリフが面白い作品もあるんだけど。


 俺は慌てておっちゃんに説明する。


「ええと、以前おっしゃっていた、アイテムを保管する方法です」


「なるほど。『神の御手』だね。アイテムを神の御手に預けたいのなら、簡単だ。ステータスを開いて、その画面に突っ込むようにすればいい。わしなんかは貴金属だけじゃなくて、ここの屋台一式を預けているよ」


「結構容量があるんですね」


「屋台なんて、エーテルの含有量が少ないからね。わしの扱っている苺が例えば“霊山の水で育てた霊験あらたかな苺”だったりしたら、これほどの数は持ち運べないと思うよ」


 ふむ。

 単純に容積ではなく、アイテム自体に秘められたエーテル量で決まるのか。

 それから俺はおっちゃんに他にも気になっていたことをいくつか質問した。


「なるほど。ほんとに色々教えてもらって。ありがとうございます」


「なに、いいってことよ。同じ〈トネルネ〉様の使徒だ。また来てくれよな」


 俺はおっちゃんに礼を言い、ねぐらに向かって歩き始めた。


 しかし、『神の御手』とやらはかなり便利すぎる能力な気がするな。

 トネルネ様の話ではもうすでに世界は一人立ちを始めているそうだから、これから少しずつ相場にも影響が出てくるかもしれない。


「おにぃちゃん、きょうはどうするの? もうかえる?」


 タビーが俺の手を引いた。


「そうだな、一度帰って考え事をしたい。タビーはどうする?」


「いっしょにいる」


「……じゃ、昼飯はドリューさんのところで買うか」


「ん」


 確か、簡単なランチメニューもあったはずだ。

 常食に耐えられるものを少しずつ開拓していこう。



   *   *   *   *   *



 壁の下のねぐらで、俺は〈データベース〉を出して唸っていた。

 チョコマカ使ったので、残りポイントは98328まで減っている。


〈覗き見の手持ち眼鏡〉が50ポイントを消費したが、アイテムによっては消費ポイントの差が激しいというのも最近気がついた。

 おそらく、今日初めて聞いた単語『エーテル内蔵量』が関係しているのではないかと思うが、詳しいことは分からない。

 検証のためにポイントを浪費するのも本末転倒だから、この件は保留だ。


 トネルネ様の神託を得て、俺は今後の方針を決めていた。


「やっぱ、出来ることなら、みんな助けたいよな」


「チィ?」


 俺の独り言にオフィーリアが反応した。

 撫でてやると嬉しそうに頬を膨らませる。


「タビー。これ、〈油粘土〉な。工作でもして遊んでて」


 見たことのないおもちゃに、タビーが目を輝かせる。

 本当はお絵かきセットにしようかとも思ったのだが、蝋で出来ているクレヨンはまだしも、画用紙は世界観を壊すよな、と思った俺のぎりぎりの妥協の産物である。

 あんな白い大量生産の紙なんて、結構貴重だよね? この世界じゃ。


 夢中で遊ぶ様子を横目で見ながら、自分用に〈羊皮紙〉と、〈無限インクペン〉を出した。

 羊皮紙はポイントで出すべきものじゃないかもしれないが、無限にインクの出るペンなんて〈データベース〉でしか作れないだろうから、これは無駄遣いじゃないぞ……と思いたい。

 ただ、残りポイントがまだ9万以上もあると思って油断していると、俺のことだから雑な使い方をして後で痛い目を見そうではある。

 消耗品がどこに売っているのかぐらいは、確認しておいたほうがいいかもな。


 書きながら、やるべきことを整理していく。


「まずすべきこと。バークアたちの目的を少しでも遅らせ、さらに、町の人を出来るだけ助ける。――そのためにできること。まだ作っていなかった残りのダンジョンと町を完成させる」


「チィッ!」


「あ、っと。声に出しちゃってたか? ――あのな、オフィーリア。バークアたちの目的自体はおそらく変わっていないはずなんだ。ラージャ教主国の軍によってパンクラツに進駐。そこから、マダレーナとラージャの本格的な戦争が始まる。ただ、あいつらはそれに乗じて、パンクラツ奪取の際に出た犠牲者たちの命をもって、この地に眠る古代遺跡を起動させるのが目的のはずだ」


