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18.スキルの継承について

 スキャンダーさんは目を伏せて自嘲するように笑った。


「私なんて、戦いにはまるで向いていませんよ。私のスキルが使えないばっかりに、父は死んだようなものですから」


「どういうことです?」


 俺にはとてもそうは思えない。

 確かに前衛向きではないが、後衛としてなら高名な将として名をはせる可能性だってあるように思う。

 アクターに一人将軍職のキャラがいたが、スキャンダーさんは彼と同等クラスか、それ以上のスキルを持っているのだ。


「実はお恥ずかしながら、父は貴族の末席に名を連ねておりまして。それといいますのも、先々代――祖父が有能な魔法戦士で、軍功を上げ、王から所領を賜ったのです。しかし、彼に領地を治める才能はなかったのですね。一代で荘園の経営は破綻し、別の貴族に乗っ取られそうになりました」


「それは……大変でしたね」


「いえ、私の生まれる前の話ですから。……既に死病に侵されていた祖父は、彼の守り神でもある〈英雄神ルビトロス〉に、命を賭して誓願しました。自分の才能を、これから産まれてくる息子の子――つまり私に継がせるようにと。そうして産まれてきたのが私です」


 俺は衝撃を受けた。

 そんな方法で、スキルを発現させることが出来るものなのか?

 神の加護で手にいれたスキルだから、あんな破格のコストだったのか?


「では、スキャンダーさんは魔法戦士の才能があるんですか?」


「それが実はからきしでして。幼少のみぎりより、剣に魔法にと鍛錬を積まされておりましたが、まるで使い物にならず……かろうじて、祖父から受け継いだと思われる〈追加下級雷霆魔法〉というスキルを持ってはいたのですが、剣のほうがとんとダメだったもので、宝の持ち腐れというやつで。もう一つ、我が家の者も誰も見たことがない〈畢生の支配者〉というスキルもあるにはありましたが……、使い方も分からず、結局発動すらできませんでした」


「えっ、スキルのキャプションは確認なさらなかったんですか?」


「はて? キャプションですか?」


「はい。ステータス画面でスキル名をタップすれば、使い方が分かるはずですが」


「そのような便利な話があったら良かったのですが……。もしや、私の知らぬ知恵の神がそういった加護を授けてくれるのでしょうか? だとすれば、一度お会いして聞いてみたいものです。あいにく、私の周りにそのような加護を受けた知人はおりませんでしたので」


 あれっ。

 もしかして、他の人ってキャプション見れないの?

 キャプション、説明文、呼び方は何でもいいが、この項目を考えるのに俺は相当な苦労をしたんだぞ。


 色々やりくりしたんだが、ユーザーインターフェース上では説明文を書けるスペースは三行が限界で、その中に収まるように発動条件、効果、ダメージ量、付与もしくは解除可能な状態異常などの多岐に渡る情報を、すべて同じテンプレートに則って書き込まなければならなかった。

 単純に相手にダメージを与えるだけのスキルなら一行で済むんだが、ターン内先制だとか、二ターン詠唱必須だとか、発動条件が複雑になってくると三行では足りなくなってきて……。


 しかし、だとすると合点がいった。

〈畢生の支配者1〉はかなりのレアスキルだ。

 この世界の人たちにはキャプションが読めないのであれば、彼の家族が効果を知らなかったのも無理はない。


 その効果は、HPが10分の1以下の時に限り、下級以下のすべての魔法の発動回数をプラス1するという極悪なもの。

 しかし、最初から効果を知っていなければ、そもそもHPが10分の1になるような事態には至らないはず。

 発動すらさせられなかったというのも頷ける。


「祖父の死後、ほとんど領地は奪われていたのですが、最後の望みを賭けて、父は私を王国の士官学校へ入学させました。しかし、私は結局、三年も留年した挙句に卒業すらできなかったのです。祖父の代からの蓄財は使い果たしてしまい、爵位と領地も王国に返納せざるを得なくなりました。父はそれが余程ショックだったのか、同じ頃、持病を悪くして亡くなりました。もし私に剣か魔法、どちらかの才能でもあれば、父も失意のまま亡くなることはなかったのでしょうけれど……」


 あるよ、才能!

 あんた、かなりのレアスキル持ちだよ!

