表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/41

20.異世界ジャパネ○ト

「はい、こちらですね! 俺のサブウェポンなんですけども! 使い道がなくて、宝の持ち腐れになっていたものです。それと、こちら」


「鞭? ……それに、ポーションですか?」


 もちろん、使っていない持ち物というのは嘘だ。

 イメージ修行をしているスキャンダーさんの目を盗んで〈データベース〉で作ってあったものである。


「はい。群れに突っ込んだら、そのポーションを飲んで、鞭を構えて〈ウィップ・ヴォルテクス〉と叫んでください」


 初めて〈中級炎熱魔法(メギラム)〉を使った時は、ただ魔法名を叫ぶだけで魔法は発動した。

 その際、設定以上にMPを消費してはいたが。

 ……ということは、だ。

 逆に考えれば、使い方に習熟していなくても、スキルさえ装備していれば、MPを大目に消費するなどのデメリットだけで、スキル自体は問題なく発動するのではないか?

 というのが俺の見立てである。


 悪いが、スキャンダーさんには実験台になってもらおう。

 もちろん、スキャンダーさんが失敗したらすぐさま〈中級炎熱魔法(メギラム)〉で焼き払う予定ではあるが。


「ってことは、これ、【武術スキル】が付与されているんですか?」


「はい。一つだけですが、使えるようになるはずです」


 スキャンダーさんに渡した鞭にはある【武術スキル】が付与されている。

 かなり強力なスキルなので、レベル6で、さらに筋力13でも装備できるよう性能を下げていったら、鞭自体の攻撃力はプラス1にしかならなかったが……。


「俺が楯で守りながら並走します。急ぎましょう!」


「はいっ!」


 先程から聞こえていた悲鳴が少なくなっていく。

 俺たちは上流へと急いだ。


「きゃあああああああああっ!」


 まだ20代前半くらいであろう女性がブラッドバットに襲われている。

 俺は楯を構え、群れの中に体当たりした。


「よし、いける!」


 防御力が34あるので、ブラッドバットの攻撃程度ではほとんどダメージを受けないようだ。相手がブラッドバットで良かった。こいつらは魔法による攻撃手段を持っていない。


「スキャンダーさん! ポーションを忘れないで!」


「はいっ! ……では、いきます! 〈ウィップ・ヴォルテクス〉!」


 スキャンダーさんは右手を高く掲げて、鞭を大きく振り回した。

 ――瞬間、鞭が唸りを上げ、旋風を巻き起こす。

 鞭を二周、三周と振り回すと、ブラッドバットたちはすべて弾き飛ばされた!


 さらに、



 どぱんっどぱんっ!



 と、どこか間の抜けた音と、夕闇を裂く閃光が辺り一面に満ちる。

下級雷霆魔法(ギルガ)〉による追撃が二連続で、ブラッドバットたちを襲ったのだ。


「は、はは……。なんで……?」


 スキャンダーさんがガクッと膝をついた。

 ブラッドバットたちは一匹残らず体中から黒煙を上げて絶命していたが、スキャンダーさんもまた苦しそうに肩で息をしている。


 ――スキャンダーさんに渡した〈犠牲の鞭〉を装備すると、ある【武術スキル】が使えるようになる。

 それは、使用者のHPを1にする代わりに、敵全体に2.0倍のダメージを与える、というものだった。

 逆に言えば、使用者のHPを1にするという強烈なデメリットのあるスキルだったため、レベル6という低レベルでも全体攻撃スキルが付与された武器が装備可能だったのだが……。


「スキャンダーさん。黙っていてごめんなさい。実は〈ウィップ・ヴォルテクス〉は使用するとHPが1になってしまうという欠点があったんです」


「ひっ……! じゃ、じゃあ、一匹でも残っていたら、私は今ごろ……」


 むろん、攻撃力が1上がっただけの14では、ダメージが2.0倍になろうが大した打撃は与えられない。

 だが、打撃は二の次。

 本命は〈追加下級雷霆魔法3〉による追撃の〈下級雷霆魔法(ギルガ)〉だ。

 HPが1になっているので〈畢生の支配者1〉の効果で魔法攻撃の回数がプラス1されている。

 一発分の半分のMPで敵全体に0.6倍の〈下級雷霆魔法(ギルガ)〉を二回放つことが出来る。もともと単体攻撃魔法なので、威力は中級の全体攻撃魔法にもひけを取らない、低レベルながら極悪なコンボである。