 ここまでは十中八九間違いない。俺が作ったストーリー通りだろう。

 だが、本来ならばパンクラツ壊滅は中盤で起こるイベントだ。

 主人公たちにとって精神的な負けイベントでもあり、その後、逃げ延びた町の人たちと共に本拠地を作り、そこを拠点として軍隊を組織するまでが本来の流れである。


 本拠地。いい響き。

 最近あまりゲームを作らなくなった某社から発売された、百八の星々が集うRPGが好きだったもので、つい入れてしまった要素だ。


 それともう一つ。

 某・RPG世界を経済学から読み解く有名ラノベのおかげで勇者=暗殺者という考え方が広く知れ渡ってしまい、それが正解だとまで思っている人も少なくなかった。

 そういう状況が気に入らなかったので、俺は【軍を率いる勇者】を作りたかった。

 そのための本拠地だ。

 正解はそれぞれあっていいと思うのよ。


「でも、本拠地になるマップがまだ出来てないんだよねぇ~。もともとあった遺跡を再利用するということになってるんだけど、その遺跡がまだ出来てない」


「チィイ~……」


 飛び飛びの俺の話が伝わっているわけではないだろうが、オフィーリアが肩を落として落胆する。


「やつらはパンクラツの他、九か所の古代遺跡を起動させて、【最も深く沈められし迷宮】への扉を開き、【最果ての地ニムゾ】へ至ろうとしているんだと思う。そこに【ジェノの十一眷属】の一柱がいるんだよ。……でも、最も深く沈められし迷宮も、まだ出来てないんだよね。出来てないどころかすげー簡単なマップだけ仮設してあって、ほぼ一本道でニムゾまで行けちゃうんだよな」


「チィイッ! チイィッ!」


 今度は怒り始めた。見ていて飽きないやつだ。

 っていうか、あれだね、設定を言葉にして説明し始めると、すごく厨二感満載で恥ずかしくなってくる。

 ここでいかに正気に戻らずにテンションを保っていられるかが、創作を続けられるかどうかのキーポイントだよな。


 タビーは一心不乱に粘土にとりかかっていて、こちらを気にしている様子はない。

 俺は自分の考えを確認するようにオフィーリアに話す。


「逆に言えばさ、パンクラツの人たちを全員逃がして本拠地に収容すれば、古代遺跡の起動が遅れて足止めになるじゃん? それに、最も深く沈められし迷宮もすんごく難しく作って、なんなら全部行き止まりみたいにすれば、あいつらもニムゾに辿り着けなくなるじゃんね。まぁ、誰かにはニムゾに到着してもらわないと困るから、完全な行き止まりには出来ないんだけど」


「チィイ?」


「ってなわけで、今後の目標。今の俺のレベルじゃ、最も深く沈められし迷宮には近づくことさえ出来ないから保留! よって、まずは三万人が暮らせるだけの巨大かつ難攻不落な本拠地を作ります」


「チィッ!」


「本拠地は、ここから近すぎればラージャ教主国軍の格好の餌食だし、遠すぎれば町の人たちを連れていくことが困難になる。一応、場所の検討はつけてあるんだけど、もともと中盤で訪れる場所だから、俺だけじゃ行けないんだよね。……ということで、最初の課題は仲間を増やすこと! 幸い、何人かあてがある」


「チイィ~♪」


 俺が宣言すると、オフィーリアがどこからか取り出した杖をぶんぶん回す。

 タビーはまだ粘土に夢中になっていた。



   *   *   *   *   *



「おう、ねえちゃんよ。あんだけ飲み食いしといて、金が払えねぇってのはどういう了見だい? これは商神様に保護されたれっきとした契約だ。一方的な反故は場合によっちゃ、警備隊に来てもらうことになるぜ。有罪となりゃ、英雄神様へ加護剥奪の請願を立てていただくことになる。お前さんも加護を外されたら困るだろう?」


 ちょうどその頃、〈天駆ける駿馬亭〉で、ひげの女店主ドリューが一人の食いつめに凄んでいた。

 ドリューに凄まれて肩身を狭くしているのは、小柄な少女だ。

 見た目はほぼ人。

 秀でたおでこにちょこんと盛り上がった小さな角と、お尻から生える鞭のような尻尾を除いては。

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