 と言いたい気持ちを抑えて続きを聞く。


「当時すでに王都の魔道具士のもとで働いておりましたので、私は魔道具士として生計を立てていくつもりだったのですが、父はどうしても、私に再興の願いを託したかったようですね」


「あの、心残りというか……、悔しかったりはしないんですか?」


「心残り……そうですね。ほとんど会ったこともないのですが、私には10歳下の許嫁がおりまして。結婚がずっと延期になった挙句、結局は廃爵し婚約も破棄することとなりまして、彼女には迷惑をかけたかと思います。今度、遠くの伯爵家に嫁ぐことになったそうですが、一言謝罪したいとは思いますかねぇ」


 う~ん、これは……。

 今更俺がどうこう言ったところでって感じではあるな。

 でも、製作者としては、『そもそも使い方が分からないせいで死にスキル化』というのは結構傷ついたりはする。


 なんでそんな恵まれたスキルがあるのに、装備してないの?

 スキルは装備しないと意味がないぞ! って、俺言ったよね?!(言ってない)

 見る限り、スロットもコストも、生まれ持ったスキルを装備しても余裕で収まる範囲内じゃん!

 あんた、エタクリのこと何も分かってない!

 あああ~っ、口出ししたいっ!


「さて、それでは、この辺りで始めましょうか。私は川に入って『ふるい』を振るっていますので、ニュクスさんは私の見えるところで警戒していてください。魔物より帰りしなを狙った物盗りのほうが怖いくらいですから、そばにいてくれるだけで充分、示威効果はあるんですけどね。物盗りもわざわざオフィーリアちゃんを連れているニュクスさんは狙わないでしょうし」


「あの、その前に……」


「どうしました?」


 せっかくだから、この際ついでに、スキルの変更方法について聞いてしまおう。


「スキャンダーさんは、覚えたスキルを装備……というか、アクティベート……というか、使えるようにする方法をご存知ですか?」


「ええ? 一応は、これでも座学は得意でしたので、はい。スキルの装備には二通りの方法があります。一つはイメージ修行ですね。そのスキルを使用した際の体の動きや魔力の流れを克明に脳裏に描きます。熟練の戦士ならほんのちょっと昼寝するぐらいの時間で出来るそうですね。〈精神修養〉のスキルを持っていれば、その時間も短縮されるようです。逆に駆け出しの戦士は、体も使って動きを確認するような感じで修行していることが多いですね」


 スキャンダーさんは怪訝そうな顔をしたが、淀みなく答えてくれた。


 要はイメトレか。

 元の世界のスポーツ選手なんかと同じような感じだ。


 ただ、ちょっと引っかかることもある。

 それでは、選択的にスキルを外すにはどうすればいいのだろう? とか。

 もしかして、この世界の人たちって、一つ装備したら順番に一つ外れるみたいな感覚でスキルを脱着しているのか……?

 そうだとすると、製作者の意図には反する。

 ただし、当然のことながら、ゲームがリアルになるなんてこと自体が製作者の想定外すぎるので、もしかしたらそうならざるを得なかった理由があるのかも知れない。

 短慮は禁物。


「それで、もう一つは?」


「もう一つは主神の神殿、もしくは神々の長〈英雄神ルビトロス〉の神殿でスキルをつけてもらう方法ですね。パンクラツですと、一つのスキルにつき300トネルの喜捨が必要です」


 えっ、お金取られるんだ?

 300トネルと言ったら日本円で3万円ぐらい。商売道具にかける値段だと思えば大したことはないが、何度もとなると懐に痛い出費だ。


「大昔は無料で出来たらしいんですけどね。人が多くなりすぎたんでしょう。今はいたずらに変更できないようにしているという話です。そもそも、300トネルがぽんと払えるような人はもうすでにスキルの付け替えなんて、簡単に出来るようになっているものですし。神殿でスキルを変えるのは、よっぽどの急ぎか、神の加護……つまりレベルアップで覚えたイメージがつかめないスキルについて、神に助力を乞う場合がほとんどでしょう」


「スキャンダーさんは、先程おっしゃっていた〈畢生の支配者〉をつけてもらったことはあるんですか?」


「はい。……ですが、結局発動すらさせられなかったのはさっきもお話した通りで。お恥ずかしい限りです」


 やたらと恐縮するスキャンダーさんに、俺はさも「最初からスキルの変更方法なんて知っていたぞ」みたいな顔をして、ある提案をした。


「やはり、ご存知ですよね。だけど、惜しい! せっかくのスキル、そのまま腐らせてしまっては勿体ないです。スキャンダーさん。採取が出来なかった時間分は護衛の報酬から引いていただいて構いませんので、ちょっとだけ、俺の言う通りにしてみてもらえませんか?」


「えぇ? はぁ……」


 俺の言葉に、スキャンダーさんは曖昧に頷いた。


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