 これだけでも充分なのだが――、

 これでは攻撃後にHPが1になってしまうため、一撃で倒し切れなかった際、反撃を受けて沈んでしまう危険性はなおも残る。

 だが。


「それも、ご心配なく」


「え? あれ……?」


 当然そんなリスクを負わせるはずはない。

 スキャンダーさんが力が抜けたように感じたのは一瞬だったはず。とっくに体が楽になっていることに気づいたらしい。


「その攻撃後のピンチを解消するために渡したのが、さっきのポーション――その名も〈吸血ポーション〉です」


「え、吸血……? ……あっ!」


 さすが、魔道具士。すぐさま理解したようだ。

〈吸血ポーション〉の効果は、服用後一定時間、与えたダメージの25%を吸収して自身のHPを回復するというものだった。

 たかが25%と言っても、全体攻撃であれば、今のように敵が大量にいるときほど回復効果は倍化していく。おそらく、スキャンダーさんのHPはもう満タンまで回復しているだろう。


「す、すごいです。ニュクスさん。私の持つスキルの可能性を示してくれただけではなく、それを十二分に活かすための武器やアイテムまで……」


「大したことはしてないですよ。そんなすごいスキルを継承させてくださったお爺さまに感謝してください」


 ほんと、〈畢生の支配者1〉がコスト1なんて、俺ですら敵わないチートの一種である。

 この世界におけるスキルの遺伝や、神への誓願など、まだまだ分からないことがたくさんある……ということが分かっただけで、今回は収穫だった。


「あの、ニュクスさん。これ、ブラッドバットの『ドロップアイテム』です」


「おっ。これは……」


 スキャンダーさんがおずおずと差し出してきたのは〈ブラッドバットの牙〉という素材アイテムだった。これにはちょうどいい使い道がある。


「倒したのはスキャンダーさんなんだから、差し上げますよ」


「そ、そんな! 受け取れません! それに、護衛の報酬ではドロップアイテムは差し上げるという話だったはず」


「じゃ、代わりに、〈犠牲の鞭〉と、先ほど使ったポーション、それから、私の持っているポーションを一つ買い取ってもらえませんか。今、手持ちがなく、現金が欲しいんですよ。お代は300トネルでどうでしょうか?」


 エマからの報酬と合わせて500トネルもあれば、しばらくは宝箱から料理アイテムを出さなくても自活できると思ったのだが――、スキャンダーさんは固辞した。


「や、安すぎですよ! 相談料も込みで、1000……いや、1500トネルは払わないと申し訳ありません!」


「そりゃ、くれるというなら、もらいますけど……」


 だが、俺がそういうと、とたんにうつむく。


「私も実は……手持ちがなくて……今は50トネルしか……」


 じゃ、言うなよ。と、俺は内心少し笑った。

 仕方なく、助け舟を出してやる。


「じゃ、こういうのはどうですか? 実はその〈ブラッドバットの牙〉と〈吸血ポーション〉、純度の高い〈魔晶石〉と、それから〈銀の指輪〉を組み合わせることで、〈吸血リング〉というアクセサリーが作れるはずです。その〈吸血リング〉の開発依頼を出しますので、報酬は相殺にしてもらえませんか?」


〈吸血リング〉は〈吸血ポーション〉と同じ効果だが、装備している間は永続的に効果がある。装備するためにはレベルは11~2は必要だろうが、〈犠牲の鞭〉を持ったスキャンダーさんなら、すぐに到達するだろう。


「買ってほしいポーションというのは、この〈吸血ポーション〉です。これを使って、〈吸血リング〉の開発に着手していただけないでしょうか」


 俺が〈吸血ポーション〉を差し出すと、スキャンダーさんは何か決意を固めたようだった。


「ありがとうございます、師匠……! 何から何までしていただけて。実はずっと、使えないスキルを持っていた自分をどうしようもないやつだと蔑んでいました。でも、これでようやく自分に自信が持てそうです。実は先ほどお話した婚約者は、ずっと私のことを慕ってくれていたようなのです。伯爵との結婚を阻止してほしいとの手紙が届いていましたが、私にはどうすることも出来ないと諦めていました」


「へぇ……十歳年下でしたっけ……へぇ……」


 くそ!

 イケメンが!


「〈吸血リング〉の開発は少しお待ちください。必ず彼女を助け出し、二人で開発を成功させて見せます!」


 ううっ、眩しい。

 眩しいよ、スキャンダーさん。


 まぁ、いいか。

 とりあえず、最高の形で依頼は終えることが出来たみたいだし。

 早くドリューの酒場に行って、〈ケダルの指輪〉をもらってこよう。


 その後、スキャンダーさんは魔道具士として働くかたわら、自らの足でも素材を狩りに出る〈戦慄の雷公鞭(サンダーウィップ)〉の二つ名で知られる傭兵となり、その名が王都まで鳴り響いて、やがて騎士として士官することになる。

 私生活においては婚約者を無事助け出して駆け落ちし、騎士への士官後は数々の軍功をあげ、婚家からの勘当も解けて、婿入りという形で再び貴族の末席に名を連ねることになるのだが――、


 今の俺には知る由もないことであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白かったら是非是非、拡散にご協力いただけると助かります!
この小説が好きだと言ってくれる方は、友達10人にこの小説を紹介してください!www
感想や評価、レビュー等も、随時お待ちしております!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